先日の記事「約30年ぶりのRolandのアナログシンセ、JD-Xiが5万円台で登場」でも紹介したRoland初のミニ鍵盤搭載のシンセサイザ、JD-Xi。2月5日の製品内覧会で行われたテクノポップなデモ演奏はとってもよかったし、ここで公表された国内での市場想定価格は税抜きで5万円前後とのことですから、本気で欲しくなってしまいました!
アナログシンセ1系統+デジタルシンセ2系統+ドラムマシンという構成で、ボコーダー機能を装備し、シーケンサも内蔵してこの価格ですから、発売当初は予約殺到でなかなか入手しづらそうですね。製品内覧会を受けてのJD-Xi記事は他メディアでもいろいろと取り上げているようですが、DTMステーションとして気になるのは、これをPCと接続するとどのように見えて、どう活用できるのか、という点。そこでちょっとマニアックではありますが、DTM的視点から見てJD-Xiはどんな機材なのか見ていくことにしましょう。
JD-XiにPCをUSB接続して、どう使えるのかをチェックしてみた
個人的にもかなり興味のある機材なので、製品内覧会後、「発売前に少し貸してもらえないか?」と打診してみたのですが、「まだプロトタイプの数が少なく、イベントでの展示なども頻繁にあるので、製品発売までは難しい」とのお返事。とはいえ、やはり試してみたかったので、Roland社内に機材が置いてある日に自分のデスクトップPCを持って伺い、JD-XiとUSB接続をしていろいろと試してみたところ、かなりよくできた機材であることが見えてきました。そうMIDIでのコントロールはもちろん、アナログシンセの音も含めてJD-Xiのサウンドをノイズレスでレコーディングすることができ、PCのDAWとJD-Xiの同期演奏も可能など、何でもアリという仕様なんですよ!順番に見ていきましょう。
3月に発売が予定されているJD-Xi。国内での市場価格は5万円前後(税抜き)の見込み
改めてJD-Xiについて簡単に紹介すると、これはRolandとしてSH-101以来かJUNO-106以来かという約30年ぶりに登場したモノフォニックのアナログシンセを搭載したシンセサイザ。とはいえ、単にアナログシンセというだけでなく、INTEGRA-7のSuperNATURALシンセとほぼ同等の機能を持つデジタルシンセも2パート同時に使うことができ、さらにPCMドラムキットも装備したという、小さいのにさまざまな機能を装備したマシンになっています。
鍵盤の上に並ぶ16個の光るパッドを利用してTR-808風なリズム入力が可能であったり、本体に標準装備されるグースネック・マイクを使うことで、ポリフォニックのデジタルシンセにおいてボコーダー効果を得ることも可能です。またこのマイクを使用することで、ボコーダーだけでなく、内蔵エフェクト機能によってさまざまなボイス処理も可能で、オート・ピッチによるロボットボイスの実現なんかも楽しいところです。
さて、そのJD-Xiのリアパネルを見ると、USB端子があり、これをWindowsでもMacにでも接続することが可能になっています。出荷初期状態ではMIDI Genericモードとなっているので、ドライバをインストールすることなく、即MIDIデバイスとして認識してくれます。これにより、DAWを起動すれば、MIDIの外部音源としてJD-Xiを鳴らすことが可能だし、JD-Xiを演奏すればそのMIDI信号がPCへと送られるため、リアルタイムレコーディングを行うことも可能となります。
USBのドライバモードをデフォルトのGENERICからVENDERへと変更で本領発揮する
しかし、JD-Xiが本領を発揮するのはGenericモードからVenderモードへと切り替え、PC上にJD-Xiのドライバを入れてからなのです。これによって、PCからはJD-XiがMIDIだけでなくオーディオインターフェイスとしても見えるようになり、さまざまな連携が可能になるのです。そこで、ここから先は、このドライバを入れて接続した状態で見ていくことにしましょう。
MIDIの入出力としてJD-Xiが見えるので、すぐにMIDIシーケンサとしてPCを活用することができる
まずCubaseやSONARなどのDAWを起動し、MIDIトラックでデータを入力するとJD-Xiを鳴らすことが可能になります。この際、MIDI 1chがDigital Synth 1、MIDI 2chがDigital Synth 2に、そしてMIDI 3chがAnalog Synthに割り当てられているほか、10chはドラム音源となっています。そう4パートのマルチティンバー音源としてJD-Xiが使えるわけです。
JD-Xiのシステム構成。4パートある音源部の1パートとしてアナログシンセが位置付けられている
デジタルシンセ・パートとしては2つ分で同時発音数が64、またドラム・パートも単体で同時発音数64となっています。それとは完全に独立する形でモノフォニックのアナログシンセがあるので、合計すると最大同時発音数は129という計算になるわけですね。JD-Xiのシーケンサを使うことでも、4パートを同時に鳴らすことは可能ですが、やはりPCからコントロールすると圧倒的に扱いやすくなりますね。
Tx Edit DataをONに設定することで、JD-Xiで操作した情報がMIDIでPCへと送られる
またJD-Xiの設定画面を見てみると「Tx Edit Data」というものがあるのですが、これをONにするとJD-Xiのフィルターやエンベロープ、LFOなどのパラメータを触ったデータが、そのままPCへと送られるようになります。つまりこれをリアルタイムレコーディングすれば、そのままコントロールチェンジ情報としてMIDIトラックに記録されていきます。その後、これを再生してJD-Xiに送り返せば、そのときのノブやボタンの動きを再現することができるのです。
フィルターのノブを操作すると、シンセの音が変わるのはもちろん、MIDIコントローラのような役割も果たす
まあ、ここまではMIDI接続でもできる当たり前のことではあるのですが、ここで1つチェックしておきたいのはMIDI 3chのアナログシンセにおいても、ノート信号だけでなく、フィルター、アンプ、エンベロープ、LFO……といった情報をすべてやりとりできるということです。音を聴いてみると、確かにアナログ独特の太いサウンドを出す音源であり、中枢部はアナログ回路でできているけれど、そのアナログ回路をコントロールする部分はデジタルで制御しているため、MIDIでのやりとりが可能となっているのです。
JD-Xiの操作子を動かした情報がCubaseに記録されているのがわかる
KORGやArturiaのアナログシンセもノート信号だけではUSBからMIDIコントロールが可能になっていますが、JD-Xiにおいてはほぼすべてのパラメータを記録できるというのは、非常に扱いやすいですね。そうした仕組みであるからこそ、JD-Xiではアナログシンセの音色もプリセットがあり、自分で作った音色も記憶できるようになっているんですね!
Clock SourceをUSBに設定すると、PCからのMIDIクロックでJD-Xiのシーケンサが同期するようになる
さて、このMIDI信号のやりとりにおいて、演奏情報だけでなく、同期情報のやりとりができるのも大きなポイントとなっています。ここでやり取りができるのはMIDIクロック。PCのDAW側からMIDIクロックを送出できる設定にしておく一方、JD-XiのSync ModeをMASTERからSLAVEに、またClock SourceをMIDIからUSBに切り替えてシーケンサのプレイボタンをON。
PC側はJD-XiのMIDIポートへMIDIクロックを送出するように設定
この状態で、DAW側をスタートさせると、DAWのテンポに同期する形でシーケンサを動かすことができるわけです。予めカッコいいシーケンスパターンもいろいろ用意されているので、これをPCと連動できるのは楽しいですよ。
SONARで見ても、JD-XiがASIOの入出力を持つオーディオインターフェイスとして認識されている
さらにDTM視点で考えたときに、USBでPCとJD-Xiを接続して大きいのはMIDIだけでなくオーディオのやりとりができる、という点です。そう前述のとおり、JD-Xiがオーディオインターフェイスとして見え、WindowsならASIOが、MacならCoreAudioのデバイスとして見えるのですが、これはどういう意味を持つのでしょうか?
Rolandのほかのオーディオインターフェイスと同様、バッファサイズなどの調整も可能
サンプリングレート的には44.1kHz固定とはなりますが、DAWとJD-Xiが接続されることで、お互いのオーディオ信号をデジタルのままやりとり可能になるのです。つまり、JD-Xiから出てくる音をD/Aを介さずに、そのままPCへレコーディングできるため、音質を劣化させることなく、ノイズレスのサウンドで取り込むことができるわけですね。
アナログシンセも含め、ノイズレスでのレコーディングが可能になる
でも「デジタルシンセやリズムマシンは分かるけれど、アナログ音源はどうなるの?」という疑問を持たれる方も多いでしょう。結論からいうと、これも高品位なサウンドでレコーディングできてしまうんですよ。というのも、JD-Xiはオシレーター部分、フィルター部分は確かにアナログ回路でできているけれど、アンプ、エンベロープなどはデジタル回路で構成されているため、出口部分ではデジタル化しているために、PCへもこのデジタル化された音を取り込むことができるわけです。
FL StudioでもJD-Xiとしっかりやりとりすることができ、アナログシンセもレコーディングできた
実際に音を聴いてみると分かるのですが、アナログシンセは確かにアナログの音としてレコーディングされているんですよね。これは非常に手軽だし、面倒な配線をすることなく、キレイに録れるというのは大きな魅力だと思いますよ。
SONARで録音した状況。このデータをJD-Xiから再生させることで、D/A部分も含め、JD-Xiそのものの音を再現できる
では反対にPCからJD-Xiにオーディオ信号を送るとどうなるのでしょうか?これは単純に、JD-XiのD/Aを通じて音が出てくる形となります。つまりメイン出力にモニタースピーカーを接続したり、ヘッドホンから音を聴けば、PCからの音をそのまま鳴らすことが可能です。もちろん、この際にJD-Xiの音を鳴らすことも可能です。
つまり、PC側でオケを鳴らし、それに重ね合わせる形でJD-Xiをプレイするといったことが可能になり、この際にオーディオインターフェイスは不要だし、ミキサーを介すことなく、JD-XiのみでOKというのはとっても手軽です。ライブを行うのに、ノートPCとJD-Xiだけを持ち込んで……といったことも気軽にできそうですね。
入出力はあくまでも2IN/2OUTなので、ボーコーダー入力部へ直接信号を送ることはできない
なお、ここで1つ気になるのが、JD-Xiのマイク部分について。もし、USBからオーディオを送って、マイク入力の代わりにできると、ボコーダーの自動演奏も可能になるのでは……と考えたのですが、これは残念ながらできないようです。そうPCから見てJD-Xiは2IN/2OUTのオーディオインターフェイスであり、出力先をマイク部分にするといった設定ができないからです。
ただしJD-Xiにはボコーダー等の入力をマイクからでなく、アナログのライン入力で受けるということも可能になっているので、別途オーディオインターフェイスを用意し、そのアナログ出力をJD-Xiのアナログ入力に接続する……といったマニアックなルーティングも可能になっているわけです。
以上、JD-XiのUSB周辺にのみフォーカスを当てて紹介してみましたが、いかがでしょうか?個人的には、アナログシンセをPCと連携させる上でベストなソリューションではないかと思っています。品薄で入手しずらくはなると思いますが、早く試してみたいと待ち遠しく思っているところです。
【価格チェック】
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