大人の科学マガジン特別編として4月3日に発売されることが発表された「歌うキーボード ポケット・ミク」。すでに、いろいろなメディアでも取り上げられ、発表初日にはAmazon総合で1位を記録するなど、大きな話題になっています。これはPCを必要とせず、本体だけで初音ミクを歌わせることができる、とっても手軽な機材。ボーカロイドなど使ったことのない子供でも、すぐに楽しむことができ、価格も4,980円ととっても手ごろです。
でも、このポケット・ミクはオモチャなどという次元に留まらない、トンでもない機材なんです。その秘密は、ここに備わっているUSB端子と内蔵されているNSX-1というICチップ。これらを利用することでPCからコントロールすることが可能で、初音ミクの歌声で自由自在に歌わせることができると同時に、強力なシンセサイザ音源として活用することができるのです。発売に先駆けて、ポケット・ミクを入手することができたので、ここではUSBデバイスとしての側面を中心にポケット・ミクについて紹介してみたいと思います。
4月3日に学研から発売が予定されている、「歌うキーボード ポケット・ミク」
ポケット・ミクのプロトタイプについては以前「大人の科学も登場!電子工作ファンを魅了したボカロチップ、NSX-1」という記事でも紹介しているので、記憶にある方も多いと思います。そう、NSX-1の中にあるeVocaloidというシステムを使って歌わせることができるのです。このプロトタイプではVY1をベースとしたeVY1という歌声ライブラリが搭載されていましたが、ポケット・ミクでは、それが初音ミクに置き換わって登場したわけです。
これ単体でどんなことができるのかは、以下のビデオを見ると、だいたいのことが分かると思います。
これを見ても分かるとおり、とっても使いやすく、その歌声は確かに初音ミクですよね。特徴的なのは、スタイラス(ペン)を利用したカーボンキーボード。鍵盤部分をタッチすることで、固定の音程で歌わせることができる一方、上部のリボン部を滑らせることで、滑らかな音程変化=ポルタメント演奏ができるようになっています。
また、鍵盤を弾いた音程、つまりドレミを弾けば「ド・レ・ミ」と歌う「ドレミ」モードのほか、母音を指定して歌わせることができる「あいうえお」モード、予め用意されている歌詞を歌う「プリセット」モードがあり、ポケット・ミク単体で、かなり遊ぶことができます。
さて、ここからが本題。ポケット・ミクに用意されているUSB端子でどんなことができるのでしょうか?まず、ポケット・ミクは単4電池3本で動作するものですが、USBからの電源供給によって電池なしでポケット・ミクを動かすことができます。
そしてPCに接続すると、WindowsでもMacでも、ドライバなしに認識することが可能であり、入出力可能なMIDIデバイスとして見えます。デバイス名としては「NSX-39」となっています。
Cubaseからは「NSX-39」というMIDIデバイスとして見える
そしてPC上のMIDIシーケンサ側からMIDIチャンネル1に対してノート信号を送ることで、ポケット・ミクを歌わせることができるのです。ポケット・ミク側の設定が「あいうえお」モードであれば、選択している「あ」とか「い」で歌わせることができ、「プリセット」モードであれば、「ちょうちょ」とか「蛍の光」の歌詞で歌わせることができます。この際、ベロシティーを設定すれば、声の音量を変えることも可能です。
ここで問題になってくるのは、ほかの歌詞を歌わせることができないのか、という点ですよね。これについては、本日、3月7日のイベント「Roppongi ArtTech Night #1」で発表になった専用のWebアプリを利用することで設定が可能となっています。これは、ポケット・ミクが発売される4月3日に大人の科学のサイト上で公開されるとのことですが、ブラウザ上で歌詞を入力することによって、それをポケット・ミクに転送することができ、本体でその歌詞を歌わせたり、シーケンサで歌わせたりすることができるようです。
ポケット・ミクが発売される日には、学研の大人の科学.net上にWebアプリが公開される予定だ
また、この専用アプリでは、初期状態で「あ」、「い」、「う」、「え」、「お」と割り当てられている5つのボタンに別の文字を割り当てることができたり、このボタン以外の文字をリアルタイムに選択して、本体のカーボンキーボードで歌わせることも可能とのことです。
発音するノートの直前に文字情報をMIDIシステム・エクスクルーシブで入力する
さらに、すべてをシーケンサ、DAWでコントロールして歌わせたという場合には、MIDIシステムエクスクルーシブを利用して歌詞を設定することも可能です。具体的には、発音させたいノートデータの直前に
F0 43 79 09 11 0A 00 ** F7
というエクスクルーシブデータを送るのですが、この**に文字番号を設定します。その文字番号についてはポケット・ミクのマニュアルに記載されていますが、「み」なら「65」、「く」なら「07」(いずれも16進数表記)のように1バイトの数字が割り振られています。
シーケンサ、DAWのシステム・エクスクルーシブ・エディタなどを用いて入力する
このように、シーケンサからのコントロールでポケット・ミクを歌わせることができるわけですが、冒頭でも述べたとおり、ポケット・ミクはシンセサイザとしても機能するのも大きな特徴となっています。
これはMIDIの2ch~16chが相当し、基本的にはGMレベル1の音源であるのに加え、ヤマハのXG音源のフォーマットに沿ったエフェクト機能も装備しているのです。そのため、これらを利用することで、初音ミクのボーカルに対し、バックの演奏をさせることができるのです。もちろんGM音源だから、ピアノ、ギター、ベース、ドラム……と一通りの楽器の音色が揃っており、最大同時63音(ミクの歌声も合わせて64音)を鳴らすことが可能となっているのです。
このXG相当のエフェクトにはピッチシフトもあるので、これを利用することで、ミクの歌声をハモらせるといったことも可能になるわけですね。
ここまでの内容を読んで「なるほど、eVY1シールドと同じなのかな?」と思った方もいると思います。それは半分正解で半分不正解。まずGM音源部分については心臓部のNSX-1の機能を使っているのでまったく同じです。ところが、eVocaloidの文字情報の送り方がまったく違い、システムエクスクルーシブの使い方が異なるのです。
ポケット・ミクの総合プロデューサーであるpolymoogさんによると「カーボンキーボードをタッチしてから発音するまでのレイテンシーを少なくするため、NSX-1本来のシステムエクスクルーシブとは命令体系の異なるNSX-39独自モードで動くようになっています。また、eVocaloidのシステムにも、よりリアルタイム発音に適したチューニングが施されています」とのことです。
とはいえ、中には「eVY1シールド用にシーケンスデータを組んだので、できればそのデータをポケット・ミクでも利用したい」、という人もいるでしょう。そうした人のために、「NSX-1用アプリ互換」モードというものが搭載されており、ボタン操作によって切り替えることもできるのです。このモードを使えば、従来のデータもそのまま発音することができ、ヤマハが公開しているNSX-1用のWebアプリなどもそのまま利用することが可能になるのです。
ここまでMIDIの出力先としてポケット・ミクを見てきましたが、ポケット・ミクからPC上のシーケンサへUSBを経由して信号を送ることも可能です。そう、スタイラスでカーボンキーボードをタッチした情報をリアルタイムにPCへMIDI出力できるのですが、この仕様がちょっぴり曲者。
ポケット・ミクからMIDIレコーディングすると、すべてのノートはF#4となりピッチベンド情報だけが変換する
普通ならノート信号が送られそうなものなのですが、どのキーをタッチしても「F#4」のノートオン、ノートオフ信号が送られるのです。ただ、これに付随してピッチベンド情報などが送られる仕様になっているので、どう活用するかは考えどころ。ほかのMIDIキーボードと組み合わせてピッチベンド情報を発信するのに使うとか、面白いアイディアが出てくるといいのですが……。
内蔵のスピーカーでもそこそこいい音で鳴ってくれる
最後に触れておきたいのが、ポケット・ミクのオーディオ出力についてです。ここには内蔵スピーカーがあるので、とりあえずはこれで楽しむことができるし、最大音量にしても音が割れたり、シャーシがビビったりすることもなく、快適な音を出すことが可能です。とはいえ、「DAWと組み合わせてしっかりした音でレコーディングしたい」とか「ヘッドホンでじっくり聴きこみたい」なんていう人には、ステレオのオーディオ出力端子があるので、これを利用することが可能です。
ステレオミニのオーディオ出力を利用することで高音質にレコーディングすることなども可能
実際に音を聴いてみたところ、ノイズもなく、かなり高品位な音だったので、音源としてしっかりと使えそうです。これだけの機能が搭載されて4,980円は安すぎるように思いますが、どうですか? すでにかなりの人気商品となっているので、売り切れないうちに予約しておくのが良さそうですよ!
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歌うキーボード ポケット・ミク製品情報
Roppongi ArtTech Night #1
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