「CDが売れない」、「音楽業界不況」などと報道されていますが、M3に来ると「そんなの何かの間違いだ」というのを肌で感じます。だって、本当に人、人、人で溢れかえる熱気ある会場で、みんながCDを買い漁っているんですからね。ただし、ここで売っているの基本的にメジャーレーベルはないし、何よりミュージシャン本人が直接売っており、そこに全国からファンが押しかけるという構図です。
そう衰退しているのはメジャーであって、草の根は大盛況。音楽を聴く人、CDを買う人たちはいっぱいいるわけです。4月29日に開催された「M3-2013春」、私自身は「音系・メディアミックス同人即売会、M3-2011春に行ってきた!」の記事以来、2年ぶりに来てみたのですが、やっぱりこの賑わいを見ているとワクワクします。このM3の状況について、運営する事務局に話を伺うとともに、私のTwitter友達のブースをいろいろ巡ってみました。
M3は知っている人にとっては当たり前の存在である一方、まったく知らない人も多いイベントなので、簡単に説明しておきましょう。「M3=音系・メディアミックス同人即売会」は、音楽を制作している個人やサークルがブースを出展するというイベントで、基本的に春と秋の年2回開催されています。今年は1,147サークルが出展し、東京流通センター(TRC)の第1展示場、第2展示場(1階と2階)の計3フロアを埋め尽くされ、ここに全国から多くの人たちが集まってくるのです。
ジャンル的にはアニソンやボーカロイド曲、ゲームミュージックなどが比較的多い感じはありますが、ポップス、ロック、テクノからアコースティックサウンドのクラシックや環境音楽、ジャズ……と多種多様。人気ミュージシャンのいるブースには、長蛇の列ができ、「最後尾はここでーす」と看板を持って案内する人がいるくらいですからね。
M3に合わせてBabyDollSymphonyの新譜「鋼鉄のレゾンデイト」を発売。
「今回で参加は5回目、M3があるからこそ、これに合わせてアルバム作りをしています」とティッシュ姫
その前々日に幕張メッセでのニコニコ超会議2に行ってきましたが、それともまた微妙に違う雰囲気で、音楽にフォーカスが絞られているだけに、密度が濃い感じを受けました。当日の私のTwitterのタイムライン上には、M3ネタばかりとなり、出展している方もいっぱい。いつもネット上でのやり取りだけで、実際にお会いしたことがない人、ご無沙汰している方も多いので、個人的にはそうした人たちに会いに行くというのも大きな目的だったのです(写真で、お会いした方々の一部を紹介します)。
会場で、M3準備会の事務局長、相川宏達さんに、どうしてM3がこんなに盛り上がっているのかを聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。「コミケに参加していた音楽サークルが集まる形でM3が1998年にスタートしてから、今年で15年ですが、M3の意義は大きくなってきたと実感しています。大手レーベルが生産したCDを流通を経由して販売するというのと違い、ここでは作り手が聴き手が直接出会い、手渡します。またみなさん、普段からブログやTwitterなどを通じて、コミュニケーションしている方も多いので、友達感覚で直接やり取りできるという意味でも貴重な場になっているのではないでしょうか?」
「今回は新譜がないので、そんなにいっぱい売れているわけではないけれど、人の多さに驚きます」
売っているCDもプレスしてあるもの、CD-Rで焼いたもの、そしてジャケットもさまざまです。この点についても「マスプロダクトであるメジャーのCDは、プロが作ったカッコイイものかもしれませんが、M3で販売されているのは、本人が自らの思いを込めて作っているものだけに、雰囲気がにじみ出ています。ブースを巡りながら、こうしたジャケットを見ていくだけでも、思わぬ出会いがあったりもするんですよ」と相川さん。
「ふわふわ+ピコピコ」サウンドをコンセプトとしている、ぽらぽら。さん
「M3とライブでは、やってくるお客さんの層が全然違いますが、相乗効果が出せています」
ところで、ちょっと気になったのは、ここでどのくらいのCDが売れているのか、という点。もちろん売れる著名ミュージシャンと、誰も知らない初参加の人もいるわけですが……「数については事務局では把握していません。ただ開催はたった1日で11:00~15:30という短い時間であるため、売れる数には物理的な制限もあります。聞くところによれば1,000枚近く売っているところもあるようですが、その辺が限界ではないでしょうか」(相川さん)。
販売するというユニークな手法をとっていましたが、これについては今度詳しく紹介する予定です。
またそうした列のできるようなブースは壁側に配置されているようで、極度な混雑が起こらないように、うまくバランスが取れています。
音系同人サークル、ちょむ工房としての出展で、ブースにはボーカロイド曲などが並ぶ
「ほかのジャンルの展示即売会では販売実績などを申告させた上で、“売れる”ところを選別してものもあるようですが、M3は実績主義ではなく、データもとっていません。やはり敷居を下げて、初めての人でも簡単に参加できるようにしています。ただし、中で混乱が起きないようにブースの配置については人海戦術で情報を数多く入手し、振り分けています。従来はCDの売れ行きなどを見ていればよかったのですが、最近はニコ動で急に人気が出た人が初参加で大盛況なんてことがあるので、ここには細心の注意を払っていますよ」と相川さんは語ってくれました。
今回は自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組「電磁マシマシ」のサントラ販売で出展
ちなみに、当日にいたM3のスタッフは100人強。そのほかにも準備に携わっているスタッフも数多くいて、それぞれのジャンルごとに詳しく情報を追っている人がいるので、こうした情報が取れるのだとか。
「音楽を求めてやってくる人たちばかりのイベントだからこそ、M3が自分にとってメインです」
それでも予想が外れて、長蛇の列ができるサークルが出現することもしばしばだそうで、運営もいろいろ大変そうです。
2010年に急逝したイツカシ・ケイジさんの楽曲のトリビュートアルバムを販売
こうした同人サークルの出展とは別に1フロア、企業出展エリアというのが設けられていたのも面白いところ。ブース数は少なかったものの、ここも大盛況で、楽器系としてはKORGとVESTAXが参加していました。
今回は完全なアコースティックピアノのインストゥルメント楽曲のCDを販売
こちらは、来場者というよりも出展者であるミュージシャン自身が見に来ているような雰囲気でしたが、プロ・アマ問わず、数千人のミュージシャンが一堂に会するイベントなんてほかにないわけですが、ここに楽器メーカーが出展するというのは意義が大きそうですよね。
【関連サイト】
音系・メディアミックス同人即売会、M3