AHS、尾形社長が語る私のVOCALOIDの原点

VOCALOID3になるとだいぶ状況は変わりそうですが、VOCALOID2の現時点において、主要ベンダーといえばクリプトン・フューチャー・メディア、インターネット、AHSの3社ですよね。このうちクリプトンとインターネットは、音楽系の専門ソフトハウスですが、AHSだけはVOCALOIDやMusic Maker以外にも、動画関連やユーティリティソフトなど、さまざまなPCソフトを扱っているので、異業種会社と思っている人もいるでしょう。

でもAHSの尾形友秀社長は、幼少時代から音楽とPCという世界にドップリとはまってきた人であり、80年代後半の高校生の時代から、自分の声をサンプリングして歌わせるという、まさにVOCALOIDの原点のようなことをしていたのだとか……。かなりマニアックな道を歩んできたようなので、ちょっと話を聞いてみました。

AHSの尾形社長にいろいろ昔の話を聞いてみました


--4年くらい前でしたか、最初にお会いしたころに聞いた話では、尾形さんは音大を出られて、確か当時、社長もしながら、ピアノの先生もされていたんですよね?そもそも、いつごろから音楽の道に入っていったんですか?

尾形(敬称略):ピアノは4、5歳のころから始めて、大学に入るまでずっと習っていましたね。小さいことから楽器を弾いたり、歌ったりしていました。高校のころからは本格的に合唱をはじめ、コーラスの力はすごいな、と思っていたのです。その辺がキッカケで作曲をはじめ、大学も作曲科だったんですよ。

--その一方で、PCの世界も早くからハマっていたんですよね?

尾形:ええ、物心付いたころから音楽もコンピュータもありましたから。幼稚園のころはゲームで遊んでいた程度だと思いますが、小学校に入ってからは父にプログラミングを教えてもらうようになりました。当時使っていたのはシャープのMZ-80とかMZ-700ってマシンでね、BASICからスタートして、アセンブラ/マシン語の世界に入っていきましたよ。

--うっ。そのころ、私は高校生で、まさに同じようなことをしてました。アセンブラをそんな子供のころからというショックとともに、尾形さんって私とそんなに年齢違うんでしたっけ…。まぁ、それはともかく、実際どんなプログラムを組んでいたんですか?

尾形:MZ-700というのが単音しか出せないマシンでね。だからZ80のレジスタをいじってループさせながら、見かけ上3音出るようなプログラミングなどをしてましたよ。

--って、まさに私の高校時代と同じじゃないですか。参りました。その後もずっと音のプログラミングを?

尾形:子供なんで、いろいろなことをしながらですけどね。中学校くらいになるとFM音源が出てきて、ベーマガ(BASICマガジン)を読みながらMMLで楽曲を打ち込んだりもしていましたよ。当時はPC-9801Fとかの時代だったと思います。ただFM音源でいろいろと音作りをするようになってから、これでは実現できないことがいろいろあることに気づき、音の合成という世界にすごく興味を持つようになったのです。そもそもスピーカーから出る音なら電子制御できるものなはずだから、作り出すことはできるだろうと思ったのです。

--それもまた早熟ですよね。でも確かに、そのとおりですね。コンピュータで合成するとなると、かなりの演算能力が必要になるし、現在でも完全なことは実現できていないと思いますが、可能なはずで。

尾形:シンセの音作りって面白いじゃないですか。これをいじることでピアノっぽい音、バイオリンっぽい音が作れるのって喜びですよね。もし、自分の頭の中にあって、現実には存在しない想像の楽器を実現できたらと思うと楽しいですよ。それを実際に電気信号に変換して合成するようにするのが次のステップですね。私が大学にいたころだと思いますが、ヤマハがVA音源を出して話題になったことがありました。

--VLシリーズですよね。あれは、まさに物理モデリングの初期段階でした。

尾形:あれを見たときは衝撃でした。でも、まだ非常に限られた世界であったので、もっともっと進化するだろうと思いましたよ。
高校時代にサンプラーを使ってVOCALOID的なことをしていたという尾形社長
--ところでVOCALOIDのような「歌う」という技術についてはどうですか?

尾形:私が最初に試したのは高校のころです。当時ローランドのサンプラーでS50というのがあったのですが、これに自分の声をサンプリングして使ってみたのです。単純に「あー」といった声を3種類くらいサンプリングして、和音にして「あーあーあーあーあー」ってね。組み合わせを変えるとと、変な歌い方をさせることができるんですよ。これを自分の作品で活用したいと、いろいろと試した覚えがあります。たとえば、これを速弾きすると、絶対に人間にはできないような歌わせ方ができるんです。まさに私にとって、いまやっているVOCALOIDビジネスの原点になるものですね。

--それはまたすごい歴史ですね。話はいきなり現在に戻りますが、先日のVOCALOID3の発表会では、人間の声ではないVOCALOIDを作るというお話をされていたと思いますが、これも尾形さんの昔からの思いとも繋がりそうですよね。

尾形:そうですね。昔から現実にはないような音を作りたいと思っていたので、宇宙人のようなVOCALOIDなどができればいいなと、いろいろと方策を練っているところです。ぜひ楽しみにしていてください。

--ありがとうございました。

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