前回の記事に続き、Singer Song WriterやLily、MegpoidなどのVOCALOID 2製品の開発元であるインターネット社の社長、村上昇さんとの昔話です。前回は、村上社長の学生時代から、カモンミュージック設立のエピソード、そして現在のインターネット社が設立されるまでの話でした。。
今回は、現在の主力製品であるSinger Song Writerの初期バージョンのコンセプトや当時のシステム構成、その後の発展などについて聞いていきます。そう、この初期バージョンが登場したのは1991年だったので、ちょうど20年も前のこと。パソコンも今のWindowsマシンではなくNECのPC-9801が全盛期だったころの話です。
PC-9801時代のSinger Song Writer V2(筆者の手元にあったカタログより:以下も同じく)
藤本:カモンミュージックのレコンポーザは定番のMIDIシーケンサでしたが、ほかにもローランドのミュージ郎にバンドルされていたBallade(開発はダイナウェア)、カミヤスタジオのRecliet、ミュージカルプランのMusicPro、今はデジレコの出版社になってしまったミュージックネットワークが開発したMICRO MUSICIAN……とPC-9801用のシーケンサはいろいろありましたよね。そんな中に登場してきたSinger Song Writerはかなり斬新なものだった記憶がありますよ。
村上(敬称略):数値入力のレコンポーザは非常に使いやすいシーケンサだったし、プロにとってはとても効率のいいツールでした。でも、打ち込みなんてまったくわからない人、楽器を弾いたこともない人がパソコンを使うことで曲を作れるようになったら、大きく広がるはずだ、という思いがありました。作曲支援的なことができるインテリジェントなソフトですね。会社設立からは、実際の完成までにはずいぶん時間がかかりましたが、1991年にようやく発売にこぎつけたのが、「アレンジソフト」として出したSinger Song Writerだったのです。
SSWの初期バージョンが特集されたComputer Music Magazine Vol.19
藤本:自宅にある当時の雑誌、Computer Music Magazine(電波新聞社発行)をひっぱり出してみたら、初登場がVol.19(1991年12月10日発売号)の特集ですね。私が記事を書いたような気がしてたのですが、違いました(笑)。そう、このソフトAm、D7、G……なんてコードを入力して、ロックのIntroとかVari A……というようにパターンを指定すると伴奏パートを自動的に作ってくれる画期的なソフトでした。
※Computer Music Magazineは90年の創刊当初から99年の休刊まで私がライターとして関わっていた雑誌です。DTMマガジンへの分岐など当時のDTM雑誌の歴史については、以前、AllAboutの記事「国内DTM関連雑誌の足跡 Part2 DTMマガジン誕生への流れ」で書いているので、興味のある方はぜひご覧ください。
村上:ホントはシーケンス機能も搭載したかったのですが、最初のバージョンはアレンジ機能のみのソフトとしてリリースしました。まあ、簡単なリアルタイムレコーディング機能だけは持たせていましたけどね。また初期バージョンでは、アレンジのパターンもごく限られた数しかなかったので、それほど多くのバリエーションの曲を作れたわけではなかったのですが、やはり反響はありましたね。このPC-9801のMS-DOS用として、Singer Song Writer V2、さらにシーケンサ機能を追加したSinger Song Writer PLUSへとアップグレードさせていきました。このV2からは私自身もプログラミングに参加するようになりました。
藤本:初期バージョンは外部の方がプログラミングされていたんですよね……。
村上:私自身、カモンミュージック時代は営業であって、プログラミングはしていなかったのですが、Z80の時代からマシン語(アセンブラ)は趣味でやっていたんですよ。そうPC-8001とかPC-6001用にBASICでゲームを作るところからはじまり、当時の雑誌に掲載されていたプログラムを打ち込んだり、そのうち自分でアセンブラで組むようになったりね。それでSinger Song Writerも自分で開発するようになったんですよ。少しずつ機能を追加していき、MS-DOS用のSinger Song Writer PLUSではレコンポーザと同じ操作性を持った32トラックの数値入力機能も搭載させました。細かくマニュアルに記載したわけではないけれど、ショートカットなども含めてレコンポーザ完全互換。この点は、現行のSinger Song Writerにも受け継がれているんですよ。
SSW PLUSに搭載されたカモンミュージック・レコンポーザ互換の数値入力によるMIDIシーケンサ画面
藤本:当時のPC-9801用のSinger Song Writerもアセンブラで開発していたんですか?
村上:確かにアセンブラのほうがスピード的には有利だけど、これからの時代を考えればCだと思い、最初からC言語で書いていたんですよ。結果的にはこのことが他社との大きな差別化になりました。そうWindowsへの移植が容易に行えたのです。実際、国産のシーケンスソフトでWindows 3.1用に最初に出したのはSinger Song Writerでしたしね。
Windows 3.1用にリリースされたSinger Song Writer for Windows
藤本:後にカモンミュージックなどもWindows版を出していますが、だいぶ時間差はありましたよね。また、あれだけPC-9801時代に数多くあったMIDIシーケンサでWindowsへ移行できたものはほとんどなく、みんな消えてしまいましたもんね。でも、それだけ先行してWindows版ができたのであれば、海外進出なんて展開があってもよかったように思いますが……。
村上:実は一度だけ、海外展開を図ったことがあるんです。Windows版を早くにリリースできたこともあって、Singer Song Writerはローランドのミュージ郎にバンドルしてもらえるようになりました。そうした中、ギターシンセを使った製品、ギタ次郎というのをローランドが発売し、これにもSinger Song Writerが採用されたのです。そのギタ次郎を海外にも出すということになってね……、そのためにSinger Song Writerの英語版を開発してほしい、という依頼がローランドから来たんですよ。自ら積極的な海外展開というわけではりませんでしたが、これが海外で実際にリリースされ、それなりの数が売れましたからね。だから当時はメールでの問い合わせが来たし、今でも、海外ユーザーのユーザー登録がしっかり残っていますよ。結局、それが唯一の英語版となっていますけどね。
PC-9801のMS-DOS版からWindows版への乗り換えキャンペーンのチラシ。確かに94年の早い時期だったことがわかる
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お話を伺った株式会社インターネットの村上昇社長
ほかにもPC-9801時代のMIDIインターフェイスの話やWindows初期のマシンの話などで盛り上がっていたら、あっという間に時間がたって時間終了となってしまいました。やはり歴史がある会社、社長の話って面白いんですよね。また機会があったら、いろいろとお話をしてみたいのとともに、当時の機材やソフトを探し出して使ってみたいなと思っているところです。村上社長、ありがとうございました!
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株式会社インターネット