先日もお伝えしたKORGのiPad専用アプリ、KORG iELECTRIBE。アメリカでのiPad発売と同時にリリースされ、現在でも音楽ジャンルのアプリとして売り上げ1位を記録し続けている(4月23日現在)超人気ソフトとなっているようです。
実際に触ってみると、そのすごさ、面白さには驚かされるばかりですが、どうしてこんなに早く開発できたのか、ハードの楽器メーカーとして2300円という価格で発売して大丈夫なのか、楽器メーカーとしてiPadの音質をどのように見ているのかなど、気になることがいっぱいあったので、KORGの開発担当者、商品企画担当者にインタビューしてみました。
お話を伺ったのは株式会社コルグのiELECTRIBE開発チームリーダーの福田大徳さん、同じくiELECTRIBE開発チームの井上和士さん、そして商品企画を担当した佐藤隆弘さんの3人です(以下敬称略)。
不眠不休で3カ月で開発
--アメリカでiPad本体が発売される前日、iTunesのApp StoreでiELECTRIBEが発売となりましたが、すごい早さですよね。事前に何か情報が入っていて開発の準備をしていたのですか?
iELECTRIBEはアメリカでのiPad発売と同時にリリースされた
福田:さすがに、そのような情報はなかったですね。1月にAppleが発表して、はじめて知りました。とはいえ、以前から噂はありましたから、ずっとアンテナを張っていました。そこからは、寝食を惜しんで、まさに不眠不休で開発を行いました(笑)。とくに井上はすごくがんばってくれました。
佐藤:ずっとELECTRIBEを作りたかったんですよ、特に福田は(笑)。なので、iPadが発表されて、即、開発しようということになりました。まさにゼロからのスタートでした。
--発売価格も驚きでした。2300円、しかも6月30日まではキャンペーン価格の1200円というのは安すぎないですか?
佐藤:そう思いますか?できるだけ多くの人に、この新しい感覚を体験してもらいたいんです。
--でも、ハードウェアの楽器を作っているメーカーとして、現行製品と競合してしまったりしないのですか?
佐藤:iELECTRIBEは2003年に発売したドラムマシンであるELECTRIBE・R mk-IIをベースに作っています。よく誤解を受けるところですが、現行製品であるELECTRIBE・MXやELECTRIBE・SXとは異なる製品ですので、これらと直接競合するものではないと考えています。
iELECTRIBEにはマルチタッチデバイスが必要だった
--ELECTRIBEはなぜiPad用として登場し、これまでWindowsやMacなどのPC用としてリリースされなかったのですか?
福田:マウスやコントローラーの操作では、複数の操作子を直感的にコントロールするELECTRIBEの良さが失われてしまうということに尽きます。ELECTRIBEを実現するにはタッチデバイス、それもマルチタッチに対応したデバイスが必要であり、ようやくそれを可能にするiPadが登場したというわけです。
--マルチタッチのデバイスとは?
井上:複数箇所のタッチを検知するデバイスという意味です。iPadは最大11点を同時に検知できるようになっているので、本当にデバイスとして困ることがありません。
iPadは11点を検知するマルチタッチデバイスとなっている
--確かに、ハードウェアのドラムマシン、シンセサイザを使っている感覚で操作できますね。気になったのがノブの操作です。これまでPC上のソフトではマウスで操作するため、どうしても扱いづらいものでした。せっかくタッチデバイスになったのだから、指でつまんで回すようにはできなかったのですか?
井上:これも、いろいろ試して検討した結果、1本の指で操作するようにしました。実際、ノブが出っ張っているわけではないので、つまんで回す操作というのは思っているほど、うまくいかないのです。
DS-10の開発担当者が担当した
--それにしても、ユーザーインターフェイス作りを含め、すごい開発スピードですよね。もともとはiPhone用に作っていたということはないのですか?
福田:iPadではじめて取り組んだので、iPhone用での開発は行っていません。iPhone、iPod touchを含めて、この系統のハードウェアでの開発は初めてですね。
井上:私はKORG DS-10も担当していましたから、PC以外のハードウェア用の開発という意味では初めてではありませんが……。
--実際、福田さん、井上さんは、これまでどんなソフトの開発をされてきたのですか?
福田:KORG Legacy CollectionシリーズのMS-20、Polysix、Mono/Poly、M1、WAVESTATIONなどの開発を担当してきました。それから、ギターアンプメーカーのVOX社と共同開発したJamVOXという製品の開発にも携わっています。
井上:KORG DS-10のほかでいうと、私もJamVOXの開発を担当しました。またDSDレコーダーのユーティリティソフトであるAudioGateの開発にも携わっています。
--iPadのハードウェア性能、開発のしやすさという面ではいかがでしたか?
井上:CPUパワーは未知数だったので、とにかく小さく小さく作り、途中から少しずつ特にUI部について豪華にしていきました。結果として使いやすいソフトに仕上がったと思っています。本当はWindowsやMac向けのコードがそのまま動くようになってくれるとベストなのですが、そこまでは行かなくても、かなり高速に動作するマシンとしてプログラミングできます。
--バッテリーの持ちはいかがですか?
福田:iPadの電池の持ちはすごくいいですね。iELECTRIBEをずっと演奏し続けた際の持ち時間というのは計測していませんが、かなりの時間使えるのではないでしょうか?
--これだけのアプリケーションなので、結構ファイルサイズも大きいのでしょうか?
福田:アプリケーションとしては5MB程度です。ダウンロード時のユーザーの負担も考えて、コンパクトなサイズに抑えることは意識しました。それから、シンバルなどの金物系はPCMを使っていますが、メインはバーチャル・アナログなので、ファイルサイズを小さくすることができています。
ステージやレコーディングにも使ってほしい
--気になるのは音質の部分です。当然のことながら、楽器メーカーとしては音のこだわりはあると思うのですが、iPadでの音質はどのように評価されているのですか?
佐藤:満足しています、ヘッドホンや外部スピーカーに繋ぐと低音もよく出ますし。電子楽器や機器の出音にはそれぞれ特長がありますよね。iPadで動くiELECTRIBEもしかりで、この製品ならではの音になっていると思います。
--ステージやレコーディングでも利用できるデバイスである、と?
佐藤:はい、ぜひそうしたシーンでも使っていただきたいですね。ステレオ・ミニ端子での出力に不安を感じる方もいらっしゃるとは思いますが、今後オーディオ周辺機器も充実していくのではないでしょうか。
iELECTRIBEはステージやレコーディングにも使える品質
--期待したいですね。ありがとうございました。
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