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初音ミク NTバージョン2がリリース。複数のエンジンでクリエイターの思いを存分に反映できる環境を

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すでに使っていたという方も多いと思いますが、2020年11月に「初音ミク NT」が発売され、昨年(2024年)10月には「初音ミク NT(Ver.2)」のEarly Access版なるものが公開されていました。その初音ミク NT(Ver.2)が昨日2025年3月18日に正式にリリースされました。一方で、「初音ミクV4X」は現行製品として現在も発売が継続されているし、2024年8月には初音ミク、鏡音リン・レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOの6人のバーチャルシンガーをセットにした「ピアプロキャラクターズ・スーパーパック」が発売されました。実は、この中に入っている初音ミクは、「初音ミク V4X」とも異なる、既存にはないボイスライブラリとなっていました。

そしてご存知の方も多いと思いますが、VOCALOID6に対応した「初音ミクV6 AI」も開発中であることが発表されています。当初は2024年中のリリースと発表されていましたが、開発に時間がかかっているようで、2025年中のリリースに延期となっていますが、もちろん継続して開発が進められている最中です。このように、クリプトン・フューチャー・メディアが発売する初音ミクには、さまざまなバリエーションがあるため、ユーザーとしても混乱している方もいるかもしれません。そこで、現状どうなっているのかなど、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 SONICWIRE・音楽事業チームのチームマネージャーである小泉聖道さんに話を伺ってみました。

3月18日、「初音ミク NT(Ver.2)」がリリースされた

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初音ミクらしさを表現するために独自エンジンを使った初音ミク NTを出した

--初音ミク、いろいろなバージョンがあって、やや混乱してしまっているので、少し整理してみたいのですが、まずはDTMステーションでこれまで取り上げていなかった初音ミク NTについて、これがどのような背景で誕生したのかなどを簡単に教えてください。
小泉:「初音ミク NT」を正式に発売したのは2020年11月でしたが、実はそれまで10年近く研究開発を続けてきた結果のものでした。クリエイターのみなさんが、初音ミクらしい歌唱をしっかりさせられるようにするにはどうしたらいいのか……、ということを考えながら研究・開発を進めてきたものです。

NAMMでお会いしたクリプトン・フューチャー・メディアの小泉聖道さん(左)

--その初音ミク NTは、VOCALOIDではないんですよね。
小泉:厳密にはVOCALOIDエンジン上ではなく、当社独自の歌声合成エンジン上で動かすソフトウェアという意味ではその通りです。初音ミクらしさ、ということにフォーカスを定めて研究していく中、ライブラリを作っていくと同時に、独自エンジンを採用する形になりました。

クリプトン独自エンジンを搭載した初音ミク NT(Ver.2)

--歌声合成の世界では、Synthesizer VやCeVIO AIをはじめ、ここ数年AI歌声合成が活況を呈しています。そうしたAI歌声合成とは違う路線ですよね?
小泉:もちろんAI歌声合成と音素接続による歌声合成についても我々として、いろいろ研究を進めていますが、初音ミクらしい歌唱とはどういうものなのか、を考えていく中で、そうした製品を出したわけです。もちろん、VOCALOIDが初音ミクらしくない、と言っているわけではありませんし、事実、ヤマハさんとVOCALOID6版を開発している中でもあるので、いろいろなバリエーション、選択肢のひとつと捉えていただくのがいいかもしれません。このあたりは、当社代表の伊藤博之や初音ミクのプロデューサーである佐々木渉とも密に話しながら、クリエイターのみなさんによろこんでいただくための全体設計を行っています。

クリプトン製エンジンを使った初音ミク NT(Ver.2)

--その初音ミク NTがバージョン2になったということですよね?
小泉:まず最初にお伝えしておきたいのは、「初音ミク NT2」ではなくて、「初音ミク NT(Ver.2)」である、という点です。というのもNT2というと新しい製品というようにユーザーのみなさんから見えてしまいそうだからです。確かにメジャーアップデートではあるのですが、現行のNTのユーザーのみなさんには、すべて無償で提供させていだくことにしました。Ver.2は当社でイチから開発した自社製エンジンを搭載したものとなっており、ここが大きな違いとなっています。

これまで「初音ミク NT」を持っていた方なら無償でアップデートできる

ーーでも、せっかくこれまでのエンジンで、だんだんユーザーも増えて広まって来た中、どうしてこれをやめて自社エンジンに切り替えることになったのですか?
小泉:自社内でいろいろ追求を続けてきた中、新しい表現が可能なエンジンができそうだ、というのが見えてきたのです。もちろん当社としても大きな決断ではあったのですが、よりよい表現力が持てて、多くのクリエイターさんに喜んでいただけそうなものがあるのならば、それを搭載すべきてはないか、という議論を進めた結果、初音ミク NT(Ver.2)として出すことにしたのです。

--Ver.1とVer.2のエンジンは併存ではなく、切り替えということなんですね。
小泉:昨日、2025年3月18日(火)にメジャーアップデートを公開しましたが、このタイミングで従来のVer.1の公開は終了とさせていただき、今後はVer.2をご利用いただく形となります。

--たとえば、Ver.1が非常に気に入っているというユーザーの場合も、使えなくなってしまう、ということなのですか?
小泉:いいえ、公開を終了するというのは、販売を終了し、新たにダウンロードできなくなる、という意味であって、すでにお持ちのVer.1が使えなくなるというわけではありません。サーバーを止めるとか認証できなくなるというわけではありませんのでご安心ください。ただし、それはVer.2の正式リリース前にVer.1を入手した人に限るもので、Ver.2リリース後はVer.1の入手はできなくなるので、その点はご注意ください。

クリエイターのしたいことを自動で行うオートマティックコントロール

--その初音ミク NT(Ver.2)は、何がどのように違うのですか?
小泉:まずボーカルエディタとしてはPiapro Studioというものを提供させていただいていましたが、Ver.1においてはPiapro Studio NT、Ver.2においてはPiapro Studio NT2となっていて、それぞれ異なります。パラメータもVOCALOIDのものとは異なります。具体的にはVelocityと似た機能はNote Gainという名前になっていたり、Gender Factorのように声色を変えるパラメーターはSuper Formant Shifterという異なる機構として備えています。さらにConsonat Rate、Voice Voltage、Voice Drive……など初音ミクらしさを実現するためのパラメータがいろいろと用意されているのです。そのパラメータ自体はVer.1もVer.2も同じなのですが、Piaporo Studioもエンジンが変わったことにより、ゼロからではないにせよ、かなりの作り直しをおこなっているのです。そしてVer.1にはなかった新機能も複数搭載しております。

パラメータもVOCALOIDのものとはいろいろと異なっている

--その新機能とはどんなものなのですか?
小泉:大きな新機能にはオートマティックコントロールというものがあって、細かな設定項目を意識することなく、「アグレッシブ」「ナチュラル」「シンプル」といった音楽スタイルや、「ダイナミック」「ニュートラル」「バーチャル」といった歌唱ニュアンス、ビブラートの付与具合を3×3のパネルから選んでいくだけで、インテリジェントに自動調整を行ってくれます。この裏側ではイロイロな機能が絶妙なバランスでブレンドされ、設定されています。イロイロな機能とは、具体的にいうと1つ目はピッチカーブの自動調整です。これまでもVOCALOIDにおける打ち込みにおいて、調声、調教といったことをクリエイターさんが行っていたのはご存知のとおりです。そのピッチカーブを自動で描いてくれるというものです。これまでベタ打ちだと、基本的にピッチは横にまっすぐに伸びる形になっていましたが、Ver.2では複数のピッチカーブモデルを搭載し、選択した項目に沿った細かいニュアンスを作り出してくれるようになっています。

3×3のパネルで簡単に歌い方を調整できる

--ほかにはどんなことができるのですか?
小泉:2つ目としては子音長コントロールというものがあります。要するに前の音にどれくらい食い込んでいくか、つまり子音をどの程度、早めに発音するかを自動的に調整してくれます。そして3つ目がビブラートの自動付与です。これは、まさにビブラートを使いたいなと思うようなところで自動的にビブラートがかかるようになっているのです。そして最後に、メリハリの付いた歌唱表現を可能にするためにノートごとに「Accent」「Power」「Soft」「Neutral」などを設定できるVoice Colorの自動付与にも対応しました。これらをまとめて自動調整してくれる機構のことをオートマティックコントロールと呼んでいます。

子音の発音位置を簡単に調整することも可能

--なるほど、いろいろとAI的な要素が含まれているけれど、昨今のAI歌声合成とはまた違う方向ですね。
小泉:AIが完全に合成してしまうガチャ的なものではなく、クリエイターさんがノートを打ち込んで調声を行う部分をAI機能で補助していくという方向ですね。もちろん、その上でクリエイターさんがさらに追い込みの作業を行っていただけるようになっているのです。これまでクリエイターさんが時間をかけて行っていた作業をより効率よく作業できるようにしている形です。

E.V.E.CによるVoice Colorの手動そして自動付与も可能に

--ある意味、その面倒な調声こそが楽しい、といっていた人も少なくないと思いますが……。
小泉:そうですね、調声における楽しみを丸ごと奪ってしまおうというわけではありません。最初にやっておくべき部分、ちょっとした下ごしらえをお手伝いさせていただく形です。

ピッチを描くなど、ユーザーが自由にエディットすることもできる

--先ほどのお話でVer.1用のPiapro Studio NTと、Ver.2用のPiapro Studio NT2は別モノであるとのことでしたが、これらを共存させることは可能ですか?またそれぞれでの互換性というのはあるのですか?
小泉:はい、「初音ミク V4X」などで使われるVOCALOIDエンジンのPiapro Studioを含め3つそれぞれ別のソフトウェアで、すべて同時に起動することも可能です。またNTで作った楽曲データをNT2で読み込むことも可能となっており、互換性は保たせていますが、やはりエンジンが変わるとニュアンスが変わったり、少し崩れてしまうような部分もあると思います。この辺はぜひ手直しして使っていただければと思います。

VSQファイルやVSQXファイルも読み込み可能

--実際、Ver.2を試してみましたが、かなりよくできていますよね。どうしてこんなエンジンを自社で作れるようにまでなったのでしょうか?
小泉:歌声合成技術も、大学での研究が増えるなど一般化してきたし、AIによる技術進化にあり、我々としても取り扱いやすくなってきたという面があります。それに合わせて、当社でも開発者・研究者の採用などを増やしてきており、メンバーも育ってきたということもあります。実はもともと歌声合成など音楽を専攻していたわけではない研究者が、そちらをやったらうまくできてしまった、という側面もあったりするんです。ほかにも、設計ができる優秀なメンバーがうまくこの開発プロジェクトにハマって、これまでのVer.1のバトンを受け継ぐ形で開発を行って、着実に進化してきています。

初音ミクのプロデューサー、佐々木渉さんからのコメント

今回のNTの新バージョンでは「Automatic Control」機構により、楽曲に合わせて調声(ピッチの動き方や声の表情の付き方)の方向性を選べて手早く土台を作ることができます。

初音ミク プロデューサー、佐々木渉さん

「Automatic Control」で設定した上で、手動でVoiceColorを編集して大胆に抑揚を付けたり、ボイスエフェクターでお化粧したり、上から好みのピッチを書くこともできます。そつなく歌わせることも、より極端でデフォルメした表現にも向いて居ると思います。特にVoiceColorの種類によって声のハリや勢い、ボイスエフェクターの効きも変わるので、ぜひ積極的に使ってみてください。

初めて初音ミクを使ってみたいと思われた初心者から、誰とも違うミクの声を作りたいコダワリ派のクリエイターの方々まで、39日間使える体験版もありますし、ぜひ手にとって試してみてください。どうぞよろしくお願いいたします。

体験版ダウンロードリンク  >>  https://sonicwire.com/miku-nt-trial

初音ミクらしい歌唱を実現するためにVOCALOIDも進展させる

--その一方で、VOCALOID6の「初音ミクV6 AI」開発も進めているのですよね?
小泉:はい、昨年8月に発表した後、2024年の年末に延期のアナウンスをさせていただきましたが、ヤマハさんと継続して進めています。NTシリーズとは別のラインナップとはなりますが、こちらもやはりクリエイターさんに初音ミクらしい歌唱を実現いただくため、という考えは同じであり、ユーザーさんにとっても多くの選択肢があるのがいいだろうと考えで進めています。

--VOCALOID6のVOCALOID:AIエンジンを使うものだと思いますが、これは人間の生声に近い発音をするものになる、ということなのですか?歌声の学習データはどうしているのでしょうか?
小泉:いいえ、そうではなく、やはり初音ミクらしさを出すためのものとなっています。権利関係に配慮したさまざまな曲調のデータを使っています。ただ、その過程でいろいろ時間がかかっており、初音ミクらしい歌声をお届けするために、ヤマハさんの協議の上、延期を発表させていただいた次第です。

--もっとも現状においては初音ミクV4Xもある現行製品として販売されているわけですよね?
小泉:はい、その「初音ミク V4X」に加え、昨年8月に「ピアプロキャラクターズ・スーパーパック」というものを出しています。ここには初音ミク、鏡音リン・レン、巡音ルカ、KAITO、MEIKOと全部で6種類のシンガーが入っていて、これ1つあれば当社のピアプロキャラクターズ全員を歌わせることができるものとなっています。また、6シンガーともこの製品オリジナルの汎用的なボイスライブラリとして新たにブラッシュアップしたものになっているんです。

6人のバーチャルシンガーが集結する「ピアプロキャラクターズ・スーパーパック」

--ブラッシュアップした…ということは、ここに入っている6つのボイスライブラリは、既存のものを集めて1つのパックにしたわけではない、という意味ですか?
小泉:その通りです。いずれも、磨き込んだライブラリーを新たに搭載したものとなっています。また従来KAITOとMEIKOはV3版で止まっていましたが、ここに入っているのはいずれもV4版となっており、グロウルやクロスシンセシスなども対応しています。

ーーそのように考えると、初音ミクと一言でいっても、いろいろなバリエーションがあるわけですね。
小泉:いろいろなエンジン、バリエーションがあって、少し分かりにくく感じてしまう面もあるかもしれませんが、当社としてはとにかく初音ミクらしい歌唱をさせる上で、クリエイターさんの思いを存分に反映させられるものを……と考えて、進めております。ぜひ、うまく使い分けてご利用いただければと思います。

--ありがとうございました。

【関連情報】
初音ミク NT(Ver.2)製品情報
初音ミク NT(Ver.2)体験版ダウンロード

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