3月15日、Arturiaからドラムマシンの新モデル、DrumBrute Impact 1984(税込実売価格47,520円)が発売されます。アイボリーホワイトのボディーにオレンジのラインが印象的なこのデザイン、40年前のあのマシン、Roland TR-707を彷彿させる雰囲気ですよね。もっともそれはデザイン面だけで、DrumBrute Impact 1984の中身は完全なアナログ音源。その意味ではフルデジタルの完全なPCM音源であったTR-707というよりも、その前の大ヒットマシンであるTR-808に近い音源といったほうがいいかもしれません。
もっともDrumBrute Impact 1984はTR-808を再現するマシンというわけではなく、今の時代に合わせたドラムマシン。Kick、Snare 1、Snare 2、Tom Hi、Tom Low、Cowbell、Cymbal、Closed Hat、Open Hat、FM Soundという10種類の完全なアナログ音源を装備するとともに、それぞれ独立にアクセントを付けたり、Colorという独特なエフェクトを掛ける音も出せます。またメイン出力、ヘッドホン出力のほかに、個別出力も装備しているのも嬉しいところ。一方で最大64ステップ、64のパターンのステップシーケンサを装備するとともに、USB端子経由でWindows/Macと接続してMIDIの入出力、データのバックアップやシーケンスパターンの編集……といったこともできるし、アナログのクロック入出力やMIDI Clockを使っての外部機器との同期もできるなど、今のドラムマシンに求められる機能すべてを備えたパワフルな機材となっているのです。実際に触ってみたら、楽しすぎて、すぐ時間が経ってしまうのが困ったところでしたが、どんなものなのか紹介してみましょう。
見た目はTR-707風だけど、完全なアナログ音源
某メーカーが行っている、ビンテージ機材の完パク再現という方向ではなく、新しいアナログのシンセサイザを次々と開発しているのがフランスのArturia。ご存じのとおりArturiaはさまざまなソフトウェア音源やデジタルハード機器を出しているメーカーでありながら、10年前の2025年に同社初のアナログシンセ、MiniBruteを出して以来、さまざまなアナログシンセ、アナログドラムマシンなどを開発、発売していきています。
その最新マシンとして発売されたのが、このDrumBrute Impact 1984。1984という数字が思わせぶりな感じですが、おそらくは1984年発売のRoland TR-707に引っかけているのだろう、と思います。
個人的には1985年、大学1年生のときに初めて買ったドラムマシンがTR-707だったこともあり、TR-707は非常に思い入れのある機材であり、今も手元に残っています。そのTR-707とカラーリングという点ではちょっと似た雰囲気があるのは、並べてみてもなんとなく感じられると思います。TR-707はだいぶ古いので、アイボリーホワイトの部分が汚れたくすんだ色になっていますが、新品当初は近い色だったんじゃないかな、と。
とはいえ、フルPCM音源だったTR-707とはまったく違い、このDrumBrute Impact 1984はフルアナログ音源。実はすでに発売されているDrumBrute Impactのカラーバリエーションであって、中身自体はDrumBrute Impactと同じもののようです。以前ブラックカラーの限定モデルDrumBrute Impact Noir Editionというのも出ていたので、3色目ということのようではあります。どんな音なのかは、当初のDrumBrute Impactのビデオではありますが、以下のものを見ると雰囲気が分かると思います。
8つのパッドに10種類の音源が割り振られている
DrumBrute Impactの肝となるのは、やはりアナログ音源部分ですが、これは下に並ぶ8つのパッドと、その上に並ぶツマミで操作する形になっています。この辺はTR-808など従来のアナログドラムマシンの使い方を完全に踏襲した形です。
たとえば一番左のKick、ものすごく太いアナログキックの音が出ます。TR-808のキックにも負けない音でDecayとPitchでそのサウンドを調整できるようになっています。スネアはSnare 1、Snare 2と2種類違うものが用意されています。Snare 1のほうはTone/Snapというツマミで“トン”という感じと“パン”という感じのバランスを調整できるようになっています。
タムは1つですが、ボタンでTom HiとTom Lowを切り替えることが可能で、それぞれ別音源。リアルタイムに叩く場合はこのボタンで切り替えるしか方法はないのですが、シーケンサを使えば別音源として扱うことができ、それぞれPitchの調整も可能です。
同様にシンバルとカウベルもCym/Cowスイッチ切り替える形ですね。シンバルのほうはDecayパラメータでの調整が可能ですが、カウベルのほうは音色調整はなし。カウベルの音自体はTR-808とソックリな音ではあります。
そしてハイハットはクローズとオープンが排他の関係にあり、Hats Toneというパラメータで音色は共通に調整する形。オープンのみDecayが調整できるようになっています。音の雰囲気はTR-606あたりに近いサウンドですね。
2つのオシレータを組み合わせるFM Sound
ユニークなのは一番右にあるFM Sound。そう、ここにはFM音源のドラムが搭載されているのです。FM音源とはいえ、YAMAHAのDXのものとはまったく方向性の異なるものです。ご存じのとおり、DXの場合、サイン波を発生させるオシレータ(オペレータ)を掛け合わせる形で音作りをするものですが、DrumBrute ImpactのFM Soundでは2つのオシレータを組み合わせる形です。
2つというのはキャリアとモジュレータのそれぞれで、それぞれサイン波ではなく、三角波や矩形波というほどではないけれど、少し歪んだ波形となっているようです。Carrier Pitchで出音のピッチを調整し、Decayで音の長さというか減衰を調整していきます。一方、FM Amtでモジュレーション量を調整することで、ドラスティックに音色を変化させていくのがまさにFMの部分。そのモジュレータピッチをMod Pitchで調整すると、かなり雰囲気も変わっていく形です。
このキャリアもモジュレータもアナログのオシレータとなっているので、独特なサウンドを作ることが可能なのです。
オレンジ色には意味がある!Colorボタンで各音源にエフェクト設定
さてTR-707風デザインの象徴でもあるオレンジには実は大きな意味があるんです。これがColorというもので、Colorボタンを押しながら、各パッドを押すとパッドがオレンジに光ります。こうすることによって、キック、スネア、タム、シンバル、ハイハット…と各音源がだいぶ違ったサウンドに変わるのです。そう、これによって色付けした音になるのです。
オレンジ色のバーの部分を見ると、KickにはDrive、Snare 1にはBody、Snare 2にはClap……などと書かれていますが、それぞれに異なるエフェクトを掛けている結果、違った音になるのです。マニュアルを見ると以下の通りカラーチャートなるものがあり、それぞれ違った色付けとなるわけです。ただし、カウベルだけはエフェクトはかからないようです。
パッド | インストゥルメント | カラー・パラメーター | 内容 |
1 | Kick | Drive | オーバードライブ(マスター・ディストーションから独立) |
2 | Snare 1 | Body | ドラム音のみのピッチとディケイ |
3 | Snare 2 | Clap | トーンとアタックのキャラクターを変化させて、クラップをシミュレート |
4 | Tom Hi/Low | Decay | 両方のタムのディケイを伸ばす |
5 | Cym/Cow | Cymbal Tone | シンバルの倍音構成を調節(カウベルにはかかりません) |
6 | Closed Hat | CH Decay | クローズド・ハイハットのディケイを伸ばす |
7 | Open Hat | Harmonics | 両方のハイハットの倍音構成を調節 |
8 | FM Drum | Pitch Envelope | キャリアのピッチを下がる方向にスウィープ |
もっとも、このColorはオンかオフかというものであって、とくにパラメータは存在していません。たとえばSnare 2はこれによってクラップ的な音になるので、そのままクラップとして利用することができるわけです。
またあとで紹介するシーケンサにおいては1ステップ目と9ステップ目はColorがオフのノーマル音色で、5ステップ目と13ステップ目はColorオンの音色にする、といった使い方も可能になっています。
また、Colorとはまったく別に全体にかかるディストーションも用意されており、Distortionパラメータを挙げていくことで、強烈な音に仕立てていくことも可能となっています。
ステップ入力もリアルタイム入力もOK
さて、そのシーケンサ部分の使い勝手は抜群でした。入力方法としてはステップ入力とリアルタイム入力の大きく2通りがあります。
まずパターンを組んで、それを並べてソングにしていく……という考え方は昔ながらのものでパターン自体は16~64ステップの範囲内で設定できるようになっています。またBank A~Dの4つのバンクにそれぞれ16種類のパターンを組めるようになっているので、トータル64パターンを記録していくことが可能となっています。
使い方としてはパターンを選択した上で、ステップ入力の場合はStepボタンを押し、設定したい音源を選択したら、あとは1~16と並んだボタンをオンにしていけばいいだけなので、いたって簡単。音源を切り替えれば、そちらを入力でき、前述のColorについても同様に入力していくことができます。
またアクセントもAccntボタンを使うことで、各音源それぞれ独立にアクセントを設定していくことができ、これによって単に大きい音になるのではなく、少し違った音になるのもポイント。つまりノーマル、ノーマル+Color、ノーマル+Accnt、ノーマル+Color+Accntの4つの音を使い分けていくことができるのもユニークなポイントです。
一方、リアルタイム入力はRECボタンを押しながらPlayボタンを押すことで、リアルタイムに入力していくことができます。この際、メトロノームをONにすることで入力しやすくなるし、パッドを叩く強さによって2段階でのベロシティ検知がされ、AccntのON/OFFを記録していくことも可能となっています。
Swing機能はもちろん、非常に強力なRandomパラメータ
このシーケンサで記録したパターンはPlayボタンで再生することができ、Rateツマミを回すことでテンポを調整することができるほか、タイムディビジョンの設定により1ステップの長さを1/8、1/8T、1/16、1/16Tの4つから選択できるようになっています。
またSwingというツマミも用意されており、これを一番左に回していれば通常のテンポで流れていきますが、右に回していくとスウィングしていき最大では75%スウィング、つまり付点8分音符+16分音符という形になっていきます。またSwingは通常は全体に効く形ですが、隣にあるCurrent TrackをONにすると、KickのみとかSnare 1のみなど、選択している音色のみに対して使うことも可能になっています。
もうひとつ、非常にユニークなのがSwingツマミの右にあるRandomツマミです。これはパターンとして入力した以外の音がランダムに増えていくというもの。左に絞り切っていると通常ですが上げていくことでランダム性が増し、リズムパターンそのものが変わっていったり、ノートイベントの数が増えたり減ったり、アクセントのON/OFFの変化がでるなど、予期しないリズムになっていくのです。もちろん、ランダム性が増すと、あるパターンで固定化するのではなく、常に変化していくので、単調なリズムにならず、面白い演出が可能になります。
PCとUSB接続すればMIDIの入出力が可能
では、このDrumBrute Impact、単体のリズムマシンとして完成されたものではありますが、DTMとの相性という面ではどうでしょうか?こちらも非常によくできています。
リアパネルを見るとMIDIの入出力とUSB端子がありますが、USB端子のほうをWindowsやMacと接続することでコンピュータ側からはMIDIの入出力デバイスとして見えるようになります。つまり、DAWのMIDIシーケンス機能で打ち込んだものを、DrumBrute Impactで鳴らすこともできるし、反対にDrumBrute ImpactからDAWへリアルタイムレコーディングしていくこともできます。
基本的にUSBを流れるMIDI信号とDINのMIDI端子を流れるMIDI信号は同じものとなっています。が必要に応じてUSB MIDIのみを使うとか、DIN MIDIのみを使うといった設定も可能になっています。
なお、このUSBでやりとりできるのはあくまでもMIDIであって、オーディオの入出力はできません。もし、DrumBrute Impactの音をDAWに取り込みたいという場合はDrumBrute Impactのオーディオ出力をオーディオインターフェイスを経てDAWへ取り込む必要があるわけです。
MIDI Control Centerで各種設定やデータのバックアップ、パターン編集も可能
そして、コンピュータを使うもう一つ大きなメリットはDrumBrute Impact専用のユーティリティソフトが用意されている、という点です。それはArturiaサイトからダウンロードして使うMIDI Control Centerというもので、これはDrumBrute Impactに限らず、KeyLabやKeyStep、MicroFreak、BeatStep……などなどArturiaのハードウェア全般で利用するツールです。
しかしDrumBrute ImpactがUSB接続されている状態でMIDI Control Centerを起動すると、DrumBrute Impact専用のユーティリティツールとして動作するのです。そして、このMIDI Control Centerが多機能で、非常に強力なツールとなっているのです。
まずはDrumBrute Impact本体内にあるデータのバックアップやリストアができるようになっています。もっとも、これはBank A~Dに収録されているパターンのデータであって、音色は含まれていません。アナログの音源なので、音色自体はすべて本体のツマミで調整するものであって記録はできないわけです。
そして、そのパターンデータは、すべて画面上のエディタに表示させることができるし、ここでエディットすることも可能。その結果をDrumBrute Impactへ送るということも可能になっているのです。
一方、DEVICE SETTINGというボタンをクリックすると、DrumBrute Impactの各種設定を細かくできるようになっています。たとえば、先ほどのMIDIをUSBに送るのか、MIDIチャンネルをいくつに設定するか、DIN-MIDIに送るのかといったことから、メトロノームの1クリック分の音符長の設定、トランスポート関連のMIDI CCの設定といったことなどが可能。
またDrum Mapというものもあり、Kick、Snare 1、Snare 2……といった各音のMIDIノートナンバーをいくつにするかの設定も可能になっています。ちなみに、このDrum Mapを見ると、ColorがONの場合の音は別のMIDIノートという扱いになっていることも分かります。
さまざまな同期にも対応
また、この設定には同期に関する項目もいろいろあります。そうクロックの入出力を1pluse、2pulse、24PPQ、48PPQから選択できるため、接続する機器に合わせて設定できるようになっています。
また本体のトランスポートボタンの右にはSyncボタンがあり、これによってINT、USB、MIDI、CLKの4つのモードを切り替え可能です。通常は本体内のクロックで動くINTでいいわけですが、USB接続したDAWなどと同期させるならUSB、外部MIDI機器とDIN-MIDで接続してとMIDI Clock同期するならMIDI、さらにvolcaをはじめとした機器とSYNCケーブルで接続する場合はCLKを選ぶ形となります。
また本体がマスターとなって動作させる場合、MIDIクロックをUSB側に送るかDIN-MIDI側に送るか、両方に送るのかといった設定のほか、MIDIクロックに加えてMMCも送るのかなど、かなり自在に設定できるようになっています。
実際、DAWとも簡単に同期するしKORGのvolca、SONOCWAREのLIVENシリーズなどと簡単に同期させて使うことができました。
以上、DrumBrute Impact 1984についてざっと紹介してきましたが、かなりパワフルで、万能に使える楽しいドラムマシンであることは間違いありません。やはりソフト音源などでは出せないアナログならではの太い音が出せるのも大きなポイント。価格的にも手ごろなので、一つ持っておいて損のないマシンだと思います。機能・性能的にはもともとあったDrumBrute Impactでも今回のDrumBrute Impact 1984もまったく同じなので、好きな色を選ぶという形でいいと思います。
【関連情報】
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