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仮面ライダーやウルトラマンの劇伴作曲の舞台裏。作曲家の坂部剛さん、佐橋俊彦さんによるCreator’s Path“CHANGE”

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日本音楽著作権協会=JASRACが主に若手の音楽クリエイター(作詞者・作曲者)に向けて定期的に開催している、トップクリエイターによるトークイベント「JASRAC Creator’s Path」が12月10日に東京・渋谷のイベントスペースで開催されました。今回のゲストは特撮や2.5次元舞台の世界で活躍されている作曲家の坂部剛さんと佐橋俊彦さんのお二人。もともとは師弟関係にあったというお二人ですが、お二人とも「仮面ライダー」シリーズや「ウルトラマン」シリーズなど数々の特撮テレビ番組の楽曲を手掛けると同時に、舞台やミュージカルでの劇伴(げきばん)の制作もされています。

そんなお二人のトークでは、「仮面ライダー」や「ウルトラマン」、「スーパー戦隊」などの音楽制作秘話やミュージカル「テニスの王子様」、舞台「魔法使いの約束」の制作エピソードなど、ほかでは聞くことができない、さまざまな話が出ていました。そのトークイベント「JASRAC Creator’s Path」に実際に行ってきたので、レポートしてみましょう。

作曲家の坂部剛さんと佐橋俊彦さんをゲストに、JASRAC主催のイベント「Creator’s Path」が開催された

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第14回目となるJASRAC主催イベント、Creator’s Path “CHANGE”

今回紹介するJASRACのイベント、Creator’s Pathは著作権やJASRACの信託契約などに関する知識や情報を音楽クリエイターに提供することで、その創作活動を支援することを目的とした、音楽クリエイター向けの支援プログラム。2017年から開催されており、今回が14回目とのことです。

以前にも「どうやって音楽でお金を稼ぐか知っていますか?JASRAC主催の音楽クリエイター限定・無料トークイベント、Creator’s Path」、「日本の音楽シーンを牽引する松井五郎さんが語る『作詞の極意』。JASRACの音楽クリエイター向けイベントCreator’s Pathより」といった記事で紹介したことがありましたが、毎回、第一線で活躍する音楽クリエイターが登場しており、音楽制作のノウハウや、考え方、仕事につながるヒント…などなど、著作権の知識はもちろん、制作の参考になる話も満載のイベントとなっています。

左からJASRAC遠山直杜さん(司会進行)、坂部剛さん、佐橋俊彦さん、JASRAC髙田涼香さん(司会進行)

JASRACメンバーでない音楽クリエイターであれば、実績など関係なしに、申し込めば誰でも無料で参加できるという嬉しいイベントで、今回も音大生や音楽専門学校に在籍して、今回も音大生や音楽専門学校に在籍している学生から、サラリーマンとして働く傍らで日々DTMで作品を作ってYouTubeなどで発表している人、セミプロ/プロとしてさまざまな分野で楽曲制作している人など、いろいろな方が参加されていました。

坂部さん、佐橋さんのトークセッションがおよそ1時間行われた

今回は「JASRAC Creator’s Path “CHANGE”」と題して、坂部剛さん、佐橋俊彦さんがゲストで開催されました。このトークセッションの一部をピックアップするとともに、会場に集まった人との質疑応答なども紹介してみましょう。

仮面ライダー、ウルトラマンの制作エピソード

司会:では、ここから特撮についてもっと詳しくお聞きしたいと思います。テレビシリーズの特撮といえば「仮面ライダー」「ウルトラマン」そして「スーパー戦隊」。この3種類の劇伴をすべてされたことのある方は、劇伴業界でも数人しかないとのこと。まさに今日のゲストのお二人がそうなのです。これまでお二人が担当された代表的な特撮を一覧にしてみました。劇場版や主題歌、挿入歌は省いていますが、かなりの数になりますね。

坂部さん、佐橋さんの代表的な特撮作品一覧

佐橋:毎回、監督とはイメージのすり合わせからしていくのですが、たとえば「仮面ライダージオウ」のときは「佐橋さん、カレー味の音楽でお願いします」って言われてね(笑)。要するにインドの感じだと思うんですけど、こんなやり取りから入るんですよ。年代が近い人とのやりとりであれば、一緒に見て育った価値観・雰囲気など共通するものがあるじゃないですか。だから、結構抽象的な言葉も使いながらイメージのすり合わせをおこなっていくんですよね。

司会:特撮の音楽制作依頼の中で、これは困ったとか、面白かったなどエピソードはありますか?
坂部:ちょっと面白いところでいうと、たとえば「ウルトラマン」でいうと「ワンダバ(ウルトラマンシリーズの特撮番組に登場する地球防衛組織が出動するときに使用される、特定の曲想を有するBGMの総称でワンダバダバダバといったフレーズが歌われている)」の曲を一曲作るというのが伝統なんですよ。地球を防衛する側の軍の曲なんですけど、僕は佐橋さんの「ワンダバ」を知ってたので、それを引き継いだというか…。
佐橋:未だに「ワンダバ」っていうのはすごいよね(笑)。もう4代に渡るんじゃないかな。あれは冬木透先生が「帰ってきたウルトラマン」のMAT(怪獣攻撃隊)の曲として書いたのが最初だよね。僕はそれを見て育ってきたの。で、その冬木先生のあと矢野立美先生が「ウルトラマンダイナ」など書かれていて、僕が「ウルトラマンガイア」で引き継いだんです。最初は「『ワンダバ』の曲だけ佐橋さんお願いします」って言われて書いたんだけど、それを君が聴いていたわけだ。それにしても、まだ続いているってすごいよね。なんでワンダバだったんだろう、って話はよくしてたんだよね。おそらく「ダバダバ」ではちょっと違うんだろう…って。

司会:特撮の音楽制作における特徴って何かあるものですか?
坂部:ウルトラマンってメジャー系の楽曲が多いですけど、仮面ライダーとスーパー戦隊って、マイナーキーのかっこいい熱い曲が入るんですよ。これがちょっと日本人の特徴っぽい感じで哀愁を感じるようなのが出てるのかなと思ってます。主題歌もおそらく昔の仮面ライダーの曲もマイナーキーの曲で、ウルトラマンはメジャーキーですよね。ここに明確な違いがあるなと、思っていました。
佐橋:僕は初代の仮面ライダーを見た世代なんですよね。だから、子供のころに「仮面ライダーが始まるぞ!」って宣伝されて、楽しみに見たわけですよ。でも、仮面ライダーの1作目はすごく怖かった。そう今でこそ、「変身!」とかやって結構明るいキャラですが、当時、仮面ライダーは改造されてしまった人間で、それを背負って生きていかなくてはならないという、非常に暗いストーリーだったんですよね。だからそれがマイナーキーに影響している。それに対してウルトラマンは神なんですよ。もっともウルトラセブンからはメジャー系の曲だんですけど、宮内國郎さんによる最初のウルトラマンだけはちょっと影があるんじゃないかな…って思うんですけどね。

司会:なるほど、佐橋さんも坂部さんも、ご自身のイメージが…というよりも、シリーズの系譜として、そういう特徴があったわけですね。「スーパー戦隊」はいかがですか?

坂部:戦隊は多分オーダーメニューにしっかり書いてあると思います。少なくとも僕のときは「マイナーキーの熱い曲」って書いてありましたね。
佐橋:戦隊はそうだよね。音響監督がすごいマニアックな人で、テンポ指定までされているんだよね。もちろん、マイナーとかメジャーといったことも指示してある。
坂部:そうですね。僕たちに依頼される前から監督などみんなで打ち合わせをしていて、かなり細かく指定されたメニューが来ます。もう大方のイメージが決まっているみたいなところがあり、ある意味作りやすい面もあるんです。

坂部さん、佐橋さんによる2.5次元舞台劇伴制作秘話

司会:では、ここでもう一つのテーマである2.5次元舞台についてもお聞きしたいと思います。マンガやアニメの舞台、特にミュージカルが2.5次元舞台と一般的に呼ばれるようになって約10年だそうです。佐橋さんが手がけたミュージカル「テニスの王子様」通称「テニミュ」が元祖ともいわれています。そして坂部さんも「魔法使いの約束」をはじめ、たくさんの舞台を手掛けられています。こちらにその一覧を用意しましたが、すごい数ですね。「テニミュ」やミュージカル「薄桜鬼」シリーズはお二人とも制作に関わっていらっしゃいますよね。スタート当時のエピソードなどあれば教えていただけますか?

佐橋:10年くらい前に常にマイナーなところから2.5次元舞台って始まって、それ以来ずっと作ってたんですが、ターニングポイントとなったのは「HUNTERxHUNTER」のミュージカルでした。このとき、はじめて ちゃんとお客さんが入るようになったんですよ。この作品はアニメ本編の音楽も僕が担当していました。そして「テニスの王子様」がミュージカルとなったとき、一つ大きな問題があったんです。それはミュージカルなのに、男性しかいないと いうこと。今でこそ、男性が多いのが主流になってはきているけれど、作曲家としては音域のレンジが狭くなっちゃうので結構とまどいましたね。ディズニーに代表されるように、もともとミュージカルって女性がバ ラードをキレイに歌って、男性がハモるみたいなのが主流。それができなくなっちゃうのは難しいって、プロデューサーに言った覚えがありますね。

司会:すでにアニメ化や舞台化されている原作の舞台に音楽を付ける場合があると思いますが、その時に注意されていることはありますか?
坂部:僕はやっぱり原作に答えがあると思ってます。もっとも、これはネルケプランニングの松田誠さんがキャストに言ってたことなんですけどね。「迷ったら原作を見なさい」って。僕はそれがすごく心に残っていて、答えは原作にしかないよな、っていつも思ってます。だから、改めて読み直してみたり、それこそ「テニスの王子様」なんかは、何度も読み直して、そのシーンを思い浮かべながら、ここに音を付けるとしたらどうするか、このシーンだったら、こうだなってイメージしていくわけです。迷ったら、そこに立ち戻ることは必要だなと思います。

司会:佐橋さんはいかがですか?
佐橋:テニミュは、僕たちにとって地獄の話があるんですよ。あれにはラリーがあるでしょ、テニスの試合が。あれが地獄なんですよ。舞台上でテニスをするわけで、ここの曲が30小節の曲だとすると、何小節目にサーブ、何小節目でアタック、そして何小節目で決めのサーブ……なんてリストが来る。
坂部:それをラリー表っていうのですが、どの小節のどの拍でショットを打つのかが、あらかじめ決まっていて、そうやって役者さんが練習しているんで、それに合わせて作曲するんですよ。たとえばサーブする前にフィルを入れたり…。
佐橋:音楽的にそんなにうまくいくわけがないので、まさに地獄で神経やられるんですよ。しかも、このラリー表のオーダーが最後に来るんだよ。振付が決まった後の、最後の最後に。しかも1つや2つじゃないですからね。本当に大変だった…。
坂部:でもね、今はもうなくなったんですよ(笑)。その代わりにBGMとして流す形で似たようなことをやっています。音楽に完全には合わせないんですけど、それでよし、という形になって。当時は完全に合わせてましたからね。

佐橋さんはシンセマニア!?会場のみなさんとの質疑応答も

上記は、約1時間のトークのごく一部を抜き出した形ですが、こんな感じで、まさに他では絶対に聞けない貴重な話、面白い裏話など満載で、会場に集まっていた音楽クリエイターのみなさんも、じっくりトークを聞いていて、中には真剣にメモをしている人もいたようです。

ほかにも「最近の私」と題して、お二人の普段の写真がスライドとしてスクリーンに表示されていたのも面白かったところ。坂部さんは愛猫との写真が映し出される一方、佐橋さんはかなりなハードウェアシンセサイザ・マニアだそうで、最近ハマっているというユーロラックのモジュラーシンセや、数年前に復刻されたものを入手した、というMoog Moduler IIIcなどが映し出されていました。ちなみに、このシンセを仕事に使うことはほとんどないのだとか……。

一方、プログラム後半では今回の「Creator’s Path “CHANGE”」というタイトルの”CHANGE”にかけて、「これから変わっていきたい、やってみたいこと」を参加者のみなさんから事前募集したものに対し、坂部さん、佐橋さんがアドバイスしていく、というコーナーも。作家を目指す学生さんなども多く、お二人はそのための心構えや、普段気を付けるべきことなど、丁寧にお話されていました。

JASRACによる〇×クイズも実施

またその前半トークと、後半コーナーの間にJASRACによる〇×クイズなるものが行われ、全問正解者にはJASRACグッズが進呈されていたのですが、そのクイズもちょっと紹介しておきましょう。

第1問 テレビで音楽が使われたときに、視聴率の高い番組のほうがもらえるお金が高い。
答え:「×」(視聴率は関係ない)
解説:テレビで使われる楽曲は、全曲報告を受けており、放送局の事業収入が高いほうが、同じ1回の利用でも高くなる。全曲報告、1秒単位で、どう使われたか(歌ったのか、BGMなのか)を元に金額が変わる。
第2問 舞台で使う音楽の使用料は、劇場が払っている。
答え:「×」(興行主/主催者が払う)
解説:舞台で使われる音楽の著作権手続きは、主催者が行う。ライブハウスの場合はライブハウスが手続きを行うことが多い。ちなみに舞台のために書き下ろしを依頼された場合に、主催者の著作権料の支払いを免除する制度がある(委嘱)
第3問 クラシックを編曲した際にクリエイターに発生する著作権をJASRACで管理することができる。
答え:「〇」(編曲している作品も管理している)
解説:編曲すると、二次的著作物としての権利が生まれる。単に楽器やキーを変えただけではなく、創作性が加わっているかを編曲審査委員会で審査し、理事会で承認された作品を編曲作品として管理している。編曲家でもJASRACと契約ができる。
第4問 音楽クリエイターがJASRACと契約するためには、お金がかからない
答え:「〇」
解説:契約の際にも、楽曲の届け出も、維持費も0円。分配する金額の平均10%を手数料として徴収している(種目によって手数料率は異なる)

以上、先日行われたJASRAC Creator’s Path “CHANGE”について、その内容を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?

すでに先日JASRACのXでの告知がありましたが、次回の「Creator’s Path」は2月19日に東京・渋谷のイベントスペースにおいて、「ボカロPのためのライフハック」をテーマに楽曲制作や活動の裏側に迫る、という内容になるとのこと。ゲストにはボカロシーンで活躍中のねじ式さん、市瀬るぽさん、またナビゲーターには仁平淳宏さん(日本ネットクリエイターズ協会)を迎えて、楽曲制作の工夫やアイデア、活動の秘訣などについて話を展開していくようです。ニコニコでの生配信もありますので、興味ある方はぜひ参加または視聴してみてください。

◆「JASRAC Creator’s Path “MIX”
【日時】
2025219日(水) 開場 1830/開演 1900/終了 2100

【会場】
東京カルチャーカルチャー (cocoti SHIBUYA 4F

JR・東急・東京メトロ各線「渋谷駅」徒歩4

【参加費】
無料

◆申込方法
観覧申し込みフォーム(音楽クリエイターの方)

申込締切: 2025213日(木)※申込多数の場合は抽選(抽選結果は214日(金)までにメールでお知らせします)
◆ニコニコ生放送
URL:https://live.nicovideo.jp/watch/lv346908693

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