一時期話題となったチートEQのGULLFOSSを開発したSOUNDTHEORY社から、新作プラグインのKRAFTURが登場しました。KRAFTURは、マルチバンドのサチュレータプラグインとなっており、大きくサウンドは変えたくないけれど、なにか物足りない音素材やミックスに活力を与えることが可能となっています。アナログ機材を通したときに求めるような、倍音感や艶をコントロールすることができ、絶妙ながらもクオリティを左右するポイントを調整可能。もちろん、もっと変化を付けたい場合にも使用でき、ダイナミクスを維持したまま、ドラムにパンチ感を加えたり、ボーカルの存在感をコントロールしたり、ストリングスに明瞭さを加えたりすることができるようになっています。掛かり方は非常にナチュラルで、サチュレーションはこれ1個あれば十分なほど、自由自在な調整を感覚的に行えるようになっています。
ちなみにSOUNDTHEORY社は、イギリスに拠点を構える、約14年間の基礎研究を経て2016年に誕生したメーカー。GULLFOSSやKRAFTURは、なぜか音をよくしてくれるので、AIを用いたプラグインと勘違いしそうですが、実は基礎研究によって得られた高度な数学的手法を取り入れた独自アルゴリズムを利用しています。AIの場合は決まったソースにしか使えないですが、高度な数式を織り込んでいるアルゴリズムであれば、どんなソースでも人間がよいと思うサウンドにできるのだそう。SOUNDTHEORY社のプラグインは、内部はとても複雑なことをしていますが、インターフェイスはとてもシンプルで、初心者でも扱いやすいのもポイント。そんなSOUNDTHEORY社のKRAFTURは9月1日まで、現在通常15,631円(税込)のところ、30%OFFの10,894円(税込)で発売されています。では、実際にKRAFTURを試してみたので、紹介していきましょう。
高度な人間の聴覚知覚モデルを元に開発されたGULLFOSS
SOUNDTHEORY社最初の製品としてリリースされたGULLFOSSは、チートEQとして一時期話題となっているので、ご存知の方も多いと思います。これは、通常のEQと違って、入力された信号をリアルタイムで解析し処理する動くEQとなっており、埋もれてしまっていた成分を際立たせることでサウンド全体をより豊かにしたり、くすんだ音を瞬時にクリアにすることが可能となっています。
人間の聴覚知覚モデルに基づき設計されており、前述の通りAIではなく、高度なアルゴリズムなため、サウンドソースの種類を問わずどんなものにでも使うことができます。2kHzを3dB上げて、200Hzを2.3dB下げて…といった使い方ではなく、マスクしている成分を調整する、マスクされている成分を強調する、といった5つのパラメーターの調整でサウンドがグッとよくなるので、初心者でもいい音を作ることができる、まさにチートEQとなっていたのです。
10年以上にも及ぶ基礎研究を経て2016年に誕生したSOUNDTHEORY社
そんなGULLFOSSを開発したSOUNDTHEORY社は、約14年の基礎研究を経て2016年に誕生したベンチャー企業。10年以上にも及ぶ期間、量子論や非可換代数、微分幾何学、情報理論などの数学的手法をヒントに信号処理の代替アプローチを開発。人間の脳が音を処理する方法について研究を重ね、リアルタイムのオーディオ処理のための新しい独自の方法の開発し、人間が知覚するのと同じ方法で音を分析できる、非常に高度な人間の聴覚知覚モデルを作り上げました。人工知能 (AI)、ニューラル ネットワーク、フレッチャー・マンソン曲線、従来の DSP 方式、機械学習アルゴリズムなど、従来の技術にとらわれず、独自の製品を展開する今後注目のメーカーです。
なにかを犠牲にすることなくいい音に到達できるKRAFTUR
そのSOUNDTHEORY社の2つ目の製品としてリリースされたのが、歪みとダイナミクスをクリエイティブかつ効果的に操るプラグインのKRAFTUR。ダイナミクスを維持したままラウドネスを引き上げるために慎重に設計され、絶妙ながらも心地のよいサチュレーション感、サウンドに暖かみを与えることができます。当初はマスタリングツールとして設計した背景があるため、ミックスへの使用がおすすめですが、ボーカルやドラムなどの個別のトラックにサチュレーションを加えるのにも効果的。
掛かり方は非常に自然で、明瞭さ、パンチ、温かみを繊細に調整可能。また深く掛かるように設定すると歪みのあるサウンドを作ることもできるため、クリエイティブな使い方もできます。オーディオ処理がリアルタイムに視覚化されているので聴感上だけでなく、目でも判断できるのも使い易いポイント。内部の仕組みは複雑ですが、ユーザーは主に左上の三角形と6つのパラメーターを操作することで、直感的に好みのサチュレーション感をコントロールすることができるのです。
三角形と6つのパラメータで感覚的にコントロール
特徴的な左上の三角形は、KRAFTURに搭載されているシングル/マルチバンド処理、そしてドライの信号をブレンドするパラメータ。左下の6つのパラメータでシングル/マルチのサチュレーション感を設定して、三角形でブレンドすることによって、サウンドを作り上げていきます。
まずDRIVEで、歪みの具合を作っていきます。DRIVEを右方向に調整すれば歪みが掛かっていき、ここでシングルバンドとマルチバンドのサチュレーション感を決めていきます。三角形を左下振り切りで、シングルバンドだけが出力されるようにすると、どれだけ歪みが掛かっているか判断しやすいです。ここで割と大胆な歪みのサウンドを作っておいて、ドライとブレンドすることで、いい感じのサウンドを作っていくこともできます。
DRIVEを上げていくと、音量も上がっていってしまうので、変化前と比較するためにも右上のMATCHをオンにすると、音質の変化を確認しやすいです。またCLIPをオンにしておくと、ピークが付いて必要のない歪みを防ぐことができるので、とりあえずオンしておくといいでしょう。
OFFSETとKNEEは、コンプにもあるニーと同じような使い方で使用します。どちらも同じような働きがあり、カーブの形状をコントロールできるのですが、OFFSETはカーブの広い範囲に影響するようになっており、
KNEEは、サチュレーションが掛かる周辺のカーブを調整できます。ここで、カーブを緩やかにすればソフトなトランジェントになり、OFFSETとKNEEの値を0%にすればハードなトランジェントを得ることができます。
その下、LOW/MID/HIGH SHIFTでは、マルチバンドで処理する各帯域のパラメータを調整可能です。値を大きくすると、ラウドネスを維持したまま、その帯域にサチュレーションを掛けることが可能です。
各帯域のバンド幅は、上のLow/Mid/Highからコントロールでき、各帯域のバンドをソロで確認することもできます。
各種メーターとピークヒストグラムを使用した論理的なアプローチ
基本的には、感覚的にシングルバンド/マルチバンドのサチュレーション感を作って、三角形のパラメータでブレンドしていけば、いい感じの音を見つけ出すことができます。すごく簡単に、しかも直感的にサチュレーションをコントロールすることもできますが、さらに高度に使うことも可能。
中央のメーターを駆使して、繊細にサチュレーションの掛かり具合を調整し、それらをブレンドしていくという方法もあります。最初は、感覚的に使っていって、慣れてきたら論理的に音をコントロールすることのできる懐の広さも、KRAFTURのいいところ。ぜひ、感覚だけに頼らない音作りは、英語版のみですが、公式からチュートリアル動画が出ているので、ご覧ください。
以上、KRAFTURについて紹介しました。通常のシングルバンドのサチュレーションだと、簡単だけど掛かってほしくない帯域にもサチュレーションが加わってしまう、マルチバンドだと細かいコントロールができるけど操作が難しい、という課題のいいところのバランスを取ったプラグインとなっていましたね。シングルバンドとマルチバンド、そしてドライの音をブレンドできるので、かなり幅広く好きなサウンドを作り上げることができますね。SOUNDTHEORY社の製品は、2週間フル機能を試せるデモ版が用意されているので、ぜひGULLFOSSも合わせて試してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
KRAFTUR製品情報
GULLFOSS製品情報