こんなシンセ見たことなかった!フランスXils-Lab KaoXは超カオスで複雑怪奇で楽しすぎる

「シンセの音作りは苦手で基本はプリセットを選ぶだけ」という人がいっぱいいる一方で、「シンセの音作りこそ楽しい!」という方も少なくないと思います。VCO-VCF-VCAにEG、LFOで構成されるシンプルなアナログ的なシンセが好きという人も多いでしょうし、DX7に代表されるFM音源が面白いという人もいると思います。また、自由自在にパッチングできたり、モジュレーションマトリックスを使って複雑に音作りをするのがいい、という人もいるでしょう。

そんな中、今回は一見シンプルに見えつつも、超カオスで、複雑で何でもありの超ド級のソフトシンセ、その名もKaoX(カオックス)について紹介してみましょう(通常価格は€199=約32,000円ですが、現在€69=約11,000円)。これはフランスの小さなプラグインメーカー、Xils-Lab(ジルス・ラボ)が開発したプラグインで、2021年に開発されたもの。Xils-Labは「伝説的なFMシンセサイザ(DX7とかのことでしょうね)にインスパイアされ、アナログオシレータやアナログフィルタで強化しカオス的なアルゴリズムで昇華させたもの」と言っていますが、DXなどの雰囲気は見る影もなく、まさに独自の世界に突き進んだトンでもないカオスなシンセサイザです。使ってみると、面白すぎてどんどん深みにハマっていく危険なシンセサイザではありますが、その世界を少し紹介してみましょう。

フランスXils-Labが開発した非常に複雑怪奇で楽しいシンセ、KaoX

Xils-Labが2021年にリリースしたレトロ調の電子オルガン!?

Xils-Labは先日「電子楽器の祖先、オンド・マルトノの独特なスピーカーシステムを新たな形で発展させた不思議なプラグイン、Les Diffusersが誕生」という記事でとりあげましたが、その際、フランス在住のミュージシャンでもある開発者の生方ノリタカさんから紹介されて私も初めて知りました。

先日紹介したオンド・マルトノを再現するプラグイン、Les Diffusers

その際、Xils-LabのXavier Oudin(ザビエル・ウーダン)さんを紹介され、メールベースではあるものの、何度かやりとりせていただきました。その後、ザビエルさんから「ぜひ、今度KaoXというシンセサイザも使ってみてほしい」とソフトのライセンスを1ついただいたんです。Xils-Labで、いまイチオシの製品とのことで、インストールして試してみたところ、かなりマニアックで面白いシンセだったのです。

まずはKaoXがリリースされる直前に出されたティーザーのビデオがあるので、こちらをご覧ください。

いかがですか?このビデオを見ると、レトロ調の電子オルガンのような楽器が発売になったのか……と思ってしまったかもしれませんが、これはあくまでもビデオ用に作られた3Dのグラフィックであり、実際にはWindowsのVST2、VST3、AAX、MacのAudioUnit、VST2、VST3、AAXで動作するプラグインのインストゥルメントです。

一見シンプルな音源にも見えるKaoX

確かにDAW上でKaoXを起動してみると、ビデオで見たようなシンプルな電子オルガンのような画面が立ち上がります。そして、鍵盤を弾いてみると、デフォルトではビブラフォンのようなサウンドが鳴ります。が、低音に入っていくとシンセブラスサウンドに切り替わります。真ん中にある▼印でスプリットされているんですね。

一見非常にシンプルなプラグインに見えるけれど…

パラメータを見るとトレモロとかビブラートなどがあるほか、画面右側にはCHORUS、DELAY、PHASER、REVERBとエフェクトのボタンが並んでいる程度なので、なんだものすごく簡単なインストゥルメントじゃん!と最初は思ったのです。

事実、これだけで十分使うことができるし、プリセットも膨大に揃っているので、それらを選ぶだけで普通は事足りると思います。ちなみに、プリセット音色は作者ごとに表示することも可能になっていますが、その作者の一人に「Nori Ubukata」とあります。そう前述の生方さんがプリセット作りにも参加しているんですね。生方さんのプリセットを選択してちょっと演奏するだけでも、独特な世界観に浸ることができます。

数多くのプリセットが収録されている。生方ノリタカさんのプリセットもいっぱい

ちなみに先ほどのスプリットされていることからもわかるとおり、KaoXはUPERレイヤーとLOWERレイヤーの独立した2つのレイヤーに完全に分かれており、2つを同時に使うことができるようになっています。これをスプリットできるほか、片方だけを鳴らしたり、両方をデュアルで鳴らすことも可能です。

パネルを開くとカオスな世界がやってくる

さて、本番はここからです。画面上のツールバーにあるパネルボタンをクリックすると、上にドカンとパネルが表示されます。これが混沌とした深い闇の世界への入り口となっているんです。

ツールバーにあるボタンを押すと、シンセのパラメータがいろいろ表示される

パッと見はよくあるシンセのパラメータのように見えますよね。左側にLFOが2つあり、その隣にANALOGと書かれたVCOらしきものが2つあり、中央下にはFILTERやVCA、またその周辺にENVがあったり……と至って普通に見えるじゃないですか。

一見すると、よくある普通のシンセサイザのパラメータのようにも思えるが…

でも、違うんです。正直言うと、このKaoXがどういう構成になっていて、どうやって音を作るのかを理解するのに半日かかりました。普通はイニシャライズして、初期設定状態にしてサイン波とか矩形波を出すところから始めれば、10分程度触っていれば分かりそうなものですが、ネット検索してもあまり情報がなかったこと、マニュアルの存在がすぐに見つからなかったこともあって(その後発見しました。ここから誰でもダウンロード可能です)、なかなか分からなかったんです。

とりあえずアナログシンセの形にイニシャライズしてみる

とはいえ、まずはInit.Analog1 Oscというのがあるので、これで初期化するところからスタート。この場合はANALOG 1というオシレータから出た音がFILTER1を経由してVCAを通って音が出ていくというシンプルなもの。“ミョンミョン”といったサウンドになってるのはENV F1による影響で、これをフラットにすればシンプルなオシレータ音が出てきます。またFILTER 1、FILTER 2とフィルタが2つ、VCAが2つあって、それに伴うエンベロープもフィルタ用、アンプ用それぞれあるあたりも、普通のアナログモデリングシンセのようです。

シンセとしての信号の流れ

ただ、FILTERはFREQとRESの2つのパラメタしかないし、ANALOGというお知れたもFREQとWAVしかなくて、寂しいな…と思ったら、そうではありませんでした。たとえばANALOG 1という部分をクリックすると画面左側に細かなパラメータが、FILTER 1をクリックすると、その画面左側が切り替わってフィルタの細かなパラメータが表示されるようになっています。このあたりからも、この深い闇の構造が垣間見えてきます。

FILTER 1をクリックすると左側に詳細パラメータが表示される

CHAOSという不思議な2つのオシレータを搭載

ANALOGというオシレータと並行して、CHAOSという2つの変わったオシレータが搭載されているのも、KaoXの大きな特徴となっています。Xils-Labによると、これらは「現実世界のカオティックな挙動を模倣したアルゴリズムに基づいたオシレータ」だとのことですが、何を言ってるのかさっぱりわかりません。

CHAOSオシレータの詳細設定パネル

CHAOXを選ぶと左側にはCHAOS 1、CHAOS 2それぞれに3つのパラメータが表示されます。一つはTYPEというもので2M、CHAOS、SUBHとあり、これらを切り替えることで大きく出音が変わります。これら3つが何を意味する言葉なのかよくわかりませんがマニュアルを見ると

2M: このアルゴリズムは2つの質量と3つのスプリングでボーカルトラックを再現します。

CHAOS: このアルゴリズムは標準的なカオス的挙動を再現し、ノイズのようなサウンドを与えます。
SUBH: このアルゴリズムはシンプルなサインにカオス的なサブハーモニックを加えます。とのことで、PARAMを動かしていくと、その挙動も変わってきます。

とあります。あまり深いことを考えても理解できなそうなので、飛び道具的に使うオシレータと考えるとよさそうですが、今後のバージョンアップで、このTYPEが増えていくかもしれない、とのことです。

中枢部のFMアルゴリズムに切り込んでいくと……

では、ここから中央にドカンとあるFM音源部分を見ていきましょう。これがKaoXの最大の特徴であり、一番メインとなる音源部分です。冒頭にも合った通り、伝説的なFMシンセにインスパイアされた、と言ってるので、DX7的なものになっているんだろう……と思ってみてみたのですが、全然違うんです。

中央に鎮座するFM音源ユニット

ALGORITHMという表記とその下に1~8の数字が並んでるので、DX7のようにオペレータを組み合わせたアルゴリズムが用意されているんだろうと思ったら、そうではなさそうなんですよね。そして、FMを選んでも、先ほどのように左側には何も表示されません。が、数字をクリックすると各オペレータの動作を指定できるパラメータが表示されます。

オペレータ番号をクリックすると詳細設定画面が現れる

ここまでは比較的シンプルなものです。が、そういえばFM ALGORITHMと書かれたマトリックス表のようなものが常時表示されています。どうやら、これがミソのようです。

KaoXの中枢部ともいえるFM音源用のマトリックス

結論から言ってしまうと、DX7がオペレータ6つの組み合わせであるのに対し、KaoXは基本的に8つのオペレータで構成されています。そしてDX7などと同様に各オペレータはサイン波を出すものになっているのですが、その8つに加えてアナログのオシレータ2つ(A1、A2)、さらにCHAOSオシレータ2つ(C1、C2)も利用できるようになっています。

FM音源をご存じの方ならお分かりの通り、FMは音を出すキャリアとオペレータ、音に変化を与えるモジュレータとなるオペレータから構成されています。またオペレータ自分自身にモジュレーションをかける場合は1つで両方の役割をするフィードバックという動作となります。

DX7では6つのオペレータをキャリヤやモジュレータとして組み合わせる形が32種類あり、これをアルゴリズムと呼んでいました。ところが、このKaoXには8+4=12個のオペレータが存在し、それを縦横無尽に組み合わせることが可能で、その組み合わせは無限大ともいえるほど。

オペレータ4からオペレータ1にモジュレーションをかける

操作は単純で、このマトリックス表において縦横の組み合わせを選んでマウス操作すると、数字が上げていく形です。たとえば縦に並んだ4番と横に並ぶ1番のところで数字を上げると、4番のオペレータがモジュレータ、1番のオペレータがキャリアとなって、FM変調をかけていく形です。また、これを見てもわかる通り、A1、A2、C1、C2はモジュレータにはなるけれどキャリアにはならないようですね。

マトリックス上でO1またはO2への出力を上げたないと音を出せない

ただしこのFM変調をかけただけでは音は出ません。このマトリックスの左側にO1、O2という出力があり、ここを上げていくことで、FM音源の出力となるのです。先ほどの右側の画面にもどって、FMモジュールの右にある1というのがO1、2がO2であり、ここからフィルタやVCAへ送ることができるようになっているのです。

オペレータ1の音のルーティング

DX7などではFM変調で音作りをするのがほぼすべてでしたが、このKaoXではFMで音を作りつつ、さらにフィルタで加工ができるから、自由自在な音作りが可能なんですね。

なお、FMに限った話ではないですが、KaoXのUPERレイヤー、LOWERレイヤーそれぞれにオシロスコープが搭載されているので、どんな波形が出ているのかを目で確認できるのも便利なところです。

オシロスコープが左(LOWER)、右(UPER)それぞに搭載されている

カオスなLFO、CHAOXを2つ装備。モジュレーションは自由自在

ところで、一般的なLFOが2つ搭載されているのに加え、CHAOX1、CHAOX2というちょっと変わった発振器が2つ搭載されています。スペルは異なりますが、KaoXというネーミングから見ても、かなり大きな位置づけのモジュールなんだと思います。

LFOとは別により複雑なCHAOXが2つ搭載されている

これはLFOのような一般的な波形を繰り返す発振器ではありません。Xils-Labは「このモジュールの背後にあるアイデアは、現実を模倣することです。正確にはランダムではありませんが、反復サイクルのないカオスです!」と言っており、X軸とY軸を2つのソースとする2次元平面で信号を作り出しており、作り出した信号はDESTINATIONによって、さまざまなモジュールへモジュレーションすることが可能になっています。

SOURCE、DESTINATIONの設定でモジュレーションを自在にかけられる

一方、さまざまなモジュールに対してモジュレーションをかけられるのはCHAOXだけではありません。MODを開くとSOURCE、DESTINATIONの組み合わせが8つ登場し、縦横無尽に組み合わせることが可能になっているのです。

シーケンサやアルペジエータも搭載

そして、このKaoXには4トラックのシーケンサも搭載されてます。これもちょっと独特なUIになっているのですが、どんなものなのか、軽く紹介しておきましょう。

独特とはいえ基本的に普通のピアノロールのシーケンサです。自律して演奏させることもできるし、DAWのテンポと同期させて鳴らすことも可能です。

KaoXに搭載されているステップシーケンサ。最大127ステップまで使うことができる

ただ入力方法がちょっと変わっているんです。1~4のトラックがありますが、デフォルトでは何も表示されず、DISPLAYをオンにするとトラック1が赤、2がオレンジ、3が紫、4が黄で音符表示が1つの画面に重ねて表示されるようになります。

4トラックのシーケンサになっており、各トラックごと色で見ることができる

そして、それぞれのトラックを入力するにはEDITで1~4を選択した上で入力します。またデフォルトではベロシティは固定になっていますが、VELをチェックすると同じ画面が音程ではなくベロシティに切り替わって調整できるようになっています。

この際、ZOOMというボタンをクリックして大きくすると、先ほどのシンセのパラメータ表示部分に大きくピアノロールが表示されて、ここでエディットすることができます。標準のサイズだと画面が小さいので、ZOOMするのが使いやすいと思います。また4つあるトラックそれぞれUPERレイヤー、LOWERレイヤーに設定可能になっているので、自由度の高い演奏をさせることができます。

一方、シーケンサとはまったく別にアルペジエータも搭載されており、UPレイヤー、LOWレイヤーそれぞれ独立して設定可能になっています。演奏の面でかなり自由に使えそうですよね。

無料のKaoX Free Playerと3つのサウンドパック

Xils-LabではKaoXのサウンドを無料で楽しむためのインストゥルメント、KaoX Free Playerが無料配布されています。これは、KaoXとまったく同じサウンドエンジンを持ちながら、音色のエディット機能をなくしたもの。KaoX同様にMac/Windowsの双方でVST2/3、AudioUnits、AAXの各プラグイン環境で動作します。

エディタ機能はないもののKaoXとまったく同じ音が出せるKaoX Free Player

つまりKaoXのサウンドがどんなものなのか試してみたい人、そもそもエディットに興味はなく、音色だけほしいという人ならばこれで十分というもの。Xils-Labのサイトでメールアドレスとパスワードを入力してアカウントを作るだけで入手可能です。

このアカウントを作るとKaoX Free PlayerのほかPolyKB III Free Playerというものも入手できるほかKaoX用のサウンドライブラリであるKaoX Free FM Drops 1というものも入手可能となっています。16音色のライブラリですが、もちろんKaoX Free Playerでも読み込んで利用することが可能なので、ぜひチェックしてみてください。

KaoX用のサウンドライブラリも販売されている

なお、KaoX Free Drop 1のほかにもサウンドライブラリとしてDigital Alchemy(€29:130音色))、Universum(€24:110音色)というものも用意されています。これらもKaoX Free Playerで利用できるほか、KaoX自体でも読み込んで利用することが可能なので、音色づくりの参考になると思います。

 

以上、非常にユニークで複雑で楽しいソフトシンセ、Xils-LabのKaoXの沼の入り口だけ少し紹介してみました。ちょうどいま夏のセール中で、通常€199(約32,000円)なのが€69(約11,000円)と大特価中です。ぜひこのチャンスにシンセの沼にハマってみてはいかがでしょうか?

【関連情報】
KaoX製品情報(英語)
Xils-Labサイト
KaoX 15日間無料体験版ダウンロード

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