超パワフルなメタルギター音源のHeavier 7 Strings、モダンからビンテージまであらゆるコンプレッサを再現するCenozoix Compressor、究極のキャビネットシミュレーター!? 豊富なIRライブラリ搭載で超高性能・多機能なCABINETRON、自由自在にサチュレーションサウンドが作れるOwnTHD、究極のパラメトリックEQともいえるKirchhoff-EQ……などなど、ほかにはない独特でユニークなプラグインを次々と開発する中国・北京にあるベンチャーソフトメーカー、Three-Body Technology。北京のミュージシャン、プログラマ、オーディオエンジニアが集まってできたというかなりマニアックで技術に長けたメーカーですが、そのThree-body techが、またトンでもないプラグインをリリースしてきました。
今回リリースされたのはDeep VintageというAIを活用した新たなプラグインのシリーズで、現在6種類のプラグインが登場しています。これらは最新の深層学習を利用して、ハードウェアのビンテージ機器を正確にシミュレーションするというもの。これまでハードウェアのビンテージ機器を物理モデリングで再現するというもの、IRを利用して再現するものなどいろいろありましたが、AIで再現するというものはなかったように思います。このDeep Vintageは、単に「理論的に正しい回路のモデリング」でもないし「倍音構造やインパルス応答だけに基づいたもの」でもない、とのこと。アナログサウンドの3D感覚を100%再現するAI時代のまったく新しいプラグインだ、というのです。確かに実機と比較して音を聴いてみても、まったく判別できないレベルのクォリティーを実現しているのです。実際どんなものなのか少し試してみたので、紹介してみましょう。なお、現在発売記念のイントロセール中となっています。具体的には単体で69ドルのものが49ドル、39ドルのものが29ドル、また全部入りの314ドルが149ドルとなっています。
プリアンプとテープデッキを再現する6つのプラグインが登場
今回Three-body TechがリリースしたDeep Vintageは、
US Rack AI
Thick Pre AI
Green AD AI
Tape S AI
Tape M AI
という6つのプラグインソフトから成り立っています。
Brit 73 AI、US Rack AI、Thick Pre AIのそれぞれビンテージのプリアンプを再現するもの、そしてGreen AD AIはADコンバータとDAコンバータを組み合わせたもの、そしてTape S AIとTape M AIは70年代~90年代のテープデッキを再現するもの、とのことです。
それぞれ単品でも発売されているし、6つをまとめた6-in-1 Bundleというセット、さらには上のプリアンプのプラグイン3つをまとめた3-in-1 Preamp Bundle、下のAD/DAと2種類のテープデッキの3つをまとめた3-in-1 Tape Bundleも登場しています。
独自のAI技術APNNでビンテージエフェクトを忠実に再現
いずれもビンテージ機材を最新のAIで再現するというもので、Three-body Techが生み出した独自の最新技術、APNN=Audio Processing Neural Networkを用いて開発されているとのこと。このAPNNについて、解説した英語のビデオがあるので、ご覧ください。
YouTubeの自動翻訳機能を使うと、日本語で読めるのでお勧めですが、簡単に要約すると、いまのAIを使えば、ビンテージエフェクトを再現することは十分可能である、とのこと。どのエフェクトもある意味、「EQとウェーブシェイパーの組み合わせ」を無数にレイヤーしていけば実現できるけれど、実際には数百、場合によっては数千をレイヤーが必要になるのだとか……。
そうなると当然、膨大なCPUパワーが必要となり、一般的なパソコンで、これをリアルタイムに実行することができません。そこでこれを解決するためにThree-body techでAPNNを開発した、というのです。これを使うことで無数にレイヤーしていくのと比較して1%の処理パワーで同等のことが可能になるそうです。
ただし、ただそれだけだと実機とはなかなか同じ音になりません。そこで、実機の音とエミュレーション結果の音を、リアルタイムにパラメータを調整しながら比較する学習を100時間程度続けていくことで、完全な再現ができる、というのです。明らかに従来の物理モデリングとは方法論が違うようですね。
6つのビンテージ機材の元ネタとは!?
まさにAI時代のまったく新たなエフェクトの誕生といえそうですし、今後この方法論で、次々とハードウェアエフェクトが、プラグインへと正確に置き換えられていくのかもしれません。
が、やはり気になるのは今回登場したDeep Vintageシリーズが何をモデルにしているのか、という点ですよね。UIを見ると何となく想像はできるものの、Three-body techのDeep Vintageのページを見てもそれぞれが、何を元に再現したのか、ということは記載されていません。
記載されている内容をそのまま翻訳すると以下のようになっています。
プラグイン名 | 解説 | 推測元ネタ |
Brit 73 AI | 地球上で最も伝説的なプリアンプからインスピレーションを得たこのクラス A の EQ 付きトランジスタ プリアンプは、音の美しさを体現し、比類のない明瞭さ、輝き、鋭さを提供します。 | BAE 1073 |
US Rack AI | US Rack Al は、プリアンプ、ライン ドライバー、有名な EQ を備えた伝説的な「US」スタイルのチャンネル ストリップにインスピレーションを得て、並外れた柔軟性を維持しながら、非常に音楽的で豊かなアナログ サウンドを実現します。 | APIのThe Channel Strip |
Thick Pre AI | 伝説的なビンテージ スタイルのプリアンプからインスピレーションを受け、厚みがあり、温かみのある、滑らかなサウンドを実現します。また、追加の倍音を強調する「プレゼンス」コントロールも備えています。Thick Pre AI 独自の「ディープ」スイッチを使用すると、サウンドをさらに大きく、厚みのあるものにすることができます。 | Chandler limitedのGermanium Pre Amp/DI |
Green AD AI | AD (アナログ – デジタル コンバーター) を DA (デジタル – アナログ コンバーター) に直接接続すると、何か違いがありますか? もちろん、あります! 世界トップクラスの AD/DA コンバーターからヒントを得た Green AD AI は、アナログの温かみをデジタルの世界にもたらします。 | burl audioのB2 Boomer ADとB2 Boomer DA |
Tape S AI | Tape S AI は、80 年代後半から 90 年代前半にかけての 1/4 インチ テープ マシンにインスピレーションを受け、そのユニークな音響特性から多くのプロフェッショナルに愛用されており、ミキシングにおいて卓越した音質を実現します。温かみのある中音域、滑らかな高音域、豊かな倍音を特徴とし、あらゆるバス ミックスやマスター ミックスの深みと豊かさを高めます。 | Studer A820 |
Tape M AI | 70 年代のドイツ製最高級 2 トラック テープ マシンにインスピレーションを得ました。 | Telefunken M15 |
当たっているかどうかは分かりませんが、この名称と説明、そしてUIを元に、おそらく元ネタはこれだろうと推測したのが、一番右に書いた型番です。
デモを聴く限り、違いを判別できないレベルの再現具合
ビンテージ機材って、個体によって音も変わってくるし、状態が悪いものだと当然いい音にはなりません。そこはもちろん、Three-body techも理解した上で、上玉を用意してきたのでしょう。それらの挙動を完璧に再現したのが、今回のDeep Vintageというわけですが、Three-body techのDeep Vintageのページトにいくと、その音の比較ができるようになっているのとともに、YouTubeにもその一部が掲載されています。
そのDeep Vintageのページではドライの音とともに、それをビンテージの実機で鳴らした音、そしてDeep Vintageで鳴らした音を、再生しながら切り替えて試聴できるようになっているので、ぜひチェックしてみてください。
これを聴く限り、実機とプラグインの音の違いはまったくない、といって過言ではないと思います。ただし、このサイト上にあるのは圧縮音源であって、必ずしも正確ではない、とのこと。そのため、Three-body techでは非圧縮の44.1kHz/32bitのWAVファイルをダウンロードできるようにしています。実際以下からそれらをすべてまとめたZIPファイルがダウンロードできるので、ぜひ入手して、DAW上に展開してみてください。
32bitのデータを公開しているあたりに、Three-body techのすごい自信とこだわりを感じますが、比較しながら聴いてみるとすごい再現具合であることが分かります。
波形を見た感じでもまったく同じなので、もしかして単純にコピーしただけなのでは…と疑って、チェックしてみたところ、データ上はまったく別モノのようですね。
Windows、Macに対応、すべてデモ版も用意されている
そんなThree-body techのDeep Vintageシリーズですが、いずれもWindows、Macそれぞれに対応しています。具体的にいうとWindowsの場合はVST 2.4、VST 3、AAXのそれぞれに対応しており、いずれも64bit版です。
一方のMacのほうはVST 2、VST 3、AudioUnit、AAXに対応しており、Intel CPUもApple Siliconにもネイティブ対応しています。
最新のAIを使っているということで、ファイルサイズが大きかったりしないのだろうか…と心配したのですが、いずれも70MBとか80MBといったレベルで超コンパクトサイズ。これがAPNNの実力、ということなのでしょう。
プラグインを使うことによるレイテンシーは44.1kHzで26サンプル分、時間にして0.6msecなので、ほぼレイテンシーゼロと言っていいレベル。こうした点でも優秀ですね。
価格もプリアンプのほうが単体で69ドル、AD/DAを含めたテープのほうがそれぞれ39ドルと安価ですが、現在イントロセール中で(終了時期は掲載されていませんが、間もなくのようです)、それぞれ49ドル、29ドルと安くなっているほか、6-in-1 Bundleなら314ドルが半額以下の149ドルなので、買うなら今がチャンスです。
なお、それでもいきなり買うのは……という方は、6本ともデモ版が用意されているので、それを試してみるのがいいと思います。デモ版は、画面左上にDEMOと表示がされるほか、1分に1度程度数秒間無音になるという制限があります。とはいえ、実際の出音をチェックするには十分なので、まずはこのデモ版を試してみてはいかがでしょうか?
以上、Three-body techのDeep Vintageシリーズ、6種類について紹介してみました。Three-body techによると、このDeep Vintageシリーズ、これで終わりというわけではなく、APNNを使ってまだまだ新たなプラグインを開発していく模様です。今後どんなプラグインが登場してくるのか楽しみなところですが、また新しい情報が入ったら紹介してみたいと思います。
【関連情報】
Deep Vintage製品情報(英語)
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◎Three-body technology ⇒ Deep Vintage