楽器が苦手な人でも、初めての人でも簡単に弾ける電子楽器、InstaChord(インスタコード)を開発・販売するInstaChord株式会社が、またまったく新たな小さな電子楽器、「かんぷれ」=KANTAN Play coreを開発し、6月8日からクラウドファンディングサイト「Kibidango(きびだんご)」においてクラウドファンディングを開始しました。手のひらに収まるコンパクトな機材で、テンキーを押すことで誰でも簡単に演奏することが可能。ギター、ピアノ、ベース、ストリングス、ブラス、シンセ、ドラム……とさまざまな音色が使えるのはもちろん、それらを指1本で同時に鳴らして合奏させるといったこともできます。
InstaChordが国際特許を取得する「KANTAN Music」という手法により、音楽の知識がない人でも楽譜上の数字を選ぶだけで演奏でき、それに対応した専用楽譜はすでに100万曲以上が無料公開されています。またMIDI機能も搭載しているので、有線MIDIもしくはBluetooth-MIDIで外部音源を鳴らすこともできるし、DAWなどに接続してレコーディングすることも可能。さらに「かんぷれ」自身でコード進行のシーケンスを記録して、それをスタンダードMIDIファイルとして外部へ書き出すこともできます。だから曲のアイディアが浮かんだときに、さっと手に取って演奏し、あとでDAWで仕上げていく……といった使い方もできそうです。この「かんぷれ」にはM5Stackという小さなコンピュータが内蔵されており、その取り外し、取り付けが可能なのもユニークな点。M5Stack込みの「かんぷれフルセット」は送料・税込みで33,000円、M5Stackなしの「かんぷれbase」は26,000円です。さらに「かんぷれ」として動かすためのM5Stackのプログラムはオープンソースで公開するとともに、今後どんどん進化させていく、とのこと。その「かんぷれ」の発表会に先日参加して、プロトタイプにも触れてきたので、「かんぷれ」とは何なのか紹介してみましょう。
とっても小さな電子楽器、「かんぷれ」
6月8日から「Kibidango(きびだんご)」でのクラウドファンディングがスタートした「かんぷれ」。これが何かを1分20秒で紹介する動画があるので、まずはこれをご覧になってみてください。
どんなものなのか、なんとなくニュアンスはつかめたでしょうか?ちょうど昔のゲームボーイと同じくらいのサイズ、具体的には突起部分を含めて74mm(W)×125mm(H)×32mm(D)で厚さ23mmというコンパクトなデバイスです。ここに1~7と数字が振られたボタンなど19個のボタンと、ボリュームなどを調整するノブが2つ並んでいて、主に1~7の数字のボタンをポチポチと押したり離したりすることで演奏ができるという楽器なんです。
左上にはタッチスクリーン型のディスプレイがあり(これがM5Stackというものなのですが、これについては後ほど紹介します)、ここをタッチする形で音色を選んだり、フレーズパターンを選ぶことができ、そのフレーズパターンをエディットすることも、このタッチディスプレイを使って行えるようになっています。
小さいけれど、ここにはバッテリーが内蔵されているとともに、スピーカーも内蔵されるので、これ一つ持ち出せばどこでも演奏できます。もちろんヘッドホン端子もあるので、電車の中で演奏したり、自宅で夜に弾いて遊ぶのにもピッタリです。
※2024.6.11追記
バッテリーやスピーカーはM5Stackのものではなく、「かんぷれ」本体に内蔵されています。また以前の試作機では「かんぷれ」本体の裏側にスピーカーが設置されていましたが、よりコンパクトにするため、本体左右サイドに2つのステレオスピーカーが埋め込まれる形になっています。
発表会の会場で、InstaChordの社長である、ゆーいち(@u1_nagata)さんに弾き語りのような感じで「かんぷれ」で演奏してもらったので、こちらのビデオを見るとより雰囲気が伝わるかもしれません。
これ、シーケンスデータを仕込んで自動演奏しているわけではなく、すべてその場で演奏しているというのも大きなポイントとなっています。
InstaChordの兄弟楽器!?KANTAN Playをハードウェア化
数字のボタンを押して演奏するのを見て「ちょっとInstaChordっぽいよね」と思った方は正解。InstaChord社が開発した楽器なので当然といえば当然かもしれませんが、「かんぷれ」は、楽器が弾けない人、音楽の授業が苦手だった人でも、10秒で演奏ができるようになる、という画期的な楽器でもあるんです。
その「かんぷれ」の原型となっているのが、以前「楽器を弾けない人でも楽器演奏を存分に楽しめるKANTAN Playが無料で公開。10万曲以上の専用楽譜も無料で入手可能」という記事でも紹介したWebアプリの「KANTAN Play」。
その記事でもインタビューさせていただいた、日本におけるVRの先駆者であるGOROman(@GOROman)さんが、今回の「かんぷれ」発表会においても、「コンセプトデベロッパー」という位置づけで登壇。GOROmanさんは「KANTAN Playを作って遊んでいて、やっぱり物理ボタンが欲しいなぁ、ハードウェア音源も欲しいなぁ、と思うようになりました。無ければ作ってしまおうということで、昨年8月にM5Stackを使ってプロトタイプを作り、その後、開発メンバーを増やして本格的に作っていきました」と話していました。
ハードウェアシンセを、プラグイン化するというのはよくある流れですが、これは反対にソフトウェアとして存在していたものを、より多くの機能を持たせる形でハードウェア化したものなんですね。
従来の音楽ガジェットとは異なる「かんぷれ」の6つの特徴
ゆーいちさんは、発表会において「かんぷれ」の特徴として、以下の6つを挙げていました。
2.音楽の知識不要
3.バリアフリー
4.6つの楽器を同時に
5.音楽制作に役立つ
6.オープンソースで進化する
その中でも特に強調していたのが、従来の音楽ガジェットとの違いについてです。
「これまでもシンセサイザ機能やシーケンス機能を搭載した小型の電子楽器、音楽ガジェットはいろいろありました。もちろん楽しいもの、画期的だったものなどがいっぱいですが、従来の多くの機材は基本的に音楽の知識を必要としていたと思います。それに対し、『「かんぷれ』は知識や経験などまったく不要で、すぐに演奏を楽しむことができます」とゆーいちさん。。
「確かに、これまでも音楽の知識不要で使える製品もありましたが、それらは偶然性の創作はできても、好きな曲を弾くのは難しいという点がありました。しかし『かんぷれ』では、弾き語りもできるし、テンポに関係なく自分のペースで演奏できる楽器なんです」とゆーいちさんは強調します。
内蔵音色は128種類、6つの音色を同時に演奏可能
さらにもう少し機能について突っ込んでいきましょう。「かんぷれ」にはシンセサイザが内蔵されているのですが、これはGM準拠の128音色で実はInstaChordに搭載されているのと同じ音源です。具体的にはフランスのDream社が開発したSAM2695という音源チップを使っているんですね。
液晶画面をタッチして128音色の中から目的の音色を選ぶのですが、ユニークなのは最大で6つの音色を選択して、同時に鳴らすことが可能という点です。といっても、この6つ同時の鳴らし方が普通じゃないんです。普通に考えると、6音すべてユニゾンで同じ音程が鳴る形でしょう。もちろん、そういうことも可能ですが、先ほどのゆーいちさんによるデモ演奏を見ても、6つが同時にジャーンとなっている、わけではなかったですよね。
従来のほかの方法としては、シーケンサ機能を活用するというものもありました。つまりドラムパターンを鳴らしながら、ベースフレーズも作成し、ギターフレーズも作成して、それぞれ同期させて鳴らしながら、メロディーを自分で弾く……という方法です。でも「かんぷれ」はそれとも違うんですよね。
1~7のボタンをポチポチ押したり、離したりすると、それに合わせてドラムが鳴り、ギターのアルペジオが鳴り、ベースフレーズが鳴って……と合奏になっていくのです。なんとも不思議ではありますよね。
フレーズパターンは200種類以上、ユーザーが編集も可能
その不思議な演奏を実現させるのがフレーズパターンというものです。前述のWebアプリ、KANTAN Playでも5種類のフレーズパターンが入っているので、以下のURLをクリックしてWebアプリを起動して試してみると理解できると思います。
Webアプリのデフォルトはギターのストロークとなっていて、画面上のボタンやテンキーを押すたびにストロークが鳴るし、パターンを切り替えると、ボタンを押したり離したりするたびに1ステップずつアルペジオが進んでいく形になっています。
そんなフレーズパターンが「かんぷれ」には200種類以上標準で搭載されています。さらにユーザーがフレーズパターンを編集することも可能になっているので、自分の弾きたい曲に合わせて自分でフレーズパターンを作っていくことも可能なわけです。このフレーズパターンを作る辺りになると、さすがにある程度の楽器や音楽の知識が必要となってきそうですが、逆にいうとDTMユーザーなど、楽器や音楽の知識がある人なら、より高度に「かんぷれ」を使いこなすことが可能になる、というわけです。
なお、リアルタイムの演奏だけでなく、
BLE-MIDI、USB-MIDIも搭載し外部機器との接続も可能
「かんぷれ」はそれ単体でも十分過ぎるほどの機能を持った電子楽器ですが、さまざまな手法で外部機器と接続して連携プレイを図ることも可能です。
その1つはBluetooth-MIDIを使った接続。InstaChordをご存じの方であればすぐに理解できると思いますが、たとえばiPhoneやiPadとBluetooth-MIDIで接続した上で、「かんぷれ」で演奏すると、「かんぷれ」から音が出ると同時にiPhone/iPad上のシンセアプリからも6ch同時にユニゾンで鳴らすことが可能になります。
また「かんぷれ」にはUSB Type-Cの端子も用意されています。ここにMIDIキーボードやMIDIパッドを接続して「かんぷれ」のGM音源を演奏することもできるし、MIDI音源モジュールを接続して、「かんぷれ」の演奏を鳴らすことも可能です。ただし、この場合はUSBケーブルでそのまま接続するのではなく、間にOTGケーブルを挟む必要があるそうです。
※2024.6.12追記
公式ビデオとして、「かんぷれ」にMIDIキーボードを接続して演奏する例を紹介したものができたので、参考までに以下に掲載しておきます。
SYNC信号で外部機器との同期もできる!?
さらにここから話はどんどんマニアックになっていくので、興味のない方、難しくて分からないという方は読み飛ばしてもらってもOKです。
先ほどの6つの特徴にもあったとおり、「かんぷれ」はテンポ設定せずに、ユーザーのリズムで自由に演奏できるのが大きなポイントではあるのですが、それは固定テンポでの演奏ができないことを意味しているわけではないようです。
今回の発表会では、開発者メンバーの一人として、周辺ハードウェア開発、音楽データの作成などを担当するnecobitのカワヅ(@necobut)さんも登壇していましたが、「まだ実験段階ではありますが、外部機器とSYNC信号を使って同期できることは確認しました」と話していました。
SYNC信号とはたとえばKORGのvolcaやSONICWAREのLIVENシリーズなどに搭載されているオーディオでパルス信号を送って同期させる信号のこと。つまり、これらの機材と同期させることが技術的に可能だ、というわけです。
もっとも「かんぷれ」にはSYNC信号の入出力端子が搭載されているわけではありません。そのため、ヘッドホン出力を利用して外部機器へ出力するか、オプションとして入出力端子を追加して接続するなどの対応が必要、とのこと。実際どのような機能を実装させるのかはこれからとのことですが、可能性はいろいろ広がりますね。
汎用Grove Portを使った拡張も可能
でも、SYNC信号の入出力などはどのように追加するのでしょうか?さすがにこの小さな「かんぷれ」本体内に実装する……というわけにはいかないようですが、ここには、汎用Grove Portなるものが3つ搭載されており、ここを通じてさまざまな機能拡張ができるのです。
「Grove Portは3つとも同じ形状ですが、それぞれまったく異なる拡張ポートとなっています。それぞれI2C、GPIO、UARTとなっているので、目的に応じた機器をここに接続して使うことが可能です」(GOROmanさん)
「SYNC信号などオーディオ端子の拡張であればI2Sのポートに、MIDIの入出力であればUARTポートに接続するといった形です。私が作ったMIDI Unit for GROVEというものをスイッチサイエンスさんで委託販売させていただいていますが、これを使えば5ピンのMIDIの入出力も可能になります」(カワヅさん)
さらに発表会会場ではこのGrove Portに接続する「かんぷれ拡張ボックス」なるものも展示されていました。これを利用することで「かんぷれ」本体のボタンだけでなく、もっと大きなボタンで操作できるようにしたり、静電容量センサー、圧力センサー、振動センサーなどさまざまなスイッチを外付けして、演奏させることが可能になる、とのこと。
「こうした拡張を行うことで、障がいのある方でも演奏を楽しめるなど、バリアフリーな楽器としても楽しめるようにしています」(ゆーいちさん)
M5Stackって何だ!?
33,000円の機材だとは信じられないほど、さまざまな機能、拡張性を持つ「かんぷれ」ですが、これだけのことが実現できる背景には、ここにM5Stack(エムファイブ・スタック)という小さなコンピュータがここに搭載されていることあります。そう「かんぷれ」の液晶ディスプレイとなっているところが、M5Stack本体なんですね。
私、個人的にもつい先日そのM5Stack BASICというM5Stackの入門機を購入したところですが、これは中国・深センにあるベンチャー企業、M5Stack Technology社が開発する小さなコンピュータであり、国内ではスイッチサイエンスが販売を行っているもの。
5cmx5cmというコンパクトなボディーの中にマイコン(ESP32)、カラー液晶、ボタン、USB Type-Cポート、そしてGrove Port……などなど多彩な機能が詰まっていて、これが心臓部となっているのです。
この「かんぷれ」の開発チームにはコーディネーターそしてソフトウェア開発として、スイッチサイエンスが入っているだけでなく、M5Stack TechnologyのCEOであるJimmy Lai(@M5Stack)さんも参加しており、M5Stack Technologyが「かんぷれ」のハードウェア開発・生産を行うことになっているのです。
昨年8月に、GOROmanさんが深センのM5Stack Technologyに行ってプロトタイプを見せたところJimmyさんと意気投合し、開発コンセプトが固まっていったのだとか。その後10月に東京ビックサイトで行われたJimmyさんも来日していて、私もご挨拶させていただきましたが、この会場ではゆーいちさんとともにプロトタイプのデモを行っていました。
このように「かんぷれ」にはM5Stackが搭載されているわけですが、一言でM5Stackといっても実はいろいろな種類があるんです。
今回の発表会で登壇していたスイッチサイエンスの菊地仁さんに伺ったところ
「今回搭載するM5Stackを何にするか、最近まで検討していたのですが、M5Stack CoreS3 SEを搭載することに決めたところです。購入いただいたM5Stack BASICと比較すると搭載CPUがよりハイパワーな第3世代CoreデバイスであるESP32-S3というものを搭載しています」とのこと。
そのため、手持ちのM5Stack BASICを「かんぷれbase」に搭載しても動作しなさそうですが、もしM5Stack Core2以上 を持っているのであれば、「かんぷれbase」を購入する形でもよさそうです。
※対応機種:M5Stack Core2, CoreS3, CoreS3SE。ただしM5Stack Core2はUSB OTGに対応していないため、
プログラムはオープンソースで公開。クラファンの目標は5,000万円
この「かんぷれ」の中枢部、M5Stackのプログラム開発は、現在スイッチサイエンスのプログラマ、らびやんさんが中心になって行われているようですが、そのプログラムは今後GitHubを通じてオープンソースとして公開されるとのこと。
ここでオープンソースの意義を語るつもりはありませんが、普通はトップシークレットともいうべき電子楽器のファームウェアを、誰でも見ることが可能で、改変することも可能な状態で解放するわけですから、普通とは違うアプローチであることは間違いありません。今後、世界中から「かんぷれ」に興味を持ってこれを新しい方向で進化させる人たちが集まってくる可能性もありそうですね。そういう意味では、「かんぷれ」の数年後がどんな機能、性能に進化しているのか想像もつかないところです。
そんな大きな可能性を持った「かんぷれ」。6月8日~8月5日までの2か月間、Kibidangoでクラウドファンディングを実施中です。私、個人的にも6月8日のクラウドファンディングスタート当日に、「かんぷれフルセット」をひとつ支援させていただきました。
発表会でゆーいちさんは「今回のクラウドファンディングは私にとって人生2度目となるクラウドファンディングですが、目標を5,000万円に設定させていただきました。非常に多くの方の協力をいただき、この1年間全力を込めて作り上げてきたものですが、もしこのクラウドファンディングが目標金額を達成しない場合は、残念ではありますが、製品化の計画はすべて白紙にします」と話します。さらに、その後の発売計画について質問してみたところ、
「まずはクラウドファンディングが成功しないと何も考えられないというのが正直なところです。ぜひ多くの方にご支援をいただければと思います」とのお返事。
6月10日14時半現在、452人が支援し、集まった金額が15,003,500円と、1500万円を超えたところです。かなりな金額が集まってはいるものの5,000万円の目標に対してはまだ30%。この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ支援してみてはいかがでしょうか?