『ヒックとドラゴン』(ジョン・パウエル)、『インターステラー』(ハンス・ジマー)、『メリー・ポピンズ リターンズ』(マーク・シャイマン)、『リトル・マーメイド』(アラン・メンケン)、『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』(ベアー・マクレアリー)、『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』(ヘンリー・ジャックマン)、『つぐない』(ダリオ・マリアネッリ)……と数えればキリがないほど多くの映画音楽作品がレコーディングされてきたAIR Studiosが運営するイギリス・ロンドンのスタジオ、Lyndhurst Hall(リンドハースト ホール)。
1992年にジョージ・マーティンがロンドンの教会を改良する形でオープンさせたスタジオとしても知られ、オーケストラが丸ごと入る世界最大級のレコーディングスタジオでもあります。このLyndhurst Hallは、これまでIRの収録などを許してこなかったため、このスタジオを再現するリバーブは存在しなかったのですが、先日、Spitfire AudioがAIR Studios Reverbというプラグインとして世界で初めてリリースしました(税込実売価格54,857円、6月16日まで20%オフの43,854円[価格は為替レートによって日々変動します)。これは単なるコンボリューションリバーブではなく、このスタジオをより実践的に使う形で、音源の位置を決めたりマイクの位置を設定して音作りができるという強力なリバーブとなっています。実際どんなリバーブなのか試してみたので、紹介してみましょう。
Lyndhurst Hallを世界で初めてSpitfire Audioが再現するプラグインを開発
Lyndhurst Hallはイギリス・ロンドンにあるレンガ造りの教会を元にした大きなスタジオ。ここで数多くの映画音楽がレコーディングされているだけでなく、ゲームのレコーディングで使われていることでも知られています。たとえば『スター ウォーズ ジェダイ:サバイバー』(ゴーディ ハーブ & スティーブン バートン)、『ゴッド オブ ウォー バトルロイヤル』(ベア マクレアリー)、 『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』 (ヘンリー ジャックマン)、『スパイダーマン』(ジョン パエサーノ)……などなど本当にいろいろな作品が録られているスタジオです。
そしてオーケストラ音源として著名なSpitfire Audioの音源もそのほとんどが、このスタジオで録音されてきました。そうした経緯もあって、今回初めてLyndhurst Hallを再現するプラグインが、Spitfire Audioからリリースされることになったようです。
先日も「プロ御用達のオーケストラ音源が統合され、SPITFIRE SYMPHONY ORCHESTRAとして新たに誕生」という記事で、Spitfire Audioのオーケストラ音源を紹介したばかりですが、そのSpitfire Audioとして、これが初のエフェクトのプラグインとのことです。
もちろんSpitfire Audioが出すプラグインなので、普通のリバーブプラグインとはかなり趣の異なるもので、まさにプロがLyndhurst Hallで録音するかのごとく利用できるユニークなもの。Lyndhurst Hallを正確にシミュレーションするために67,000個ものIRデータが入っており、これらを利用してリアルに再現するようになっているのです。以下にその紹介ビデオがあるので、少しご覧になってみてください。
Virtual Positioning Technologyで音源の位置を自由に設定できる
IRデータを使ったコンボリューションリバーブというのは、これまでも数多くのものが存在していますが、それで本当にその場の音の響きが再現できるか、というといろいろ限界もありました。
というのも、たとえばあるホールを再現するというとき、音源をどこで鳴らすのかによって音の響きはかなり変わってきます。またその音の響きを拾うマイクをどこに何本立てるのかによっても、レコーディングされる音は結構違ってきます。
レコーディングにおいては、こうしたことが非常に重要になってくるわけですが、このAIR Studios Reverbでは、Spitfire Audioの持つVirtual Positioning Technologyにより、音源の位置をホール内で自由に動かせるようになっているのです。具体的には音源はステレオかモノラルかのいずれかを設定してマウスで画面上に配置する形です。ステレオの場合は左右の音源の位置をどのくら離すのかも設定可能です。実際音を出しながらセットする位置を動かしていくと結構リアルに音が変わってくるのが面白いところです。
以前「演奏者とリスニングポイントを自由に配置できる画期的なIRリバーブ・プラグイン、INSPIRATAの威力」という記事で紹介したINSPIRATAも音源の位置、リスニングの位置を変更できるものなので、その点ではちょっと似ていますが、AIR Studios Reverbではベストな位置にマイクをセッティングした上で、音源側の位置を変更するとともに、そこからどの方向に音を出すかを設定できるなど、ちょっと発想が異なるリバーブなのです。
8つのマイクを組み合わせてミックスする音作り
一方で、マイクは8つの位置にセッティングされています。具体的には
2.OUTRIG
3.BINAURAL
4.AMBIENT
5.BACKS
6.CANOPY
7.GALLERY.W
8.GALLERY.F
のそれぞれ。これらがミキサーコンソールのように調整できるようになっているので、必要に応じて、調整していくことで音作りができるようになっています。
SPITFIRE SYMPHONY ORCHESTRAでも、KONTAKT上で複数のマイクの音量を調整することができましたが、それをもっと多くのマイクでいろいろといじることができる、というわけです。
また天井の反射板(キャノピー)の高さを変更したり、キャノピーの素材を変えたり、ダンピングを付けたり、外したり…といったことも可能で、これらによっても音が変わってきます。67,000あるIRデータをもとに計算しているわけですね。
音源の音の広がる方向を変えられるのも大きなポイント
先ほども少し触れましたが、AIR Studios Reverbでユニークなのは音源の位置を変えることができるのと同時に、その音の広がり方を変更できる、という点。楽器によって音がまっすぐ出るもの、左右に広がるもの、上方向に音が広がるもの……などなどいろいろあるわけですが、SOURCEのタブにおいて、その音の広がり方を調整できるようになっています。
もちろん、その方向の角度を調整できるので、どちらを向いて演奏するのか…といったことも正確にシミュレーションすることができるのです。
そのほかにもSHAPEタブにおいてはアーリーリフレクションの大きさ、長さ、テイル部分の大きさ、長さなどの調整ができるようになっていて、音色的な部分を調整可能です。
さらに5バンドのEQも搭載されており、ここでより細かく音を作っていくことも可能になっています。
もっとも、Lyndhurst Hallに行ったことがない人が、事細かく調整していくというのは簡単ではなさそうですが、もちろん一般のユーザーのためにSpitfire Audioのエンジニアリングチームが、リアルな実践的ミキシングに基づいてあらゆる楽器に適した54のプリセットを厳選して用意してくれています。楽器ごとにさまざまなプリセットがあるので、まずはこれを試したうえで、少し調整してみるというのがよさそうです。
以上、Spitfire Audioが出した世界初のLyndhurst Hallを正確に再現するリバーブ、AIR Studios Reverbについて紹介してみました。世界中のさまざまな映画音楽、ゲーム音楽のレコーディングに使われているスタジオでの音を再現することで、劇伴制作のクオリティーを大きく上げることができそうです。
【関連情報】
Spitfire Audio AIR Studios Reverb製品情報
【価格チェック&購入】
◎SONICWIRE ⇒ Spitfire Audio AIR Studios Reverb