アコースティックのリコーダーにBluetooth-MIDI搭載!?カスタマイズ自在なイタリアのlunaticaを試してみた

すでに昨年から国内でも発売されているのでご存じの方もいらっしゃると思いますが、イタリアのメーカー、ARTinoiseからユニークなリコーダー、lunatica(海外での名称はre.corder)が発売されています(税込実売価格37,400円)。これはアコースティックなリコーダーであり、電源がなくても、吹けばそのまま演奏できる縦笛でありながら、電源を入れるとBluetooth-MIDIに対応したデバイスとして機能し、さまざまな楽器音での演奏が可能になります。しかもMIDI化した際には、内部のさまざまなセンサーが動き出し、傾きを変えることでビブラートのかかり具合を変えたり、横に回転させることでPANを動かすなど、さまざまなコントロールも可能になっています。

ARTinoiseの無料配布するiOS/Android用のアプリを利用することで、ゲーム感覚で演奏を学習できる機能を持っているので、リコーダーの練習用として使うこともできるし、シンセサイザアプリと組み合わせてより実践的な楽器として使用することも可能。また各センサーをどのMIDI CCに割り当てるかなどのカスタマイズも可能だし、運指を変更してフルートやサックス、トランペット的にするといったこともできます。もちろん、MacやWindowsと組み合わせて、DAWへのレコーディング用途で用いることも可能な、まさにオールマイティーなデバイスとなっています。実際どんなことができるのか、少しマニアックに紹介してみましょう。

ARTinoiseのlunatica。Bluetooth-MIDIを利用して専用アプリ、さらにはソフトシンセやDAWと連携させることができる

7色のカラバリが揃ったイタリア製のlunatica

イタリアのARTinoiseは、一昨年末に行われたシンセサイザフェスタ2022に出展しており、ここでlunaticaがお披露目になっていたことは「リアルとネット配信の次世代型イベント“シンセフェスタ メタ”をレポート、配信は12月21日まで」という記事の中でも紹介していました。

lunaticaはワールドワイドでは、レッド、ブルー、ホワイト、ブラックの4色のカラーバリエーションが用意されている

また、その時来日していたARTinoiseのCTOであるDavide Manciniさんには、昨年のNAMM Showでもお会いしていましたが、その後5月にARTinoise製品の国内取り扱いをKORGが行うことが決まり、すでに国内楽器店、ネット通販を含め、幅広く流通しています。

ARTinoiseのCTOであるDavide Manciniさん

その時点ではブルー、ホワイト、レッド、ブラックの4色でしたが、昨年末に日本限定カラーとなるイエロー、ピンク、グリーンの3色が追加され、7色の中から好きな色を選択できるようになっています。

日本限定カラーとしてイエロー、グリーン、ピンクの3色が発売された

サイズ、形状、機能的にはどれも同じで、長さ32cm、重さ120gのリコーダーであり、吹くと、普通にリコーダーとして鳴らすことができます。が、ここにはさまざまなセンサーが内蔵されており、スイッチを入れることでBluetooth-MIDIに対応したデバイスに変身するのです。そのプロモーションビデオが面白いので、以下を見ると、lunaticaとは、どんなことができる機材なのか分かると思います。

そんなlunatica、私も何度も実物を見ていたし、演奏しているところも見て聴いてはいたものの、やはり実物を触らないと分からないこともいっぱい。というわけで、気になっていたlunaticaをチェックしてみました。

アコースティックなリコーダーであり、ワイヤレスな電子楽器でもある

まずは電源を入れなければ、本当に普通のリコーダー。小学校で使ったソプラノリコーダーとほぼ同じ大きさです。もっとも小学校で使ったリコーダーの運指がジャーマン式だったのに対し、このlunaticaはバロック式なので、中学校で習ったアルトリコーダーの運指ですね。なので、上手下手はともかく、誰でも吹くことができる楽器です。ところが、本体の右サイドにmicroUSBの端子があり、ここをコンピュータやACアダプタを接続するとlunatica内蔵バッテリーを充電することができます。もしかして、これを通じてMIDIやオーディオをコンピュータとやりとりできるのかな…と試してみましたが、そこはまったく反応しないようでした。

microUSBを用いて充電する

その充電をした上で電源を入れるわけですが、物理的に動くスイッチはなく、●ボタンを2秒タッチし続けると電源が入り、青いLEDが点滅状態に入ります。これがBluetooth-MIDIのピアリングモードに入ったことを意味する合図。Bluetooth-MIDIなので、さまざまな機器と接続が可能にはなっていますが、Lunaticaが基本としているのはiPhone/iPad、Androidとの接続です。それぞれ用にARTinoiseによるアプリ「re.corder」が用意されているので、これをダウンロードして使います。

lunaticaのアプリであるre.corder

このre.corderアプリの使い方については、マニュアルなどもあるし、さまざまなメディアで取り上げられているので、詳細は割愛しますが、これを使うことで、スマホやタブレットを音源として鳴らすことが可能となるほか、学習用の教材が用意されており、伴奏を鳴らしながら、それに合わせて演奏すると、採点され、そのスコアに応じて学習を進めていくことも可能になっています。

re.corderアプリを使って、効果的な練習ができるようになっている

ちなみに、前述のとおり、このlunaticaは、基本的には普通のリコーダーとして音が出るので、MIDIで鳴らすとリコーダーの音とMIDI音源の音が同時に鳴ります。もちろん、それはそれでいいのですが、リコーダーの音は止めたい、という場合は本体にぶら下がっているミュートキャップをエッジに差し込むことで音が出ないミュート状態になります。

ミュートキャップを差し込むことで、アコースティックのリコーダー音は止まり、Bluetooth-MIDIのみでの演奏となる

ただし、このミュートキャップ、完全に空気の流れを止めてしまうわけではなく、吹き口から吹き込んだ息をここから放出する形なので、演奏する感覚はまったく同じながら完全な電子楽器になるわけです。

3つのモードでの演奏が可能

この際、アプリの設定でフルート、クラリネット、オーボエ、トランペット、サックス……といった管楽器の音はもちろん、バイオリン、チェロ、ギター、さらにはピアノ、オルガン、ドラム、シンセサイザ……とさまざまな音色に切り替えることが可能です。まあ、それはMIDI音源であれば当たり前ともいえるところですが、lunaticaの面白さはここからです。

re.corderアプリを使うことでさまざまな設定が可能。リップセンサーモードにすると、吹き口をくわえるだけで音が出る

まずは、先ほどのビデオでもあったとおり、lunaticaは単にリコーダー的に吹くだけの楽器ではありません。通常のブレスモードのほかにリップセンサーモード、キーボードモードというのがあり、それをre.corderアプリで切り替えられるようになっているんです。リップセンサーモードというのは、吹かなくても吹き口を唇でくわえるだけで演奏できるというモード。これなら連続演奏、ドローン演奏といったことができるほか、肺活量が低下していて管楽器の演奏が困難な人でも演奏ができるというメリットがあります。ただし、この場合、ベロシティ値は一定で80となっています。

lunaticaの吹き口部分

ちなみに通常のブレスモードのときも実はベロシティは同じ80に設定されていますが、吹き込む息の強さによって、MIDI CC #11のエクスプレッション信号が送出されるんです。それによって音量表現ができるようになっているんですね。

キーボードキーボードモードにすると、音孔を鍵盤のようにして弾くことができる

さらに、キーボードモードにすると、リコーダーの穴=音孔が鍵盤のようになり、ドレミファソラシドレの9段階での演奏が可能になります(黒鍵に相当する部分は発音できない)。またこの際は和音も弾ける形になります。先ほどのビデオでドラム音を叩いている風なシーンがありましたが、あれはキーボードモードでドラムを鳴らしているわけですね。

傾けることででモジュレーションや各種MIDI CCが利用可能

もう一つユニークなのはlunaticaの内部に加速度センサーがあり、演奏している際の傾きを検知できるようになっている、ということ。デフォルトの設定では、lunaticaの先端部分を上に持ち上げるように傾けることで、MIDI CC #1のモジュレーションがかかっていく形になっており、ビブラート効果を演出することが可能です。が、この加速度センサー、設定をいじることで、もっとさまざまな動作が可能になっています。

lunaticaの内部に設置されている加速度センサーの動きをMIDI-CCに割り振ることが可能

前を持ち上げる傾きであるInclinationのほかに左右の傾きを検知するRotation、さらには前に傾かせる際のスピードも含めて検知するZ-軸というものもあり、それぞれをMIDI CCの何番に割り当てるかといった設定が可能になっているのです。しかも、その傾きなどによってどのように数値が変化するかのカーブの設定もできるなど、かなり細かく設定できるようになっているのです。

Midi Tool Boxを使って、lunaticaのMIDI信号を解析

こうしたセンサーによる動作、マニュアルを読んだり、アプリのヘルプなどを読んでもよくわからなかったため、日本のソフトウェアメーカーであるART Teknika(名前が似てるのは偶然ですね!)のMidi Tool Boxを使って解析した結果、わかった次第です。かなりマニアックなやや開発者向けのアプリではありますが、ホントに便利です。

MIDI音源アプリやDAWアプリとの連携も可能

ついでにこのMidi Tool Boxでチェックしてみたのが3つあるボタンの動作についてです。このボタンは前述のとおり、電源を入れるのに●を長押しするのですが、●+■で1オクターブ上げる、●+▶で1オクターブ下げるといった操作ができるのですが、マニュアルには■や▶でルーパーの再生やストップができる、といった記述がありました。

lunaticaの3つのボタンを押すことでMIDI信号が発信されるのだが……

ただアプリを見る限りルーパー機能はないので、もしかして、これでDAWのトランスポートコントロールができるのでは…と調べてみました。すると、この3つのボタンから送出されるのはMIDI CCではなくMIDI SysExでした。それぞれ違うコードを出力するのですが、MIDI SysExだと一般のDAWだとそのまま使うのは無理そうですね。今後、ARTinoiseがルーパー機能を持ったアプリを出してくる可能性はありそうなので、それに期待するとともに、MIDI CCを割り当てる機能を持たせてくれると、応用範囲は広がりそうです。

3つのボタンによって発信されるのはそれぞれMIDI SysEx信号だった

いずれにせよ、これらの設定はre.corderアプリから行う形であり、本体だけでの操作や、その他のMIDIアプリ、MacやWindowsなどからは操作できまないようになっています。

さて、このMidi Tool Box機能が使えたことからも分かる通り、Bluetooth-MIDI接続をし、各種設定さえしてしまえば、re.corderアプリはなくても動作します。もっと言ってしまえば、一度設定すればlunaticaが内部メモリーで設定を覚えてくれるし、Bluetooth-MIDI接続自体はほかのMIDI音源アプリやDAWアプリなどからも可能です。

MIDIのソフトシンセアプリなどからもlunaticaとBluetooth-MIDI接続可能。画面はKORG iMS-20

あとは数多くあるソフトシンセアプリやDAWアプリを使って演奏したり、レコーディングしたりできるので、キーボードではできない、さまざまな表現もできそうですね。

Mac接続は簡単だが、Windowsは難あり!?

もう一つ気になるのは、iPhone/iPadやAndroidではなく、MacやWindowsとの接続はどうなのか、という点です。

まずMacから見ていくと、Audio MIDI設定を使いBluetoothデバイスを追加することで、簡単に利用することが可能になります。各種モードやMIDIの設定はre.corderアプリじゃないとできませんが、普通にMIDIデバイスとして使うことが可能です。

Macの場合、Audio MIDI設定からlunaticaに接続することができる

一方、Windowsはというと、これはちょっと簡単にはいかなそうでした。これはlunaticaの問題ではなく、Windows側の問題のようにも思うのですが…。以前「WinRT MIDI/UWP MIDIって何だ? WindowsにおけるBluetooth MIDIの活用法」という記事において、WindowsにおけるBluetooth-MIDIについてシステム的な解説をしたことがありました。Cubase12やCuase13、またCakewalkであれば、Bluetooth-MIDIを簡単に扱えるし、そうでないDAWでも、linclip(@linclip)さん開発のMIDIBerryと仮想MIDIドライバであるLoopMIDIを組み合わせることでBleutooth-MIDIが利用可能です。ただ、Windows 11 22H2ではBluetoothの仕様が少し変わっており、あらかじめWindowsの設定におけるBluetoothとデバイスの設定で「Bluetoothデバイスの検出」を「詳細」に設定しておかないと、Bluetooth-MIDIのデバイスを見つけられないようになっています。

lunaticaに限らず、Windows 11 22H2以降でBluetooth-MIDI接続をするには、ここを「詳細」に設定する

これによって、lunaticaというかre.corderを見つけることはできたのですが、どうやってもつなぐことができませんでした。何か手段がありそうにも思うのですが、、また新しい情報があれば、レポートしてきます。

CMEのWIDI Bud Proを使うことでWindowsとも接続することができた

では、Windowsではまったくダメなのか、というとそうではありません。「キーボードやシンセ、音源モジュールとパソコン/スマホの接続をワイヤレスに!インテリジェントに何でも自動接続するWIDIが超便利!」という記事で紹介した、WIDI Bud ProをUSB端子に挿せば、何の設定も不要で、lunaticaと接続してくれるので、とっても便利です。また、MIDI入出力を持ったオーディオインターフェイスを使っている場合は、そこにWIDI Masterをつなぐことでも同様な利用が可能になります。もちろん、WIDIシリーズだけでなく、キッコサウンドのm.1やヤマハのMD-BT01、UD-BT01などでも利用可能ですよ。

以上、ARTinoiseのlunaticaについて、だいぶマニアックに紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?比較的近いデバイスとして、以前紹介したElefueがありますが、実際にはかなり方向性も使い勝手も違うものであることも分かったと思います。まさにアコースティックな楽器として使え、アコースティックな感覚で演奏できるとともに、かなり自由度高くMIDIのカスタマイズができるのがlunaticaです。「キーボード演奏は苦手だけど、リコーダーなら!」という人はもちろん、より積極的にMIDI演奏のパフォーマンスに利用したいという人、DAWでのMIDI入力に活用したい人など、数多くの方にお勧めできるデバイスだと思います。

【関連情報】
ARTinoise lunatica製品情報

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