JASRAC=一般社団法人日本音楽著作権協会が、現在、音楽クリエイターを対象に「音楽著作権とJASRACに関するアンケート」というものを実施しています(10月27日まで)。これはJASRACのメンバーであるか否かに関わらず、作曲・作詞・編曲などを手掛ける音楽クリエイター全般(現在楽曲制作に伴って収入を得ている方、将来的に収入を得ることを視野に入れている方)に向けて行っているアンケートで、もちろんDTMで音楽制作をしている多くのDTMステーション読者も対象とのこと。
JASRACも今年で設立84年。音楽を取り巻く環境が激変する昨今、JASRACとしても今後の方向性を模索しているようで、そのために多くの音楽クリエイターからの意見を収集しているようです。逆の立場から見ると、音楽を制作している多くの人たち、DTMユーザーにとって、JASRACをより便利で使いやすい団体にするために、自分の思いをぶつけるチャンスともいえそうです。一方で、アンケートの中身を見ると、AIによる生成物に対する考え方を聞いている項目があるのも興味深いところ。クリエイターにとってAIは脅威なのか、大いなる味方になるのか多くの関心が集まっていますからね…。なぜ、JASRACがこのタイミングで、アンケートを実施しているのか、その意図はどこにあるのかなど、広報担当者に話を聞いてみました。
JASRACがアンケートを行う背景
先日「JASRACはDTMユーザーにとって敵か味方か!?突撃取材を試みてみた」という記事を書いたところ、想像以上の反響がありました。その記事の最後にも、今回のアンケートに関する告知を載せていたのですが、改めてJASRACから、「ぜひDTMステーションの読者のみなさんにアンケートに回答いただけないだろうか?」と協力をお願いされたのです。そこで、先日、再度、JASRAC本部に伺い、なぜJASRACがアンケートを実施しているのか、その目的は何なのか、またこれまでのアンケート途中経過が、どんな状況にあるのかなど、いろいろ伺ってみました。伺ったのは広報部課長の薬師寺卓さんと広報部係長の長井俊晃さんのお二人です。
--今回、JASRACでアンケートを行っている背景について、簡単にお話しいただけますか?
長井:JASRACは、もともと作曲家や作詞家など音楽クリエイターが集まって1939年に設立されました。これまで音楽著作権を中心に据えながら、クリエイターが適正な対価を得られるエコシステムを作り上げてきた、という思いがあります。その一方、音楽の制作環境も、とくにDTMによって裾野が広がる中、さまざまな環境、立場、考え方の方々が音楽に携わるようになってきました。そうしたさまざまな属性の音楽クリエイターのお考えを伺って、JASRACの見え方を把握するとともに、課題を整理する必要があると考えています。そこで、みなさまの率直な思いやご意見をいただこうというのが今回アンケートを実施した大きな理由です。
薬師寺: JASRAC理事長の伊澤一雅は、「クリエイター・ファースト」を掲げ、裾野が広がる音楽クリエイターとの接点を増やす取り組みを進めています。今回のアンケートも、この一環といえます。
--ということは、アンケートの対象となる人は、一般の人、誰でもというわけではなく、音楽クリエイターということなんですね。
長井:その通りです。JASRACに権利を預けている人でも、そうでない人でも、何らかの形で作詞、作曲、編曲、プロデュースなどで収入を得ている人が主な対象です。学生さんなどで、現時点ではまだ収入を得るところまで行ってなくても、将来音楽で食べていこうと思っている方も対象ですので、ぜひお答えいただきたいと思っています。
--逆に今回のアンケートの対象ではない人というのは、どういう人たちになりますか?
長井:音楽クリエイターでない方は対象外としているほか、クリエイターでも、あくまでも趣味で、これによって収入を得ることは考えていないという人は対象外となります。ただ、DTMを使って趣味レベルで音楽制作しながらも、YouTubeなどを通じて収入を得ている人も少なくないと思います。そうした方々にもぜひアンケートに参加いただければと考えています。
2000年に行った満足度調査以来となるアンケート
--こうしたアンケート、これまでも定期的に行ってきたものなのですか?
薬師寺:昨年、音楽文化事業の一環で音楽クリエイター支援に関するアンケートを行いましたが、今回のアンケートとは目的が大きく異なります。JASRACに権利を預けているメンバー向けのアンケートではありますが、サービスの満足度についてのアンケートを2000年に行ったのが最後です。今回はJASRACメンバーに限らず、音楽の作り手の方々全般が対象です。冒頭に紹介したとおり、JASRACはもともとクリエイターが集まって組織されたものであり、その時代・時代のクリエイターの意思が反映されるべきものです。多くのクリエイターのみなさんのお考えを伺いながら、JASRACをアップデートさせていきたいと考えています。
--先日の記事において「1本のYouTube投稿で1,000回以上の再生数があれば、JASRACメンバーになる要件を満たす」という話には多くの人が関心を示していました。今回のアンケートがそのままJASRACとの契約につながる、というわけではないですよね?
長井:はい、今回はあくまでアンケートですが、これまでに回答いただいた方からは、「JASRACに管理委託することのメリットやデメリットをもっとわかりやすく伝えてほしい」といったご要望もいただいています。一方で、こうしたアンケートにお答えいただくことで、音楽著作権について考える大きなきっかけにもなるのでは……と思っています。その中で、JASRACに関心を持っていただければ幸いです。JASRACのウェブサイトでは、メンバーになるための手順なども詳しく紹介していますので、ぜひ合わせてご覧いただければと思います。
--実際、今回のアンケートではどんなことを聞いていて、回答にどの程度時間がかかるものなのでしょうか?
長井:アンケートの一部を抜粋したものがこちらです。選択肢の中から選んで回答するもの、自由記述のものなどありますが、回答時間は6~8分程度を想定しております。もちろん、たくさんご意見のある方などは、もう少し時間がかかるかもしれませんが、それほど複雑なものではありません。
薬師寺:たとえば、この抜粋にあげたQ4は、自分の総収入における著作権使用料の割合がどのくらいかを聞いているものなのですが、お答えいただいたクリエイターから「そんなことを考えたこともなかった」といった感想をいただきました。クリエイターにとって大事な経済活動に関して考える、ひとつのきっかけにしていただければ……と思っております。
AI生成は音楽クリエイターにとって脅威か福音か
--そうしたアンケート項目の中に、AI生成物に関する質問もありますよね。個人的にもここは非常に関心があるところですが、現時点の回答状況において、どんな結果になっているのでしょうか?
長井:AI生成物に関する質問項目としては「AIによって、音楽制作活動に悪い影響が生じるのを心配している」、「自分の音楽創作活動に、AIを積極的に活用したい」という2つについて伺っています。現時点では、回答はどの選択肢もほぼ同数で分散しています。音楽クリエイターによって、さまざまな考え方があることが見えてきますが、重要なテーマですので、ぜひご意見をお寄せいただきたい考えています。
--こうしたアンケート結果がまとまったら、ぜひ見てみたいところですが、DTMユーザーがこのJASRACのアンケートに回答することのメリットというのはありますか?
薬師寺:アンケートにお答えいただいた方に、何らかのプレゼントをお渡しする…というものではありませんが、JASRACとしても変革を続けているところです。一つ一つの変革が、今JASRACメンバーではない方も含め、今後のクリエイターに影響を与える可能性があると感じています。著作権収入の割合が低いほど、JASRACを身近に感じにくいことは確かだと思います。しかし、動画投稿サイトなどを含め自分以外の第三者に音楽が利用される方であれば、何らかの形でJASRACとつながったり、関わったりする可能性があると思います。「今、自分は関係ないよ」と思われている方も、今後、音楽活動の中の経済的な面を少しでも考えていらっしゃるようでしたら、ぜひ、このアンケートにお答えいただければうれしいです。
--ありがとうございました。
アンケート対象者:作詞・作曲などを手掛ける全ての音楽クリエイター
記名の有無:無記名
回答所要時間:約6~8分
アンケートの方式:ウェブ方式(※)
※下記URからアクセスください
https://www.net-research.jp/1187286/