いろいろなところで話題になるJASRAC=一般社団法人日本音楽著作権協会。人によっていろいろなイメージを持っているのでは……とも思いますが、JASRACがどんな団体であり、何をしているところなのか、なかなか捉えにくいのも事実です。また一般人からすると、遠い存在のようにも思えるJASRACですが、実はDTMユーザーにとって遠くはない存在、というよりも積極的に関わるべき団体だ、というような声も聞こえてきます。
そうだとすると、DTMステーションとしても、JASRACについて一度しっかり確認して、DTMerにとって敵なのか、味方なのかなど、見解をまとめていったほうがいいのでは……と思っていたのです。そうした中、たまたま知人を介して、JASRACの広報を紹介してもらい、連絡をとってみたところ、いろいろ話を聞かせていただけることになったのです。東京・代々木上原駅の近辺にJASRACと書かれたビルがあることは以前から知っていましたが、今回初めて、このJASRAC本部に乗り込んで、さまざまな角度から質問をぶつけてみました。法律の話などもいっぱいあって、ちゃんと理解できたのか怪しいところもありますが、確かにDTMerにとって知っておくべき情報もいろいろあったので、インタビューの形で紹介していきたいと思います。今回お会いしたのは広報部の三上花恵さん、そして会務部の課長補佐である高橋知義さん、同じく会務部の係長である澤崎顕吾さんの3人です。
JASRACは20,000者以上の作曲家や作詞家、音楽出版社が集まる組織だった
ーーJASRACについて、いろいろと伺っていきたいのですが、まずはJASRACって何なのか、概略を簡単に教えてもらえますか?
三上:JASRACは、20,000を超える、作詞者、作曲者、音楽出版社が集まった組織です。1939年11月、当時の日本を代表する作詞家、作曲家らが集まって設立されました。著作権者から管理委託を受けた上で、音楽の利用分野に応じて利用の許諾をし、対価となる使用料を権利者に分配するのが、主な業務です。JASRACの目的は、音楽を利用する人の利用の円滑を図りながら、権利者に正しく使用料を分配する、これを通じて「音楽文化の普及発展に寄与する」ことです。オフィスは全国に14支部とこの本部、合わせて15箇所あり、それぞれこの目的に向かって業務を行っています。
JASRACは音楽を利用した人から支払われた使用料を作曲家や作詞家らに分配する業務を行っている
--もっとお役所的なところなのかな…と想像していましたが、JASRACってクリエイターの集団なんですね?
三上:もちろん、私たちのような職員もいますが、JASRACという団体を構成する法律上の社員の中心は、音楽クリエイターです。著作権管理団体という側面はもちろんですが、音楽クリエイターによって組織された団体としても、JASRACは国内最大規模といえます。
--JASRACというと、何か怖そうなところ……という印象もありますが、もう少し何をしているところなのか具体的に教えてもらえますか?
三上:確かに音楽を利用される方々から見ると、一見、強面(こわもて)な印象があるかもしれません。でも「音楽を使いたい」という方々に対して、積極的にライセンスを出していくのがJASRACの基本的な立場です。利用される方によっては「かなりリーズナブルだ」と評価されることもあります。人気曲だから高い値段だとか、この曲はあまり人気がないから安くする……ということはなく、原則として一律の料金で利用できます。そのようにしてお支払いただいた使用料を、正しく権利者に分配していくのがJASRACの仕事です。
--著作権管理事業者?これはどういう意味なんですか?
三上:もし曲が1曲だけあり、権利者も一人だけ、利用者も一人だけなら、話は簡単です。当事者同士で話し合えばそれですむでしょう。でも曲はたくさんあり、利用方法もCDやカラオケ、テレビ、ネット配信……と多岐にわたります。使われている音楽の作家もたくさんいて、利用者も、利用方法もさまざまです。こうしたものすべてを個人でさばいていくというのは不可能ではないとしても、とても大変な作業です。限られた時間の中で何に注力するかとなれば、やはりクリエイティブなところに専念したいと思います。そこで、権利クリアランスや使用料の収受などの面は著作権管理事業者に任せて、作家がクリエイティブに専念できるようにする、というのが、著作権管理事業の本質です。そうみていくと、この国のクリエイティブを縁の下から支えている仕事と言えると思います。85年にわたり、音楽クリエイターの団体として、音楽を利用されるさまざまな方々と話し合いを重ね、使用料を含めたルールを作ってきました。このような取り組みの積み重ねで、あらゆる音楽シーンできめ細かな著作権管理を実現しています。
--とはいえ、作家事務所やプロダクション、レーベル、レコード会社……など、音楽出版(著作権)を扱う会社と契約して任せてしまえば、そうした面倒な部分は気にしなくてもいいのではないですか?
澤崎:はい。日本では、楽曲の利用開発を行う音楽出版社を介せばJASRACと直接契約するのと「ほぼ」同じ程度の使用料を得ることはできますが、やはり直接JASRACと契約いただくことにメリットもあります。まず、演奏権使用料(コンサートやカラオケ、放送や配信の一部)はJASRACから音楽クリエイターへ直接送金しており、使用料を「より早く」お届けできるというメリットがあります。また、音楽出版社と著作権契約を結んでいない楽曲もJASRACに管理を任せることができるのもメリットだと思います。
JASRAC会務部の澤崎顕吾さん
JASRACと直接管理委託契約をすることで、作詞者・作曲者には直接分配される
JASRACと直接管理委託契約しないと、海外で利用された場合の分配使用料がもらえない!?
高橋:さらに、楽曲が海外で利用された場合も分配使用料を受け取ることができるというのもJASRACに直接著作権を預けることのメリットとなります。作詞者、作曲者が著作権管理団体と契約をしていないと、外国団体の多くは作家分の演奏権使用料を送金しないため、分配されません。現在JASRACは97か国4地域にある127の著作権管理団体と管理契約を締結しているので、海外での利用が見込まれる方にとっては期待していただいてよいのではないかと思います。
海外で使用された作品に対してもJASRACを通じて使用料が分配される
YouTube再生数が1,000を超えたらJASRACメンバーの資格あり!?
--なるほど、プロの作曲家にとってJASRACは強い味方、ということなんですね。とはいえ、誰でも入れるというわけではないんですよね?プロのクオリティーがないと入れない?
高橋:プロであるとか、クオリティーというのは関係ないです。JASRACは自分以外の誰か=第三者に音楽が使われるときのために存在する組織であり、音楽を使った対価をもらって、それを分配する組織です。そのため、どんなクオリティーの高い曲を作る人でも、自分で作って自分だけで楽しんでいるという人にとっては、必要がないことになりますね。
JASRAC会務部の高橋知義さん
澤崎:このようなことから、JASRACに著作権の管理をお任せいただく条件として、自分以外の第三者が利用したという実績をお示しいただくことになっています。その具体例は以下のとおりです。過去1年以内にこの①~⑧のうち、いずれかひとつを満たせばJASRACとのご契約が可能です。海外での利用もその対象となります。
①コンサート | 入場料がある催物で、楽曲が利用されていること。 定員が500名以下の会場の場合は、1年以内に同一曲が3回以上演奏されていることが必要です。 ※ご自身が主催する催物は除きます。 |
②テレビ・ラジオ | NHKや民放放送(BS・CS放送を含む)のテレビ・ラジオにおいて楽曲が利用されていること。 ※コミュニティ放送・ミニFM・イベント用放送は除きます。 |
③映画 | 映画館または入場料のある上映会等において楽曲が利用されていること。 定員が500名以下の会場の場合は1年以内に3回以上上映されていることが必要です。 |
④楽譜などの出版物 | 全国に流通する楽譜・雑誌等の出版物で、楽曲が利用されていること。 ただし、出版社などが、市販を目的として企画・製作した出版物に限られます。 ※自費出版・委託出版・同人誌およびこれに準ずるものは除きます。 |
⑤CD・DVD | 全国に流通するCD、DVD等の録音・録画物に、楽曲が利用されていること。ただし、レコードメーカーなどの録音・録画物製作者が、市販を目的として企画・製作し、累積1,000枚以上製造された録音・録画物に限られます。 ※ご自身が企画し、製作にかかる費用等を負担した自主制作盤・委託盤およびこれに準ずるものは除きます。 |
⑥有線放送 | 有線ラジオ放送または有線テレビジョン放送において楽曲が利用されていること。 ※受信契約世帯数が10,000以下のものおよびリクエストチャンネルは除きます。 |
⑦カラオケ | 業務用通信カラオケにおいて、楽曲が利用されていること。 ※業務用通信カラオケ事業者が自ら音源を作成したものに限ります。 |
⑧配信 | 商用配信サイトにおいて、1,000回以上のリクエストがされていること。 もしくは、有料かつ視聴期限が設けられたストリーミング形式のライブ配信において楽曲が利用されていること(視聴券の購入者が500名以下の場合は、1年以内に同一曲が3公演以上で利用されていることが必要です)。 ※ご自身が運営するサイトは除きます。 |
--自身の楽曲がカラオケに採用されているようなボカロPであれば、まさに対象となりそうですね。そこまでいかなくても、たとえばYouTubeやニコニコ動画などに動画をUPする…といったケースはどうなんでしょうか?
澤崎:それがまさに⑧に相当するものですね。YouTubeやニコニコ動画などにご自身でUPされたものでも、その再生数が1年間で1,000を超えれば対象となる、ということです。
--なるほど、YouTubeの再生回数1,000回でいいなら、かなり多くの人がターゲットとなるし、身近なものにも思えます。でも、たとえばYouTubeであれば収益化の設定をすればお金がもらえるので、わざわざJASRACに登録するメリットはあるのですか?
高橋:動画をアップして、それによってYouTubeなどから得られる収益というのは動画の広告収益です。ここには作詞や作曲の対価は含まれていません。つまりJASRACに著作権を預けていただければ、別途収益(=著作権使用料)を得られる可能性がある、ということなんです。GoogleはJASRACに対して作詞、作曲に関する著作権料を支払っているので、その分配がされることになる、ということなんです。
三上:2022年度1年間で音楽の利用者からJASRACにお支払いただいた使用料の合計が約1,290億円となるのですが、その約35%、446億円がネット配信における使用料で、この額はコロナ前の2019年度からの4年で倍増しています。2020年度に配信の比率が放送を超え、今後もさらに配信が伸びていくと考えています。その中でも委託者の関心が大きいのはYouTubeなどの動画サービスです。DTMクリエイターにとってももっとも身近なサービスなのではないでしょうか。
2022年度の使用料徴収額は過去最高の約1290億円となっている
JASRACメンバーになるための費用負担はゼロ!!ネットで申し込める
--そうなるとDTMをしている人にとっては、がぜん興味が出てくるところです。とはいえ、JASRACに入るとなると、いろいろな費用もかかりそうだし、それに見合うリターンがあるのか……という心配も出てきそうです。
澤崎:その辺も誤解がありそうですが、ここ数年でいろいろと制度が変化したこともあり、JASRACに著作権の管理を任せていただく上で、費用はかからないし、ネットで簡単に手続きできるようになっているんです。
高橋:以前はJASRACと信託契約を結ぶには個人の場合で25,000円+税という費用が必要でしたが、2020年9月に撤廃しました。また楽曲ごとの登録料があるのか、ということをよく聞かれますが、それは元々ありません。使用料を分配する際に、利用分野ごとに定められた率にしたがって手数料をいただいており、例えばYouTubeやサブスクなどの配信の場合、9.5%です。この数年何度か手数料率を見直しており、少しでも多くの分配をお届けできるように企業努力を続けています。また、剰余金が生じた場合も、株式会社などとは異なり、翌年度に権利者に分配しています。
--ネットで簡単になった、という話ももう少し詳しく教えていただけますか?
高橋:公的書類の提出が不要になりました。eKYCというオンラインで本人確認を行う仕組みを使うので、免許証やマイナンバーカードなどをご用意いただくだけで大丈夫です。入力も簡単なので、今では申し込みのほとんどがオンラインからになりました。JASRACと契約をする上でハードルは大きく下がったと思います。
JASRACと信託契約する際、紙の書類は不要ですべてオンラインで申し込むことができる
JASRACメンバーと準会員、正会員の関係と違い
--ところで、JASRACと管理委託契約をする、というのとJASRACの会員になるというのは意味が違うのですか?
澤崎:JASRACと著作権の管理委託契約をされた方を指して、「JASRACメンバー」と呼ぶこと、呼ばれることがあります。そのうえで、著作権の管理を任せるだけ(の方を「信託者」と呼んでいます)でなく、JASRACの運営に参画する意思を持った方々には、「会員」という立場を選んでいただいています。会員には「準会員」と「正会員」があります。「正会員」は冒頭に三上がお話しした法律上の「社員」として、社員総会に参加して議決権を行使できるようになり、理事を選挙で選ぶことができるなど、JASRACの運営に参画いただきます。また、「正会員」「準会員」ともに、保養施設、法律相談、税務相談といったさまざまな福利厚生を受けることも可能になっています。まずは準会員になっていただき、その上で一定の条件をクリアすることで正会員になることができる仕組みです。準会員になる際の入会金は25,000円で年会費は4,000円です。さらに正会員になると年会費は12,000円となります。
JASRACメンバーは大多数の信託者と、準会員、さらに正会員で構成されている
--ちなみに正会員、準会員、また管理委託契約をしているだけの人(信託者)ってそれぞれどれくらいの人数がいるのでしょうか?
三上:現在正会員は出版社を含め1,500人強で、準会員が4,000人弱です。また正会員・準会員を除く信託者の数が15,000人弱となっています。
--ここまでの話を聞くと、音楽制作をする人にとって、DTMerにとって、JASRACに著作権を管理委託するというのはメリットばかりのように聞こえますが、デメリットもあるのではないですか?
澤崎:この10数年、いろいろなクリエイターのお声を伺いながら、何度も制度変更を行い、一般的に「デメリット」と言われてきたポイントは解消されてきたと思っています。
高橋:そのうえで、JASRACと直接契約をされないクリエイターの方から伺うお話としては、「自分で使う場合にも使用料がかかる」「買取り仕事を引き受けられなくなる」の二つでしょうか。ただ、一つ目の「自己使用」についても、一定の条件(有償利用の場合はCDであれば1000枚まで、コンサートであれば入場料収入が400万円以内など。無償利用で
※2023.10.2追記
やや説明不足な部分があったので、上記赤字部分を追記しました。
--自己使用にもお金がかかるから嫌だ……という話は時々聞いていましたが、その辺も制度が変わってきていたんですね。もう一つの「買取り仕事」の方はどうですか?
高橋:たとえばゲーム音楽の場合、制作会社から「買取り」を求められることが多く、JASRACメンバーになりにくいと聞くことがあります。JASRACでは「完全買取り」ではありませんが、「ゲーム委嘱」という制度を設け、ゲーム会社が使う場合には事実上使用料が一切かからないようにできます。「買取り」で狙いとしていることは実現しつつ、第三者による利用からは使用料を得ることができる仕組みです。このように直接の依頼に基づいて楽曲を制作する場合にJASRACが使用料を請求しない枠組みはCMや映画など多岐にわたります。作家自身に権利を残しながらクライアントによる自由な利用は確保する、この枠組みをぜひ多くの作家の方に活用いただければと考えています。「完全買取り」の場合、その後どんなに楽曲がヒットしたり、事情が変化したりしても権利を取り戻すことはできないため、このような制度をうまく活用していただければと考えています。そのほかに、何か不安な点などありましたら、ぜひご相談ください。
--JASRACって怖い組織のような、なんとなくの印象がありましたが、DTMerにとっては身近な団体であり、しかもかなりメリットがありそうであることを知れたのは大きな収穫でした。今日かなりいろいろなことが分かったように感じましたが、細かい点で分かっていないことも多そうなので、ぜひまたさらに突っ込んだ話などができると嬉しいです。本日はありがとうございました。
音楽著作権とJASRACに関するアンケートを実施中
取材終了後、JASRACから「作詞や作曲などを手がける音楽クリエイターを対象に、音楽著作権とJASRACに関するアンケートを実施しているので、ぜひDTMステーションの読者のみなさまに協力いただけないだろうか?」という連絡をいただきました。
このアンケートはJASRACメンバーになっているか否かに関わらず、音楽クリエイターのみなさんからの意見をいただくことで、今後の事業活動に生かすことを目的としている、とのこと。
短時間で答えられるもののようなので、興味のある方はぜひ答えてみてはいかがでしょうか?
アンケート対象者:作詞・作曲などを手掛ける全ての音楽クリエイター
記名の有無:無記名
回答所要時間:約6~8分
アンケートの方式:ウェブ方式(※)
※下記URからアクセスください
https://www.net-research.jp/1187286/