米Universal AudioからダイナミックマイクSD-1(44,000円税込)、ペンシル型コンデンサーマイクでステレオペアのSP-1(59,400円税込)が発売されました。これらは、DTM用途/ホームスタジオ向けとして発売されたマイクで、今年初めに発表されていたほかの上位モデルと合わせて、同社初のオリジナルマイク製品が登場した形です。Universal Audioというと、スタジオを再現するオーディオインターフェイスApolloシリーズが有名ですが、それと合わせ、プロ御用達のUADプラグインのクオリティの高さも周知の事実。
そのUniversal Audioが今回マイクをリリースしたことにより、音の入り口からUniversal Audioクオリティでの制作ができるようになったわけです。が、やはりここで一番気になるのは、その初のマイク製品の完成度、音のクォリティーがどうなのかという点でしょう。Universal Audioは最先端のデジタル機器を開発・製造する一方で、1176やLA-2Aといった昔ながらのアナログハードウェアの生産も自らの手で行っていますが、マイクとなると、これらとも少し違う分野のようにも思います。なぜUniversal Audioがマイクを手掛けるようになったのか、どのように誰が開発を行っているのかなど、Universal Audioのユウイチロウ“ICHI”ナガイさんに聞いてみました。
今回発売されたダイナミックマイクSD-1(左)とペンシル型コンデンサーマイクでステレオペアのSP-1(右)
UAが発表した3ラインナップのマイク
今年の初頭にUniversal Audioが発表したのは、Standard Seriesとしての位置づけのダイナミックマイクSD-1とコンデンサマイクのSP-1、モデリングマイクのSphere L22、そして最上位モデルとしてのUA Bock Seriesの大きく3ラインナップです。このうちSphere L22はもともとTOWNSEND LABSが出していたもので、これをそのままUniversal Audioから継続発売していく、というものでした。したがって完全な新製品としてはSD-1とSP-1、それにUA Bock Series(今秋発売予定)となるわけですね。
昨年にはVOLTシリーズ、最近ではUAD Sparkがリリースされ、エントリーレベルの製品ラインも整ってきたUniversal Audio。まずは、改めてこれまで発売されてきたApolloシリーズやUAD Spark、発表されたマイクなどがどんな位置付けになっているか、表にしてみました。
上から見ていくと、Pro Studioラインには、アナログハードウェアやUAD-2 Satelliteシリーズ、そしてUA Bock Seriesが並んでいます。その下のProject Studioラインとまたがる形で、ラックマウントモデルのApolloシリーズ、UAD-2プラグインがあります。Project Studio、つまりミドルレンジにはApollo Twin MkIIなどのデスクトップモデル、TOWNSEND LABS Sphere L22があり、Home StudioとしてVOLTシリーズやUAD Spark、そしてStandard SeriesのSD-1とSP-1が並んでいますね。
ホームスタジオ向けのSD-1とSP-1
まずは、この中でHome Studio向けとして登場したダイナミックマイクSD-1、ペンシル型コンデンサーマイクでステレオペアのSP-1について見ていきましょう。
ロゴのエンブレムも搭載されるなど、デザインにもかなりこだわったUAのマイク
SD-1は、ボーカル、楽器、ライブ配信、ポッドキャストなど、高品質に収録できるダイナミックマイク。ダイナミックマイクの特性上、周りの音を拾いにくいので、エアコンや冷蔵庫、走行音などのノイズを抑えることができ、バンドの中で歌うときでも、声をきれいにキャプチャすることができます。またローカットフィルター(200 Hz、6dB/oct)を装備していたり、3~5kHzあたりに3dBほどのアーティキュレーションブーストによって、音声や楽器の明瞭さを引き立てることも可能とのこと。
SD-1はボーカル、楽器、ライブ配信、ポッドキャストなど、高品質に収録できるダイナミックマイク
SP-1は、マッチドペアのペンシル型コンデンサーマイクとなっており、アコースティック楽器やドラム、パーカッション、ライブパフォーマンスなどをステレオで録音することのできるマイクとなっています。
アコースティック楽器やドラム、ライブパフォーマンスなどをステレオで録音することのできるSP-1
実際にマイクを見てみると、シリアルが同じで、AとBというように表記されていることからも分かるようにステレオで使える完璧なマッチドペア・マイクとなっています。また、付属品はマイククリップ、フォーム製ウィンドスクリーン、ステレオTバーマウントが付いています。
また、このSD-1とSP-1は、Apolloユーザーに向け提供されるカスタムのマイクプリセットを使うことで、プロが調整したサウンドを簡単に使えるようになります。具体的にはApolloのConsoleアプリの中にプリセットとして用意されており、UADプラグインのチェインとして現れます。標準のUADプラグインで構成されたプリセットなので、どのApolloを使っている人でも使えるのも大きな特徴です。女性ボーカル用にハイが煌びやかなサウンド、ホーンや弦楽器の録音を豊かなステレオサウンドとするために最適なプリアンプ、EQ、コンプが設定されています。なお、このプリセットを使うことはできませんが、VOLTシリーズと合わせて使っても、いいサウンドを録音することができますよ。
ApolloにはSD-1、SP-1用のプリセットがいろいろと用意されている
指向性が自由に変えられ、34種類のマイクモデリングが可能なTOWNSEND Sphere L22
次にProject Studioラインである、TOWNSEND LABS Sphere L22について見ていきましょう。このマイクは、ビンテージ~モダンまで、34種類のマイクを切り替えられるモデリングマイクとなっており、録音後に指向性や近接効果も変更できるという魔法の製品となっています。マイクのフロントとリアを別々に収録することができる特殊な仕組みになっているので、5ピンのXLR出力となっています。
この5ピンのXLR出力から付属のYケーブルを使ってDAWにステレオでレコーディングしていきます。そのステレオトラックにSphereプラグインを挿すことで、マイクのモデルだけではなく、録音後に指向性や近接効果も変更できる仕組みとなっているのが、最大の特徴です。
ビンテージ~モダンまで、34種類のマイクを切り替えられるモデリングマイクSphere L22
このSphereプラグインはネイティブ版があるほか、UAD版も用意されています。Apolloで使うとすごく便利なのはConsoleアプリで挿すことで、リアルタイムにモニタリングができるということ。データそのものにはSphereプラグインの効果を掛けずにレコーディングすることで、後処理がいくらでも自由にできるようになっているのです。
Shpere L22の出力をL/Rに分けてApolloに入力し、プラグインで処理していく
もともとTOWNSEND LABSが発売していたマイクSphere L22を今後Universal Audioが発売することになったのですが、これについてイチさんは、「Sphere L22の開発者でもあるクリス・タウンゼント(Chris Townsend)は、現在Universal Audioのマイクチームの一員です。一昨年からチームに入ったのですが、それ以前からもともと一緒にコラボして作っていたのです。ApolloでリアルタイムにSphere L22のモデリングをモニターできる以外に、特別なマイク・モデルのコレクションである、OCEAN WAY MICROPHONE COLLECTIONやTHE BILL PUTNUM MIC COLLECTIONをUADプラグインとしてリリースしているのがそれです。今後もクリス・タウンゼントのノウハウは、開発していくマイクに活かされていきます」とのこと。
Universal Audioのユウイチロウ“ICHI”ナガイさんにお話を伺った
Universal AudioのラインナップにTOWNSEND LABSという別のメーカーの名前があったので、どういうことか気になりましたが、こういった理由だったのですね。SD-1やSP-1の開発には、クリス・タウンゼントさんも携わっているとのことですから、本物のマイクビルダーが居るというのは、とても心強いです。
フラグシップとなるUA Bock Seriesとは
そして、この秋発売予定のフラグシップモデルとなるUA Bock Series。詳細については、まだ謎な部分が多いですが、発売されるのは3製品で、いずれもラージダイアフラム。FET増幅回路を持つUA Bock 187、真空管マイクのUA Bock 167は発表されています。さきほど、クリス・タウンゼントさんがマイク開発に携わっていると書きましたが、ほかにもさまざまな有名メーカーがチームに参加しているらしく、その中にBock Audioというマイクメーカーを作ったデビッド・ボック(David Bock)さんも参加しています。
「デビッド・ボックは、ハイエンドマイクの設計と製造を行っているメーカーの創業者兼オーナーで、90年代にハリウッドにあったポストプロダクションスタジオ、Soundelux Studiosでオリジナルマイクの製造を始めました。『ニュー・ビンテージ・マイクロフォン・プロダクション』というアイディアで、ビンテージマイクのよいところを残しながら、より使いやすくしたマイクを開発しており、Soundelux U95、251、E47、E49といった製品を発売してきました。Universal Audioのチームに入ることになった発端は、我々がマイクを開発するに辺り、世界中の数多くのマイクをブラインドテストしたときに遡ります。これは4年前のことなのですが、聴き比べた結果、圧倒的に選ばれたのがデビッド・ボックのマイクだったのです。彼のマイクは15~80万円程度しますが、それだけ完成度が高く、今後その能力はUniversal Audioに活かされていきます」とイチさん。
マイクチームに強力なメンバーが揃ったと語る、ユウイチロウ“ICHI”ナガイさん
現在マイクチームのリーダーは、デビッド・ボックさん務めているとのことで、万全の体制でUniversal Audioのマイクは開発されていくとのこと。オーディオインターフェイス、アナログハードウェア、プラグインに加えてUniversal Audioテクノロジーで開発されていくマイクが今後登場してくるのは、すごく楽しみです。ダイナミックマイクのSD-1、ステレオペアのSP-1の次は何となく想像がつきますが、新製品について今後もDTMステーションで紹介していきたいと思っています。
なお、VOLTシリーズなどと同様にSD-1とSP-1のチュートリアルビデオも日本語字幕付きで今後更新されていくとのことですから、初心者の方でも録音の勉強をしながら理解を深めていくことができそうですね。
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