音声合成メーカー自らが個人向けに発売したPCソフト、A.I.VOICEを試してみた

電話での自動応答システムはもちろん、カーナビや道路交通案内、またゲーム、スマホアプリ……さまざまなところで音声合成が用いられています。その音声合成、古くは18世紀からフォン・ケンベレンによる機械式音声合成器というものがあり、1940年ごろからコンピュータを用いた音声合成の技術がスタートするなど、長い歴史があります。その音声合成に特化した形で18年も事業を展開し、2018年にはマザーズ市場に上場している音声合成メーカーがあるのをご存知でしょうか?株式会社エーアイというのが、その会社です。

国内の大手企業もこぞってエーアイの音声合成エンジンAITalkというものを採用しているため、クルマ、家電、自動販売機、各種アプリ……などなど、私たちが国内で出会う多くの音声合成は、同社の技術によるものでもあるのです。そのエーアイがOEMの形で提供し、AHSが販売していたのがVOICEROIDだ、というと、「なるほど」と思う方も多いのではないでしょうか?これまでエンジンメーカーであり、音声合成界の縁の下の力持ちであったエーアイですが、今年に入り、ついに一般の個人ユーザー向けのソフトとしてA.I.VOICE(エーアイボイス)という製品をリリースし、店頭で購入したり、ダウンロード購入できるようになっています。実際どんなものなのか試してみたので、紹介してみましょう。

株式会社エーアイが一般向けに販売している音声合成ソフト、A.I.VOICE

2021年6月現在、A.I.VOICEとしてパッケージ販売されているのは、女性ボイスである「A.I.VOICE 琴葉 茜・葵」(ことのは あかね・あおい)、男性ボイスである「A.I.VOICE 伊織 弓鶴」(いおり ゆづる)の2種類。価格はエーアイのネット上で展開するオフィシャルショップで、琴葉 茜・葵が18,480円(税込み)、伊織 弓鶴が16,280円となっているほか、VectorやDLsiteで購入できるダウンロード版というのもあり、こちらはより手ごろな価格で、琴葉 茜・葵が12,980円、伊織 弓鶴が11,880円となっています。

「A.I.VOICE 琴葉 茜・葵」のパッケージと「A.I.VOICE 伊織 弓鶴」のパッケージ

このうち琴葉 茜・葵については、以前よりVOICEROID2製品として発売されていたので、ご存知の方も多いと思いますが、声優の榊原ゆいさんの声を元に作った音声合成システムで、関西弁で話す琴葉茜と、標準語で話す琴葉葵という双子を使い分けることができるものとなっています。

同様に伊織 弓鶴もVOICEROID2のラインナップとしてあったキャラクタで、優しく穏やかでありながらも感情豊かな男性キャラクターボイスとなっています。

エーアイによると、今後そのラインナップはどんどん増やしていくとのことですが、VOICEROIDと何が違うのかなど、気になっていたので、まずはちょっと試してみたので、以下のビデオをご覧になってみてください。

ご覧いただくと分かると思いますが、何でも日本語のテキストを入れてキャラクタを選択すれば、もうそれだけで流ちょうに喋ってくれます。キャラクタを変更して再生ボタンをクリックすれば、別の声でしゃべってくれるし、キャラクタによってイントネーションは喋り方が異なるのもよくわかると思います。

ビデオ後半では、スタイルという3つのパラメーターを動かして喋らせてみました。ここには

喜び
怒り
悲しみ

という3つの感情があり、これをスライダーで動かして調整できるようになっています。ここでは分かりやすくするために、琴葉茜では「喜び」を100%に、琴葉葵では「怒り」を100%に、また伊織弓鶴では「悲しみ」を100%とする形で喋らせましたが、明らかに雰囲気が変わったことが分かったと思います。また喋っている際に表示されるアニメーションも喜んだり、怒ったりした表情になるのも面白いところですよね。

スタイルとして、「喜び」、「怒り」、「悲しみ」の3つのパラメータがある

また、この感情表現の3つのパラメーターのほかにも、音声効果として4つのパラメーター、ポーズの長さとして2つのパラメーターがあります。これらを調整することで音の高さや抑揚、また単語と単語の間隔などを調整できるようになっているのです。

音声効果として、「音量」、「話速」、「高さ」、「抑揚」がある

基本的には、どんな文章でも、A.I.VOICE Editorにテキストを入力して再生すれば、上手に喋ってくれますが、中にはイントネーションがおかしくなることもありますが、そんなときは「フレーズ編集」-「アクセント」を選択して出てくる画面で調整することで、思い通りのイントネーションにすることが可能です。

イントネーションを自由に変更して、調整することも可能

と、ここまで見て、VOICEROIDをご存知の方であれば、「なんだ、まったく同じだ」と思う方も多いと思います。厳密な波形比較などはしていませんが、喋らせてみた雰囲気もほとんど変わらないように思います。しかし、実は搭載されている音声合成エンジンがVOICEROID2ではAITalk4というものだったのに対し、A.I.VOICEではAITalk5というものに変わっており、VOICEROID2にはなかった機能もいろいろ搭載されています。

VOICEROIDにはなかった琴葉茜(蕾)、琴葉葵(蕾)、伊織 弓鶴(冥)というボイスもある

まずは機能というより、ボイスの種類について。琴葉 茜・葵には「琴葉茜(蕾)」、「琴葉葵(蕾)」なる見慣れないものがあり、伊織 弓鶴には「伊織 弓鶴(冥)」なるものが追加されています。実はこれ、選択してみると分かりますが、若干幼い(若い)感じのボイスとなっているほか、前述のスタイルという感情パラメーターがないバージョンとなっています。いずれも「特別収録ボイス」という扱いで、オマケのボイスという扱いのようですね。

では、AITalk4がAITalk5になって、どこが変わったのか?最近ちまたで話題になっている「ディープラーニングを用いて、より滑らかに、より人間的に……」というのではないようです。最大の違いはボイスフュージョン機能に対応した、ということのようです。

新規ボイスモデルを作成

ちょっと偏った説明をすると、ボイスフュージョンとは、VOCALOID 4に搭載されていたクロスシンセシスみたいな機能のようです。具体的にいうと、「琴葉茜のボイスでありつつ、イントネーションや雰囲気などは伊織弓鶴っぽい声」などを作ることができるというもの。ある意味、琴葉茜が、わざと伊織弓鶴のモノマネをしている……といった雰囲気にすることができるのです。

ボイスフュージョン機能で、ターゲットとなるボイスを設定する

実際試してみると、確かに琴葉茜の声ではあるけれど、関西弁は消え、物柔らかな落ち着いた喋り方になっているんですね。先ほどの琴葉茜・葵の(蕾)、伊織弓鶴の(冥)もこのボイスフュージョンの対象になっています。実際のデモがあるので、以下のビデオを見てみると分かると思います。

なお、このボイスフュージョンで作ったボイスも新たなボイスとして保存して利用することができるので、いろいろ組み合わせることで、結構なバリエーションの声ができますね。

ボイスフュージョンで作った声をプリセットとして保存できる

すでにお分かりの通り、「A.I.VOICE 琴葉 茜・葵」と「A.I.VOICE 伊織 弓鶴」は別々のソフトではありますが、それぞれをインストールすると、A.I.VOICE Editorとボイスライブラリのそれぞれがインストールされ、すべてのボイスはひとつのA.I.VOICE Editorで扱えるようになっています。今後、A.I.VOICEのラインナップが増えてくれば、さらに多くの声が扱えるようになる予定です。ただし、残念ながらエンジンが違うためなのか、VOICEROIDのボイスをA.I.VOICEに読み込むことはできず、これは別モノという扱いのようでした。

以上、個人的にも興味のあったA.I.VOICEを試して、ざっと紹介してみました。もちろん、自分でもちょっと試してみたいという人も多いと思いますが、下記のA.I.VOICEサイトにいくと、ブラウザ上である程度喋らせることもできるので、ぜひ試してみてください。このブラウザ上の機能の場合、喋らせた結果の二次利用ができないなど、いくつかの制限はあるけれど、どんなものなのかは十分体験できると思います。さらに手元のPCで利用できる体験版もあるので、興味のある方は試してみてください。
A.I.VOICEのサイトに行くと、ブラウザ上で喋らせることができる
一方で、気になるのはエーアイがどのような方向を目指していて、どう進んでいくのか。場合によっては歌声合成…といったことも考えているのかどうか。実は、先日、A.I.VOICEも見ている株式会社エーアイの副社長とちょっとお話をしたのですが、驚くべき事実も判明!? いえ、とっても個人的なことではあるのですが、何十年か前、私が新入社員として入ったリクルートの同期・同僚だったんです(笑)。今度、改めてお会いすることになったので、いろいろ気になることなどインタビューしたいと思っていますので、お楽しみに。

【関連情報】
A.I.VOICEサイト
A.I.VOICE 琴葉 茜・葵 製品情報
A.I.VOICE 伊織 弓鶴 製品情報

【体験版ダウンロード】
A.I.VOICE 琴葉 茜・葵 体験版
A.I.VOICE 伊織 弓鶴 体験版

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