これまで、DTMステーションで何度か紹介しているSENNHEISERのイヤホンモニター、IE PROシリーズ。このイヤモニの特徴は、バランスド・アーマチュア・ドライバではなく、シングル・ダイナミック・ドライバを採用している点。これにより、高解像度であると同時に超低歪み率、幅広い再生帯域範囲を実現しています。IE PROシリーズのラインナップは、ハイエンドモデルのIE 400 PRO、IE 500 PROとエントリーモデルのIE 100 PROが存在しており、先日そのIE 100 PROが発表されました。
以前は、IE 100 PRO BT Bundleとして、BluetoothコネクタのIE PRO BT Connectorがセットになった製品がアジア先行販売という形で国内でも流通していたIE 100 PROですが、今回からワイヤードタイプ単体で入手できるようになりました。ちなみにカラーバリエーションは、クリアカラー、ブラック、レッドの3色展開。さて、IE 100 PROは1万円代のワイヤードイヤモニなのですが、実際に音楽制作に使えるものなのでしょうか? レコーディングエンジニアの飛澤正人(@flash_link)さんにチェックしていただいたので、IE 100 PROの概要とともに紹介してみましょう。
レコーディングエンジニアの飛澤正人さんに、IE 100 PROをチェックしてもらった
IE 100 PROを開発したSENNHEISERは、ご存知の通り長年レコーディング業界で愛用されているダイナミックマイクのMD 421や定番のガンマイクのMKH 416、プロのDJに使用されているHD 25……など、名機と呼ばれる機材たちを世に送り出している音楽機器メーカー。つい先日、そのSENNHEISERのコンシューマー部門が聴覚医療機器メーカーのSonovaに売却される、というニュースが出ており、主にはヘッドホンやイヤホンがその対象となるようですが、実際にはブランドも変わらず、製品も変わらず、ユーザーとしては、とくに気にする必要はない模様です。
そんな製品群の一つとなるのが2018年にプロユーザー向けのイヤモニとしてリリースしたIE PROシリーズです。
ハイエンドモデルであるIE 400 PROとIE 500 PROは、上位・下位という関係性ではなく、サウンドキャラクターで分けられているのですが、この両機器についての詳しい内容は「新開発の7mmダイナミック・ドライバ搭載。耳へのダメージを軽減する、0.08%という超低歪み率を実現したイヤモニ SENNHEISER IE 400 PRO/IE 500 PRO」という記事で紹介しているので、そちらをぜひご覧ください。
そして、今回発表されたIE 100 PROは、ハイエンドモデルのIE 400 PRO、IE 500 PROと同様にシングル・ダイナミック・ドライバを搭載しており、1万代のイヤモニの中でも、かなり上位のクオリティを誇っています。冒頭でもお伝えしたように、2021年1月にIE 100 PRO BT Bundleとして販売されていたものが、IE 100 PRO単体でかつ3つのカラーバリエーションで販売される形になったのです。以前IE 100 PRO BT Bundleが発売された際に「アジア限定・期間限定/数量限定発売のSENNHEISER IE 100 PRO BT Bundle。モニターでもモバイルでも使える、最強イヤホン」という記事でIE 100 PROは紹介していますが、ここでも簡単に概要を紹介しておきましょう。
そもそもイヤモニは、搭載しているドライバで音のキャラクタに違いがあります。イヤモニは、バランスド・アーマチュア型とダイナミック型の大きく2種類が存在しており、音を出すスピーカー部分に違いがあります。多くのプロユーザー向けのイヤモニは、補聴器用ドライバの発展形であるバランスド・アーマチュア型を採用しています。バランスド・アーマチュア型のドライバは高域の繊細な音作りが可能で、入力に対して高感度なドライバユニットである一方、低域の再現性が不得意とされています。
一方、IE PROシリーズで採用されているダイナミック型は、再生帯域の広さや中低域の再生能力、音の元気さなどを自然に得ることができるとされています。ただ、複数の帯域に分けてドライバユニットを配置するバランスド・アーマチュア型と比べて、1つのドライバユニットで全帯域をチューニングするので、技術力が試される機構であるのです。複数のドライバユニットで構成されているわけではないので、不要な振動を抑えることができ、位相問題や歪みに関しても強い側面があり、結果として、出力される音は煩わしいサウンドではなく、クリアなサウンドが特徴になります。
シングル・ダイナミック・ドライバを搭載しているIE 100 PRO
ダイナミック型の弱みである音のチューニングを長年積み上げてきた技術力で克服し、新しく開発したドライバーを搭載しているのがIE 100 PRO。音のよさ以外にも低歪み率になっており、ライブハウスなどの周りが大音量環境でも、耳中の音量は上げずモニタリングすることができ、耳への負担が従来のイヤモニに比べて少ないです。周囲が騒がしくても、確実な音をモニタリングすることのできるのがポイントです。
そんな、IE 100 PROの音について飛澤さんは、「繋いで聴いた瞬間にいい音だと感じました。この初めて音を聴いた瞬間にいいと思えるのは、とても重要なんです。モニターは、もちろんフラットであることは必要ですが、それとともに音作りをしていて、気分が上がるものでないと使えません」と第一印象の良さを力説。
「IE 100 PROがいい音に感じるのは、まずバランスのよさにあります。聴いたときに低音が聴こえないとか、高域が多すぎるなど、偏りがあるとダメで、色が付きすぎているものは、仕事ではかなり使いにくいです。その点、IE 100 PROはバランスがよく、これはコストパフォーマンスがいいと思いましたね。大体1万台のイヤモニだと偏りがあることが多く、値段の高いイヤホンにある余裕さがないんですが、IE 100 PROは使える音が出てきて、聴いてて楽しいイヤホンです。また、音作りをする際に重要な定位感と奥行き感、解像度がよかったです。特に奥行き感は、すごくよく見ることができます。現在、立体音響に力を入れているのですが、その音源をIE 100 PROで聴いたときに空間や上下感をちゃんと聴くことができました。手前にある音のクッキリ感と後ろ側にある音のリバーブ感など、段階でしっかりモニターすることができ、いいモニターの特徴を持っていますね。安く作られているものは、音がぐしゃっとしていたりするのですが、それがなく高級機に匹敵するぐらいの解像度を持っていると思います。入門としてもすごくいいイヤホンですね」と飛澤さん。もうちょっと厳しい意見が出るのかな……と予想していたのに反し、IE 100 PROについて大絶賛。
飛澤さんのスタジオPENTANGLE STUDIOで、IE 100 PROをチェック
でもIE 100 PROは、インピーダンスが20Ωであり、プロ用機器から見るとかなり低め。この点についても聞いてみました。ちなみに今回の音のチェックでは、D/Aコンバータ搭載のスタジオモニタコントローラーCRANE SONG Avocet、オーディオインターフェイスSSL2+、MacBook Proのヘッドホンアウト、FURMANのキューボックスの4種類で聴いてみたとのことです。
オーディオインターフェイスSSL2+のヘッドホンアウトから試聴
「IE 100 PROはインピーダンスが低く、つまり出力が大きいので、接続する機器は選ばないと思いました。おそらくコンシューマー機器に寄せて作られているのだろうという印象ですね。たとえば、MacBook Proに直接挿して使うのであれば、高級のヘッドホンよりもいい音で聴くことができると思います。ただ、いいアンプを持っている場合は、IE 100 PROの出力が大きいため、アンプの出力を絞って音を出さざるを得ず、アンプ本来の実力を出し切れない可能性はありますね」と飛澤さん。
Avocetの40万円のアンプで聴く場合だと、インピーダンスの大きい高級ヘッドホンの方がいいけれど、MacBook Proに接続するのであれば、IE 100 PROの方がいい音がするのはちょっと意外に思う人も少なくないと思います。ただ実際試してみるとわかりますが、高級ヘッドホンをパソコンなどのヘッドホン出力端子に接続すると、音が小さくしっかりした音で聴くことができないんです。ある意味用途に応じて使い分ける必要もありそうですが、大音量出力に設定する必要がないオーディオインターフェイスであれば、IE 100 PROを直接接続しても大きな威力を発揮してくれるわけですね。
一方、装着感についても伺ってみたところ、「こういった耳に掛けて装着するタイプのイヤホンは、耳にはめるまで結構大変だったりするのですが、IE 100 PROは簡単に装着できて好印象でした。イヤーチップの素材もよく、フィット感がよかったですね。出音はもちろん大切なのですが、毎日使うものは装着のしやすさ、快適さは重要な部分だと思います」と飛澤さん。
ライブで使用することも想定されているので、外れにくい作りにもなっており、SENNHEISERが言うには、このイヤモニを開発するにあたり、「オーディオコネクターの信頼性と堅牢性の向上」を重視したとのことなので、長く愛用することができそうです。今後はBluetoothコネクタ部分だけの発売も予定されているので、これが登場すればワイヤレス化が簡単にでき、モバイルでのモニタリング環境も実現できるようになります。そのため、今後IE 100 PROを使用する人は増えていきそうですね。
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