『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』の楽曲制作の要になったTASCAM Model 16。スクウェア・エニックス 鈴木光人さんにインタビュー

昨年発売され大ヒットを記録した「FINAL FANTASY VII REMAKE」。6月10日には、その続編「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE」がリリースされました。その中で、オリジナル楽曲のアレンジや新曲の制作を手掛ける鈴木光人@MitsutoSuzuki)さんは、これまで「FINAL FANTASY XIII-2」「LIGHTNING RETURNS : FINAL FANTASY XIII」「スクールガールストライカーズ」といった作品に参加されています。

今回の楽曲の制作は、やはりコロナ禍で自宅での作業中心となり、従来とは環境が大きく変わったとのこと。その自宅スタジオを支えるミキサーコンソールを探していた中、TASCAMModel 16を導入した結果、非常に快適な環境を構築できたとのこと。なぜこのModel 16を選んだのか、実際にどのような使い方をしているのか伺ってみたところ、単なるミキサーというより、まるで楽器のような位置づけで活用しているようでした。多くの人が興味を持つ、ゲームミュージックの制作がどのように行われているのか、その裏舞台をインタビューしてみました。

「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE」のサウンドはTASCAM Model 16がキーとなって生み出された
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--「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE」のリリース、おめでとうございます。改めて、この作品の制作の中での鈴木さんの役割について教えてください。
鈴木:昨年リリースされた「FINAL FANTASY VII REMAKE」の新規追加エピソードという位置付けとなり、僕は新曲の作曲とオリジナル楽曲のアレンジを、30曲程担当しています。そして「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE」より、追加BGM楽曲を厳選し収録した「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack」が6月23日に発売されました。「FINAL FANTASY VII REMAKE」のサウンドトラックは、初回生産限定版で8枚組、通常リリース版で7枚組と、かなりボリューミーでした。今回の「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack」は、8枚まではいきませんが、3枚組と豪華な内容となっています。前作同様に社内外の作家さん達と一緒に作り、ジャンルを問わずバラエティ豊かな楽曲がゲームを盛り立てているので、ゲーム同様に楽しんでいただければ嬉しいです。「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE」の楽曲制作を手掛ける鈴木光人さんにお話しを伺った

--具体的に今回の作品の話に入る前に、鈴木さんご自身の制作環境というか、これまでどんな機材変遷をされてきたのか、少し過去についてお伺いできますか?
鈴木:中学1年の時に4TrのカセットMTRで多重録音を始めて、これが今の音楽制作の土台となっています。4Trだとさすがに限界があり、高校に入ったころに、TASCAMのPORTASTUDIO 488という8TrのMTRを購入したことで、音作りの幅が一気に広がりましたね。音源としてはRolandのドラムマシンであるTR-707やTR-606、またシンセはJUNO-106やJX-3Pなどを使っていました。実は、これら、いまも現役で使っていますよ。

--8chのMTRの後は、どんな機材を使っていたのですか?
鈴木:時代的に、デジタルに移行していったのですが、Roland VS-880を経てCubase VSTへと移り、その後レコーダーはずっとCubase。そして今はNuendoです。ちなみにCubaseはATARIで動くものを使ったのが最初で、その後もMIDIシーケンサとしてMac版を使っていましたね。一方で、この会社に入る前に勤めていた、京都のゲーム開発会社では16chミキサーのTASCAM M-2516を使っていたので、TASCAM製品は馴染み深いです。当時4UサイズのTASCAM X-48というデジタルレコーダーが販売されていたのですが、とても値段が高かった記憶がありますね。雑誌を眺めながら思いを馳せていました。

--現在はご自宅で仕事をしていることがほとんど、ということを先日伺いましたが、このコロナ禍になる前は、どんな環境で仕事をしていたのですか?
鈴木:会社にWorkroomと呼んでいる制作室があり、そこにはレコーディング機器としてはCubaseやRMEのオーディオインターフェイス、大量のソフト音源に加えProphet 5やRoland INTEGRA-7、EVENTIDE DSP4000などがあり、出社してこれらの環境を利用して制作をしていました。オケ系などの生楽器を使うケースも多く、その場合は国内外問わずレコーディングスタジオに行くケースがほとんどでしたね。ミックスやマスタリングも社内ではなく、外注さんにお願いしたり、外のスタジオで行う事が多いので、一緒に作業をする人に合わせ臨機応変に対応しています。面白い音や場所、そして一緒に音を出したいアーティストがいれば基本出向くスタンスで。もちろんゲームの方向性に合わせてですけどね。

コロナ前は会社のWorkroomで作業することが多かった

--それが、いまではリモート環境での仕事になったわけですね。具体的には、どんな環境で作業しているのですか?
鈴木:もともと、自宅の作業環境と会社の環境を同じにしていて、ほぼ同じ機材、同じソフトにしていたので、すんなり移行できました。最初の非常事態宣言が発出された当時、「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE」の制作が動き始めるタイミングで、作曲する事に関しては大きく困ることもなく作業を自宅で続けることができました。あとはスピーカーのモニター環境が重要で、これも会社と自宅でFOCALに統一しています。音量の加減に違いがあるので、会社はFOCAL Shape 50で、自宅ではFOCAL Shape 40を使っていますが違和感はないですね。部屋の大きさに合わせてるので、ちょうど良いバランスで鳴っています。

現在は、自宅に会社と同じ環境を整えて作業を行っている

--作業環境を同じにしているのであれば、どちらでも一定のクオリティが発揮できそうですね。でも、ゲームの楽曲制作の場合、単にアルバムとしてリリースするというのではなく、ゲームに実装することが重要になるわけですが、どのような工程を経てゲームに実装されるのですか?
鈴木:まず楽曲デモができた段階で、ゲーム全体の音楽を取りまとめているディレクターに確認を取ります。尺の問題や方向性の変更など修正がある事もありますが、なるべくそうならないように事前に細かく決め込みます。最近では、このチェックの工程でゲームの動画に音楽を貼って確認してもらうことが多いですね。やはりバトルシーンと楽曲が合っているか確認するのに、絵がある方が圧倒的に分かりやすく、もともと動画を観ながら楽曲を作っているので、MOVファイルで共有しています。具体的にはNuendoのプロジェクトからそのまま動画で書き出せるので、以前と比べてかなり楽になりましたね。そして、楽曲が一旦OKになったら、まだデモミックスの段階なので、必要に応じてシンセやドラムなど生楽器に差し替えたり、ダビングをしてブラッシュアップを行います。差し替えが終わったら、ミキシングエンジニアにデータを送って、ミキシングしてもらいます。実装に合わせて尺変更やインタラクティブ対応の為にステムミックスを扱うことが増えてきたので、ステムミックスとバックアップを兼ねてパラでもらう事が多いですね。そしてスクエニサウンド部内のBGM実装やバランスなどの演出担当をしてるミュージック・スーパーバイザーによって、作家さんの楽曲を取りまとめ、ゲームに実装されていきます。サントラの場合は、ゲームとは別でマスタリングを行っています。サントラの楽曲は、ゲームとフォーマットも違ったりするので、尺や構成などまとめ直して1つの作品として楽しんでもらえるように調整を行っています。楽曲の完全体として「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack」に収録しています。

--なるほど、ステムでデータを渡しているので、ゲーム側でさまざまな展開ができるんですね。ところで、今回の自宅での制作において、TASCAMのModel 16を駆使した、という話を伺いましたが、導入の経緯などを教えていただけますか?
鈴木:購入したのは、自宅での作業になってしばらくした昨年10月ごろです。ちょうど「FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE」の開発が忙しい時期でしたね。アナログ的に操作ができ、すぐにパラ出しができて、オーディオインターフェイスにもなる多機能なミキサーをずっと探していたんです。会社のブースには、MACKIEのアナログ卓があり、使い方としてはただ単純に音をまとめるだけでなく、リアルタイムにミュートやエフェクトを駆使した楽器の一部のような感覚で使っていたので、自宅にもミキサーが欲しかった。いろいろ探していた中、最初にModel 12の存在を知り、これがいいなぁと。そうした中、ちょっと機能は異なるけれど、16chあるModel 16を知り、これだ!、ということになったのです。もちろん、ミキサーはなくても音楽を作ることは可能です。でもDAWだけで作るのとは確実に工程や結果が異なるので、僕にとってはやはり必須だったと改めて実感しています。あとミュートを失敗して想像と別の形になる事もあって、こういう要素はディスプレイを見ながら作る限りでは起こりにくいアナログ的な嬉しい誤算です。つまり壊すことも再構築する事も、結果が早いというわけです。

鈴木さんが導入したModel 16。これまでもミキサーを活用して作曲を行っていたとのこと

--楽器の一部としてModel 16を使う、というのはどういうことですか?
鈴木:さまざまな機能があるから、ここで音作りができたり、発想が広がるのです。たとえばModel 16は、MTR機能も持っているので、1人でジャムするときでも簡単にマルチで記録できるのは素晴らしいですね。またライブのときにも僕はミキサーを使うのですが、これまでの場合だと一度ミキサーに楽器を繋いで、オーディオはマルチでオーディオインターフェイスからミキサーにパラって使う事が多いのですが、Model 16はミキサーとオーディオインターフェイスの2役こなせるので、すごく手間が省けます。USB1本でDAWからModel 16にパラれるので、ステレオグループ×4の場合なら物理的にオーディオケーブル8本を省け、しかも一発で認識してくれるのでトラブル回避にもなりますよね。ほかにも、Cubaseすら立ち上げずにメモ的にギターやドラムマシンをModel 16に録音できるのも便利ですね。メモではあるのですが、実際はサンプルとして本番にも使ったりもしますし、アイディアを確実に記録できるのは嬉しいところです。瞬間的に生まれる響きやノイズ、残響など偶発性を逃す事なく記録する、そこが僕にとってはかなり重要な部分なのです。またエフェクタもModel 16に繋げているので、チャンネル返しにしてエフェクト成分だけを一緒に録音できるところも気に入っています。Model 16を導入したことによって、作品の自由度が増し実験が楽にできるようになりました。欲を言えばセンドとチャンネル数が増えれば言うことなしですが、これはスペースの問題もあるので(笑)

いろいろなアナログシンセと同様、ミキサーも楽器の一部として利用している

--実際Model 16を使ってみて、音質についてはどうですか?
鈴木:音は、ナチュラルで脚色されていなくて、好感を持ちました。会社で使っているMACKIEと比べるとEQにエグさがないので、僕にとっては少し物足りないですね。といっても、微調整という意味でのEQだと思うので、それでいうと全然問題ありません。たとえば、アナログシンセの面白いところは、リアルタイムにツマミを変えたりすることで、DAWでも録音したりエフェクトを掛けられるのですが、フィジカルにツマミいじった方が早いじゃないですか、EQにしても両手を使えるわけなので。

EQが搭載されているので、これを使って音を整える場合もあるとのこと

--Model 16が大きな武器になったようですが、ほかに自宅だからできた面白いことってありますか?
鈴木:うですね。またTASCAM製品になってしまうのですが、先日中古で、TASCAM 112MKIIという業務用のカセットデッキを購入したんです。最近カセットテープにハマっていて、昔のカセットをよく聴いているんですよ。2ヘッドのカセットデッキになっているので、録音しながら録り音をアウトできる。これをオーディオインターフェイスに挟むことにより、テープコンプに使ったりピッチシフトしたり良い「味」を作り出してくれるんです。そして好きなサウンドを精査すると使うものが厳選されます。結果、昔から使い続けてる機材と一緒にModel 16のようなハイブリッド機材を加え、表現の幅やアイデアを広げる形が面白いですね。これらをうまく活用しながら自宅ならではの音作りを続けていきたいですね。でもハード機材って大きいから、常に配置が悩みの種なんですけどね(笑)

TASCAM 112MKⅡ(上)をエフェクトとしても使用している

--ありがとうございました。

鈴木光人(mitsuto suzuki)
スクウェア・エニックス所属の作曲家。
『ファイナルファンタジー VII リメイク』、『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』、『メビウス ファイナルファンタジー』、『スクールガールストライカーズ』などを担当。
近年ではゲームのみならず、TVアニメ『スクールガールストライカーズ Animation Channel』の楽曲制作、音楽専門誌での機材レビュー執筆や舞台音楽の制作にも携わっており、多方面で才能を発揮している。
SQUARE ENIX MUSIC Official Blog「鈴木週報」
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/suzuki/

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FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE情報

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