50年代モデルのギターサウンドを再現するNative Instruments、Session Guitarist Electric Vintageの実力

先日、Native Instrumentsから新しい音源、Session Guitarist Electric Vintageが13,400円で発売されました。Native Instrumentsの製品ページを見ると、直接的な記載はありませんが、「希少な初期USAモデルに搭載されている2つのシングルコイルピックアップの特徴的なトーン」とあるので、おそらくFenderのテレキャスターの50年代モデルをベースにした音源かと思われます。いわゆるサンプリング音源であり、ダウンロードサイズは8.6GBとかなりな容量ではありますが、まったくギターが弾けない人でもまさにプロギタリストさながらの演奏を簡単に再現できるというWindows、Macで利用可能なプラグイン音源です。

ロック、R&B、ファンクサウンド、エレクトリックポップ……さまざまなジャンルにおいて、ストラム、オープン、ミュートのコード、リフ、アルペジオ、ハーモニクス、ピンチハーモニクス、リバースパターン、グリッサンド、デッドノート……などを組み合わせながらさまざまなスタイルの演奏が可能となっています。実際どんなものなのか試してみたので、紹介してみましょう。

Fenderのテレキャスターの50年代モデルをベースにしていると思われるSession Guitarist Electric Vintage


まずは、このSession Guitarist Electric Vintageを使ったデモ曲がNative Instrumentsのサイトにあるので、このサウンドを聴いてみてください。


Plucky pop number with ELECTRIC VINTAGE on the lead, featuring bass and from MASSIVE and drums from CRATE CUTS.
どうですか? 誰が聴いても、ギタリストが演奏したギターとしか思えないサウンドであり、テレキャスターのサウンド。ミュート、カッティング、ソロでの双方など複数のギターサウンドがありますが、いずれもElectric Vintageを使ったサウンドであり、打ち込みによって作られたサウンドとなっているのです。

Native Instrumentsの製品についてあまりご存知ない方に、簡単に説明しておくと、同社では数多くのKONTAKT音源(KONTAKTライブラリーなどと呼ばれることもある)と呼ばれるサンプリング音源を数多く出しており、このElectric Vintageもその一つ。そのKONTAKT音源にはストリングス系のもの、ブラス系のもの、シネマティック系のものなどいろいろありますが、このElectric Vintageは、ギター系の中のSession Guitaristというシリーズのひとつ。これまでもレスポールタイプのギターを元にしたElectric Sunburst、1973年製のMartin 00-21をモデルにしたPicked Acoustic、1934年製Martin 0-17とGuild F-412をモデルにしたStrummed Acoustic 2など5種類がありましたが、今回6種類目としてテレキャスを元にしたと思われるElectric Vintageが加わったわけです。

以前からあるSession Guitarist Electric Sunburst

ちなみにNative Instrumentsは、数多くの製品をセットにしたKOMPLETEという製品を出しており、4つあるグレードによって、入っているものが異なりますが、KOPLETEについては以前「Native Instrumentsから待望の新バージョンKOMPLETE 13が誕生!同日発表されたGUITAR RIG 6 PROも加わり、より強力に」という記事で紹介しているので、そちらを参照してください。

Native Instruments数多くの音源やエフェクトなどをセットにしたKOMPLETE 13 ULTIMATE Collector’s Edition

このKOMPLETE 13が発売された時点では当然、Electric Vintageは発売されていなかったので、最上位のULTIMATE Collector’s Editionにも入っていないので、KOMPLETEユーザーであっても別途購入することが必須となります。

さて、Electric Vintageを含め、すべてのKOMPLETE音源を利用するためには、予めKONTAKTもしくは無料で入手可能なKONTAKT Playerというプラグインソフトをインストールしておく必要があります。DAW側から見ると、あくまでもKOMPLETE(もしくはKOMPLETE PLAYER)というインストゥルメントなわけです。

Electric VintageはKONTAKTのライブラリとなっている

これらKONTAKT音源の面白いのは、単にサンプリング音を読み込んで鳴らすための音源素材ではなく、ここにさまざまな機能が搭載されており、まさに独立した一つのソフトウェア音源になっている、ということ。実際、KONTAKT上でElectric Vintageを読み込むとGUIが現れ、ここでさまざまな操作、音作りができるようになっているのです。英語ではあります、以下のYouTubeの機能紹介ビデオを見ると、どんなことができるのかだいたいわかると思います。

では、もう少し具体的に見ていきましょう。KONTAKTのライブラリを見ると、Electric Vintageには

Electric Vintage(Melody).nki
Electric Vintage.nki

という2つのインストゥルメントが入っています。とりあえず、Electric Vintage.nkiのほうを選んで起動すると、メイン画面が登場してきます。

KONTAKT内でElectric Vintage.nkiを立ち上げると、専用のUIが画面右側に表示される

ここで接続されたMIDIキーボードでC3=中央ドを押してみると、それだけでCのコードでフレーズが演奏されるんです。続いてD3を押せばうまくつながる形でDのフレーズで演奏されます。聴いていると、まさにギタリストが弾いているような感じです。

デフォルトのプリセットであるRolad Tripが読み込まれている状態でMIDIキーボードを弾いてみると…

デフォルトではRoad Tripというプリセット名になっていますが、右矢印ボタンをクリックして、Cold lake、Van Life、Plain Octaves……とプリセット切り替えながら、同じように1本指で鍵盤を鳴らすと、まったく違った音色、違ったフレーズで演奏できます。もちろん、プリセットの一覧から選択することも可能となっています。

SONG BROWSERを開くことで、プリセットの一覧を表示させて、この中から指定できる

もし、ギターの音色が出せるだけの音源だとしたら、ギター奏法を熟知した上で、MIDIによる巧みな打ち込みをしないと、ギターのフレーズを表現するのは難しいのですが、このElectric Vintageなら、指一本で華麗なギタープレイができてしまうのです。

また単にC、D、E、F、G…というメジャーコードだけでなく、キーボードでコードを押さえるElectric Vintageがそのコードを認識し、Amだったり、D7だったり…とコードでフレーズを弾いてくれるほか、AutoChordsという画面を開いてコードを指定することも可能となっています。

AutoChordsを開くことでキーを指定したり、コードを指定することができる

また、ほかのKONTAKT音源と同様、同じプリセットであっても、複数のパターン、アーティキュレーション(奏法)を切り替えて使えるのも大きな特徴です。たとえば、Funk Packというプリセットを選んで、C3を押すと、いかにもファンクという感じのカッコいいカッティングギターフレーズが演奏されるのですが、画面にあるC#1 Funk Pack BやD1 Funk Pack Cをマウスで選んでからC3を押すと、同じ音色ながら、違ったパターンで演奏されます。

Patternsタブにおいてパターンを指定することで、演奏されるパターンが変化する

ここではマウスで選択しましたが、MIDIキーボードでC1、C#1……F1を指定することでも同様の切り替えが可能です。つまり、この低いキーは演奏用ではなく、パターンを切り替えるためのスイッチとして機能するんですね。これは右下の鍵盤のアイコンをクリックすると、明示されるようになっており、ほかにもG#1~A#1はエンディングで使う奏法、Bはスライド奏法となっています。

パターンやエンディング、スライドなどを指定できるキーボードを表示

ところで、先ほどElectric Vintage.nkiを選択しましたが、Electric Vintage(Melody).nkiを選択するとどうなるのでしょうか?SONG BROWSERで見るプリセットは、先ほどと同じだし、同じ音色の音が鳴るのですが、こちらはバッキングというよりソロを演奏するのをメインにした音源になっており、打ち込んで1音1音鳴らしていく形です。

Electric Vintage(Melody).nkiのほうだと、アーティキュレーションの指定ができる

こちらも、先ほどと同様、低いキーをスイッチとしていろいろ切り替えるのですが、C1はオープン、C#1はミュート奏法、D1はフラジオレット、D#1はトレモロと、アーティキュレーションの切り替えスイッチとなっています。一方でE1~G1はElectric Vintage.nkiと同じようにパターンの切り替え用で、これを使えば指一本でパターン演奏ができるわけです。

このように数多くの音色、パターン、アーティキュレーションを持っているElectric Vintageですが、演奏や音作りという面では、そこに留まりません。

Guitar Settingsタブを開くと、ギターの各種設定ができ、これにおってサウンドも大きく変わってくる

Guitar Settingsというタブを選ぶと、いろいろなパラメータが表示されますが、ここでテレキャスターのさまざまな設定ができるようになっているのです。たとえば左上のPICKUP SELECTIONではピックアップをブリッジ側のものを使うか、ネック側のものを使うのか両方同時に使うのかをセッティングでき、同時に2人で弾いたようなニュアンスにするためのDoublingというスイッチもあります。またELECTRIC SIGNALではボリュームやトーンの調整、MICをオンにするとピックアップの代わりにマイクを取り付けて鳴らしたような音にすることも可能です。

さらに、MUTED NOTESではミュート奏法の場合の音の長さというかディケイの状況を調整できたり、VELOCITYではベロシティ・レンジの調整、NOISEではフレットノイズやフロアノイズの大きさを調整し、最後の右下ではチューニングの調整ができるという形です。

Amps&FXタブでは、ペダルエフェクトやアンプ、キャビネットなどの設定ができる

そしてAmps&FXではより積極的な音作りが可能となります。このタブを開くと、予めプリセットに設定されているストンプエフェクトやギターアンプモジュール、キャビネットなどが表示されるほかリバーブなどが設定されています。ここにあるアンプのキャビネットを選択すると、そららのパラメータを調整し、大きく音色をエディットしていくことができるのです。

Amps&FXで利用可能なエフェクトやアンプなどはいろいろな種類がある

そのこの辺からもわかる通り、Electric Vintageはサンプリング音源ではありますが、アンプを通して鳴らした音がサンプリングされているというわけではなく、テレキャスターの音そのものがサンプリングされており、そこにアンプ、キャビネット、エフェクトなどを通すことで、本物のギターサウンドとして鳴らすことができるようになっているんですね。

もうひとつ、Playbackというタブもありますが、こちらはスウィングのさせかたや、正確過ぎない人間らしい弾き方にするためのHUMANIZEというパラメーターなどが並んでおり、これらによっても雰囲気が変わるようになっているのです。

Playbackタブでは、スウィングやヒューマナイズなどの設定が可能

まだまだ説明しきれていませんが、こんな多くの機能を持ちながら、誰でも簡単にカッコいいギターの演奏ができてしまうのが、Session GuitaristのElectric Vintageなのです。これだけのものが13,400円で手に入ってしまうというのはちょっと驚きの価格かな……と感じるところです。ちなみに、前述のSession Guitarist Electric Sunburstはスタンダード版が13,400円、ソロ用のMelody音源も入ったデラックス版が20,100円という価格設定。このElectric Vintageはスタンダード版、デラックス版というように分かれてはいませんが、Electric Sunburstでいうところのデラックス版に相当する内容なので、かなり割安という印象でもあります。

この記事だけでは紹介しきれない部分もあるので、3月16日に放送予定のDTMステーションPlus!で、実演を交えつつSession Guitarist Electric Vintageについて紹介していきたいと思います。この日は、音楽プロデューサーの木内友軌@TomokiKiuchi)さんをゲストにお招きし、実際にFenderのテレキャスターとも比較しつつ、どのように活用するといいのかなども、紹介していく予定です。ぜひ、こちらもご覧になってみてください

【DTMステーションPlus!】第169回
2021年3月16日 20:30~22:30

YouTube Live : https://youtu.be/xBRbayTbbqQ
ニコニコ生放送 : https://live2.nicovideo.jp/watch/lv330869840

【製品情報】
Session Guitarist Electric Vintage製品情報

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