以前「ユニークでポップなUIのプラグインメーカーGoodhertzが生み出した80s、90sのサウンドにするコンプ、Vulf Compressor」という記事でも紹介したことのある、シンプルなUIと高いサウンドクオリティーが特徴のプラグインメーカー、Goodhertz(グッドヘルツ)。2014年に設立された比較的新しいアメリカのカルフォルニアの会社で、”Simple Interfaces&Good Audio”をモットーにプロデューサー、エンジニア、ミュージシャン…、などに向けたユニークな製品を次々とリリースしています。そのGoodhertzの数々のプラグインの中で、今回ピックアップするのは、Panpotというもの。
クリストファー・ノーラン監督の映画「TENET (テネット)」でも使用されたこのPanpotの使い方は至ってシンプル。ですが、4つの異なるパンニングモードにより、これまでのパンの概念を覆すエフェクトとなっています。1970年代にステレオが普及してから、伝統的なオーディオレベルのパンが使用され続けていますが、これはあくまでは単純に左右の信号のレベル差をコントロールしているだけ。それに対しGoodhertzのPanpotは、レベル以外のツールを使って作り出す広がりや深みを、想像通りにコントロールすることができます。エンジニアからの評価が高いGoodhertz Panpotを実際に使ってみたので、紹介してみましょう。
クリストファー・ノーラン監督の映画「TENET」のサウンドメイクに使われた、魔法のパンポット Goodhertz Panpot
Goodhertzは、既存のハードウェアの良さを意識しつつ、あえてシンプルに使い勝手を優先したプラグインデザインが特徴的なプラグインメーカー。すべてのプラグインが、WindowsおよびMacに対応し、WindowsにおいてはVST2、VST3、AAXの環境で動作し、MacはVST2、VST3、AU、AAXの環境で動作するようになっています。また全パラメーターを日本語化することも可能。さらに、どのプラグインも動作が軽く、多用しても楽曲制作を快適に行うことができます。製品数は、現在14種類あり、以下のようになっています。
CanOpener Studio | ヘッドフォンをモニタースピーカーに変換 |
Vulf Compressor | Vulfpeckと共同開発したコンプレッサー |
Tone Control | Peter J. Baxandall のオリジナルの回路を元に設計されたEQ |
Trem Control | 古典的でありながら、現代のサウンドにマッチしたトレモロ |
Lossy | リアルタイムに圧縮した音源を再現するプラグイン |
Lohi | スイープとリアルタイム制御用に特別に設計されたフィルタープラグイン |
Faraday Limiter | 温かなテープサチュレーションのあるリミッター |
Panpot | 新しい概念のパンポット |
Good Dither | シンプルで使いやすいディザー |
Midside | シンプルさとパワーを併せ持つイメージャー |
Tiltshift | 新しいタイプのチルトEQ |
Midside Matrix | Midsideの無料版 |
Wow Control | アナログテープのモジュレーションに焦点を当ててプラグイン |
Megaverb | 80年代のリバーブエミュレーション |
いろいろな種類のプラグインが存在しますが、今回ピックアップするのは、Panpot。これは、映画「TENET テネット」のサウンド作業全般に使われ、特にこの作品はオーケストラを演奏者たち各自の家で個別に収録したので、Panpotが決定的な役割を果たしたとのこと。まずは、デモビデオがあるので、ちょっとこちらをご覧ください。
これはヤバイ!って感じがしますよね。ヘッドホンで聴いても、スピーカーで聴いても、普通のパン操作とは比較にならない立体的なサウンドに感じられます。
そもそも、人は音を聴いて、空間を把握するときは、4つの主要なカテゴリを手掛かりにしているといわれています。それは、
・時間差
・左右前後の聴こえ方
・距離の影響
のそれぞれ。しかし、1970年代にステレオが定着してから使われているパンでは、単純に左右の信号のレベル差をコントロールすることしかできません。もちろん、普段使っているように左右の信号のレベル差をコントロールするだけでも、十分パンニングを調整できますが、ステレオフィールドで音に広がりや深みを与える際には、ほかのツールを併用する必要があります。
Panpotは、左右の信号のレベル差をコントロールする一般的なパンを含め、4つの異なるパンニングモードを装備しているため、自由に楽器を配置するために役立ちます。Panpotに搭載されている、パンニングモードは、
・ディレイパン(DELAY)
・スペクトラルパン(SECTRAL)
・フェイズパン(PHASE)
です。このうちレベルパンでは、ほとんどのオーディオコンソールに搭載されているような、従来のパンのように定位を調整することができます。Panpotは、上部にある左右にドラッグするスライダーで、全体のパンの位置を調整します。Panpotに装備されている4つのパンニングモードは、すべてこの1つのマスターパンでコントロールされます。レベルパンを100%にした状態で、マスターパンを操作すると、従来のパンのように使うことができるわけです。一方、レベルパンを0%にすると、マスターパンを動かしてもセンターに音が配置されるようになります。0%で完全にオフ、100%で効果が最大限になるようになっているので、その間で微妙な調整を行うことができます。
ディレイパンは、左右の定位を音の遅延効果によって作り出します。ステレオのバランスを崩すことなく定位を決めることができ、奥行きと広がりを強調するので、立体的な音響効果を得たいときに使用します。また、極端にパンニングするのではなく、音像を中心から移動させるときに効果的に使えます。さらに、デフォルトではディレイパンの倍率は1x(0.7 ミリセコンド)になっていますが、倍率を上げることで、最高ディレイタイムを延ばすこともでき、ダブルトラッキングと同様な効果を生み出します。
ディレイパン。左右の遅延効果によって、定位を決めるパンニングモード
スペクトラルパンは、ステレオのサウンドの音色を変化し、高い周波数をパンの方向へ広げていきます。特に高い周波数の成分がある音源には効果的で、低域成分を中央よりにしっかりした音像で保ちながら、広いステレオフィールドのイメージを作成できます。ローエンドが不鮮明にならずに鋭いステレオイメージを作りたいときに使用します。
フェイズパンは、珍しいタイプのパン効果が得られます。左右のチャンネル間に一定のフェイズシフトを起こすことで、定位を作り出します。ディレイパンと同様にステレオレベルのバランスを崩すことなく、左右のチャンネルの位相差により定位を決定します。フェイズパンは、ステレオイメージを強めるエフェクトとして使うと効果的で、ほかのパンニングモードと比べると、パンの可動域は狭く、音の拡散力があるので、ステレオイメージを広げることが可能です。
また、Panpotの詳細設定をサイドバーの「・・・」のアイコンから行うことができ、LRのトリム、極性スイッチ、入れ替え可能。ステレオ幅では、ステレオフィールドの幅を0%~200%まで調節でき、ステレオ幅を小さくすると、ステレオフィールドが狭くなり、中央の音像が強調されます。パンローでは、左右に定位させたときと比べ、センターの音源が大きく聴こえてしまうの考慮して、センターの音量を下げる設定を行うことができ、Stereo Balancer、-2.5 dB、-3 dB、、-4.5 dB、-6 dBから選択できます。Stereo Balancerは、ステレオミキサーによく使われていて、-3 dBはCubaseなどで使われています。また-4.5 dBはSSLコンソールで使われていることがあります。パンボリューム補償は、マスターパンがセンターに定位しているとき、レベルが落ちないように、レベルパンにコンプレッサーをかけます。パングライドタイムでは、マスターパンが左の-100%から右の100%まで移動する時間を10ms~2500msで調整できます。
Panpotの機能はシンプルなものではありますが、定位を決めるのは、ボリューム調整ぐらい基本的な技術で、大切な要素です。従来の手法であれば、クラシックなパンと複数のエフェクトを使って、空間を作る必要がありましたが、Panpotを使えば、これだけで思った通りに音像を配置できるのはいいですよね。また4つのパンニングモードの比率を自由に設定できるので、意図していなかったけれど、面白い使い方も見つかるかもしれません。この機会に、このユニークなPanpotを入手してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
【価格チェック&購入】
◎beatcloud ⇒ Panpot