Berglund Instruments社から発売されているNuRAD(ニューラッド)とNuEVI(ニューイーヴイアイ)という機材をご存知ですか?Steinerphoneの系譜を継いだNuRADはサックスの運指で音源を鳴らすことのできるウインドコントローラーで、EVIの系譜を継いだNuEVIはトランペットの運指でコントロールできる電子バルブ楽器MIDIコントローラーとなっています。この2つの開発には、Akai ProfessionalのウインドシンセサイザーEWIシリーズの祖先ともいえるEVIとSteinerphoneを開発したNyle Steiner (ナイル・スタイナー)氏が関わっており、1本1本ハンドメイドで生産されています。この両機種は、本体に音源を持っておらず、PCや外部音源に繋いで演奏するMIDIコントローラーなのですが、USB出力やMIDI出力のほかにも、CV出力を持ち合わせており、モジュラーシンセなどMIDI入力の無いビンテージシンセをコントロールすることもできます。
国内ではコウスキミュージックアンドサウンド株式会社が代理店となっており、島村楽器新宿PePe店では世界で唯一試奏することが可能です。ウインドシンセ/コントローラーとして、フラグシップに位置する両機種について、ウィンドシンセプレイヤーのBANANAsuさんとAKAI公式EWIエンドーサーよしめめさんにインタビューしてきました。普段ウインドシンセ/コントローラーを使っているからこそ分かるNuRADとNuEVIのすごさなど、面白い話を聞くことができたので、紹介してみましょう。
NuRADとNuEVIの魅力をよしめめさん(左)、BANANAsuさん(右)に話を伺った
さっそくですが、AKAI公式EWIエンドーサーでもある、よしめめさんに演奏をしていただきつつ、NuRADについて説明していただいた動画があるので、こちらをご覧ください。
いかがでしょうか?音は、NuRADをUSBケーブル1本でMacと接続し、そこで立ち上げているIFWというウインドシンセ用の音源を使って鳴らしています。このIFW、フリーウェアとしてネットで無償配布されているものですが、実はよしめめさん自身もIFWの開発メンバーの一人なのだとか! 動画の収録はiPhone 12 Proを使っていて、当日部屋に設置したYAMAHA MSP3から鳴らした音をiPhone内蔵マイクで捉えているのですが、雰囲気は伝わると思います。
よしめめさんは、自分たちで開発した音源、IFWをMacのMain Stage 3上のプラグインとして使用
NuRADの運指は、サックスやリコーダーと同じで、オクターブの移動は背面のローラーを使って、変更することが可能です。キーの配置やオクターブローラーについて、「今までのウインドシンセは、平らなところにキーが配置されていたのに対し、NuRADは斜めに配置されているため、指離れがよく、これまで難しかった高速な運指が可能になっています。オクターブローラーに関しても、通常のものよりも径が細く、これも気に入っている点です。1オクターブ以上ジャンプするときにオクターブローラーをスライドさせて使うのですが、径が細いことによりスライドが楽に行えるんです」とよしめめさん。
背面に搭載しているオクターブローラーを使って、オクターブを操作する
ベンド機能も右手の親指部分で行うことができ、口元にはバイトセンサーが搭載されてため、ここでビブラートやポルタメントタイム、さらには任意のCCをアサインできるので、表現の幅が大きく広がります
NuRAD/NuEVIのマウスピースにはバイトセンサーが搭載されてため、ここでビブラートやポルタメントなどを調整可能
「NuRADで使える基本的なスキルやテクニックはEWIと同じです。NuRADは、細かいところを見たときの操作感がよく、特に気に入っている点は、マウスピースの部分です。初代EWI1000と同じ仕様となっているのですが、息が抜けないように設計されています。通常の管楽器は口を全部閉めておいて、息を通します。通した息は、どこかの穴から出ていくように作られている一方、NuRADやSteinerphone、EWI1000などは息が抜けないようにできています。つまり吹くときには必ず、口の端から息を漏らすようコントロールする必要があります」とよしめめさん
それは感覚的に考えて、すごく使いづらいようにも思うのですが「管楽器的には、息が抜けないのはあり得ないのですが、ウインドシンセ的には息が抜けない形のマウスピースはメリットしかないんです。息が抜けないことによって、音をソリッドに出すことができます。もし息が抜けてしまうと、音がだるい動きになってしまいます。EWIなども排気する息の量をごくわずかにしているため、息が余ってしまうといわれるのですが、それは息を漏らすスキルを持っていないから起きることです。世の中のウインドシンセには、息が抜けるタイプのウインドシンセと息が抜けないタイプのウインドシンセがあるのですが、僕は息が抜けないタイプが好きなんです。息を漏らす量をコントロールすることで、ダイナミクスを緻密にコントロールできたり、クレッシェンドを情感豊かに表現できたり、ふわっと音を鳴らすこともできます。ウインドシンセは、これ自体が楽器なので、この楽器ならではの奏法を覚えると、NuRADのよさが分かると思います」とよしめめさんは解説してくれました。
さて、NuEVIについてもBANANAsuさんに、演奏をしてもらいつつ、説明していただいた動画があるので、ご覧ください。
こちらの音源は、Roland MC-101を使っており、MIDIケーブルで接続し、同じくYAMAHA MSP3から音を鳴らしています。NuRADにはUSB、MIDI、CV出力、NuEVIにはUSB、MIDIとCV出力が2系統搭載されています。NuRADのCVはピッチのみ、NuEVIのCVはピッチとブレスが付いており少し構成が異なっているのです。
NuEVIの運指は、トランペットと同じで3つのキーを操作する形となっています。トランペットは口元で倍音を変えるのですが、NuEVIは丸いアーチ状のセンサーを使って、ドレミを演奏をします。オクターブはオクターブローラーを使って変えることができ、運指や奏法、端子に多少の違いがありますが、搭載されている基本的な機能はNuRADとNuEVIで同じとなっています。
NuRADとNuEVIは奏法に違いがあるが、搭載されている基本的な機能は同じ
そして、基本的には単音楽器であるウインドシンセですが、NuRADやNuEVIはポリフォニックで演奏することができるのがアコースティックの管楽器ではありえないユニークなところです。ハーモナイザーを使って疑似的に和音を作るのではなく、MIDIで和音を作ることができ、ウインドシンセを演奏しているユーザーからみても、非常に嬉しいところです。またポリフォニックの状態で、ベンドやダイナミクスを付けると、ウインドシンセでしかできない表現が可能とのこと。
ポリフォニックで演奏する場合いくつかの設定があるのですが、動画でも紹介しているのがローテートモード。これは、発音した音に対して何度重ねるか設定を行い、4つ動くルートの音を決めます。A、B、Cの3つまで、保存することができて、これを使うと動画のような演奏ができるようになります。次に紹介しているサスティーンモードでは、重ねた音を別の運指にしても使えるようになり、オクターブも重ねて音を厚くしていくことも可能です。ポリフォニックの機能としては、ローテートモード、サスティーンモード、サスティーンで固定した音を平行で移動させるモード、オクターブを重ねる機能などがあり、モノフォニック以外の演奏ができるのはNuRAD、NuEVI魅力です。
NuRADとNuEVIはポリフォニックを扱うことができるのが魅力
「NuRAD、NuEVIにはエクストラコントロールが搭載してあり、口元にある金属のパーツに触れることMIDI CCを出力することができます。モジュレーションを掛けたり、触れたときだけシンセのボリュームが上がるように設定しておけば、触れたときだけシンセを2つ鳴らしたりすることができます。また個人的な使い方としては、iPadにKORG Gadgetを立ち上げて、スタート/ストップをMIDI CCでコントロールして、触れたときにシーケンスをスタートするように設定していたりします。またLFOを設定しておいて、サックスのファズトーンを再現したりすることもできます。これがあるだけでも表現の幅が広がるので、重宝しています。」とBANANAsuさん。
NuEVIの魅力について、BANANAsuさんにお話を伺った
なお、NuRAD、NuEVIは「電子管楽器NuRAD、NuEVI発売記念キャンペーン!」と題して、2020年12月1日~2月28日まで、カラーオプション代無料、延長保証期間を6か月から1年へ延長、ご購入前の音源セットアップのご提案・サポートを行なっています。価格は、NuRAD Basic Modelが190,000円(税別)、NuEVI Basic Modelが155,000円(税別)となっています。カラーバリエーションは8種類、ほかにもオプションを追加することも可能です。希望のカラーや搭載オプションを選んでから作る完全受注生産型で、スウェーデンからの配送なため、製作含め納期はおよそ2か月ほど掛かるとのことです。
撮影協力 島村楽器 新宿PePe店
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コウスキミュージックアンドサウンド