先日、ギリシャのソフトウェアメーカー、Accusonus社からERA 5 BUNDLEシリーズなるものが発売されました。Accusonusは、音声分析・解析を得意とする会社で、このERA 5はさまざまなノイズを除去したり、音声をより聴きとりやすくすることができるオーディオリペアツールの集合体。いずれのツールも1つのノブを操作するだけで、簡単にオーディオデータのトラブルに対応することができるのが大きな特徴です。このツールを使えば、エアコンのファンノイズを取り除いたり、ボフッという吹かれを取ったり、部屋の反響音を調節したり、声のボリュームを一定に保ったり……することが簡単にできるのです。
ERA 5 BUNDLEは、Voice DeepenerやVoice AutoEQ、Reverb Remover……、といった複数のプラグインで構成され、今回のバージョンで新たに追加されたAudio Clean-Up Assistantを使うことで、一括管理したり、複数のオーディオトラブルに対処することができるのも大きなポイント。1ノブというシンプルなプラグインなので、初心者でも簡単に扱うことが可能ですし、よく発生するトラブルのシチュエーションを想定したプリセットも用意されているので、効率よく仕上げたい方にピッタリだと思います。YouTubeでの配信、動画制作、ボーカルの処理などに使えるERA 5 BUNDLEを実際に試してみたので、紹介してみましょう。
1ノブで操作するAccusonus ERA 5 BUNDLEがリリースされた
Accusonusは、2013年にギリシャで設立された会社。ソフトウェア開発者でもありCEOのAlex Tsilfidisさんは、オーディオ信号処理の博士号と音響学の修士号を持ち、元電子ミュージシャン/作曲家という経歴。ほかのメンバーも音楽をバックグラウンドに持ちつつ、博士号を取っているという、なかなかハイスペックな集団です。
今回紹介するERA 5以外にも、ドラムパートをAIエンジンを使って分解するREGROOVERというプラグインがあったりと、音声分析・解析の技術力があり、どのプラグインもGUIが洗練されているため、簡単に使えるのが特徴です。
さて、ERA 5 BUNDLEですが、ラインナップとしてERA 5 BUNDLE STANDARDとERA 5 BUNDLE PROが用意されています。それぞれのバンドルは対象としているユーザーが異なり、ERA 5 BUNDLE STANDARDは、自分で配信/動画制作をしたり、歌の録音/処理する人向け。ERA 5 BUNDLE PROは、名前の通りプロユーザー向けとなっており、ポストプロダクション用となっています。バンドルしている製品は、以下の通りです。
ERA 5 BUNDLE STANDARD | ERA 5 BUNDLE PRO | |
Audio Clean-Up Assitant | 〇 | 〇 |
Voice Deepener | 〇 | 〇 |
Voice AutoEQ | 〇 | 〇 |
Voice Leveler | 〇 | 〇 |
Plosive Remover | 〇 | 〇 |
De-Clipper | 〇 | 〇 |
Reverb Remover | 〇 | 〇 |
Noise Remover | 〇 | 〇 |
De-Esser | 〇 | 〇 |
Room Tone Match | 〇 | |
Reverb Remover Pro | 〇 | |
Noise Remover Pro | 〇 | |
De-Esser Pro | 〇 |
それぞれのプラグインが具体的になにができるかは後述しますが、表のようにERA 5 BUNDLE PROには
De-Esser Pro
Noise Remover Pro
Room Tone Match
の4つが追加されており、より高度な編集が行えるようになっています。
これらバンドルされているプラグインたちを使って、ハムノイズ/ヒスノイズを取り除いたり、聞き取りやすい音声にしたり、ポップノイズを取り除いたりするわけです。以下の動画は実際にERA 5 BUNDLEを使って、音声を整えていったものです。どのように変化するのか、ぜひご覧ください。
いかがでしょうか?もともと普通の会議室で、ノートパソコンのマイクを使って録った動画なので、部屋の反響音があったり、もともとの音質が悪かったりして聞き取りにくかった声が、かなりいい感じに仕上がっていますよね。ただ、プラグインの効果を分かりやすくするために、一部で極端な掛け方をしていますが、どのように効いているかはハッキリと分かるのではないでしょうか?
では実際どんな処理をしたのか、それぞれプラグインを見ながら紹介していきましょう。基本的にERA 5は、Audio Clean-Up AssistantというERA 5シリーズ製品を最大5つまで設置できるホストプラグインを使い作業をしていきます。このAudio Clean-Up Assistantは、ERA 5にバージョンアップした際に新しく追加されたものであり、Adobe Premiere ProやFinal Cut Proといった動画編集ソフト、OBSといった配信ソフト、Pro ToolsやStudio OneといったDAWで使える、Mac/Windows対応のAU、VST、AAXプラグインです。
Audio Clean-Up AssistantにERA 5シリーズを立ち上げて使用する
またERA 5にバージョンアップした際にVoice DeepenerとVoice AutoEQが追加されています。では、まずVoice Deepenerですが、これは配信や動画などで録った音声が細くなってしまうときに使うツールで、声の太さを作り出すものとなっています。録音した声を普段自分が聞いている声に近づけるツールで、失われた体内で反響した深みや温かみといった要素を復元することで、声に厚みを持たせ、普段自分で聞いている声を再現することができます。
声に厚みを持たせ、普段自分で聞いている声を再現するVoice Deepener
Voice AutoEQは、声の音源に対して自動でイコライジングを行い、明瞭さを向上させることにより、聞き取りやすい音声にすることができます。自分の声データをVoice AutoEQが聴き、その声に対して適切なイコライジングを自動でしてくれるので、EQに詳しくない方でも簡単に使いこなせます。また「AIR」「BODY」「CLARITY」という「高音」「低音」「明瞭さ」の3つを調節可能なので、自分で思った声質を作ることができます。
自分の声に対し適切なイコライジングを自動で行うVoice AutoEQ
ERA 5にバージョンアップして追加されたものは以上ですが、Audio Clean-Up Assistantが追加されたことにより、ERA 4までにあったツールを複合的に使用可能になったので、より幅広く効果的な処理が可能になっています。
Noise Remover 環境ノイズ、ハムノイズ、ヒスノイズなど、各種ノイズの除去/抑制
De-Esser 「s」「z」「ch」「j」「sh」などの歯擦音を自動で除去/抑制
Voice Leveler ボイスのボリュームを分析し、小さい音を自動で上げてくれる。また息継ぎを自動で認識するので、その箇所だけボリュームを上げない設定も可能
Plosive Remover 「p」「t」「b」などを発音した際に起こるマイクへの吹かれを除去/抑制
De-Clipper オーディオのレベルが超えた際に発生する音割れの補修
これら1つ1つは、非常にシンプルなツールなのですが、裏でいろいろすごい処理をしているみたいです。それも、元研究員という音声の分析・解析の専門家だからこそ、できることなのだと思います。さて、冒頭でお伝えした発生するトラブルのシチュエーションを想定したプリセットについて見ていきましょう。Audio Clean-Up Assistantの上部にあるプリセットメニューをクリックすると、プリセットがずらっと表示されます。
ここには、Podcast Readyといったポッドキャストに対応したものやIndoors Vlogといった部屋での録った音声を処理するプリセット、Deep Radio Voiceといったラジオ局から配信しているかのような音声にしていくれるプリセットが用意されています。プリセットを選ぶと、Audio Clean-Up Assistantに対応したERA 5シリーズが読み込まれ、パラメータもいい感じに設定してくれます。もちろんここから、好みの音質に作り込んだり、さらに好きなERA 5シリーズを追加していくことも可能です。まずプリセットを選ぶところから始めれば、どんな処理からしたらいいか分かるので、簡単に使いこなせると思いますよ。
プリセットは、パラメータも設定された上で読み込まれる
ERA 5 BUNDLE PROは4つのプラグインが追加されていることを前述しましたが、これらはAudio Clean-Up Assistant上で使うツールではなく、単体のプラグインとして用意されています。主な機能は、ERA 5 BUNDLE STANDARDと同じですが、プロバージョンのみサウンドの帯域を最大6つに分割し、処理することが可能となっています。Reverb Remover Pro、De-Esser Pro、Noise Remover Proは、AU、VST、AAX対応していますが、現在Room Tone MatchはPro Tools AudioSuiteのみ対応。Room Tone Matchは、それぞれ異なるシチュエーションで録音されたサウンドの音質を揃えて、まるで同じ環境で録音されたかのようなサウンドにするプラグインです。
ERA 5 BUNDLE PROのプラグインは、単体でインサートして使う
ちなみに、ERA 5 BUNDLEは配信ソフトのOBSにVSTプラグインとして挿すことができ、リアルタイムに動作させることも可能です。これを使うことで、簡単に聞き取りやすい音で配信することも可能になるので、OBSを利用している方は試してみる価値は大きいと思います。
以上、ERA 5 BUNDLEについて紹介しました。ノイズ処理やオーディオリペア系のツールでいうと、ほかにもiZotope RXがありますが、それぞれアプローチの仕方が違うので、すでにRXを持っていても、ERA 5 BUNDLEと使い分けることで、より効率よく幅広い素材の処理をできると思います。また片方でうまくいかなかった処理など、補う形で使うこともできますね。もちろん、まだこういったプラグインを持っていない人も、ERA 5 BUNDLEは1ノブでオーディオデータのトラブルに対応できるので、持っていて損はないと思います。また、Rock oN Companyが主催する秋の展示会Creative Gathering2020のWebinar配信で、10/14(水)18:00からERA 5 BUNDLEのセミナーが開かれるとのことなので、興味のある方はぜひご覧になってみてはいかがでしょうか?
※2020.10.20追記
2020.10.13に放送した「DTMステーションPlus!」から、第161回「Roland Cloudで手に入れよう!ZenbeatsとZENOLOGY Pro」のプレトーク部分です。「動画制作、配信、ボーカル処理……など、すべてのボイスデータを1ノブで簡単・キレイに。Accusonus ERA 5 BUNDLE誕生」から再生されます。ぜひご覧ください!
【関連情報】
Accusonus ERA 5 BUNDLE STANDARD製品情報
Accusonus ERA 5 BUNDLE PRO製品情報
【価格チェック&購入】
◎SONICWIRE ⇒ ERA 5 BUNDLE STANDARD
◎SONICWIRE ⇒ ERA 5 BUNDLE PRO