最前線で数多くのアニメ作品の劇伴(げきばん)などを作り続けている作曲家の多田彰文(@akifumitada)さん。ご存知の通りDTMステーションPlus!やDTMステーションCreativeを長年一緒に運営しているわけですが、その多田さんが最近、MIDIの打ち込みに活用しているというアイテムがフランスのExpressive EのMIDIコントローラー、Touché SE(トゥーシェ・エスイー)。
Touché SEは、プニュプニュとした不思議な感触のUSB接続のMIDIコントローラーなのですが、それゆえにストリングスやブラスなど、アコースティック楽器の打ち込みにおいて大きな表現力をつけることができるようなのです。幅広い表現ができるから、これまで細かくマウスを使って描いていたオートメーションの入力を簡素化でき、作業の時間も大きく短縮できているとのこと。先日DTMステーションPlus!の番組で多田さんとお会いした際、実際Touché SEを劇伴作品などにどのように使っているのかを実演してもらったので、その使い方や表現力などについて紹介してみましょう。
作曲家の多田彰文さんが最近MIDIの打ち込みに活用しているというTouché SE
改めて紹介すると、多田さんは『魔法つかいプリキュア!』や『ああっ女神さまっ』などのTVアニメ楽曲、『SUPER SHIRO』や『クレヨンしんちゃん 外伝』、『ポケットモンスター 』、『となりの関くん』などの作品に携わっている、まさに売れっ子作曲家。とくに劇伴において定評のある作曲家でもあります。
「劇伴って何?」という方もいると思いますが、劇伴とは映画やドラマ、アニメなどのバックで流れている音楽で、場面のイメージやキャラクターの感情を音楽面から演出するものです。戦闘シーンでは激しい音楽だったり、シリアスなシーンではダークな音楽だったり、キャラクターが楽しそうであれば、それを演出する、映像と同じぐらい大切な要素です。
KORG nanoKEY2を使って演奏しながら、Touché SEをMacBook Proに接続し、パラメータをコントロールしてる
その劇伴の制作において、Touché SEが大きな威力を発揮しているというのです。Touché SEは簡単に紹介すると、USBで接続するMIDIコントローラで、手で上下左右に触れたり、タッチしたりスライドすることで、さまざまなパラメータをコントロールできるというもの。まずは、多田さんの実演を見ていただければ、その雰囲気がすぐにわかると思います。
いかがでしょうか?動画では、Studio One上で、多田さんが普段持ち歩いているKORG nanoKEY2を使って演奏し、ストリングス音源のビブラートをTouché SEでコントロールしています。実際に演奏したデータが以下の画像です。
マウスでの入力が難しい複雑なオートメーションが記録されている
「画面を見てもらうと、かなり細かくオートメーションが書かれているのが分かると思います。もし実際にこれだけのオートメーションを書こうと思ったたら、かなりの時間が掛かりますね。Touché SEは、思った通りの表現を実際に入力できるし、USBバスパワーで動くので、デスクの上をスッキリさせられるのも気に入っているポイントです」と多田さん。
USBバスパワーで駆動するためUSBケーブル1本で接続することが可能
ぱっと見はシンプルなコントローラーという印象ではありますが、メーカーが公表しているTouché SEの構造を示す、スケルトンモデル的なものが、以下のもの。かなり複雑な構造になっていることが見て取れます。
ちなみに多田さんが使っているTouché SEには、上位モデルのTouchéが存在します。Touchéは、4つの1/8インチCVとMIDI IN/OUTを搭載していて、トップパネルに木製のタッチプレートを採用。一方Touché SEは、ソフトシンセを使って音楽制作するのに特化したモデルとして発売されており、トップパネルをブラックポリカーボネート製にして、接続端子をUSBだけにすることで、コストを抑えたモデルになっています。両機器の違いとしては、タッチプレートの素材とCV、MIDI端子の有無だけです。
Touchéは木製のタッチプレートと4つの1/8インチCVとMIDI IN/OUTを搭載
Touchéについては以前、「プニュプニュする新触感。フランス生まれのMIDIコントローラー、Touché(トゥーシェ)が気持ちいい!」という記事で紹介しているのでぜひご覧ください。また「スタートは大学の研究所、ユニークでプニュプニュな最先端MIDIコントローラーTouchéは、数々の名機がヒントになってた!?」という記事では、Expressive Eのセールスマネージャーであるロメオ・ヴァーレット(Romeo Verlet)さんが来日した際に、TouchéやTouché SEについて詳しい話を聞くことができたので、こちらもご覧いただければ、さらに魅力が伝わると思います。
先ほどの動画でお気づきになった方も多いと思いますが、画面上にはLiéというソフトウェアが立ち上がっていました。これは、TouchéまたはTouché SEの専用のコントローラーで、VSTおよびAUのプラグインとして、DAW上で利用する形になっています。このLiéを起動した状態で、Touché SEに触ると、どこが反応しているのかリアルタイムにグラフィックで表示されるようになっています。
Liéを起動した状態でTouché SEを操作すると、情報がリアルタイムに表示される
さらにLiéとともにUVI Workstationというソフトシンセもバンドルされており、用意されているLiéの音色パッチを選ぶと自動的にUVI Workstationが起動され、音色設定されると同時に、Touché SEの動作に対してフィルターやエンベロープ、LFOなどの各パラメーターが最適化された状態で割り振られます。
最適化された状態のプリセットも用意されている。もちろん、自分好みにカスタマイズしていくこともできる
「LiéはUIが見やすくて、感覚的に使えますし、プリセットが豊富に用意されているので、手軽にTouché SEの機能を使えるのはいいところですね。普段使っているサードパーティー製のプラグインもLiéを経由して立ち上げれば、細かい設定を行った上で、Touché SEで操作できるうえに、サードパーティ製ソフトウェア音源用の設定プリセットもしっかり用意されているのには驚きました。Touché SEの表現力の高さとLiéの操作性が相まって、ほかの機材にはない魅力を持ってますね。」と多田さん。
サードパーティー製のソフトウェア音源のプリセットも用意されている
さきほどの動画を撮ったあとに、多田さんから「実はアコースティック楽器を打ち込む以外にもユニークな使い方があって……」と言われ、撮った映像が以下のものです。
最初の動画とは打って変わり、シンセサイザーのパラメータをTouché SEを使って操作していたわけですが、これについて多田さんは「アコースティック楽器以外にも、シンセサイザーのボリュームだったりフィルターを動かせるんですよ。これだけリアルタイムにさまざまなパラメータを動かせるので、これまでにない表現ができそうです」とのことでした。
ストリングスやブラスなどのアコースティック楽器やこれまで使っていたソフトシンセなどの表現の幅を広げることのできるTouché SE。実売価格は、29,000円(税別)となっていて、上位モデルのTouchéは49,000円(税別)となっています。
前述した通りの両機器には機能差があり、Touchéには4つの1/8インチCVとMIDI IN/OUTが装備されているので、ハードでもTouchéを使いたいユーザーをこちらを選択してもいいと思います。もし、「ソフトシンセでしか使わないよ」という方であれば、手ごろな価格でTouché SEは入手できるので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
※2020.07.15追記
2020.07.14に放送した「DTMステーションPlus!」から、第155回「Synthesizer Vで歌声合成の新時代を先取りしよう!」のプレトーク部分です。「リアルな楽器のニュアンスを打ち込むために秘密兵器、劇伴を手掛けるプロの作曲家が語るTouché SEの威力」から再生されます。ぜひご覧ください!
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Touché SE製品情報
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