以前から記事にしようと思いながら、あまりにもバグが多くて取り上げないままでいたSteinbergのiPad/iPhone用のDAW、Cubasis 3が先週3.1にバージョンアップし、ようやく安定して使えるようになりました。Cubasis 2はiPad専用のDAWでしたが、Cubasis 3になったタイミングでiPhoneにも対応するようになり、さらにAndroidでも使えるハイブリッドDAWになっています。
Android版はまだ使っていないので、また改めてレビューしてみたいと思っていますが、iPad/iPhone版のほうは、よりCubaseに近いDAWへと進化し、もちろんCubasisで作ったデータはCubaseにインポートすることも可能な互換性を持っています。単体で購入すると6,100円と高価ですが、多くのDTMユーザーであれば3,680円で入手するワザもあるので、その点も含めて紹介してみたいと思います。
iPad/iPhone用のDAWアプリ、Cubasis 3が3.1にバージョンアップ
改めてCubasisについて紹介すると、これはまさにCubaseのiPad、iPhone版といえるもので、以前にも初期バージョンのCubasis、さらにはその次のCubasis 2を何度か記事で紹介したことがありました。今回取り上げるCubasis 3はCubasis 2と並行する形で上位バージョンのような形で昨年12月に6,100円という金額でリリースされたアプリです。PCのDAWの価格からすれば激安とも言えますが、iOSアプリとして考えるとかなり高価なもの。しかもCubasis 2のユーザーであっても、バージョンアップや割引という考え方はなく、あくまでも正価の6,100円という強気の値段での登場でした。
ところが購入した方ならご存知かと思いますが、かなりバグがひどく、途中で落ちたり、音が出なくなったり、妙な動作をしてしまうなど、かなり散々なものだったのです。そのため、さすがにこれを紹介するのは……と躊躇しており、3月末に3.0.2が出た際にも「これで安定したのでは?」とすぐにチェックしたのですが、やはりAudio Unitsのソフトシンセを起動すると、すぐ落ちるなど不安定で記事化を見送っていました。
6月15日にCubasis 3がVersion 3.1にアップデート
が、気が付いたら6月15日にCubasis 3.1がリリースされており、改めて試してみると、ほぼ問題なく動くようになっていました。やはりソフトウェアというのは3.1というバージョンから安定するというのが習わしなんでしょうかね……!? もちろんCubasisも機能がどんどん複雑になってきているから、開発も大変なのだと思いますが、そろそろ購入してもよさそうな段階に入ったということのようです。
もっとも購入するなら、6,100円のものではなく、とりあず無料で入手できるCubasis LE 3を導入するのがお勧め。というのも、これを使うことでCubasisが自分と相性が合うアプリなのか、概要を確認できると同時に、Cubasis LE 3経由でCubasis 3にアップグレードすることで、約半額の3,680円で入手できからです。
無料のCubasis LE 3から3,680円でCubasis 3にアップグレード可能
ただし、Cubasis LE 3を使うには条件があります。それはUR22CやUR12、AG03、reface DX……などSteinberg製品やYAMAHA製品、またTASCAM、Zoom、IK MulitimediaなどのオーディオインターフェイスやMIDIキーボードなどのハードウェア製品を持っている必要があります。これをCubasis LE 3が起動しているiPadやiPhoneに接続することでデモモードが解除されて、使えるようになるのです。具体的には以下の製品がCubasis LE 3に対応したハードウェアです。
Cubasis LE 3を利用可能にする各社のハードウェア製品
このデモモードが解除されたCubasis LE 3において、Shopボタンをタップし、Cubasis Full Feature Setを3,680円で購入すると、これがCubasis 3にアップグレードするんですね。もっとも、アプリとしては6,100円のCubasis 3とは別扱いになっており、インストールされているのはCubasis LE 3のまま。これを起動すると、Cubasis 3とまったく同じように動作するという仕掛けになっているのです。
Cubasis 3でできる機能を1つ1つ解説していると、1冊の本ができてしまうほどの内容なので、ここではやめておきますが、Cubaseとかなり近いものになっています。実際アプリ容量としては1.2GBもあるので、いかにパワフルなDAWであるかは想像できるのではないでしょうか?主な機能としては以下のようなものになっています。
・無制限のオーディオ / MIDI トラック
・同時オーディオ入出力:24チャンネル(最大)
・32ビット浮動小数点オーディオエンジン
・オーディオ入出力解像度:24ビット / 96 kHz(最大)
・zplane elastique 3 リアルタイムタイムストレッチ / ピッチシフト
・126種類以上のプリセットを含む Micrologue バーチャルアナログシンセサイザー
・120種類以上のサウンドを含むバーチャル音源 MicroSonic
・20種類以上のサウンドを含み、独自のインストゥルメント音を創造できる MiniSampler
・スタジオグレードのチャンネルストリップと17種類のエフェクト(インサート及びセンドエフェクト)を搭載するミキサー
・オートメーション可能な DJ スタイルの Spin FX エフェクト
・550種類以上の MIDI ループ / オーディオループ(タイムストレッチ対応)
・バーチャルキーボード、バーチャルドラムパッド、コードパッド(ノートリピート対応)
・オーディオ編集を行うサンプルエディターと MIDI 編集を行うキーエディター
・MIDI オートクォンタイズ
・トラック複製
・オートメーション、MIDI CC、プログラムチェンジ、アフタータッチ対応
・Core Audio、Core MIDI デバイス対応
・MIDI over Bluetooth LE 対応
・Audio Unit、Inter-App Audio、Audiobus 3 によるサードパーティ製プラグイン対応
・iTunes および iCloud ドライブ、ファイルアプリ、AirDrop からのオーディオ読み込み、AudioPaste 対応
・MIDI クロック/ MIDI スルー対応
・Cubase (Mac & Windows) で読み込み可能なプロジェクト書き出し機能
要するにオーディオでもMIDIでも、一通りのことができま、オーディオインターフェイス、MIDIキーボードと接続して使うことができるし、ソフトシンセやエフェクトも数多く搭載されているから、これ一つあれば曲作りが十分にできてしまうというわけですね。
とはいえ、Cubaseとまったく同じUIというわけではないので、Cubaseユーザーの場合、操作に戸惑う部分も結構あるかもしれません。ここは、あくまでも見た目が似ている別物であると割り切ってあげる必要はありそうです。そもそもiOSはWindowsやMacとは操作方法が違うので、そのUIに合わせているので、ここは慣れの問題。とくにiPhoneの場合、画面が小さいのでミキサーだけが表示されるとか、ピアノロールだけが表示されるなど、全体を見渡すことができず、画面遷移にまごつくこともありそうですが、少しずつ慣れていってください。
iPhoneだと画面サイズが限られるため、一部しか表示できない(画面はiPhone 11 Pro)
またWindowsやMacの場合、VST/VSTiのプラグインで拡張する形になっているのに対し、Cubasis 3の場合はAudio UnitsまたはInter-App Audioを使う形になります。世の中的にはInter-App AudioからAudio Unitsへと移行しつつあるようですが、Cubasis 3では両方使えるので、安心です。さらにAudiobus 3にもしっかり対応していますよ。
もちろん、このCubasis 3で作ったデータをWindowsやMacに持っていって、より細かく編集していくということも可能です。そのためには、SteinbergサイトからCubasis Project Importerというソフトをダウンロードしてインストールしておく必要があります。
iMazingからCubasis 3のプロジェクトファイルをPCにコピー
すると、Cubaseの読み込み機能に「Cubasis Project」というものが現れるので、これを使えばいいのです。当然、その前に、CubasisのプロジェクトデータをWindowsやMacにコピーしておく必要があるわけですが、このコピーはiTunesでもiCloud経由、また以前紹介したiMazingなどのソフトを経由して取り込むことができますよ。
Cubasis Project ImporterをインストールするとCubaseの読み込み機能にCubasis Projectというメニューが現れる
実際にCubase 10.5に読み込ませてみたところ、再現することができました。オーディオトラックもMIDIトラックも、しっかりそのまま取り込むことができ、MicroSonicで音色を指定したMIDIトラックにおいてはHALionSonicでしっかり代替え音色が設定されて再現されます。標準のエフェクトについても、代替えのものが設定されるようになっています。
Cubasei Pro 10.5に読み込ませたCubasis 3のプロジェクト
ただAudio UnitsやInter-App Audioを指定した場合は、当然何も指定されないので、自分で指定する必要があります。また、すべて標準のものを使っても、同じニュアンスのまま再現できるわけではなく、雰囲気はかなり変わってしまうので、あくまでも「Cubaisで録音したオーディオトラックやMIDIデータがそのまま持ち込める」というレベルで理解しておくほうがよさそうですね。ちなみにCubaseで作成したプロジェクトをCubasisで開くことはできないので、あくまでも一方通行であることも理解しておいてください。
以上、Cubasis 3.1がリリースされたので、Cubasis 3がどんなものなのか、どう付き合えばいいのかという点で簡単に取り上げてみました。とくにCubaseユーザーでiPhone/iPadを持っている方であれば、導入して損のなDAWアプリだと思います。
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【インストール】
◎App Store ⇒ Cubasis 3
◎App Store ⇒ Cubasis LE 3
◎Steinberg ⇒ Cubasis Project Importer