すでにご存じの方も多いと思いますが、先月、ZOOMからデジタルミキサー/レコーダーと銘打たれた機材、LiveTrak L-8という機材が税込み40,000円程度の価格で発売されてました。見た目はコンパクトなミキサーという感じですが、実際触ってみたら、これがトンでもないスーパーマシンでした。
一言でいえば8chのデジタルミキサーでありながら、12in/4outのオーディオインターフェイスであり、内部にSDカードを入れてマルチトラックレコーディングができるし、デジタルエフェクトも搭載し、6つのボタンでポン出しもできる……などなど、これでもか、というほどの機能を持った機材。実は2年前に「こんなデジミキを待っていた!ZOOMのコンパクトな12chミキサー、LiveTrak L-12が万能で超便利!」という記事で紹介したことのあるLiveTrak L-12の弟分として登場した機材ではあるのですが、さらに洗練され、使いやすくなった印象です。どんな機材なのか紹介してみましょう。
ZOOMのコンパクトなデジタルミキサー/レコーダー、LiveTrack L-8を使ってみた
LiveTrak L-8(以下L-8)は横幅26.8cm、奥行28.2cm、高さ7.4cmというコンパクトサイズなので、デスクトップに置いても気にならない小さな機材。しかも電源はmicroUSBケーブルでの供給だから太い電源が邪魔になるということもありません。また、各入出力も上に挿す構造になっているから奥行の余裕を考慮する必要もない日本のDTMerにとって、非常に優しく、嬉しい形状です。
このmicroUSBでWindowsやMacと接続して使うことができるのはもちろん、スタンドアロンで動作させることもできるし、microUSBからので電源供給だけでなく、バッテリーボックスに単3電池4本詰め込めば、そのまま持ち歩いて使うことも可能なポータブル機材でもあります。
この見た目と税込40,000円という価格から考えて、新しく出たアナログミキサーなのかな……なんて思ったら大間違い。このサイズに考え付く機能すべてを詰め込んだてんこ盛りのデジタル機材。機能がいっぱいありすぎるので一つずつ順番に見ていきましょう。
まずは見た目の通り、8chのミキサーとして使うことが可能です。6つのコンボジャックが用意されていますが、それぞれにマイクでもラインでも接続可能で、マイクには48Vのファンタム電源を送ってコンデンサマイクを駆動することもできます。このうち1chと2chはHi-Zボタンが備わっているためギターやベースを直結して使うことができ、3~6chにはー26dBのPADで大音量を抑えて使うことも可能になっています。
上部に6つのコンボジャック入力および7ch、8chには標準ジャックのライン入力x2を備えている
7chと8chは少し特殊な構造となっており、標準ジャックでラインを入力できるだけでなく、PCと接続した際、PCからの信号を選択することが可能になっています。さらにそれとも別にSOUND PADボタンが割り振られており、これを利用できるのもL-8の大きな特徴となっています。これはいわゆるポン出しボタンで、7chには1~3のボタン、8chには4~6のボタンがあり、ここに歓声や拍手、ファンファーレなどが入っているため、これを押せばすぐに効果音を鳴らすことができるのです。
6つのボタンがポン出し用になっており、デフォルトでは各種効果音が仕掛けられている
6つのボタンには予め音が割り振られていますが、L-8内に13の効果音が入っているため、ボタンの割り当てを変更することも可能です。さらに、ここには自分の好きなWAVファイルをアサインすることもでき、その時間制限もないから、極端な話、各ボタンに1曲ずつ割り当ててしまえば、ボタンを押すだけで曲を演奏することもできるわけです。なお、ミニ端子を挿すことでスマホのオーディオ出力を受け入れることが可能になっており、7/8chにステレオで立ち上げることが可能です。
各チャンネルごとにEC、ローカット、エフェクトセンド、PANの設定が可能
もちろん、このミキサー、単に音量調整ができるというだけではありません。各チャンネルごとにチャンネルストリップが搭載されており、HIGH、MID、LOWのEQ設定、LOW CUT、さらにエフェクト(EFX)センドができるようになっています。そのセンド先のエフェクトとして用意されているのはHall 1、Hall 2、Room、Plateの各リバーブ、ディレイ、コーラス、さらにボーカルエフェクトの2種類。そのうちのいずれかを選択の上、青いフェーダーでリターン量を決める形になっています。
一般的なアナログミキサーでもこの程度まではできるわけですが、L-8が面白いのは、ここから。まず、そのミックスの設定を同時に4種類まで作ることができるようになっているのです。たとえばバンド演奏する場合、メイン出力をミックスする一方、ボーカルに返すモニターと、ギタリスト、ドラマーに返すモニターをそれぞれ別設定にできるのが理想ですが、そんなことが実現できるのです。
メインのMASTER OUTのほか、MIX A~Cの3種類のモニター用ヘッドホン出力がある
出力を見るとMASTER OUTのほかにMIX A、MIX B、MIX Cとあり、それぞれを別に設定することか可能で、スイッチ一つでMIX AをMASTERに切り替えるといったこともできる仕様になっています。さらに、そのように設定した情報をシーンメモリーに保存することも可能。そのシーンも7つまで保存できるからライブの楽曲ごとに設定を変更していく……といったこともできるわけです。
と、ここまではあくまでL-8をミキサーとして見てきたわけですが、L-8は8chのマルチトラックレコーダーでもあり、リアのカードスロットSDカードを挿せば、ここに各チャンネルの音を独立した形で最高24bit/96kHzのサンプリングレートでレコーディングすることができ、音を重ねていくことが可能です。
リアのスロットにSDカードを入れると、ここに録音していくことが可能
たとえば1chにマイク、2chにギターを接続するととも、7chにPCのDAWからのステレオ音を流し、各chのRECボタンを赤くした状態で録音スタートすれば、それぞれ別のWAVファイルとして録音されていきます。この際、メトロノームをモニターしながら録音することもできるし、一度録音した後に、これを再生しながら、別トラックに録音していくことももちろん可能。つまり、L-8だけあれば一人で音楽制作していくことも可能なのです。
RECODERボタンを押してレコーダーモードすれば、簡単にマルチトラックレコーディングが可能
とはいえ、PCでDAWを使っている人にとって、わざわざL-8でレコーディングする必要もないように思います。でもL-8はバッテリーで駆動し、持ち歩くことだってできるわけだから、予めDAWで作ったオケを入れておき、それをスタジオに持ち込んで、ボーカルとドラムトラックだけ録音してくるといったことも可能。すべてWAVファイルで録音できるので、帰宅後、そのWAVをDAWに流し込めばスタジオで録った音を扱えるだけでなく、より細かくエディットしていくこともできるわけです。
録音した結果はSDカードに各トラックごとにWAVファイルで保存される
さらに、L-8はPCと接続すれば12in/4outのオーディオインターフェイスとして機能します。この際は44.1kHzか48kHzで96kHz対応になっていないのが少し寂しいところではあるものの、L-8の各チャンネルに接続した信号をパラで録り込むことができるほか、このミキサーでミックスした結果をそのままWindows/Macに入れることも可能です。実際Cubaseから見るとこのように12in/4outとなっていることが分かります。
PCとUSB接続するとPC側からは12in/4outのオーディオインターフェイスとして見える
この4outのほうは、前述の通りL-8の7chと8chにそれぞれステレオでで立ち上がってくるので活用の仕方はいろいろありそうですね。もちろん、コンピュータとmicroUSBで接続した場合、電源はコンピュータ側から供給できるため別途電源を用意する必要がないバスパワー駆動機材となっています。
このようにDTMerから見ても、非常にうれしい機能がいっぱいのL-8ですが、YouTube Liveやニコニコ生放送を始めとするネット配信用機材としても、これ以上なものはないのでは…と思うほど強力なスペックを持ったオーディオインターフェイスといえそうです。前述の通り計4chをループバックとしてPCから送りだすことができるためゲーム実況でも音楽放送で何でもOK。接続したマイクにリバーブなどをかける効果も簡単に演出できるし、何より6つあるポン出しボタンが放送を面白くすることができそうです。
4極のミニ端子を使ってスマホと接続すれば外部通話を活用して遠隔地の人も配信に参加させることが可能
ZOOMのWebサイトを見ると「ポッドキャスト配信に」と書かれているため、ピンと来ない方も多いような気がしますが、要はこれを使えばすぐに放送できるわけです。またネット配信用として見たときに面白いのが前述のスマホ入力です。実はこれ5極になっているため、単に8chにステレオ入力できるだけでなくステレオ出力も持っているのです。つまり、スマホでSkypeやLINE通話を使ったり、電話機能を使うことで遠隔地の人にも参加してもらって放送する、ということが可能になるのです。L-8はそんな細かなところまで配慮されたミキサーになっているんですね。
以上、L-8についてざっと紹介してみましたが、いかがだったでしょうか? 上記がブロックダイアグラムですが、4万円でここまでいっぱいの機能を持った機材はないのではないか……と思うほど、いくつもの機能が揃ったL-8。あとはユーザーのアイディア次第かもしれません。コンパクトですし、一つ手元に置いておいてもいいのではないでしょうか?
※2020年1月15日追記
上記記事で記載し忘れていたのがiOSとの連携についてです。LiveTrack L-8はAUDIO I/Fの設定をデフォルトのPC/MacからiOSに切り替えることにより、iPhoneやiPadと接続して使うことが可能です。この際、Lightning-USBカメラアダプタを介すことで接続できます。ただし、iOS側からの電源供給だけでは電力が足りないため、LiveTrack L-8に電池を入れて動作させることが必須とはなります。実際にiPhone 11と接続してみたところ、Windows/Macでの場合と同様12in/4outのデバイスとして使えることが確認できました。
AUDIO I/FをiOSモードに設定することでiPhoneやiPadと接続して使うこともできる
※追記
2020年2月26日、DTMステーションPlus!の番組でLiveTrack L-8を特集しました。ゲストにアコースティックユニット「MEGUMI♡KEI」の若林愛さんと天野恵さんをお迎えし、約1時間の番組となっておりますので、ぜひご覧ください。
【関連情報】
ZOOM LiveTrack L-8製品情報
【価格チェック】
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