音楽制作において、結構利用頻度の高いシンセベル。でも使うシンセによってかなり雰囲気に違いがあるため、いろいろなシンセを試してみながら音色選びに悩む……なんて人も少なくないと思います。そうした中、さまざまなシンセベルの音色を鳴らせる、究極ともいうべきシンセベル専用音源が誕生しました。TwinkerBellというVST音源で価格は税込み4,400円。現在リリース記念のイントロ価格として30%オフの3,080円で発売がスタートしました。
このTwinkerBellを開発したのは作詞、作曲、編曲、レコーディング、ミックス、マスタリングまでを手掛ける作家、twinklediscの荒井洋明さん。またの名をDios/シグナルP(@Hiroaki_Arai)さんといい、ボカロPとしても長年活躍しているので、その名前をご存知の方も多いと思います。作家でありつつプラグイン音源を作るというのも珍しいところですが(ファミシンセを開発したmu_stationさんや、Magical 8bit Plugを開発したYMCKの除村武志さんなどもいますね……)、実際どんな音源であり、どのような経緯で開発することになったのかも気になるところ。先日、開発者である荒井さんにお話を伺ったので、紹介しましょう。
荒井洋明さんが開発したシンセベルに特化した音源、TwinkerBell
まずはインタビューの前に以下のビデオをご覧ください。TwinkerBellのプリセットサウンドがいろいろと紹介されています。
TwinkerBellのプリセット音色数は120種類。これらの音を聴いても分かるとおり、一言でシンセベルといっても、ずいぶんさまざまな音色があるものですよね。こんなサウンドを聴くだけでも、いろいろな曲のイメージが沸き上がってきそうです。
今回リリースされたTwinkerBellは、現時点ではWindows用の64bit版VST2のみ。残念ながらMac版に関してはすぐには登場しないようです。その辺の予定も含め荒井さんにいろいろと伺ってみました。
お話を伺ったTwinkerBellの開発者、Dios/シグナルPこと荒井洋明さん
--作家が音源を開発するというのは、珍しいと思いますが、どういう経緯でソフト音源を出すことになったのですか?もともとはプログラム開発が本業だったとか?
荒井:いいえ、私自身は就職歴はなく、ずっと音楽制作を仕事にしています。19歳のときに、ガンダムSEEDのオープニング曲「Realize -GUNDAM SEED OPENING Ver.-」の編曲をしたのがプロとしてのスタートで、今も作詞、作曲、編曲、レコーディング、ミックス、マスタリング……と何でもやってます。その音楽制作をしていく中で、音作りのアイディア、ノウハウがいっぱいたまってきて、2年くらい前からリリースし始めたところ、予想外に反響があって、自分でも驚いています。最初に出したのはNo53Pianoというもので、JD-800の53番ピアノを再現した音源です。通称TKピアノというヤツですね(笑)。この音が大好きで、KONTAKTを使って再現したんですよ。
荒井さんが2年前に初めてフリーウェアとして公開したNo53Piano
--JD-800で、53番のプリセットを鳴らしてサンプリングしたということですか?
荒井:それではうまくいかないんですよ。53番ピアノそのものの音ではなく、53番ピアノを構成する元の波形をサンプリングし、それをループさせたりフィルタをかけたり、KONTAKTの機能を用いて53番ピアノの音に近づけていたのです。その後、製品としてSF6 Library for KONTAKTという音源を出しました。これはスーパーファミコン用のファイナルファンタジー6の音色を再現するものでした。
KONTAKTベースでファイナルファンタジー6のサウンドを再現したSF6 Library for KONTAKT
--スーパーファミコンだと、PSG音源とかではなく、サンプリングでしたよね?
荒井:そうです。スーファミのサウンドシステムって、何かをサンプリングしたものをMIDIで鳴らしていたりするんです。雑誌の開発者インタビューなどを読み漁りながら、サンプリング元を探し当ててて(笑)。このストリングスはE-mu Proteusからサンプリングした……なんて情報を見つけては試すんですが、単純にやっても似た音にならない。雑誌の記事を見るとAKAIのS900に取り込んで、ループ設定をしてとあったので、実機を手に入れて試すと、確かに近づいてくる。とはいえ、1つに使われているサンプリング容量が数KBだから、ごくわずかなループタイミングを変えるだけで、音色の雰囲気がまったく変わったりして…その辺を細かく調整して、原音にかなりそっくりに持ってくることができたのがSF6だったんです。趣味で出したつもりだったんですが、リリース前から動画を公開していたこともあって、予想外の反響となりました。
ーーその後、いくつか音源を出されていましたよね。
荒井:はい、SF45というファイナルファンタジー4、5を再現する音源、SRS123というロマンシング サ・ガの1、2、3を再現する音源なども出しています。また音源ではないですが、Bang Compというスネア特化型のコンプレッサも出しているんですよ。実際には、ほかにも、この10年間で貯めてきた音源ネタはいっぱいあるのですが、まだ最終完成形にいたっておらず、一つずつ丁寧に完成させていきたいと思っています。そうした中、今回ようやくリリースできたのがTwinkerBellなのです。
--本当にキレイな音色がいっぱいという印象ですが、改めてTwinkerBell、これはどういう発想でできた音源なのですか?
荒井:ピアノ専用音源とかドラム専用音源、ベース専用音源などはいっぱいありますが、シンセベル専用音源というのはないですよね。私自身、曲を作るときにシンセベルを使う機会がすごく多いのですが、まとまった音源がないから、ひとつのシンセを起動してシンセベルのプリセットを選んだりそれをエディットしてみて、イマイチと思ったら別のシンセを起動して……というのを繰り返すことになります。場合によってはそれがソフトシンセだったりハードシンセだったり…。それをもっと効率よく使えるようにしたいというのが発想の原点です。そのため、このTwinkerBellにはプリセットとしてシンセベルばかり120用意しており、この中に定番のシンセベルは一通り収録しています。
TwinkerBellには120種類のプリセット音色が用意されている
ーーとはいえ、プリセットを選ぶというだけでなく、この画面を見るとかなり本格的なシンセサイザになっていますよね?
荒井:はい、普通にシンセサイザですね。構造的にはWaveform A、B、Cという3つの波形があり、AとBがPCM波形で120種類収録されています。一方Waveform CはVA(バーチャルアナログ)になっており、サイン波、ノコギリ波など7種類の波形が収録されています。これらを元に組み合わせた上で、フィルター、エンベロープ、LFOなどを用いて加工する形です。プリセットを選んだ上でWaveformの波形を変えるだけでも、まったく違う雰囲気の音色になるので、面白いですよ。120種類の波形があるからWaveform AとWaveform Bの組み合わせだけで7,140通りありますから。
Waveform AおよびBには120種類のPCM波形が収録されている
--このWaveformのA、Bには、さまざまなシンセのベル波形が入っているわけですか?
荒井:シンセベルサウンドは、必ずしもWaveformとしてベルサウンドを使うというわけではありません。だから波形一覧を見ても分かる通り、ピアノだったり、ストリングスのサンプリング音なども収録しています。収録元のシンセとしてはソフトシンセはもちろんハードシンセも含め20種類以上の機材でシンセベルに合うように調整した波形を収録しているので、さまざまなサウンドが作り出せるようになっています。
--触ってみるとWaveform A、B、Cそれぞれに独立してフィルター、アンプが搭載されていて、さらにマスターでもフィルターがかけられたり、エフェクトとしてもコーラス、ディレイ、リバーブ、EQも搭載されているなど、複雑な音作りまでできそうですね。こんなものが開発できるって、やはりすごくエンジニアリングノウハウをお持ちなんですね!
荒井:実はこれ、SynthEditというツールで開発しているんですよ。だからほとんどプログラミングの知識なくても作れるし、もともとSynthEditが持っている機能を組み合わせているだけなので、技術力が必要というわけではないのです。どちらかというと、シンセの音作りテクニックを持っていれば作れるものですが、ここではシンセベル専用の構成にしてみたのです。
TwinkerBellの開発に使ったツール、SynthEdit
ーーSynthEditって20年前に使ったきりでしたが、今はここまで進化していたんですね。
荒井:昔のSynthEditをご存知の方だと、安定しない、遅い、Windowsのみ…といったイメージをお持ちの方も多いと思いますが、現在はかなり安定しているし、64bit版にも対応し、VST2だけでなくVST3に対応したり、MacのAUでも使えるなど、どんどん進化してきています。以前出したSF6やSF45、SRS123なども、KONTAKT版だけでなく、VST版も出していて、MacのAU版も近いうちリリース予定です。
SRS123のVST版。KONTAKT版だけでなくSynthEditで開発したVST版が別に存在する
--ということは、今回TwinkerBellはWindowsのVST2版でのリリースではあるけれど、そのうちMac版なども出る、ということですか?
荒井:そうしたいと思っていますが、簡単にはいかないかもしれません。というのも、SynthEditがMac対応したのが最近で、まだ完全対応できていないんです。たとえばディレイが対応していないとか、VAでのシェイプエディットが使えないとか……これらが完全にMac対応するのを待つと年単位で時間がかかってしまうかもしれません。
--開発ツールが対応してないければ、どうしようもないところですね。Mac版については気長に待ちたいと思います。今後、荒井さんとしては、まだ新しいプラグインを開発していくのでしょうか?
荒井:いつ、何をという明確なスケジュールがあるわけではありませんが、過去に温めてきたアイディアはいっぱいあるので、少しずつリリースしていきたいと思っています。また、開発ツールであるSynthEditも日々アップデートをしており、そのたびにかなり仕様が変わるので、これに合わせて既存ソフトのアップデートも図っていきたいと思っています。
--楽しみにしています。ありがとうございました。
M3-2019秋・情報
10月27日に開催されるM3 – 音系・メディアミックス同人即売会に荒井さんも出展して、発売したばかりのTwinkerBellを会場特別価格で頒布するとのこと。またSF6やSF45、SRS123など、既存製品も出ているので、M3に行かれる方は覗いてみてはいかがでしょうか? ちなみにわれわれDTMステーションCreative(第1展示場・Q-01b)もサークル参加しているほか、先日記事にしたDeeSubBaseのリリースでDotec-Audioも企業ブース(第1展示場・企09)として出ていたり、iZotope(企08)、SONICWIRE(企06)、メディア・インテグレーション(企01)……などDTMツールとしておなじみのメーカー、ディストリビューターも出展しているので、お時間あれば、ぜひ来てみてはいかがでしょうか?
荒井さんのブース:第二展示場2F コ -37a (はるうらゝ)
M3開催日:2019年10月27日
時間:11:00~15:30
会場:東京流通センター(TRC)
M3情報:https://www.m3net.jp/attendance/index.php
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Twitter @Hiroaki_Arai