「オーディオインターフェイスにマイクを接続して使おうと思ったけど、レベルが小さくてまともに使えない」、「マイクプリアンプのゲインを上げたらノイズが酷くて使い物にならない」……そんなDTMユーザーの声を度々聞くことがあります。ダイナミックマイクやリボンマイクなどのパッシブマイクだと、どうしても出力レベルが小さいため、なかなか思う通りのレコーディングができないものです。
そんなユーザーのために、これらパッシブマイクの出力レベルをドカン!と上げる、小さくて取り扱いやすくユニークなマイクプリアンプがあります。sE Electronicsが開発しその名もDM1 DYNAMITEという実売価格12,000円前後(税込)の機材がソレ。実際どんな音になるのか、シンガーの小寺可南子(@cana_co_tera)さんに協力をしてもらい、ボーカルを録り比べてみたので、実際どんな音になるかも比較しつつ、紹介してみましょう。
sE ElectronicsのDM1 DYNAMITEを使って録り比べてみた
ボーカルやギター、アコースティックピアノ、またリコーダーやフルート、バイオリン……など生の音をレコーディングするとなったら、マイクが必要となります。どのマイクを使うかによって、その音の雰囲気もずいぶん変わってくるわけですが、そのマイクにダイナミックマイクを使っている人も少なくないでしょう。
一般的にダイナミックマイクは丈夫で安価なため、導入しやすいのは間違いありません。コンデンサマイクと比較すると、小さい音は捉えにくいけれど、逆に叫ぶような激しい音も破綻することなく、しっかりと録音できるメリットがあります。そのため、安く買ったのでダイナミックマイクを使用しているという人も多いでしょうし、激しい音を確実に捉えるためにあえてダイナミックマイクを使用しているという人もいると思います。
ボーカルは小寺可南子さん。DTMステーションCreativeの第1弾アルバムの中から「Sweet My Heart」を
ただダイナミックマイクをレコーディングに使う場合、ネックとなることがあります。それはマイクからの出力レベルが小さいこと。電気を使って動作するコンデンサマイクと比較し、電源不要で使えるダイナミックマイクは、その仕組み上、どうしても出力レベルは微弱なものとなります。これはリボンマイクでも同様(電気を使って動作するアクティブ・リボンマイクというものもありますが、ここでいうのはパッシブ・リボンマイク)で、とってもレベルが小さいのです。
そんな微弱な信号を、しっかりDAWにレコーディングするには、マイクプリアンプというものを使ってレベルを引き上げてやる必要があるのです。通常、多くのオーディオインターフェイスには、そのためのマイクプリアンプが内蔵されており、これでゲインを上げることによって、音量を上げることが可能ですが、それでも適度な音量まで引き上げられないケースがよくあります。
マイクから近い位置で、大きな音量で入力すればいいのですが、少し離れていたりすると、マイクプリアンプをフルレベルにしても、DAWに入ってくる音は小さくなってしまうし、フルにまで持ち上げると、マイクプリアンプ側の性能の問題でノイズが目立ってきてしまうケースがあるのです。もちろん、DAWに入ってきてから、DAWの機能でレベルアップを図ることは可能ですが、そもそもの入力レベルが小さいと、やはりノイズが目だったり、解像度が低くなって音に粗が出てしまうことがあるのです。
だいぶ前置きが長くなってしまいましたが、そうしたダイナミックマイク、パッシブ・リボンマイクのレベルを引き上げるアイテムが、今回取り上げるsE ElectronicsのDM1 DYNAMITEというもの。これはオーディオインターフェイスに入れる前の信号を引き上げることができるプリアンプ。おそらく「爆発的な音量に引き上げる!」という意味合いがこの名前に込められているんでしょうね、パッケージが、ダイナマイトっぽくなっているのも楽しい感じがします。
使い方はいたって簡単で、マイクとオーディオインターフェイスの間に挟むだけ。入出力はXLRのキャノン端子となっているから、接続ケーブルの間に挟んでもいいし、ダイナミックマイクに直接取り付けてもOKです。ただし、DM1 DYNAMITEを動作させるためにはオーディオインターフェイス側から+48Vのファンタム電源を供給する必要があります。これを電源として動作するわけですね。
ここではレコーディングすることを前提に、オーディオインターフェイスでの使用の話をしていますが、もちろんライブステージなどでの利用も可能であり、その場合は接続するPA機器、ミキサーからファンタム電源を供給すればいいわけです。
では、実際にどれくらい音量が大きくなるのか。これはどんなマイクに接続しても、どんなオーディオインターフェイスに接続しても一定であり、特にボリューム調整なども一切ありません。メーカーの仕様を見ると、それが+28dBとあります。どんな条件下でも28dBも稼げるとういのはすごくないですか?
dB=デシベルに関してピンと来ない方も多いと思いますが、28dB上げるというのは、音量を約25倍にするという意味なんです。2.5倍ではなく25倍、まさに爆上げを可能にする機材だから、ダイナミックマイクの特性を持ったまま、コンデンサマイククラスな仕様にできるわけなのです。
ここで気になるのは音質。sE Electronicsの説明によれば、「DM1は、パッシブマイクからの信号をブーストし、干渉の可能性を抑えながら、ノイズや着色を加えることなく大幅に向上したレベルをプリアンプへともたらす完璧なツールです。出力インピーダンスも同クラスで最も低く、ケーブルを長く這わした場合でも、RF干渉、バズ、ハム等の影響を受けにくくします」とあります。つまり、音に変化はない、ということのようですね。
オーディオインターフェイス兼マイクプリアンプにはUniversal Audioのapollo X6を使用
実際どうなのでしょうか?小寺可南子さんに何度か歌ってもらい、比較してみました。DTMステーションCreativeレーベルの第1弾アルバム「Sweet My Heart」に収録されている「Sweet My Heart」です。また、ここで使ったのはボーカル用の定番マイクであるShureのSM58。これをUniversal Audioのapollo x6に直接接続したものと、間にDM1 DYNAMITEを入れて接続した場合の、それぞれで試してみた結果が以下のものです。
聴き比べてみていかがでしょうか?Soundcloudに上げるとMP3化されてしまうので、その違いが分かりにくいかもしれませんが、DM1 DYNAMITEを通した音のほうが、若干、あでやかになった印象です。上の2つはオケ+ボーカルという構成でボーカルにはリバーブもかけています。ちなみにリバーブに使ったのは先日「デヴィッド・ボウイのHeroesのボーカルサウンドを忠実に再現するTverb」という記事で取り上げたEventideのTverbです。
今回はCubaseを使ってレコーディング後、ボーカル用リバーブにTverbを使用
一方、下の2つは録音したままのボーカルデータで何もいじってないものです。元は24bit/96kHzでレコーディングしたものをそのままSoundcloudへアップしています。まあ、apolloのマイクプリアンプがそもそも優秀で、レベルを大きく持ち上げてもノイズやひずみがほとどないこと、また、小寺可南子さんが、オンマイクで大きな音量で歌っているから、差が出にくいというのも事実ですが、無理なく非常にスマートにレベルアップを実現できるのが分かると思います。
マイクにDM1 DYNAMITEを直接取り付けると、こんな感じで、ステージでも利用できそう
ちなみにSM58を直で接続しているときはapolloのマイクプリは+48dBの設定にしているのに対し、DM1 DYNAMITEを使った場合は28dB下げた+20dBの設定にしているので、DAW側に入ってくるレベルはどちらも同じになっています。
もしろんSM58に限らず、どんなダイナミックマイクを使っても同様の効果が得られるわけですが、DM1 DYNAMITEと同じメーカー、sE Electronicsのマイクを使うと、より相性がいいのでは……と思い、V7 BFGという実売11,800円(税抜)のマイクにおいても、直接接続の場合とDM1 DYNAMITEを使った場合で比較してみました。
やっぱり、apolloのマイクプリ性能がいいので、大きな差は感じられませんが、DM1 DYNAMAITEを使ったほうが、よりクッキリしたサウンドになります。これは、レコーディングコンディションが悪い場合や、オーディオインターフェイスのマイクプリアンプの品質が低いとより高い効果が得られそうです。
マイクにsE ElectronicsのV7 BFGというものも利用してみた
以上、sE ElectronicsのDM1 DYNAMITEを試してみましたが、いかがだったでしょうか?使い方としては、やや地味な製品ではありますが、ダイナミックマイクの出力レベルを大きく持ち上げることができる効果的なアイテムです。価格的にも手ごろですし、ダイナミックマイクでレコーディングする方であれば、1つ持っておいて損はない製品だと思います。
【関連情報】
sE Electronics DM1 DYNAMITE製品情報
DTMステーションCreative「Sweet My Heart」
【価格チェック】
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