Moog ModularやMini Moog、Prophet 5、ARP 2600、Jupitar 8、Fairlight CMI、DX7……と数々のビンテージシンセをソフトウェアとして復刻してきたフランスのArturia。全21製品をセットにしたV Collection 6はDTMユーザーにとって定番中の定番ともいえるわけですが、そのArturiaが19年の歴史の中で、初めてオリジナルのソフトシンセを発表しました。PIGMENTS(ピグメンツ)という名前の音源がそれ。
発表と同時にArturiaサイトから発売キャンペーンとして€149(通常は€199)でのダウンロード販売が開始され、1か月の無料トライアルも可能となっています(パッケージ版の発売は1月の予定)。その発表前にPIGMENTSのβ版を試すとともに、先日来日したArturiaのマーケティング担当、Bryan Borcherds(ブライアン・ボーチャーズ)さんに、これがどんな音源なのか、話を聞いてみたので、紹介してみたいと思います。
※2018.12.13 発売時期・価格情報を加筆・修正しました
Arutira設立から19年目にして初めてリリースしたオリジナルのソフトシンセ、PIGMENTS
「PIGMENTSは、Arturiaがまったく新たに開発したソフトシンセです。Wavetableとアナログシンセを組み合わせた非常に自由度の高い音源で、これまでビンテージシンセの復刻に合わせて築き上げてきた数多くのフィルタータイプを利用できるというのも大きな特徴です」と語るのはブライアンさん。
Arutiraのマーケティング担当、ブライアン・ボーチャーズさん
実際、このPIGMENTSでどんな音が出るのか、β版を私のPCにインストールし、プリセットサウンドを順番に鳴らしてみたところの一部ビデオ化してみたので、ご覧になってみてください。
いかがですか?これはさまざまな音作りが出せるPIGMENTSのごく一部のサウンドに過ぎませんが、その雰囲気がなんとなく伝わったのではないでしょうか?
でもうもう少し具体的にPIGMENTSについて見ていきましょう。PIGMENTSのベースとなるサウンドを作り出すシンセサイザエンジンはENGINE 1とENGINE 2というまったく同じものが2つ搭載されています。片方しか使わなくてもいいし、両方をまったく別の音で出してもOK。また片方のシンセサイザエンジンの内容をもう片方にコピーする機能も持っているので、両方を同じにしてより分厚いとにする、なんてこともできますよ。
ENGINE1とENGINE 2という2つのシンセサイザエンジンが搭載されている
そのエンジンはWavetableシンセサイザとアナログシンセサイザというまったく異なるシンセサイザを選択することができます。Wavetableシンセサイザは、最近流行りのシンセサイザであり、いわゆるWobbleサウンドなどを作るのを得意としたものです。
以前「Wobble系サウンドも自由自在。強力ウェーブテーブル音源を搭載したKORGの新世代グルーブボックス、ELECTRIBE Waveの実力」という記事で、KORGのiOSアプリ、ELECTRIBE Waveを紹介したことがありましたが、これとも共通する考え方の音源ではあります。
PIGMENTSの中には数多くのWavetableが収録されており、それらを選択して使うことができます。これを2Dの画面で見ると、ある位置=Positionの状態が普通の波形として見えます。しかし、3Dにすると、Wavetableとして収録されているものが立体的に表示されます。どれを鳴らすかはPositionで選択できますが、LFOなどでPositionを動かすことにより、演奏しながら鳴らす波形を自動で切り替えていくことも可能です。
この際、MorphをONにしておくと、波形間を滑らかにモーフィングさせることも可能で、これによってウニョウニョしたWobbleサウンドを作り出すことができるんですね。
一方、アナログシンセサイザに切り替えると、これまたまったく違う音源になります。こちらは3オシレーターとなっており、それぞれサイン波、三角波、ノコギリ波、矩形波を選択することが可能。またこれらとは別にノイズジェネレーターも装備されています。
各オシレーターをミックスさせて出すこともできる一方、MODULATIONというパラメータを利用することで、OSC 3の出力をOSC 1とOSC 2をモジュレーションすることができます。つまりこれによってFM音源を使うことができるわけですね。しかも、YAMAHAのDXシリーズのようにサイン波からサイン波をモジュレーションするだけでなく、三角波、ノコギリ波、矩形波でのモジュレーションができるので、音作りのバリエーションはDXの比ではありません。まったく予想もつかないサウンドを生み出すことができるので、とても面白いですよ。
MODULATIONを用いることでFM音源として使うことも可能
こうして作った音をシンセサイザとして加工していくわけですが、画面右側にあるのが、そのためのフィルターです。こちらもFILTER 1とFILTER 2という2つ同じものがあるのですが、このフィルターがPIGMENTSの最大の特徴といってもいい部分です。そう、ここにArturiがこれまで蓄積してきたさまざまなシンセサイザのフィルターが収録されており、自由に選択できるようになっているのです。
画面右上にある2つのフィルター
タイプとしてはMultiMode、SEM、Matrix 12、Mini、Surgeon、Comb、Phaser、Formantと8つがあり、それぞれがまったく異なる性格を持つフィルターとなっています。たとえばOberheimのMatrix 12のフィルターを再現するMatrix 12を選ぶとしましょう。すると、さらにここにはフィルターモードとして、LP12、LP24、HP12、BP12、BP24、Notch+LP6、Phase+LP6と7種類が用意されており、ここから選択することができるので、実際切り替えてみると、待った違うフィルターになってくれるんですよね。
そしてエンベロープジェネレーターも完全に独立した3つが装備されているので、たとえばEnv 1つをVCA用、Env 2はフィルター用、Env 3はオシレーター用、といった具合に使い分けることができるのです。
同様にLFOも3つ完全に独立したものが搭載されています。さらにLFOとは別に自分で波形を描くことが可能なFunctionというものも3つ用意されていて、こららも独立して使うことが可能になっています。
そのほかにもサンプル&ホールドを含むRANDOM、自分でソースとモジュレーション先を選ぶことができるCOMBINATIONなどがあり、いろいろな組み合わせによる波形作りができるようになっているのです。
RANDOMにはTURNING、SAMPLE&HOLD、BINARYの3種類がある
でもCOMBINATIONがいわゆるパッチングというわけではないんですよ。どのパラメータにどのパラメータをパッチングさせるかは、まさに自由自在。どのようにでも組み合わせることができちゃうのがPIGMENTSのすごいところでもあります。
どこからどこへモジュレーションを掛けるか、自由自在に設定できる
そして、これらとは別にMACROというパラメータも4つ用意されています。いわゆるマクロ機能であり、たとえばOSC 1のVolumeとLFO 1のRate、FILTER 1のCutoffをMacro 1に割り当てれば、Macro 1を動かすことで、同時に3つのパラメータを動かせるようになるのです。
マクロを使うことも可能
「これらの機能を使うことで、クラシックなシンセサイザサウンドを出すことはもちろんできるし、1本指で弾くだけで劇伴的なSEサウンドを鳴らすこともできるのがPIGMENTSなのです」とブライアンさん。このように指1本でも弾ける背景には、Wavetableによるサウンドの変化などがある一方、ステップシーケンサやアルペジエーターが搭載されていることも、大きな要因としてあります。
このシーケンサやアルペジエーターではピッチ、オクターブ、ベロシティ、ゲート長などを設定していくことができるのですが、ここにランダム性を持たせることも可能であるため、弾くたびに違うフレーズを作り出すことができるんです。
さらにエフェクトも3系統使うことが可能です。ブライアンさんによると、このβ版と正式版ではエフェクト画面のデザインが変わる予定だけれど、機能的にはほぼ実装し終えているとのこと。EQ、コンプ、ディストーション、BITクラッシャー、コーラス、フランジャー、ディレイ、リバーブ……とさまざまなエフェクトが利用できるようになっています。
このようにPIGMENTSはかなり力を入れて開発されたシンセだし、完成度においてもかなり高い、使えるシンセになっていると思います。でもArturiaは近年、MiniBrute、MicroBrute、MatrixBrute、DrumBrute……とオリジナルのアナログシンセサイザに力をいれていて、ソフトシンセにはあまり興味がなくなっているのでは……と思っていました。その点、実際どうなのか、ブライアンさんに聞いてみました。
Arturiaのハードウェアシンセサイザのフラグシップ、MatrixBrute
「対外的にはハードシンセが目立っていたかもしれませんが、社内的にはハードもソフトも並行して開発を進めており、V CollectionにおいてもDX7やFirlightを追加したのは最近であり、ソフトにもずっと力を入れてきました。このPIGMENTSは2年前から開発を続けてきた製品で、Arturiaとしても自信作です」とブライアンさん。
もうひとつ質問してみたのがBruteシリーズのソフトウェア化について。現在のところV Collection 6にはBruteシリーズは入ってないし、PIGMENTSのフィルターにもBruteをモデルにしたものはないようです。個人的にはMicroBruteを愛用しているのですが、これがソフトウェア化されたら楽しいのにな……と思っているところ。
PIGMENTSはかなりの自信作だと話すブライアンさん
「その質問はいろいろな方からされることがあります。歴代の名機と並べて使いたいと言われるのは光栄だけれど、今のところ予定はないんですよ」
ということでした。最後にブライアンさんに、他社のソフトシンセと比較してPIGMENTSの良さがどこにあるか語ってもらいました。
「Arturiaは、既存の音源の再現を得意としてやってきましたが、そのことがPIGMENTSの良さにもつながっています。非常に自由度の高いシンセサイザに、歴代の名機のフィルタを自由に選んでかけることができる、これは他社にはない良さだと思います。そして個々のパーツの完成度も他社を大きく上回るものだと自負しております。ぜひ、このPIGMENTSの楽しさを多くの日本のユーザーにも味わっていただきたいと思っています」
なお、PIGMENTSはWindowsおよびMacで動作し、スタンドアロンで使えるほか、VST、AudioUnits、AAXのそれぞれの環境で利用することが可能です。
冒頭でも紹介したとおり、12月11日よりArturiaサイトからダウンロード購入可能となっており、通常€199のところ、現在は発売記念キャンペーンとして€149となっています。また、国内でのパッケージ版の発売も行われる予定で、発売は1月、価格はまだ未定とのことです。
【関連情報】
PIGMENTS製品情報
Arturia日本語サイト