PCのプラグイン型やスタンドアロン型、またiPhone/iPadで使えるものなど、さまざまなギターアンプシミュレーターが登場し、性能を競い合っている中、本家であるギターアンプのほうも大きく進化してきています。先日発売されたFenderのギターアンプ、Mustang GTシリーズはパワフルなホンモノのギターアンプでありながら、これ自体がWi-Fi機能を装備しており、インターネットを経由してプリセットトーンのダウンロードなどができてしまうのです。
しかもWi-Fiだけでなく、Bluetooth経由でiPhone/iPadやAndroid、PCと接続でき、これらと有機的な連動が可能なほか、リアにはmicroUSB端子を装備しており、ここを介してギターアンプのサウンドをそのままレコーディングすることも可能になっているのです。この前代未聞ともいえるギターアンプ、Mustang GT40をちょっと使ってみたので、どんな機材なのか紹介してみたいと思います。
世界初、Wi-Fi機能を搭載したFender Mustang GT40を使ってみた
このMustang GTシリーズが発売されたのは半年前の5月末。そのため、もうご存知の方やすでに購入した、という人も少なくないと思います。ただ、この不思議なギターアンプについて、まだ知らないという人もいると思うので、まずはその概要について簡単に紹介しましょう。
Mustang GT100(左上)、GT200(右上)、GT40(下)
このMustang GTシリーズは一番小さい40WモデルのGT40(実売28,800円)、100WモデルのGT100(50,000円)、そして200WモデルのGT200(72,000円)の3種類があり、価格帯的に見ても手ごろなもの。FenderというとTwin ReverbやDeluxe Reverbをはじめとするチューブアンプ(真空管アンプ)をイメージする方も多いと思いますが、このMustang GTシリーズは、低価格ながら非常に高品位なサウンドであると好評のデジタルアンプ、Mustangシリーズの最新モデルなのです。
普通にギターアンプなので、電源を入れればすぐに鳴らすことができる
デジタルアンプといったって、普通にギターアンプですから、ギターを接続し、GAIN、VOLUME、MASTERの各ボリュームを上げれば、即、鳴らすことが可能です。ただ、普通のアナログアンプと大きく違うのは、あらかじめ数多くのプリセットが用意されており、それを選択するだけで、さまざまなアンプサウンドを鳴らすことが可能になっていること。たとえば01は65年モデルのTwin Reverb、03は65年モデルのDeluxe Reverb、04は57年モデルのCustom Champ、07は59年モデルのBassman……といった具合に、Fenderの歴代のアンプサウンドを鳴らすことができます。もちろん、プリセットを選ぶだけでなく、GAIN、VOLUME、TREBLE、BASSといったノブを回して音色をいじることも可能。本家Fenderによる音作りですから間違いはないですよね。これだけでもかなり楽しく遊ぶことが可能です。
100以上用意されているプリセットを選ぶことで、さまざまなサウンドに切り替えられる
しかもこのモデリングしているのはFenderのアンプだけではないのも面白いところ。マニュアルを見ると、「1966 Gibson GA-15RVTエクスプローラーにインスパイヤされたアンプモデル」、「Vox AC30にインスパイヤされたアンプモデル」、「Marshall JCM800にインスパイアされたアンプモデル」……と他社アンプのモデリングを行っているのも面白いところ。つまり、このアンプ一つで、本当にさまざまなアンプサウンドを作り出すことができるわけです。
Fenderだけでなく、さまざまなアンプのモデリングが用意されている(2017年11月現在)
ちなみに、今回使ったMustang GT40は上位機種のGT100、GT200と違って、MIDDLEノブやREVERBノブがないんです。ホンモノのTwin ReverbならMIDDLEノブやREVERBノブがあるのに……と思ったら、搭載されている液晶とボタンを使って設定画面を見ていくと、ここで調整できるようになっているんですね。なかなかうまくできています。
さらにプリセットで作られている音色はアンプシミュレータの選択・設定というところに留まりません。ここにはさまざまなストンプエフェクトも利用できるようになっているので、音作りの自由度も非常に高くなっています。プリセットを見てみると、アンプの前にエフェクトを置くパターンや、アンプの後で置くパターンもあり、その辺は自由自在。もちろん、複数のエフェクトを組み合わせて利用することも可能になっていますよ。
しかし、Mustang GTシリーズが面白いのはここからです。まず、このMustang GTシリーズにはBluetooth機能が搭載されており、これを使ってiPhoneやiPad、Androidと接続することが可能なのです。で、接続した状態で、音楽を流せば普通に再生することが可能です。まさにBluetoothスピーカーそのものとして動作するのです。この際、プリセットが思い切り歪んだアンプでも、クリーントーンでも関係なし。あくまでもオーディオは普通に鳴らすことができます。この状態でギターを弾くと、こちらは先ほどのプリセットで選んだ音を鳴らすことができ、Bluetooth経由で鳴らす音楽と同時に鳴らすことが可能です。つまり好きな曲をバックに流しながら自分でギターを弾くということが簡単にできるわけです。その際のギターと音楽の音量バランスはVOLUMEノブを利用して調整する形になります。
Fender ToneアプリでGT40とBluetooth接続
さらに、iPhone/iPadおよびAndroid用にFender Toneという無料のアプリが用意されています。Bluetooth接続されている状態で、このアプリを起動すると、スマホからプリセットを選択したり、各パラメータを調整することが可能になるのです。つまりMustang GTを直接触らなくてもiPhoneで直接操作ができてしまうわけです。もちろん、チマチマしたスマホ画面より、アンプのノブを回すのが気持ちいい!という人も多いとは思いますが、先ほどのMIDDLEなんかは、スマホ操作のほうがアクセスはしやすいそうです。
iPhoneからプリセットの各パラメータをコントロールできる
でも、iPhone/iPad、Androidとの連携は単なるリモコンというだけに留まらないんです。Fenderのデータベースには膨大なプリセットが登録されており、これをスマホで検索してダウンロードし、それをMustang GTにBluetoothで転送してやることで、無限ともいえるほどのサウンドを楽しむことが可能になるのです。
Fender Toneのデータベースにある膨大なプリセットの中から好きなものを選んで転送することが可能
Rock、Pop、Country、Jazz、Folk、Blues……とジャンルごとにプリセットが整理されているほか、Fenderお勧めのプリセットといったものもあります。さらにすごいのは、ここに著名アーティストが自ら作ったプリセットも数多く登録されている、ということです。Fenderのデータベースだけに、やはり海外アーティストが多いことは確かですが、国内アーティストでも以下のような人たちが登録しており、これを簡単に手元で再現できるというのは、やっぱり嬉しいところですよね。
アーティスト名 | プリセット名 |
INORAN (LUNASEA) | INORAN Clean |
大山聡一(BRADIO) | Funky Groovin Lead |
KEN(L Arc-en-Ciel) | Galaxy Red Lead |
菰口雄矢(Komoguchi) | Super Guitar |
HARUNA (SCANDAL) | HARUNA Cool Distortion |
MAMI (SCANDAL) | MAMI Leeeeeeeead Special |
MAMI (SCANDAL) | MAMI MAIN BACKING |
柳沢進太郎(GO GO VANILLAS) | Vanillas Basic Tone |
山内総一郎(フジファブリック) | My Favorite Things |
圭(BAROQUE) | BAROQUE GIRL SHIMMER |
さて、ここでMustang GTシリーズには冒頭で触れた、世界初の機能が用意されています。そう、ここにはWi-Fi機能が搭載されており、Mustang GTを直接インターネットに接続することができるのです。試しにSSIDを検索してみると自宅のWi-Fiが見えてきます。そして接続したSSIDに対しパスワードを入力すると、確かにこれで簡単に接続できます。
Mustang GT自体にWi-Fi接続機能を装備している
そして、ここでメニューからCLOUD PRESETSというものを選ぶと、先ほどのFender Toneのデータベースへアンプから直接アクセスすることができ、ここからプリセット名を選べば、iPhoneなどがなくてもアンプ単独で読み込んで利用することが可能なのです。なかなか面白い機能ですよね。ただし、やはり操作性の面ではスマホアプリを使ったほうが使いやすいことは確かです。また、このCLOUD PRESETSを利用した場合、すべてのFender Toneデータベースにアクセスできるわけではなく、お勧めのものを中心に選択という形になっているようですね。
スマホを使わなくても、本体だけでFender Toneのデータベースからのダウンロードができる
もう一つWi-Fiを利用することのメリットが、ファームウェアのアップデートです。Mustang GTは成長するアンプのようで、結構頻繁にファームウェアが更新されるとともに新機能が追加されていきます。そのファームウェアアップデートにこのWi-Fiを利用するのです。使い方は簡単。エンコーダーノブのボタンを押した状態で電源を入れるとWi-Fi経由で新ファームウェアが用意されているかどうかをチェックしてくれます。そこで必要あれば更新を選べば自動的にダウンロードし、書き換えてくれるのです。なかなか賢い機材ですよね。
頻繁にアップデートされるMustang GTのファームウェアを直接ダウロードし更新できる
これだけの機能を備えたFenderのギターアンプが2万円台で購入できてしまうというのもビックリなのですが、DTM視点でいうと、もう一つ強力な機能が用意されています。それがリアにあるmicroUSBとPCを接続することでオーディオ接続が可能になるということです。Macであればドライバ不要で、Windowsの場合はFenderサイトにあるFender Universal ASIOというドライバをインストールすることで、ASIOドライバとして利用することが可能になります。
Fenderサイトからドライバをダウンロードすれば、WindowsでもASIOドライバデバイスとして利用できる
実際に試してみたところ、このWindowsドライバは実質的にASIO4ALLのようですが、これでバッチリ動作してくれます。ただし、Mustang GTとPCにおける信号の流れは一方通行。つまりギターを演奏した音をPCに取り込めるというものであって、PCの再生する音をMustang GTに流せるわけではないようです。ここでPCに入ってくる音はアンプ・エフェクトを通した音となっています。いわゆる掛け録りということですね。
画面を見ても実質的にはASIO4ALL同等のドライバであることがわかる
また、ハードウェアの使用上フォーマットは48kHz/16bitに限られるため、あまり過大な期待は禁物ですが、それでもアンプモデリング、エフェクトを通した音を劣化なしにそのままデジタルで取り込めるメリットは大きいと思います。
PCからは入力のみで、出力のないオーディオインターフェイスとして見える
以上、ごく簡単にFenderのMustang GTシリーズについて紹介してみましたが、いかがでしょうか?一見普通のギターアンプではあるのですが、最新のデジタルアンプであるだけに、まさにマルチ機能を備えているのです。ギタリストなら1つ持っておいて損のないアンプだと思いますよ!
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