2007年8月31日に発売され、DTMの世界というより、日本の音楽シーンに大きな影響を与えてきたVOCALOIDの初音ミク。当初はWindowsのみの対応だったのが、2013年の初音ミク V3のリリースでMac対応し、最新の初音ミク V4XももちろんWindows/Mac対応のハイブリッド製品となっていますが、初音ミク誕生10周年となる2017年8月31日、ついに初音ミクがiPhone/iPadでも利用可能となり、より手軽に歌わせることが可能になりました。
正確に表現するとiPhone/iPad版の初音ミクが発売されたというよりも、既存のアプリであるMobile VOCALOID Editor(4,800円:9月14日ごろまでセール期間で3,600円)のオプションライブラリに初音ミク(2,400円)が追加されたという形なのですが、いずれにせよこれでより手軽に、また安価に初音ミクに歌わせることが可能になったのです。実際、どんなものであり、PC版とはどう違うのかについて紹介してみましょう。
Mobile VOCALOID Editorのライブラリに初音ミクが加わった
Mobile VOCALOID Editorというものの存在を初めて知ったという方も少なくないと思うので、まずは、このMobile VOCALOID Editorから紹介していきます。
iPhone、iPadアプリであるMobile VOCALOID Editor
約2年前に「iOS版VOCALOIDが刷新、ボカロ曲制作はiOSで完結可能に!」という記事を書いたことがありましたが、このMobile VOCALOID Editorは、PC版として存在していたVOCALOID EditorのiPhone/iPad版で、2015年4月にYAMAHAからリリースされたものです。
Mobile VOCALOID Editorの基本的な機能はPC版のVOCALOID Editorを踏襲している
そもそも、このVOCALOID Editorとは、VOCALOIDに歌わせるためのソフトであり、音符と歌詞を入力すると、その通りに歌わせることができるというものです。
この際、歌声ライブラリというものをインストールして使うのですが、初音ミクのライブラリをインストールしておけば初音ミクの歌声で、MegpoidならMegpoidの歌声、東北ずん子なら東北ずん子の歌声……というようにさまざまな歌声で歌わせることができます。また複数のライブラリをインストールしてある場合は、切り替えて歌わせることが可能となっています。
まず音符を入力後、歌詞を流し込んでいくという点でもPC版と同様
現行のVOCALOID EditorはVOCALOID4 Editor(Windowsのみ)、VOCALOID4 Editor for Cubase(Windows/Mac)の2種類があるのですが、それらとほぼ同等の機能を持ったiOS版がMobile VOCALOID Editorであるというわけなのです。
シンガー選択画面またはストア画面において初音ミクライブラリが追加されて2,400円で購入可能となった
Mobile VOCALOID Editorにおいても、各種ライブラリをインストールして使うのですが、PC版と一つ大きな違いがあります。それはPC版のVOCALOIDのライブラリを読み込むことができない、という点。つまり、双方に互換性はなく、Mobile VOCALOID Editorには専用のライブラリを購入してインストールして使う必要があるのです。
ただし価格的にはPC版のライブラリと比較するとグッと安く押えられていて、いずれも2,400円となっているんですね(YAMAHAのVY1のみは1,200円)。これまで、iOS用のライブラリは少しずつ増えてきており、VY1、VY2、蒼姫ラピス、メルリ……と計30種類があったのですが、8月31日に初音ミクが加わったというわけなのです。
実際に歌わせてみればわかるとおり、まさにオリジナルの初音ミクの歌声。PC版の最新の初音ミクV4Xには、
・初音ミク ORIGINAL
・初音ミク SOFT
・初音ミク SOLID
・初音ミク DARK
・初音ミク SWEET
と5種類の歌声が収録されていますが、このMobile VOCALOID Editorのオプションとなっている初音ミクは、ORIGINALに相当するものであり、10年前の誕生のときの歌声をそのまま踏襲するものとなっています。
初音ミクの歌声に重ねる形で別のVOCALOIDライブラリの歌を入れることも可能
すでにPCで初音ミクを使っている人が、iPhoneやiPadでも使いたいという場合は追加投資となってはしまいますが、今回が初めてという人にとっては、Mobile VOCALOID Editor(4,800円)+初音ミク・ライブラリ(2,400円)=7,200円と、かなり安く使うことができるし、出先でも電車の中でも、思い浮かんだメロディー、歌詞を入力してイメージを固められるというのは大きなメリットといえそうですよね。
では、iOS版とPC版はまったく同じ機能、性能なのかというと、ここにはいくつかの違いもあるので、以下に整理しておきましょう。
機能 | Mobile VOCALOID Editor | VOCALOID4 Editor |
プラットフォーム | iPad、iPhone | PC |
使用可能な音域 | C-2~G8 | C-2~G8 |
最大小節数 | 999小節 | 999小節 |
編集・再生可能なVOCALOIDトラック数 | 16 | 16 |
最小分解能 | 4分音符の1/480 | 4分音符の1/480 |
読み込み可能なファイル | V3版VSQX、V4版VSQX | V3版VSQX、V4版VSQX、VSQ、MIDI(SMF) |
インポート可能なファイル | AudioPaste機能でWAV | V3版VSQX、V4版VSQX、VSQ、MIDI(SMF)、WAV |
VSQX書き出し | V3版VSQX、V4版VSQX | V4版VSQX |
トラックの追加、削除 | あり | あり |
オーディオトラック(WAV) | ステレオ1トラック、モノラル1トラック | ステレオ1トラック、モノラル1トラック |
エフェクト(ミキサー) | V3Comp、V3Reverbのみ対応 | VST Host機能により好みのエフェクトを付加 |
入力ゲイン調整(ミキサー) | あり | あり |
VOCALOID Job プラグイン機能 | なし | あり |
Undo/Redo | 無制限 | 無制限 |
使用できるコントロールパラメータ | 10種類 | 12種類 |
外部MIDI機器接続によるVOCALOIDトラックのステップ入力、リアルタイム入力 | 対応 | 非対応(*1) |
端末内蔵マイク、外部機器接続によるオーディオトラックの録音 | 対応 | 非対応 |
作成可能パート数 | 1曲につき100まで | 無制限(*2) |
(*1)VOCALOID4 Editor for CubaseとCubaseシリーズを同時使用する場合は可能
(*2)搭載メモリ,ディスク容量に依存します。
このように、機能に違いはありますが、一通りのことはできますし、ある意味でPC版よりも高機能だったり便利だったりというところもあります。たとえばDAW機能に頼らず、Mobile VOCALOID Editor単体で、MIDIのステップ入力やリアルタイム入力ができるというのは非常に便利なところ。試してみたところ画面に表示されるキーボードでの入力はもちろんのこと、Lightning端子に接続するUSB-MIDIキーボード、さらにはBLE-MIDI(MIDI over Bluetooth LE)キーボードでも利用することができました。
AudioCopy、AudioPasteに対応
さらにはAudioCopy、AudioPasteに対応しているので、CubasisやAuriaなど、iOS上の各種DAWと簡単に連携させることができるのも便利なところですね。
多少物足りない点はあるが、それでもMobile VOCALOID Editorだけである程度のミックス作業ができる
エフェクト機能的にはV3CompとV3Reverbしか使えないので、歌声の加工という点ではやや物足りない面はあるかもしれませんが、それでもメインボーカル、コーラス1、コーラス2、コーラス3……さらにカラオケを鳴らすオーディオトラックも一緒に並べてミックスすることがも可能なので、そこそこのことができてしまいます。
とはいえ、やはり最終的にはPC側のVOCALOIDでより高精度に歌わせて、PCのDAWで仕上げをしたいという人も少なくないでしょう。そんなことにも対応しているのばMobile VOCALOID Editorの便利なところです。まず一旦Mobile VOCALOID Editorで仕上げた上で、そのファイルを選択してEXPORTボタンを押すことで、VSQXのV3形式およびV4形式でエクスポートすることができるのです。
VSQXでの書き出しができるので、PCへスムーズに引き渡せる
もっとも、これを実行してもファイルが保存されるのはiOS内となるので、iTunesを利用して、WindowsやMacへコピーした上でVOCALOID Editorで読み込む必要があるのですが、これによって、iPhoneやiPadで作った歌声データを完全な形でPCに引き継ぐことができるので、あとは自由自在にいじれますよ。
このようにPC版のVOCALOID Editorの機能、性能を踏襲しつつも、とても小回りの効くMobile VOCALOID Editor。今回、待望の初音ミクが追加されたことで、より多くの人が便利に使えるアプリに進化したといっても良いのではないでしょうか?
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