Cubaseの操作画面がしっかり描画され、オーディオインターフェイスのUR22もテレビで流れる、DTMを1つのテーマにしたアニメが現在、放映されているって知ってましたか?『天使の3P!(スリーピース)』というのがそれ。過去のトラウマからひきこもり気味の高校生、貫井響が、密かに曲制作し、動画サイトに投稿するのを趣味にしていたところ、小学校5年生の少女3人に、とあることをお願いされて……というストーリーの7月にスタートしたアニメです。
その曲制作に使われていたのがCubase Pro 9であり、番組のクレジットを見ると、協力としてSteinberg、Cubase Pro 9、YAMAHAのロゴも並んでいるとともに、「Cubase cooperation:青木繁男」と、DTMステーションでもお馴染みのCubaseスペシャリストの青木さんの名前が出てるんですよね。先日、原作者である蒼山サグ(@SagAoyama)さん、レコード会社ランティスの制作部の石原尚亮さん、そして青木(@groundescape)さんに、このアニメの背景や、Cubaseのシーンをどう作っているのかなど伺ってきました。
Cubase Pro 9を使った制作シーンが頻繁に登場する現在オンエア中のアニメ、『天使の3P!』
「高校、大学のころはバンドをやっていて音楽で生きていけないだろうか…と考えたこともありました。でも大学を出て音楽は挫折。小説だったら、テキストエディタさえあればお金も使わずにできるだろう…と作品応募をする生活を始めたところ、運よく電撃文庫に拾ってもらったんですよ」と話すのは、天使の3P!原作者である蒼山サグさん。
最初は『ロウきゅーぶ!』というバスケットボールをテーマにしたライトノベルでデビュー。この作品は漫画化、さらには2011年にアニメ化され、第2期まで放映されているの、ご存知の方も多いかと思います。
引きこもりの高校生でCubaseで制作した曲をネットに投稿している貫井響
「ちょうどその当時VOCALOIDが大流行していたこともあって、自分でも少し試してみたんですよ。学生時代は、ギターやベースを弾いていて、打ち込みというのは、練習用にリズムマシンにパターンを入力する程度のことしか、したことはなかったんですけどね。そのとき、VOCALOIDと親和性が高いらしいとCubaseを購入して試してみました」(蒼山さん)
「最初は、あくまでも趣味として、VOCALOIDで遊んでいたのですが、実際に作った曲を、コソっとネットにUPしたりもしたんですよ。まあ、それはすでに消してしまいましたけどね」と蒼山さんは明かしてくれました。
そうした経験をベースに生まれてきたのが、2012年に電撃文庫のライトノベルという形での天使の3P!だったんですね。その天使の3P!がスタートしてからも、蒼山さんはVOCALOIDとCubaseは続けていて、天使の3P!のストーリーに合わせた曲をYouTubeにアップしています。それは今もYouTube上に残っているので、視聴することは可能ですよ。
なかなか高いクォリティーですよね。
「もともと歌詞だけは2012年に発売した本に載せていたけれど、それをもっとイメージ化してみたいと思い、曲にして、VOCALOIDに歌わせてみました。実際にアニメ化の話をいただいた時点で、アニメの音楽に制限ができちゃんとよくないかな、とDTM作品のUPは一旦止めました」と蒼山さん。
ドラム担当の小学5年生、金城そら
ランティスの石原さんに伺ってみたところ「蒼山さんより楽曲の発注をいただく際に、『今回のプロジェクトではアニメの世界観でオリジナル楽曲を新たにかき下してほしい』と言っていただけていたのですが、やはり蒼山さんが制作されていた楽曲たちは楽曲イメージそのものなので、劇中歌のモチーフにさせていただいています」とのこと。
学校では影の薄い潤、希美、そらの3人によるバンドのライブを開催できるよう、響が協力していく
「実際、スタッフの方とお会いし、多くの方が協力してくださることが分かり、これはいいものができそうだ、と確信しました。すべてお任せして大丈夫だと思い、あとは待っていただけですね(笑)。少し楽曲の方向性のお話をしたくらいでしょうか…。素人が口出ししておかしなことになってはいけないので!」(蒼山さん)
アニメの1シーンとしてかリアルなCubaseの画面が登場してくる
一方で、すごく興味があるのは、どうして、ここまでリアルなCubase画面の描写ができているのか、という点です。放送を見ると、明らかにアニメ画像なんですがかなりCubaseの画面が詳細に表示されているんですよね。
番組エンディングのクレジットには、Steinberg、Cubase Pro 9、YAMAHAのロゴとともに青木さんの名前も
「当社、ランティスでもヤマハさんとはお付き合いがあるので、『Cubaseの画面をそのままアニメ作品内に使わせてもらえないだろうか』『われわれが既に作った楽曲をCubaseに落とし込んで、本当に登場人物がCubaseで作っているようにできないだろうか?」と相談したら、全面的に協力いただけることになったんですよ。その際、ランティスともいろいろ繋がりのある青木繁男さんが担当してくれることになりました」と石原さん。
青木さんは、ランティスから受け取った完パケデータを元にCubaseのプロジェクトを作りビデオ化する
ちょっとこの関係性が複雑なので、簡単に整理すると、劇中で使う楽曲自体は、事前にランティス側で制作を終えており、その後にヤマハが協力してくれることが決まったため、完成した楽曲データを青木さんにお渡しし、青木さんはそのデータを元にCubaseのプロジェクトデータを作ったとのことです。
第一話の冒頭からCubaseでのギターレコーディング画面が登場してくる
「もらったデータをCubaseに取り込むとともに、メロディー部分だけはMIDIで構成する形にしました。また石原さんからは、登場人物である高校生、貫井響の楽曲の制作工程もデータ化してほしい、とのオーダーだったので、そうした様子を動画キャプチャして納品したんです」と青木さん。
結果的には、今回のアニメシリーズでは4つのデータをそれぞれ作成し、石原さんに渡しているとのこと。これがどうやってアニメ化されているのが不思議なところでしたが、石原さんは
「青木さんよりいただいたデータをアニメーション制作会社のproject No.9さんにお渡しし、撮影スタッフの方々がアニメに取り入れてくれたのですが、青木さんに作っていただいたデータはほとんどそのまま使用させていただいてますよ」と説明してくれました。いまのテクノロジーを使えば、実際の映像をアニメ風画面に仕立てたうえで、画面を見る方向に角度をつけてディスプレイ内に表示しているように描写する……といったことが簡単にできてしまうんですね。ディテールまで完璧にできているのは、そういうことだったんですね。
一方で、五島潤、紅葉谷希美、金城そらの小学5年生バンドの演奏シーンも、すごく緻密です。演奏しているものをモーションキャプチャしつつ、楽器やギターアンプ、ベースアンプなどはディテールまでかなりこだわって表現しているから、この辺をしっかりチェックしてみるのも、なかなか楽しいですよ。
「こうしたシーンを含め、放送直後から大きな反響をいただいています。また3人の声優さん達が生バンドに挑戦しており、先日も白金高輪のライブハウスで行ったファンミーティングで演奏を披露したところなんですよ」と石原さん。
蒼山さんは「実際に見て、感動しました!ドラムの古賀葵さんはドラム経験者であり、ベースの遠藤ゆりかさんはギター経験はあったようですが、ギターの大野柚布子さんは弦楽器ははじめてとのこと。ランティスのほうで、先生をつけてレッスンはしたそうですが、素晴らしい演奏でしたよ。それに、みんなすごく楽しいと言ってくれているので、嬉しいですね」と話してくれました。
この声優さん達によるライブ活動は、今後も続けていくとのことですが、まずはアニメのほうは絶対チェックですね。この先もまだまだCubaseが登場してくるシーンがあるとのことなので、ぜひ、どんなことをしているのか画面を注視していきましょう!
©2016 蒼山サグ/KADOKAWA
アスキー・メディアワークス/リトルウイング
【関連情報】
TVアニメ『天使の3P!(スリーピース)』公式サイト
Cubase Pro 9製品情報
【CD情報】
TVアニメ『天使の3P!』OP主題歌
アーティスト:Baby’s breath
【五島 潤(CV:大野柚布子)、紅葉谷希美(CV:遠藤ゆりか)、
タイトル:羽ばたきのバースデイ
発売日:2017.7.26
価格:¥1,300(税抜価格)
01. 羽ばたきのバースデイ 作詞:真崎エリカ 作曲・編曲:高橋 諒
02. BLUE TEARS 歌詞:YUKI 作曲:恩田快人 編曲:伊藤 賢
03. 羽ばたきのバースデイ(instrumental)
04. BLUE TEARS(instrumental)
TVアニメ『天使の3P!』ED主題歌
アーティスト:Baby’s breath
【五島 潤(CV:大野柚布子)、紅葉谷希美(CV:遠藤ゆりか)、
タイトル:楔
発売日:2017.8.23
価格:¥1,200(税抜価格)
01. 楔 作詞:真崎エリカ 作曲・編曲:本多友紀(Arte Refact)
02. Baby’s place 作詞:真崎エリカ 作曲・編曲:廣澤優也
03. 楔(instrumental)
04. Baby’s place(instrumental)