DAWについて、毎年、新バージョンを購入する形でアップデートしていくのがいいのか、あらかじめライセンス契約しておいてその期間は無償でアップデートされていくのがいいのかは、議論の分かれるところです。そうした中、CakewalkのSONARの場合、2015年3月からメンバーシップ制というユニークな制度を導入しています。
これは、いわゆるサブスクリプション制とは異なり、ライセンス自体は買取型で、ずっと使い続けることができます。でも普通のパッケージソフトとは異なり、メンバーシップ制の契約期間中は、最新バージョンへバージョンアップすることができるというものなのです。そのメンバーシップ制度を導入してから2年。その間、名称はSONAR PLATINUM、SONAR PROFESSIONAL、SONAR ARTISTと名前は変更がないものの、内容的にはかなりいろいろな機能が追加され、強化されています。実際、どんな機能が追加されてきたのか、振り返ってみようと思います。なお、Roland時代のSONARユーザーなど旧SONARからのアップグレードができるのは5月いっぱいとのことなので、その辺の情報も併せてお伝えしてみます。
目立たないながらも毎月バージョンアップを繰り返してきたSONARはかなり大きく進化していた
メンバーシップ制がどんなものなのかは、以前書いた「Mac版SONARは出さないのか?Opcodeのように潰れる心配はないのか?Cakewalk社長に聞いてみた」の記事を参考にしていただきたいのですが、ほかのDAWとは少し異なる便利で嬉しい制度となっています。
「社内体制としても、わざわざ1年後のバージョンアップを待って機能を搭載するのではなく、できたものはユーザーメリットのために、どんどん機能追加していきたいという思いがあった」と当時、社長が言っていた通りで、ふと気づくと、SONARにアップデータが登場して、機能向上するんですよね。
バージョン名が変わるわけではないから、対外的にはあまり目立たないのですが、この2年間でかなり進化してきています。実際、ほぼ毎月のようにアップデータが登場して機能追加されているため、その数は膨大にあるのですが、SONAR PLATINUMに追加されたトピック的なものをピックアップしてみていきましょう。
キーボードで弾けるギター音源、AAS|Strum Session
まずは、見た目にも分かりやすい新プラグインやバージョンアッププラグインの情報から。以前からAASの音源がいくつか入っていましたが、新たに追加されたのはギターの打ち込みに活躍するAAS Strum Session 2です。
かなり太い音も得意な物理モデリングのアナログシンセ、Ultra Analog Session
これは物理モデリングのアコースティックギター・エレキギター音源で、キーボードで弾いてもギターらしさを出せるというもの。実際に音を出しても、簡単にいかにもギターというサウンドが出せるのはうれしいところ。単体で25,920円で発売されているプラグインですから、もうこれだけで元がとれそうですよね。同じくAASのUltra Analog Sessionというシンセも追加されています。
Rapture Proの簡易版ではあるが、プレイバック音源としては十分すぎる機能を持つRapture Session
一方Rapture Proの簡易版であるRapture Sessionも搭載されました。こちらはRapture Proと同じエンジンを搭載し、Rapture Pro用のプリセット音色が4GB分も搭載されているというもの。利用可能なパラメータに制限があるのですが、おいしいところはいじれるようになっているので、なかなか強力な武器として使えます。
さらに従来からあったOverloudのギターアンプエミュレートプラグイン、TH2からTH3へバージョンアップしています。第4世代のアナログエミュレーションが搭載され、よりリアルなアンプサウンドをエミュレートすることができるようになっています。
もちろんSONAR本体のほうにも、さまざまな機能が追加されています。音質面で大きいのはプラグインのアップサンプリング処理です。SONARでは96kHzや192kHzなどハイサンプリングでの処理が可能ですが、プラグイン側は必ずしもハイサンプリング対応しているとは限りません。そこで、再生時やレンダリング時にアップサンプリングしてしまうことで、より高音質に処理することが可能になるのです。各プラグインごとに設定できるので、なかなか便利で、強力な機能ですよね。
オーディオトラックの入力元をオーディオインターフェイスではなくソフトウェア音源に指定できる
また、なかなか使えるのがソフトシンセのリアルタイム録音です。どのDAWでもソフトウェア音源をオーディオ化する機能は搭載されていますが、SONARではオーディオトラックの入力ポートとしてソフトウェア音源の選択できるため、いたって直感的にオーディオ化することができるのです。オーディオ化した後の使い方はさまざまですが、これは分かりやすくていいな、と思いました。
テンポ解析したクリップをタイムルーラーへドラッグ&ドロップするだけ
完全に打ち込みで作っている曲の場合はいいのですが、生演奏をレコーディングした素材の場合、テンポをどのように合わせるかは重要でありながら、なかなか難しい問題です。現在のSONAR PLATINUMではオーディオファイルからのテンポ自動検出し、テンポマップ作成する機能を装備したので、この辺の処理が非常に簡単に行えます。実際に試してみると、ちょっと感動的に簡単なんです。操作はテンポが分からないオーディオクリップをタイムルーラーへドラッグするだけ。
たったこれだけでテンポマップに反映され、メトロノームとぴったり合う
これだけで解析が行われるとともに、テンポトラックが生成されるんですよね。一度テンポトラックを作ってしまえば、あとは普通に打ち込めば、そのテンポに追従してくれるので、とても簡単で、かなり重宝します。
ドラムを差し替えたいクリップからDrum ReplacerのRegion FXを作成する
ドラムエディットをする上で、非常に強力な機能が、ドラムリプレーサーというものです。これはすでに録音済ドラムのキック、スネア、タムの音を別の音に差し替えることが可能にしてくれる機能です。もちろん、これはMIDIでの音色差し替えではなくオーディオでの差し替え。エフェクトをかけるというのではなく、まったく違うスネアに差し替えるということができるんです。
やや無理やりな使い方としては、マイクから口ドラムを録音し、それをホンモノのドラムに差し替えちゃうわけです。ハイハットは取れないのですが、「ドン、パンッ」と言っていくと、それがリアルなキックやスネアに変換されるのは、ちょっと魔法のようで感激でした。
ワンノブで操作できるStyle Dial FX Pro Channelモジュール
一方、先日紹介したSONAR HOME STUDIOにも搭載されていて便利だと思ったStyle Dial FX Pro Channelモジュールも現行の全グレードのSONARに搭載されています。これは初心者でも簡単にいい感じの音に仕上げることができる、ワンノブで使えるチャンネルストリップ。ダイナミックスやステレオの広がり具合い、トランジェントシェイパーなどをそれぞれ1つのパラメータだけで調整できるので、なかなか助かります。
さらにマスタリング用のエフェクトとして、リニアフェイズEQ LPEQおよびリニアフェイズマルチバンドコンプレッサー LPMBが追加されたのも大きなポイント。これらによって、最終仕上げまでSONARひとつでできてしまうわけですね。
ここまでピックアップしたのは、この2年間でアップデートされた機能のごく一部。製品名にバージョン番号がついていないので、毎月のようにバージョンアップしてもあまり大きく話題にはなっていませんでしたが、こうしてまとめてみると、かなりの機能ですよね。もっとも、クレジットを見てみると「Version:23.4.0 BUILD 38」とあるので、結構すごいバージョンになっているようではありますが……。
クレジットを見るとVersion:23.4.0 BUILD 38とある
こうした機能を見て、「やっぱりSONARに戻ろうかな……」なんて思う人も少なくないと思います。そうRoland時代にSONARを導入したけれど、最近ご無沙汰してしまっているという人もいるでしょう。でも、もし旧SONARからのアップグレードをするのであれば、急いだほうがよさそうです。
実はすでに海外=Cakewalk Storeでは旧SONARから現SONARへのアップグレードは4月30日をもって終了してしまっているのです。ただ、日本でいきなり終了すると混乱するだろう…というTASCAM側の配慮から、TEAC STOREでアップグレード版を購入する場合に限り、5月31日までと延長されています。いずれにせよ、時間はもうあまりないので、早めにチェックしてくださいね。
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旧SONARシリーズから現行SONARシリーズへのアップグレード版 販売終了に関するお知らせ
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