DTMステーションでも何度か取り上げてきたiPad用のDAW、Auria。最高24bit/96kHzで48トラックのレコーディングができ、プロのレコーディング現場でも実績のあるVSTのPSPのビンテージエフェクトが利用できると同時に、ProToolsなどとやりとりできるようにAAFファイルの入出力をサポートするなど、機能・性能とも充実するとともに、見た目にも非常にカッコいいUIを持つアプリです。
オーディオ性能的にはトップだったけど、MIDIシーケンス機能があるという点でCubasisに負けていた面がありましたが、このたびAuriaの上位バージョンとなるAuria Proが発売。価格はCubasisと同じ6,000円とのことだったので、さっそく購入して試してみました。ファーストインプレッションとしては、Cubasisを大きく超えるiPad最強のDAWが登場した、という感じですが、実際どんなDAWなのか概要を紹介してみましょう。
iPad用の最強のDAW、Auria Proがリリースされた
iPadの音楽制作環境はPCに匹敵するレベルに進化できるのか、というのは多くの方が気になっている重要なテーマですよね。将来的には分かりませんが、個人的にはCPUパワーの差や、プラグイン環境などの面から見て、PCを超えることはないと思っています。ただ、今回登場したAuria Proを見ると、とりあえず、これで十分かも…と思えるものに進化してきています。
12月5日にAuria、Auria LEとともに2.0というバージョンで登場したAuria Pro
Auria Proを簡単に説明すると、オーディオもMIDIも使えるトラック数無制限のDAWで、レコーディングから打ち込み、編集、ミックスまでトータルで行える機能を装備しています。また、単にレコーディングできる、編集できるというレベルではなく、PCの最新のDAWが装備しているようなさまざまな機能まで搭載してきているのです。
たとえば、élastique Proを用いたリアルタイムのオーディオワープ機能やタイムストレッチだったり、オーディオクォンタイズ機能、さらには最大32個ものBUSを使ってのグループ管理など、従来のiPadでの簡易的DTMというのは次元の異なる音楽制作を実現する本気のDAWとなっているんですよね。
今回最上位版のAuria Proが登場したことで気になるのは、従来からあったAuria、Auria LEとの機能、性能的な違いがどうなっているのか、という点。まずはそこをまとめてみましたので、以下の表をご覧ください。
Auria Pro | Auria | Auria LE | |
トラック数 | 無制限 | 無制限 | 24 |
MIDIシーケンサ | ○ | × | × |
ピアノロール | ○ | × | × |
ソフト音源Lyra | ○ | × | × |
ソフトシンセFabFilter Twin2 / One | ○ | × | × |
リアルタイムクォンタイズ | ○ | × | × |
グルーブテンプレートクォンタイズ | ○ | × | × |
テンポトラック | ○ | × | × |
リアルタイムオーディオワープ | ○ | × | × |
オーディオクォンタイズ | ○ | × | × |
スライス機能 | ○ | × | × |
BUSルーティング | ○ | × | × |
外部ハードドライブサポート | ○ | × | × |
AUXセンド | 6 | 2 | 2 |
オフラインタイムストレッチ | ○ | ○ | ○ |
サンプルレート | 44.1/48/96 | 44.1/48/96 | 44.1 |
トラックフリーズ | ○ | ○ | ○ |
コンボリューションリバーブ | ○ | ○ | × |
PSPチャンネルストリップ | ○ | ○ | ○ |
PSPマスターエフェクト | ○ | ○ | ○ |
価格 | 6000円 | 3000円 | 2400円 |
これを見て「アレ?Auriaって48トラックじゃなかったっけ?」と思った方は、鋭い。そう、これまで48トラックまでという制限があったのですが、12月5日にリリースされた2.0というバージョンでトラック数無制限へと格上げされる一方で、価格も下がっていたんですね。
トラック数は従来の48トラックから無制限に
また、Auria Proとの最大の違いはMIDIシーケンス機能およびソフトウェア音源が3つ搭載されたことです。具体的にはマルチ音源のLyra、アナログモデリング音源のFabFilter Twin2おおびFabFilter Oneのそれぞれ。
アナログモデリングシンセのFabFilter Twin2
Lyraはかなりパワフルなディスクストリーミング型のプレイバックサンプラーでSFZ、EXS、SF2のフォーマットにも対応しています。そのため4GBのピアノ音源なども使えてしまうという代物。予め数多くのプリセット音源が用意されていますが、さらにオプションとしての音色を必要に応じて無料でダウンロードして使うことが可能なのも大きな魅力です。
ディスクストリーミング方式の強力なプレイバックサンプラー、Lyra
そんな大容量な音源が入っているとなると気になるのはアプリの容量。実は、このAuria Proのダウンロードに2時間近くかかってしまいました。まあ、通信回線状況にもよるとは思うんですけどね。あとで、アプリの容量を確認してみたら1.9GBもあり、私のiPadに入っているアプリの中の最大容量となってしまいました。さらに、音色をいっぱいダウロードしていくと、かなりのストレージ容量を食うので、その点は覚悟してくださいね。
ピアノロールを基本としたMIDIエディット機能。Processメニューを見れば、その本気度が感じられるはず
一方で、MIDIのエディット機能のほうも、なかなか優秀。基本的にはリアルタイムレコーディングでトラックを作っていくのですが、もちろんピアノロールもあり、そこに用意されている編集機能のほうもなかなか充実しています。タイミングやベロシティを微妙にズラすヒューマナイズ機能なんてものまで搭載されていたり、クォンタイズにおいてもグルーブクォンタイズまで装備されているんですから、その気合の入り方は感じ取れますよね。
iRig KEYSに接続することでソフト音源を演奏することができる
当然、Core MIDIに対応しているので、iRig KEYSやmicroKEYなど、iPadに接続可能なキーボードはそのまま使うことができ、これで打ち込んでいくことができますよ。
では、オーディオ機能のほうはどうなっているのでしょうか?基本的な機能はAuriaのものが踏襲されていますが、Auriaをご存知ない方も多いと思うので、簡単に紹介していきましょう。
PCのDAWと同様、ミキシングコンソール画面と、トラックのエディット画面の大きく2つから構成されており、最大で24トラックまでの同時レコーディングが可能となっています。でも、どうやって、そんなにたくさんのトラックを同時にレコーディングするのかというと、PCでのDTMと同様に外部にオーディオインターフェイスを接続する必要があります。
ZOOMのUAC-8に接続することで8ch同時レコーディングが可能に
もちろん、iPad内蔵のマイクでレコーディング…といったこともできますが、オーディオインターフェイスを使うことで、マルチでかつ、24bit/96kHzといった高品位な音でレコーディングしていくことが可能なのです。ためしに、ZOOMのUAC-8をクラスコンプライアントモードにして96kHzでの4chの同時レコーディングをしてみましたが、問題なく動作することを確認できました。
設定次第で、エフェクトをかけた音をモニタリングしたり、ダイレクトモニタリングでよりレイテンシーを縮めたり……といったことも可能になっていますよ。そのエフェクトのほうも、非常に柔軟な設計になっています。
サンプリングレートは44.1kHz、48kHz、96kHzの3種類でプロジェクト作成時に設定する
各トラックにはPSPの強力なチャンネルストリップが搭載されているので、これでEQやコンプといったものを使えるほか、最大4つまでのエフェクトを各トラックごとに使うことができます。
強力なコンボリューションリバーブも搭載
予め、リバーブ、コンボリューションリバーブ、ディレイ、ボーカル修正エフェクトなどが搭載されているほか、有料オプションではありますが、数多くのエフェクトが用意されているのです。またそのオプションと同じ扱いでInter-App Audioのエフェクトを使うこともできますから、完全にPCのプラグイン感覚ですね。
ボーカルのピッチはもちろんフォルマントなどもリアルタイムに自在に変化させられるReTuneはかなり使える
推奨はiPad4以降となっており、最新のiPad Proなんかを使えば、かなり快適に使えるとは思うのですが、それでもPCと比較すれば非力なCPU。ある程度のトラックまでなら使えても、たくさんのエフェクトを挿入していくと、限界がくるのは間違いありません。
エフェクトはインサーションはもちろん、AUXを用いてセンド・リターンの形でも利用可能
ただ、そんなときもフリーズ機能が用意されているので、CPU負荷の軽減ということはできるんですよ。Inter-App Audioのエフェクトに対してもフリーズは有効ですから、かなり使えそうですね。
Inter-App Audio対応デバイスとしてiSECを使ったが、まるでプラグインのような感覚で気持ちよく使える
フリーズが使えること、さらにInter-App Audioが使えるのは、先ほどのソフトウェア音源についても同様。試しにソフト音源としてArturiaのiSECを入れて弾いてみましたが、すごく快適。とりあえずトラックができたらフリーズしてしまえばいいというのも、大きな安心材料だと思います。
実際に私のiPad Air2を使い、24bit/96kHzでトラック数を増やして、エフェクトをいっぱい入れていくと、負荷が大きくなって音が途切れたり止まったりしてしまったので、PCと比較すれば非力であることは間違いありません。でも、このフリーズ機能などを利用すれば、かなり使えるので、この辺は工夫次第といったところでしょうか?
élastique Proのエンジンも搭載するなど、PCのDAW顔負けの機能、性能を装備
ほかにもélastique Proを使ったオーディオワープ機能やスライス機能、また外部との同期機能など、試していない機能もいっぱいですが、とりあえず使ってみたところ、かなりすごいDAWであることは十分に実感できました。
確かに6,000円はiPadアプリとしては高価かもしれませんが、DAWとして見たら安過ぎといってもいいのではないでしょうか?ある意味、Auria ProのためにiPadを買っても損はないと思います。
1オシレーターのFabFilter Oneもなかなか使えるかわいい音源
なお、AuriaからAuria Proへのアップグレードパスというものは存在しないようです。アップグレードという表示は出てくるものの、価格は6,000円なので同じですね。せっかく買うなら、最初からAuria Proを導入することをお勧めしますよ!
【ダウンロード購入】
◎App Store ⇒ Auria Pro
◎App Store ⇒ Auria