2010年にAppleからiPadが発売されたのと同時にリリースされたKORGのリズムマシン・アプリ、iELECTRIBE for iPad。「iPadって、ここまでのことができるのか!」と多くの人に衝撃を与え、世界中での大ヒットアプリとなりました。iELECTRIBE for iPadは、まさにiPadというかiOSのDTMの歴史の原点ともいえるアプリだったわけですが、それから5年、今度はKORG iELECTRIBE for iPhoneという新しいアプリが誕生しました。
といってもiPad版がiPhone版になった、というわけではありません。見た目からも分かるとおり、この新iELECTRIBEは1999年に発売されたELECTRIBE・R(ER-1)をリバイバルさせたアプリ。しかもiELECTRIBE for iPadに搭載されてきた数々の新機能や、最新のプリセット・パターンも加えて進化させた、まさに2015年版の最新アプリなのです。発売記念キャンペーンということで9月いっぱい1,200円(通常は2,400円)で発売されているこのKORG iELECTRIBE for iPhone(以下、iELECTRIBE)をさっそく試してみたので、紹介してみましょう。
手前が新しく登場したKORG iELECTRIBE for iPhone、奥が2011年登場のiELECTRIBE for iPad
iELECTRIBEを起動するとELECTRIBE・Rとソックリな画面が現れますが、プレイボタンをタップすると、いきなり強烈なサウンドでリズムのプレイがスタートします。
iELECTRIBEを起動し、プレイボタンをタップすると、EDMサウンドが鳴り始める
音を聴いてみると分かるとおり、単にドラムが鳴っているというわけではなく、シンセサウンドも一緒に出ています。
構成を見てみるとSYNTH1~4、HH CLOSED、HH OPEN、CYMBAL、CLAP SNAREという8音色となっているんですね。つまりキックやタムなどはシンセを使う形になっているからこそ、まさにEDM系のパンチの効いたサウンドになっているわけです。
約300種類のプリセット・パターンが用意されておりその中には初代ELECTRIBE・R搭載のものも
プリセットを変更してみると、エレクトロ、ハウス、テクノ、ドラムンベース、ダブステップ、ヒップホップ、テクノポップ、IDMなど、さまざまなジャンルのリズムが飛び出してきます。初代ELECTRIBE・Rに搭載されたいた192個のプリセット・パターンがそのまま再現される形で収録されていたり、32個のジャンル別テンプレート・パターンなど、約300種類のプリセットパターンが用意されているので、これを切り替えて聴いているだけでも、かなり楽しいですよ。
INITボタンをタップすると、すべてクリアされ、キックの4つ打ちのみになる
でも、やっぱり自分でゼロからパターンを組んでみたいですよね。そのときはINITというボタンを押すと、SYNTH1によるキックだけが4つ打ちで入力された状態となるので、これを再生しながら、スネア、ハイハット、シンバルなどを加えていきます。方法はいたって簡単。音色をタップして選び、下にある1~16の番号を適当にオンにしていけば、リズムが入力されていくのです。
1~16番の番号のボタンをオンにしていくと、リズムが入力されていく
「楽器なんてまったく弾けない」、「DTMとかの知識もまったくないよ」という人でも、触ってみれば、30秒でコツが掴め、自分だけのオリジナルなリズムパターンが作れると思います。
その上で、上にあるパラメータを動かすことで、各音色をいじっていくことが可能です。OSC、AMPのパラメータは各音色ごとにそれぞれ設定でき、EFFECTは8音色全体にかかります。この辺も適当に触ってみれば音が変わるので、難しいことが分からなくても、なんとなく気に入った音が見つけられればそれでOK。
とはいえ、簡単に説明しておくと、OSCのPITCHは音程をいじるもので、これを使うことで音の雰囲気はずいぶん変わりますよ。またWAVEボタンをタップしていくと、サイン波、三角波、矩形波、ノコギリ波とベースとなる波形が切り替わるので、同じ音程でも違ったサウンドになってくるんですね。
さらに、MOD DEPTH(モジュレーションの深さ)を動かしていくと、音色がさらに大きく変化していきます。この際、MOD TYPEを切り替え、MOD SPEEDで変化のスピードを調整することで、音色作りの幅も広がっていきます。
AMPのDECAYによって、音の伸び方が変化する
一方、AMPのほうでは、LEVELは音量、PANは左右のバランスを調整するのに対し、DECAYを動かすことで、音の伸びが変わってきます。たとえばキック・サウンドの場合、DECAYを短くすれば「ドッ」という短い音なのに対し、これを長くすると「ドーン」という感じに変化していくわけです。
一方、EFFECTのほうはDELAY(ディレイ)、BPM DLY(BPMシンク・ディレイ)、GRAIN(グレイン・シフター)、REVERB(リバーブ)、CHO/FLG(コーラス/フランジャー)、FILTER(フィルター)、TALK MOD(トーキング・モジュレーター)、DECIMATOR(デシメーター)という8種類あり、それぞれのエフェクトごとに2つのパラメータが割り当てられています。GRAINとかTALK MODなど、かなり過激なエフェクトもあるので、どんなサウンドになるのかは、ぜひ各自試してみてくださいね。
このiELECTRIBEで言えるのは、何も知らない初心者でも、すぐに使えるし、分からないままにパラメータを動かしても、楽しく音作りができるということ。もちろん、知識のある人ならば、目的のサウンドをよりすばやく作ることができるし、かなりマニアックなサウンドまで作りこめるのが楽しいところです。いずれにせよ、誰でもが楽しめるリズムマシンとなっているのです。
音源方式 | アナログ・モデリング・シンセサイザー+PCMサンプル(内蔵PCM 16種類、楽器カテゴリ別4パートx 4種類) |
パート数 | 8パート: ・パーカッション・シンセサイザー・パート x 4 ・PCMシンセサイザー・パート x 4 ・アクセント機能 |
エフェクト部 | マスター・エフェクト x 1系統: ステップごとのエフェクト・オン/オフ パートごとのエフェクト・オン/オフ8種類のエフェクト: ・ショート・ディレイ ・BPMシンク・ディレイ ・グレイン・シフター ・リバーブ ・コーラス/フランジャー ・フィルター ・トーキング・モジュレーター ・デシメーター |
シーケンサー部 | 最大64ステップ: ・パートごとに全パラメーター記憶可能なモーション・シーケンス ・テンポ20-600BPM(タップ・テンポ/スイング機能) ・パターン・セット機能 |
パターン数 | 416パターン: ・32プリセット x 2バンク(FACTORY) ・32プリセット x 6バンク(ER-1) ・32テンプレート x 1バンク ・32ユーザー x 4バンク |
その他 | 外部USB-MIDI機器によるコントロール対応 (Apple Lightning – USBカメラアダプタ経由) BEAT FLUTTER機能 ELECTRIBE・Rのリング・モジュレーション機能 ELECTRIBE・R mkIIのクロス・モジュレーション機能 オーディオ・エクスポート機能(パターンの書き出し:16bit-44.1kHz ステレオWAVフォーマット) WIST (Wireless Sync-Start Technology) 対応 Inter-App Audio Audiobus |
このiELECTRIBEのスペックをまとめると、上の表のようになっています。
iELECTRIBEは2003年発売のELECTRIBE・R(奥) がデザインのベースとなっている
ところで、iELECTRIBE for iPadが2003年発売のELECTRIBE R mkII (ER-1mkII)およびELECTRIBE SX(ESX)をベースにデザインされているのに対し、今回のKORG iELECTRIBE for iPadはELECTRIBE・R(ER-1)がベースとなっています。音源部分はほぼ共通となっているのですが、その基本的な仕様について違いを整理したものが以下の表です。
KORG iELECTRIBE for iPhone | iELECTRIBE for iPad | |
UI・デザイン | – ER-1ベースのデザイン – iPhoneサイズに適したUI |
– ER-1mkII / ESXベースのデザイン |
音源 | – ER-1の音源を移植 | – ER-1の音源を移植 |
ファクトリープリセット | – iPad版から一新した最新プリセット(64個) – Richard Devine作成パターンを含む – iPad版プリセットは含めず |
– iPad版専用プリセット |
パターン数 | – 416パターン: ・ファクトリープリセット: 32パターン x 2バンク ・ER-1ファクトリープリセット: 32パターン x 6バンク ・テンプレート: 32パターン x 1バンク ・ユーザー: 32パターン x 4バンク |
– 160パターン: ・ファクトリープリセット: 32パターン x 2バンク ・テンプレート: 32パターン x 1バンク ・ユーザー: 32パターン x 2バンク |
ER-1を含めた機能の違いをまとめると以下のようになっているのですが、これを見ても、今回のiELECTRIBEが別モデルであることが分かりますよね。iPad版に真空管回路VIRTUAL VALVE FORCEが搭載されていたり、iPhone版はリング・モジュレーション機能が付いていたりします。
KORG iELECTRIBE for iPhone | iELECTRIBE for iPad | ELECTRIBE・R(ER-1) | |
リング・モジュレーション機能 | ○ | x | ○ |
クロス・モジュレーション機能 | ○ | ○ | x |
真空管回路VIRTUAL VALVE FORCE搭載 | x | ○ | x |
BEAT FLUTTER機能 | ○ | ○ | x |
エフェクト | – 8種類のエフェクト: ・ショート・ディレイ ・BPMシンク・ディレイ ・グレイン・シフター ・リバーブ ・コーラス/フランジャー ・フィルター ・トーキング・モジュレーター ・デシメーター |
– 8種類のエフェクト: ・ショート・ディレイ ・BPMシンク・ディレイ ・グレイン・シフター ・リバーブ ・コーラス/フランジャー ・フィルター ・トーキング・モジュレーター ・デシメーター |
・ディレイ ・テンポ・ディレイ |
さらにiELECTRIBEは単体で使うだけでなく、別のDTMアプリと連携させて使えるのも重要なポイントです。ここから先は上級者編という感じになりますが、簡単に紹介していきましょう。
GarageBandの音源としてInter-App Audioを利用してiELECTRIBEを指定して、レコーディングできる
まずはInter-App Audio対応であるという点です。iELECTRIBEはInter-App AudioのGeneratorとして機能するので、たとえばGarageBandから呼び出す形で組み込むと、iELECTRIBEのサウンドをトラックへレコーディングすることができ、さらにGaregeBand側で、別トラックに、ギターやボーカルなどを加えていく……といった使い方が可能です。
AudiobusのINPUTにiELECTRIBEを指定し、エフェクトを通じて、DAWへレコーディング
またAudiobusにも対応していますから、iELECTRIBEの出力に別のエフェクトを加えた上で、DAWへレコーディングしていく、といった使い方もできますね。
WISTを利用し、そばにあるiOSデバイスとBluetoothで接続
また、リズムマシンとしてWIST=Wireless Sync-Start Technologyに対応しているのも拡張性という面で見逃せません。WISTについては、だいぶ以前に「iPad/iPhoneの同期システム、WISTで遊ぼう」という記事を書いているので、そちらを参照いただきたいのですが、一言でいえば、iPhone同士とかiPhoneとiPadなど、2台のiOSマシン上で動くリズムマシンやシーケンサをBluetoothで接続して同期させる、というもの。
2台のiPhone上で動くiELECTRIBEを同期させてもいいし、iELECTRIBE for iPadと同期させるのはもちろん、KORG Gadget、iMS-20、iPolysixなどKORGのアプリも同期できるし、YAMAHAのテノリオンのアプリ版であるTNR-i、PropellerheadのReBirth for iPad、ArturiaのiSEM、AKAIのiMPC、松武秀樹さん開発のTANSU Synthなど、さまざまなアプリがWIST対応しているので、これらとiELECTRIBEを同期演奏できるというのは、なかなか楽しいので、2台のiOSデバイスがあれば、ぜひ試してみてくださいね。
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KORG iELECTRIBE for iPhone