DTM(デスクトップ・ミュージック)における重要なキーワードに「MIDI(ミディ)」があります。でも、古くからのDTMユーザーならともかく、最近DTMを始めた人にとっては馴染みが薄いかもしれません。また「あぁ、MIDIって昔のヤツね。今は断然DAWだね」なんて、ちょっと勘違いしたような声を聞くこともしばしばだし、「今はUSBが主流で、MIDIなんて使う人いないよ」と微妙に間違った捉え方をしている人も少なくないようです。
そうした誤解が起きる背景には「MIDI」という言葉には複数の意味が含まれており、シチュエーションによって違った意味で用いられているからかもしれません。そこで、改めてMIDIって何なのか?、MIDIは古くないのか?、具体的にはどんな意味が含まれていて、現在のDAWにとってMIDIはどんな位置づけなのかを、できるだけ優しく整理しながら、解説してみたいと思います。
DTMの重要キーワード、MIDIって何だ??
MIDIは、Musical Instruments Digital Interfaceの略で、1981年に策定された電子楽器同士を接続するための世界共通規格です。そう30年以上も前に誕生した規格で、当時、ヤマハ、ローランド、カワイ、コルグの日本メーカー4社と、当時のシーケンシャル・サーキット、オーバーハイムの米メーカー2社の計6社の合意によってまとまったものなのです。
30年以上前のデジタル規格が今でもそのまま使えるというのは、他ではあまり例のないものだと思いますが、実際に最新の機器と30年前の1985年に発売されたヤマハのDX100を接続することができ、連携させて音を鳴らすことができましたから、その互換性たるや、凄いですよね。
UR22のMIDI OUTを30年前の機材DX100をMIDIで接続し、Cubaseからコントロールして鳴らすことができた
では、MIDIの接続とは、いったいどういうことなのでしょうか?もっとも基本的なことを紹介してみましょう。まずは以下の図をご覧ください。電子楽器Aと電子楽器Bがあり、これをMIDIケーブルというものを用いて接続します。
この際、電子楽器A、電子楽器BともにMIDI INとMIDI OUTという2つの端子があるのですが、ここでは電子楽器AのMIDI OUTと電子楽器BのMIDI INを接続しておきます。このとき、電子楽器Aの鍵盤を弾くと電子楽器Aが鳴るのはもちろんなのですが、それと同時に電子楽器Bもユニゾンで鳴るのです。そう電子楽器Aを「ドレミファソ」と弾くと、まったく同じタイミングで電子楽器Bも「ドレミファソ」となるわけなのです。
電子楽器などの機材にはMIDI INとMIDI OUTというMIDI端子が用意されている
この際、面白いのは電子楽器Aはピアノ音色、電子楽器Bはギター音色であったとしても、それぞれの音色でユニゾンで鳴るんですね。なぜ、こんなことができるのかというと、接続したMIDIケーブルを通じて、演奏情報がデジタル信号としてリアルタイムに流れているからなのです。
つまり「ドの鍵盤を強さ90で弾いた、ドの鍵盤を離した、レの鍵盤を強さ105で弾いた、レの鍵盤を離した……」といった情報が高速に流れるため、電子楽器Bがそれに対応して同じように鳴るというわけなのです。厳密にいえば、そのデータ転送には時間がかかるので、電子楽器Aと比較すると、微妙に遅れて電子楽器Bが鳴っているのですが、その時間差(レイテンシーといった表現をします)は0.001秒程度。和音を弾いたりすると、もう少し時間差は大きくなりますが、この程度であれば、人間には時間差を認識できず、同時に聴こえるというわけなのです。
ちなみに、先ほどの図において電子楽器Bを弾いてもMIDI信号は電子楽器Aには伝わりません。なぜならMIDI信号の伝送はMIDI OUTからMIDI INへの一方通行であるためで、電子楽器Aを反応させるためには、以下の図のように、もう一本のMIDIケーブルを用いて接続する必要があるのです。
さて、電子楽器間を流れた信号はデジタルデータですから、これをコンピュータに記録させることが可能です。たとえば、下の図のように接続した場合を考えてみてください。電子楽器Aを演奏すると、その演奏情報がコンピュータへと記録されます。そして、その記録した情報を、コンピュータでまったく同じように再生すると、演奏したのとまったく同じように電子楽器Aを鳴らすことが可能となるのです。
このようにMIDIの信号を記録したり再生したりするソフトのことを、一般にMIDIシーケンサと呼んでいます。また現在のDAW=Digital Audio Workstation、つまりCubaseやSONAR、Ability、StudioOne、ProTools……といったソフトにもMIDIシーケンサとしての機能を搭載しているので、同様のことができるわけですね。
このようにMIDI信号を記録したり再生することは、実際の音=オーディオ信号を記録したり、再生するのとどう違うのでしょうか?単純に考えてもわかるとおり、マイクから入っていくる音はMIDIで記録することはできないので、ボーカルやアコースティック楽器の音を扱えるわけではない一方、MIDIは演奏情報で記録されているだけなので、MIDIシーケンサ上でデータを修正することが簡単にできます。「ドレミ」という情報を「ミレド」にすることは簡単であり、ここで音質的な劣化はまったくありません。
各音階にはMIDIのノートナンバーと呼ばれる番号が割り当てられており、この番号がMIDIデータとして送られる
(図版は「これからはじめるDTMerのためのやさしい基礎知識」より)
さらに、そもそもMIDIシーケンサ上での演奏データを作成するのに、電子楽器Aを演奏しなくても、コンピュータ上でデータをゼロから作ってしまうことだって可能です。これを「打ち込み」などと呼んでいるわけですが、楽器を弾けない人でもコンピュータ上で作成して、上手に演奏できてしまうのがMIDIシーケンサの魅力でもあるわけです。
打ち込みもと言われる方法でMIDIの演奏情報をDAW上で入力することもできる
同様にゆっくり演奏したものを、テンポを上げて再生したり、音色を変更して演奏すたり、といったことも簡単にできるのがオーディオではできない(最近は技術の進化によって、あまり音質劣化させることなく、スピードを変更することは可能になってきましたが)、MIDIのメリットでもあります。
ところで「そりゃあ、昔はMIDIを使っていたけど、今MIDIを使うことなんてないでしょ……」という声も聞こえてきます。そう、確かに最近は私自身もMIDIケーブルを使って配線するということはあまりないし、MIDI端子を装備しない機材も少なくありません。とくにDTM用のMIDIキーボードはMIDIと言いながらもUSB端子しかなかったりするので、分かりにくいところです。
MIDIキーボードといいつつ、MIDI端子がなくUSB接続のみのものも少なくないが、USBケーブル内はMIDI信号が流れている
ということはMIDIはUSBに取って代わられたということなのでしょうか…?確かに物理的な配線としてはUSBを使うケースが増えているのですが、USBケーブルの中には、従来通りのMIDIの信号が流れているのです。またDAW側から見れば、MIDIケーブルを通ってきた信号もUSBケーブルを通ってきた信号もまったく同じMIDI信号として見えるので、実質的には変わっていないともいえます。ちなみにUSBは電子楽器同士を接続するときは使うことができませんから、USBケーブルが用いられるのはPCとの接続時のみに限られます。
さらに最近ではMIDI信号をBluetoothで飛ばしたり、LANやWi-Fiで飛ばすこともありますが、これも物理的な形状が違うだけで、中枢となるMIDIの規格自体は、そのまま使われているのです。
「とはいえMIDI音源の全盛期は1990年代であり、21世紀以降はソフト音源の時代ではないか!」という人もいるかもしれませんね。そうミュージ郎で一世風靡したローランドのGS音源や、それに対抗して出てきたヤマハのXG音源は、今やビンテージ機材といってもいいものです。最近ではそれをiPad上で復活させたSound Canvas for iOSが話題となっていますが、これはどのような変化なのでしょうか?
まず、そのGS音源やXG音源に代表されるMIDI音源とは、基本的には鍵盤などを持たない電子楽器であり、コンピュータからコントロールされることを前提にしたものです。つまり、MIDIシーケンサあるいはDAWからMIDI信号を送って鳴らす機材であり、以前はDTMの世界で幅広く使われていました。
Cubaseに標準搭載のソフト音源、HALion Sonic SE
ところが技術の進歩、コンピュータの進化に伴い、わざわざ外部にMIDI音源を接続しなくても、それと同等もしくはそれ以上のことをソフトウェア的に実現できるようになったのです。それがソフト音源とかソフトウェアインストゥルメント、ソフトシンセなどと呼ばれているものであり、DAWのプラグインとして数多くある音源なのです。
これならMIDIケーブルで接続する必要はないし、フリーソフトとして配布されているソフト音源も数多くあるので、安くすむだけでなく、当時のハードウェアとしてのMIDI音源より、遥かに高性能、高音質なものが数多く登場しているのです。その結果、外部に接続するMIDI音源は衰退し、過去のものとなりつつあるわけです。
とはいえ、MIDIシーケンサやDAWから見ると、外部接続のMIDI音源も、同じコンピュータ内で動作するソフト音源も同じMIDI音源であり、コントロールの仕方はまったく一緒なのです。あくまでもMIDIの規格に則って制御しているだけであり、MIDIとしての根幹は何も変わっていないんですね。当然、ソフト音源側もMIDI信号を受けて動作するという点で、従来のハードとしての音源と構造上は変わらないのです。
そして、もう一つMIDIという言葉として、今でもよく使われるのが、「このデータ、MIDIで書き出しておいて!」とか「MIDIデータをDAWにインポートして使っているんだ」なんていうもの。ここでいうMIDIは、正確にはスタンダードMIDIファイルという、MIDIのファイル形式です。単にMIDIと言ったり、MIDIファイルと読んだり、略してSMFなんて言い方をするのも、少し混乱するところですよね。
どのDAWにもMIDIファイルのインポート、エクスポート機能が用意されている
このスタンダードMIDIファイルは、MIDIシーケンサ間でデータの互換性を持たせようと、MIDI誕生の10年後、1991年に策定された規格であり(※)、現在のDAWでもその読み込み(インポート)や書き出し(エクスポート)がサポートされているものです。このスタンダードMIDIファイルでやりとりできるのは、MIDIの演奏データであって、ボーカルやアコースティック楽器などを録音したオーディオデータを扱うことはできませんが、幅広いソフトでやり取りが可能であり、データの互換性が保たれているものです。
※追記
スタンダードMIDIファイルは、今はなき米Opcode社により、80年代中盤にフォーマット作られ、広まっていきました。その後、91年に正式にMIDIのRP(Recommended Practice:拡張規格)として採用されたという経緯があります。
このスタンダードMIDIファイルを、略してMIDIと呼ぶから、意味が分からなくなってしまうわけですが、これは今でも頻繁に使われているファイル形式なのです。
以上、MIDIの基本的な情報について整理して解説してみましたが、ある程度、理解いただけたでしょうか?もちろん、MIDI規格には、ここでは解説していない、さまざまな規定があり、音源のパラメータをいじったり、演奏に表現づけができたり、リモコンのように扱えたり、場合によっては楽器だけでなく照明をコントロールできるなど、幅広い用途で使われいるのです。
興味があれば、ぜひMIDIの規定であるチャンネルの概念やコントロールチェンジでの制御方法、さらにはシステムエクスクルーシブを用いた固有機種のコントロール方法など、いろいろと調べてみると面白いと思います。ただ、いきなり、そうした細かな情報まで知らなくても、ここで紹介したような話を概念的にでも理解できると、現在のDAWを用いた音楽制作においても、いろいろ役に立つと思います。
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