フランス・グルノーブルにあるシンセサイザメーカーのArturia(アートリア)。同社は今年で設立15年になるということで、世界中の代理店やプレスを呼んで15周年記念イベントを現在開いています。私も、そのイベントにお呼ばれされたので、一昨日、約20時間以上かけてグルノーブルに到着したところです(といっても渡航費は自腹ですが……)。
このイベントにおいて、ソフトウェア音源など、いくつかの新製品がお披露目されるようですが、それに先駆けて発表されたのがiPadアプリの新音源、iProphetです。国内でもすでに9月30日よりApp Storeに並んでおり、現在音楽カテゴリにおいて1位にランキングされているのです。私もさっそく1,000円のこのアプリを購入してみたので、どんな音源なのか、簡単に紹介してみたいと思います。
フランスArturiaからPropeht VSを再現する強力シンセアプリ、iProphetが誕生
iProphetが登場したことは、フランスに到着して、スペインのジャーナリストから話を聞いて初めて知り、急いで購入しました。iProphetという名前を聞いて、Sequential CircuitのProphet 5を再現するiPadアプリなのか?と思ったら、Prophet VSを再現するアプリだったんですね。
ご存知の方も多いと思いますが、ArturiaはProphet VというWindowsおよびMacで動作するソフトシンセを出しており、このProphet VではSequential CircuitのProphet 5およびProphet VSの双方を再現しています。今回、iPadアプリとして誕生したiProphetはProphet VからProphet VS部分だけを切り出して、iPadアプリとして移植したもののようです。
App Storeにおいてもミュージックカテゴリーの有料1位にランキングされている
オリジナルのProphet VSをご存知ない方も多そうなので、簡単に紹介すると、これはベクターシンセシスと呼ばれる方式の音源であり、アナログシンセであるProphet 5とはだいぶ異なる趣向のもの。
ベクターシンセシスとは、鍵盤を叩いて出てくるサウンドを、オシレター(波形)レベルでリアルタイムに変化させる音源となっています。なかなか直感的には分かりにくい面もありますが、オリジナルのProphet VSでは4つのデジタルオシレーターをどう組み合わせ、ミックスするかを設定するためのジョイスティックが搭載されていたのが、大きな特徴でした。
4オシレータ×8=32オシレータという構成で、数多くのオシレータを組み合わせて音作りをしていき、それをアナログフィルターで加工するという形になっているからなのでしょう、Prophet 5にも負けない、図太いシンセサウンドが作り出せるんですよね。
今回登場したiProphetは、まさにそんなProphet VSをiPad上で忠実に再現する音源なのです。
実際に起動してみると、PCソフトのProphet Vとは大きく異なる画面です。そうProphet Vでは、Prophet 5のユーザーインターフェイスの中に、無理やりProphet VSを組み込んだ画面になっていますが、iProphetは完全にProphet VS風なデザインになっています。最大の特徴であるジョイスティックも搭載されていますね。
プリセット音を鳴らしてみると、「確かにこれは太い音だ!」と思うと同時に「あれ?モノフォニックの音源?」と和音が出てきません。と思ったら、32オシレーターをすべてモノフォニックに突っ込んだすごい音作りをしたものがプリセットとして多く用意されていたんですね。プリセットを切り替えていくと、もちろん8音ポリの音も出てきました。
4つあるオシレーターには、複雑な波形が計96用意されているので、これを切り替えていくことでドラスティックにサウンドが変わっていきます。
また画面を切り替えると、そのベクターシンセシスをうまく表現した画面も登場してきます。この画面であれば、各オシレーターのバランスをどのように組み合わせていくか、より細かく設定することができますね。
さらにマトリックス画面においては、もう何でもありという形で、どのパラメータがどこの影響するのかを自由自在に設定することが可能になっているのです。これはシンセマニアにとっては、とっても嬉しい機能であると同時に、あまりに複雑に音色作りができすぎて、頭が混乱しそうになります。
そしてオリジナルのProphet Vにはなかったエフェクトも搭載されており、コーラス、オーバードライブ、ディレイの3つのパラメータで音作りが可能な画面も用意されていますね。
このiProphetはArturiaが、ベースとなる回路シミュレーション技術を開発し、音作りを担当している一方で、iOSアプリへの最適化のために、米Retronymsと共同開発となっているのも特徴です。
そう、Artruiaでは、これまでもiPadシンセアプリとして、Minimoogを再現するiMini、OberheimのSEMを再現するiSEMという2つを出していましたが、iProphetはiMiniと同様にRetronymsと組んでいるんですね。
Tabletopの最新版ではiProphetを組み込んで使えるようになった
そうRetronymsは数多くのiPad音源をOEMなどでも開発してきた実績あるメーカーであると同時に、「iPad用のマニアックな無料アプリ、Tabletopを堪能しよう!」の記事で紹介したTabletopのメーカーとしても知られる会社です。そのTabletopがiProphetのリリースと同時にVersion 2.6.4にアップデートし、iProphetユーザーであれば、これを組み込んで使えるようになっているのです。
つまり、Tabletopと組み合わせることで、シーケンサ機能を利用できるのはもちろんのこと、数々のエフェクト組み合わせて使ったり、他の音源と組み合わせて使ったりもできるわけですね。
Inter-App Audio機能を通じてGarageBandなどでも利用できる
もちろん、iProphetはTabletopとの組み合わせだけでなくInter-App Audioにも対応したので、GarageBandなどでも利用できるし、Audiobusにも対応しているので、これを使ってエフェクトと組みあせてDAWにレコーディングできるなど、iOS8上での組み合わせもバッチリ。iPadユーザーであれば、購入して絶対に損のない音源だと思います。
ArturiaのCEO、Fredericさんのご自宅で記念撮影!
ちなみに、この写真はArturiaのCEOであるFrederic Brunさんのご自宅に伺って、iProphetと一緒に記念撮影をしたもの。Fredericさんとしても、かなり自慢の音源みたいですね。