往年の名機、武骨なアナログシンセSH-2をRoland自ら忠実に復刻

Rolandが生み出した、新たな開発手法ACB=Analog Circuit Behaviorテクノロジーによって、往年の名機が次々と復刻されています。ドラムマシンであるTR-808やTR-909がAIRAシリーズのTR-8として、ベースシンセのTB-303がTB-3として、また多くの人が使って楽しんだアナログシンセのエントリー機SH-101がSYSTEM-1のPLUG-OUT音源として登場したことは、これまでもDTMステーションの記事で紹介してきた通りです。

ここにさらにシンセマニアが唸る機材、SH-2が新たに登場し、9月25日、税込み15,120円(SYSTEM-1ユーザーは9,720円)で発売されたのです。中古市場で探すと7万円程度するSH-2が15,120円ってどういうこと??と思い、Rolandに話を聞きに行ってきたところ、状況がハッキリとわかったので、紹介してみましょう。


1979年発売のアナログシンセ、SH-2がPLUG-IN/PLUG-OUTの形で復刻された


一般的にJupiter-8に代表されるRolandのクラシック・シンセサイザーは多彩な音色づくりをが可能で、そのサウンドの傾向も、シンセストリングス、シンセブラス、シンセリードなどきらびやかでハイファイなものが人気でした。一方太いシンセ・ベース・サウンドならMOOGという位置づけだったと思います。その中で1979年に発売されたモノフォニックのアナログシンセサイザーであるSH-2は、2基のVCOにサブオシレータが付く構成で、当時のRolandの音源の中ではシンセ・ベースなどを得意とする太いサウンドが特徴的なシンセサイザーでした。機能は無骨でシンプルな設計で、アルペジエータもなければメモリ機能もありませんでしたが、音の太さだけは抜群だったのです。そのSH-2をこのたび復刻させました」と語るのはAIRA関連の製品マーケティングを担当する高見眞介さん。

まずはRolandが出したSH-2のトレーラービデオがあるので、ご覧ください。

また新しいAIRAのハードウェアが発売されたのかと思ったら、そうではなく、PLUG-INおよびPLUG-OUTという形での発売だったんですね。ただ、このPLUG-OUTはRolandが生み出した新しいコンセプトであり、よく分からない方もも多いと思うので、簡単に解説しましょう。


PCのDAW上で動作するPLUG-INの音源としてのSH-2 

まずPLUG-INは、ご存じのとおり、VSTインストゥルメントやAUのフォーマットでDAWにソフトウェア音源機能を追加するためのもの。それに対し、PLUG-OUTとは、PLUG-IN環境で動作するソフトウェア音源をPC内に留まらせるのではなく、外に持ち出せるようにしよう、というものです。具体的にはソフトウェア音源をSYSTEM-1というハードウェアに転送させることで、PC無しでも使えるようになり、まさにハードウェア音源として使えるようにする、というものなのです。


PCからSYSETM-1へPLUG-OUTのプログラムをUSB経由で転送する
具体的には、すでにSH-101というPLUG-IN/PLUG-OUTがリリースされていますが、これはPC内ならCubaseやLogic、SONARなどの上で動作すると同時に、SYSTEM-1に転送するとSYSTEM-1がSH-101に変身し、SH-101のハードウェアシンセサイザーとして使えるようになるというわけです。そのPLUG-IN/PLUG-OUTとして、今回SH-2が誕生したというわけですね。

転送後、PLUG-OUTボタンを押すと、SYSTEM-1がSH-2に変身する

普通のソフトウェア音源と混同されがちではあるのですが、ACBで開発したSH-2は、1979年に発売されたSH-2の実機そのものといっていいものです。社内に残る当時のアナログの回路図を元に復元すると同時に、回路基板や回路構成に起因するVCOやVCFの揺らぎを忠実に再現しています。このため、出音に関係しないパラメータも音色に影響を与える場合があります。さらに当時携わった開発者からの情報を元に、回路図にも出ていない細かな特性を再現しているので、開発には多大な労力を要します。時間は掛かりますが、実機ならではのクセまでを忠実に再現できているのです」(高見さん)


1979年発売のSH-2の実機。このアナログ回路をACBテクノロジーで忠実に復元させている

ここで浮かんでくる疑問は、ACBで再現された音源がPCで使えるPLUG-INとして動くのなら、あえてSYSTEM-1とかPLUG-OUTがなくてもいいのではないか……という点です。この点について高見さんからは明確な答えが返ってきました。

そうした声が多かったのは事実であり、そのため、今回はSYSTEM-1を持っていないユーザーでも使える単体版の販売も行っているのです。ただ、ACBでのアナログ回路の再現には結構なCPU負荷がかかるのは事実。それに特化したSYSTEM-1内蔵のDSPを使えば軽く動いてくれるのです。また、ライブでの利用などを考えると、PLUG-OUTしてSYSTEM-1で使うメリットは大きいと思います」と高見さん。

なるほど、電源を入れればすぐに使え、PCトラブルの心配がないのは大きなメリットです。でも負荷が大きいとはいえ、高速なPCも安価で登場するようになってきたので、これとコントロールサーフェイス付のMIDIキーボードをセットで使えば、いいようにも思います。


PLUG-OUTしたSYSTEM-1上のSH-2でもSCATTERやアルペジエーターはそのまま利用できる 

 

「確かに、機材の煩雑さ、重量、持ち歩きやすさという点を無視すれば、それでもいいと思います。ただし、いくつかの違いがあるのも事実です。SYSTEM-1にはアルペジエータやSCATTERという独自の演奏機能を装備しているので、単にSH-2の音源であるという以上にパフォーマンスプレイにおいて大きな威力を発揮してくれます。さらにMIDIのコントロールチェンジの仕様上、パラメータは128段階での受送信となっていますが、SYSTEM-1あるいはPLUG-IN内においてはそれ以上の分機能でパラメータを調整できるようになっているので、SYSTEM-1本体でSH-2などPLUG-OUTシンセを演奏するメリットは大きいと思いますよ」(高見さん)

どう捉えるかは人それぞれだと思いますが、個人的には発売と同時にSYSTEM-1を購入したので、PLUG-OUTはうまく活用したいと思っているところです。SYSTEM-1ユーザーなら割安で購入できるのも嬉しい点ですよね。


VCO-1、VCO-2のRANGEに実機にはない64が追加されている

ちなみに、今回PLUG-IN/PLUG-OUTとして復刻されたSH-2には、オリジナルのSH-2にはなかった機能がいくつか追加されています。その1つはVCO-1、VCOC-2のRANGEに64が追加されたこと。オリジナルは32までしかなかったのが、1オクターブ低い64を追加したことで、ベース・サウンドなど低域重視の音が作りやすくなっています。

また、TONEおよびCRUSHERというパラメータが追加されたのもユニークなポイントです。TONEは音のトーンを決めるエフェクト的なもので、ハッシュサウンドにしたり、よりビンテージっぽいサウンドに仕立てることが簡単に行えます。一方のCRUSHERは、低ビットな分解能な音に壊すことを可能にするパラメータで、太いけど、今っぽいサウンドを作り出すことができるわけですね。そのほかにもSH-101と同様にリバーブ、ディレイと2つのエフェクトも使えるので、実機であるSH-2よりも幅広い音作りが可能になっています。


SYSTEM-1へ一度にPLUG-OUTできるのは一機種のみ、ユーザーはPLU-OUTする機種を事前に選択することとなる

ここでSYSTEM-1ユーザーとして気になったのが、SYSTEM-1にバンドルされていたPLUG-OUTであるSH-101とSH-2の関係です。すでに私のSYSTEM-1にはSH-101が入っているわけですが、この状態でSH-2のPLUG-OUTをSYSTEM-1に転送するとどうなるのでしょうか?実際に試してみると、SH-101に上書きされる形となり、SH-101は消えてしまいました。

これはSYSTEM-1の本体仕様によるものなのですが、PCと接続すれば何度でも制限なくPLUG-OUTを転送できるので、これをご利用ください」(高見さん)とのことでした。


SH-2のSYSTEM-1 LAYOUT。雰囲気は変わらないが、各パラメータの配置がSYSTEM-1でのものに置き換わるためSYSTEM-1で使いやすくなる 

このようにSH-101、SH-2と2つのPLUG-IN/PLUG-OUTが出てきたので、どうしても期待してしまうのが、今後のRolandの展開。つまりビンテージシンセが今後どんどん拡充されていくのか、という点についてです。これについて高見さんに聞いてみたところ

まだ具体的なことは何もお話はできません。ただPLUG-OUTは今後も新しいプラットフォームとして推進していくつもりであり、継続的にソフトウェアの新製品を提供できれば…と考えてはおります。とはいえ、昔の回路図からひも解いていくACBテクノロジーを用いた開発手法を使っているので、次から次へと…というようにはいかないのも事実です。TR-8などの開発当初と比較すれば、効率は上がってきたものの、なかなか大変です。もちろん皆様の期待度が大きいことは理解していますので、それに応えられるよう開発スタッフも日々研究開発に邁進しています!」との答えが返ってきた。

ぜひJUPITER-8などが復刻されてほしいところですが、そう簡単には行かないようです。というのも、SYSTEM-1の仕様上、4音ポリが最高であり、8音ポリを前提とするJUPITER-8は仮にACBで復刻できたとしても、SYSTEM-1で完全再現することができないんですね。だったら、4音ポリ版のJUPITER-8だったらどうなのか?と聞いてみたところ、

動画検索をしていたらプロトタイプと思われるSH-2を動かしている海外ビデオを発見
普通のソフトシンセ開発なら、ポリ数を制限することは簡単にできると思います。でも、ACBでの開発は愚直に昔のアナログ回路を復元して作るので、ポリ数を減らすという考え方が存在しないんです。もしそれを行うとしたら、アナログ回路上での再設計が必要となってしまい、それは新しいシンセサイザーの開発に他ならないのです。そうなると時間がかかるだけでなく、JUPITER-8とは違う構成のシンセサイザーになってしまう可能性が高く、現実的には難しいんですよ」とのこと。なるほど納得のいく答えです。

もう一つ見つけたSH-2のPLUG-OUTのデモビデオ
せっかくACBというテクノロジーがあり、PLUG-OUTというプラットフォームがあるなら、4音ポリという制約に縛られるのももったいない気がします。SYSTEM-2なのかSYSETM-10なのかわかりませんが、もっとポリ数を増やし、DSPパワーを増大させたハードウェアを作ってくれれば、将来の道も広がるように思うのですが、その点どうなのでしょうか?

そんなことができるといいですね。まずはSH-2の世界を堪能していただければと思います」と、将来製品についてはかわされてしまいました。


SH-2の販売と同時にスタートしたRoland Content Storeでは、ユーザー登録状況に応じて優待販売価格が自動的に適用される 

ところで、SH-2はSYSTEM-1ユーザーかどうかで値段が変わるとのことですが、ここについて聞いてみたところ、トリックがあることが判明しました。SYSTEM-1にはSH-101を入手するためのプロダクトキーが入っているのですが、これを使ってダウンロードするとユーザー登録が行われ、そのアカウントに紐づいてネットショップである「Roland Content Store」で優待販売されるようになっているんですね。SYSTEM-1を持っていないユーザーの場合もこのRoland Content Storeで購入できるけれど、正規価格になるというわけです。またAIRAを扱っているお店でもダウンロード・チケットを買うことはできるそうで、パッケージに入っているプロダクトキーを使用してRoland Content Storeからソフトをダウンロードするとのことです。

別の見方をすると、中古でSYSTEM-1を入手した場合、未登録のプロダクトキーが入っていれば問題ないけれど、これが入っていないとSH-2をはじめ、今後発売される可能のあるPLUG-IN/PLUG-OUTの優待価格での購入はできないということ。中古での購入を考えている方は、その辺もよくチェックしたほうがいいかもしれませんね。

【関連情報】
SYSTEM-1製品情報
SH-101製品情報
SH-2製品情報
Roland Content Store

Commentsこの記事についたコメント

1件のコメント
  • ねむねむ☆

    ずいぶん突っ込みましたね。
    期待の表れでしょうか。
    SYSTEM-1を見た時、これは上位版が来るなと感じました。
    是非ともJUPITER-8を内包できる仕様のものが出てくれることを期待します。
    未登録のプロダクトキーでないと駄目という情報はとても重要ですから広く伝播させないといけませんね。知りませんでした。

    2014年9月26日 9:02 AM

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