業務用のレコーディング機器で長年の実績を持つイギリスのFocusrite(フォーカスライト)。最近はUSBオーディオインターフェイスのScarlettシリーズやiOSデバイスで活用できるiTrackシリーズなど、比較的手ごろな製品を展開して人気となっていましたが、2015年になってFocusriteの本気を現すThunderbolt対応のオーディオインターフェイスClarettシリーズを展開しています。
そのClarettシリーズに10IN/4OUTのエントリー版、Clarett 2Preが登場し、国内でも12月末から発売が開始されました。ここにはFocusriteの名を知らしめたISAマイクプリアンプをモデリングする、Air機能を搭載すると同時に、24bit/192kHzで、119dBのダイナミックレンジ、1.38msという低いレイテンシーを実現するなど、非常に高性能なオーディオインターフェイスとなっています。実際、これがどんな機材なのかを紹介してみましょう。
Thunderbolt対応の10IN/4OUTオーディオインターフェイス、Focusrite Clarett 2Pre
Focusriteは1985年にRupert Neve(ルパート・ニーブ)氏によって設立されてイギリスの会社。設立後まもなくNeve氏による設計で発売されたISA 110というマイクプリアンプは、大ヒット製品に。さらに1988年にリリースされたForteという業務用コンソールには、ISA 110がビルトインされる形で登場し、世界中のレコーディングスタジオに普及していったのです。
ISA130コンプレッサーとISA 110のEQを搭載したチャンネルストリップ、ISA 430 MkII
その後もFocusriteはISAシリーズとして、ISA 110のコンセプト・伝統を受け継ぐマイクプリを製品展開しており、現在でもシングルチャンネルのISA Oneから、ISA Two、ISA 828などチャンネル数に応じたといった新開発製品があるほか、ISA 130コンプレッサーとISA 110のEQを搭載したチャンネルストリップ、ISA 430 MkIIという製品がプロ向け機器として人気になっていたりもします。
ハーフラックサイズで登場したClarett 2Pre
一方で、そのFocusriteはコンシューマ向けにScarlettシリーズ、iTrackシリーズなどの低価格商品も展開し、世界的な大ヒット製品となっていした。ところが、2015年からスタートさせたThunderbolt接続のオーディオインターフェイス、Clarettシリーズは、プロ向けとしての機能・性能でありながら、コンシューマ向けに近い価格での展開をしていることから注目を集めていました。そうした中12月に発売された10IN/4OUTのオーディオインターフェイス、Clarett 2Preは実売価格で税込み7万円ちょっという価格設定になっているのです。
では、このClarett 2Preって、何がどうスゴイのでしょうか?順を追って見ていきたいと思います。
Clarett 2PreはThunderbolt接続で、現在のところMac専用
まず機能、スペックという点から見ていくと、前述の通り、Clarett 2PreはThunderbolt対応の10IN/4OUTのオーディオインターフェイスであり、現在のところMac専用のオーディオインターフェイスとなっています(将来的にはWindows用のドライバも登場する予定)。
リアパネルにはアナログ出力4ポートとオプティカルの入力、それにMIDIの入出力が装備されている
この10IN/4OUTの内訳はアナログが2IN/4OUT、デジタルが8IN。デジタル入力はリアにあるオプティカル端子でADATかS/PDIFが選択できるという仕様です。この入出力において最大のポイントになるのがフロントにある2つのコンボジャック(XLRとTRSの兼用ジャック)でのアナログ入力です。
この2つのアナログ入力は、何でも接続可能なオールマイティー。+48Vのファンタム電源供給も可能なので、コンデンサマイクでもダイナミックマイクでも接続できるし、設定の切り替えによってラインでもインストゥルメント(ギターやベースのHi-Z入力)にも対応できます。
アナログ端子への入力レベルは入力ゲイン調整の回りに光るLEDの色で確認できる
中でももっとも重要なのがマイクプリ機能。標準設定での利用では、Scarettシリーズなどと同様、とってもクリアで、抜けのいいデジタルなHi-Fiサウンドのマイクプリとなっており、オールマイティーな使い方が可能です。ところがAIRというスイッチをONにすると、そのマイクプリが変身するのです。
実際手持ちのマイクで試してみても「あ、アナログの音になった!」とすぐに分かる、柔らかい感じの気持ちのいいサウンドになるのですが、AIRスイッチを ONにすることで、2つあるマイクプリがそれぞれISA 110になっていたのです。もっともメーカーの記載を見ると「トランスフォーマーベースのFocusrite伝統のISAマイクプリアンプをアナログモデ リングすることが可能」と、やや曖昧な表記になっています。というのもISA 110をはじめ、Lundahl L1538トランスを搭載した2ch プリアンプのISA Twoが10万円程度であるのに対し、それと同等の機能を内蔵したClarett 2Preが7万円強では、価格に不整合が生じてしまいますからね!
Mac上で動くユーティリティ、 Focusrite ControlでAIRスイッチのON/OFFを設定する
ただし、Clarett 2PreのAIRスイッチはON/OFFの設定のみでパラメータ調整はできないため、その点ではISA Twoほどの自由度がないのは事実です。また、このスイッチは本体には用意されておらず、Focusrite ControlというMac上のアプリを使って設定することになります。
LINEとINSTのスイッチを切り替えても本体がカチカチいうことからも分かるとおり、リレーで内部回路を切り替えている
とはいえ、ISA シリーズのアナログモデリング、Air機能はPCのソフトウェアで行っているわけではありません。実際に、このスイッチをON/OFFすると、Clarett本体が カチカチと音が鳴ることからも分かるとおり、本体内に2つのマイクプリ回路が入っており、それがリレースイッチで切り替えられているんですね。ちなみにラインとインストゥルメントのスイッチ切り替えでもカチカチいうので、これも別回路が入っているわけですね。
さらに、そのことはClarett 2PreからThunderbolt端子を切り離すと、ISA 110をモデリングしているのがハードウェア側であることを、よりハッキリと実感できるはずです。一般のオーディオインターフェイスなら、Macとの接続を切れば機能しなくなりますが、Clarettでは、こうすることで、単体のマイクプリへと変身してくれます。この際、AIRスイッチがONの状態であれば、ISA Twoとほぼ同等のものになるわけですね。
Focusrite Controlでミキサーの設定をしておくと、スタンドアロン動作時にその設定が有効になる
正確にいうと、単なるマイクプリではなくマイクプリ内蔵ミキサー。10IN/4OUTのルーティングやレベル設定もFocusrite Controlで行えるようになっているんです。もっともAIRスイッチもレベル調整もClarett 2Pre単体ではできないのでミキサーとしての機能は限定されてしまいますが……。
ところで、先ほど触れた通り、インストゥルメントの入力も別回路となっているわけですが、これが単体でも動作するということは、Clarett 2PreがDI(ダイレクトボックス)としても使えることを意味しています。Focusriteとして、かなり高品位なアナログ回路を採用しているとのことなので、これだけでもかなりの価値があると思いますよ。
さて、ここで話題をClarett 2PreがThunderbolt対応のオーディオインターフェイスであることに戻しましょう。10IN/4OUTという仕様であれば、オーディオ伝送スピード的にはUSB 2.0でもFireWireでも十分なスペックであるため、とくにThunderboltである必要はありません。でも、Thunderboltで設計することで、ハードウェア的にも非常に大きな余裕が出るため、業務用においても安定して使えるというメリットが出てきます。
さらに、Thunderboltに最適化したドライバをFocusrite自らが設計したことにより、24bit/192kHzにおいて1.38msという低いレイテンシーを実現しているのも重要なポイントです。この数値はUSB 2.0やFireWire接続では、まず実現できないものであるため、レイテンシー重視派にとっては、ここが最大の選択ポイントになるかもしれませんね。
付属しているFocusriteのプラグイン、Red 3 Compressor
さらに、Clarett 2PreにはMacのプラグインとして動作するプロ仕様のエフェクトが5種類バンドルされている点も見逃せません。具体的にはFocusriteのRed2 EQ、Red3 Compressor、さらにSoftubeのTube Delay、TSAR-1R Reverb、Saturation Knobの計5種類。このプラグインだけでも、かなりの価値があるはずですよ。
付属しているSoftubeのプラグイン、TSAR-1R Reverb
いずれにせよ、Clarett 2Preは、従来のオーディオインターフェイスとは一線を画す製品であることがお分かりいただけたのではないでしょうか?これだけのものが7万円強で入手できるようになったというのは、プロ用機材でも低価格化の波が押し寄せているということの象徴なのかもしれませんね。
【関連情報】
Focusrite Clarett 2Pre製品情報
【価格チェック】
◎Amazon ⇒ Focusrite Clarett 2Pre
◎サウンドハウス ⇒ Focusrite Clarett 2Pre
コメント
特にインターフェイスは良い物を選んだ方が作品の出来を左右しますね
Red 2、Red3は単体で買うと£229.99。かなり高いんですよね。Scarlettを買った方が安いという謎の現象が起こります。プラグインの出来自体はいいですね。使いやすいです。
Air機能はアナログ回路でモデリングしてるのかDSPベースのアナログモデリングなのか
どっちなんでしょ
購入を検討してこの記事に辿り着きました。
USBとThunderboltの二種類が出ているみたいですが、性能に違いはあるのでしょうか。。
名無しさん
ありがとうございます。いまちょうど、Focusriteの人と一緒にいるのですが、聞いたところ、レイテンシーはThunderboltのほうが小さいとのこと。ほかには違いはないとのことでした。
ただし2プリアンプのモデルはすでにUSBだけになっているようです。
お返事頂けるとは思っていませんでした..!!
ご丁寧にありがとうございます!とても参考になりました。
2PreのThunderboltは在庫のみになるのですね。
ボーカルとアコギのマイク録音、エレキギターのライン入力を主な用途として、Apogee oneからの買い替えで検討しておりました(1つ昔のもので、入力が完全に1chだと弾き語りも録れずといった不満から)。
在庫がなければUSBタイプのものか、予算あげてRMEかといったところで考えております。
Focusriteのマイクプリがとても気になりますが..
これからも記事愛読させていただきます!ありがとうございました!