個人メイカー開発の楽器が大手メーカーの楽器を超える日!?

毎年恒例となってきたMaker Faire Tokyoが、今年も8月1日、2日の2日間、東京ビッグサイトで開催されました。Maker Faireはアマチュアの人たちがさまざまな機材を開発して展示するイベント。さまざまな電子デバイスからロボット、乗り物、各種デザイン作品など、手作り感いっぱいなもの、これは本格的と思わせるものなどがたくさん展示されるのですが、その一角に「ミュージック」というコーナーがあり、計22の団体・個人が電子楽器、オーディオデバイスなどを展示していました。

ここには最新テクノロジーを使った驚くような機材がいっぱい。すでに他メディアでも、その会場をレポートした記事があったので、ご覧になった方も多いと思いますが、ここでは4つの作品をピックアップして紹介してみたいと思います。

Maker Faire Tokyoで展示されていたミニ・パイプオルガン、RP-103


まずは、Maker Faire開催の数日前に発表されて話題になっていた、机の上に乗る最もパーソナルなミニ・パイプオルガン、RP-103。まずは、以下のビデオをご覧ください。

どんな構造なのか分かったでしょうか?これ、写真を見てもわかる通りアルトリコーダーやソプラノリコーダーが13本並んだ構造になっていますが、よく見ると、リコーダーの指の位置にテープが貼られていて、各リコーダーごとに出る音程が決まっています。そして、これ自体がMIDIの信号を受けて動作するようなった、電子パイプ・オルガンになっているんです。


MIDI信号を受けるとソレノイドが動作し、笛が鳴る仕掛けになっている 

でも、どうやって、リコーダーの音を出すのでしょうか?実はこの編が手作り感満載なところなのですが、機材の下には穴の開いたビーチボールが設置されており、足踏みポンプで膨らませては、ここから空気を送り込む構造になっているんですね。そしてMIDIの信号を受けたLED付の13個のソレノイドのスイッチが開くことで、目的のリコーダーに空気が送り込まれるというわけなのです。ビーチボールからの空気圧で動作する構造上、4音か5音ポリが限界だそうですが、それだけ出れば十分ですよね。


机の下では足踏みポンプでピーチボールに空気を送り込むローテクも! 

MIDIを動かす一連の制御はArduinoのワンボードマイコンで行っていて、そこに置かれていたMIDIキーボードからMIDIが送り込まれるようになっていました。またワンボードマイコン自体にもMIDIシーケンサ機能が搭載されていたため、上記ビデオにあったRYDEENの曲をデモしたり、ピタゴラスイッチのテーマ曲などが演奏されていました。
ArduinoはMIDI制御用であり、シーケンサはMacのLogicを使っていたとのことでした。


Arduino上で作られたシステムでMIDI信号の処理などが行われている

でも、この精巧な機材を誰が作っているのか!?実は某楽器メーカーのエンジニア達なんです。話を聞くと社内にR-MONO Labというモノづくりの同好会があり、そこのメンバーで手分けをして開発しているのだとか……。Arduino担当、木工担当、ビーチボール回り担当、コンテンツ作成担当などに分かれて作ったそうですが、本業とは完全に別の活動だそうです。アマチュアといより、実質的なプロ集団のクラブですね!


Magic Fluteという不思議な笛を吹いている3人 

一方、奇楽堂というところが展示していたのはMagicFlute x ラズパイ音源というもの。これはオカリナ風およびリコーダー風なMagicFluteというMIDI楽器からUSB経由でMIDI信号を送り出したものをRaspberry Pi2で作った物理モデリング音源につなぎ、演奏しているというもの。以下のビデオをご覧ください。

MagicFluteの筐体は3Dプリンターを使って1つずつ作り出しているそうですが、その中には開発した電子基板が入っており、これを6本の指でタッチスイッチを操作することで3オクターブの音域の演奏ができるようになっています。MagicFluteから出力されるMIDIデータは、タッチスイッチによる音程情報、気圧センサーによる音量情報、そして加速度センサから出力される傾きの検出によるモジュレーション情報やポルタメント情報とのことなので、AKAI EWI USBの競合の誕生ということでしょうか?奇楽堂では、基板などの頒布を行ているほか、制作に必要な部品類を公開しているので、3万円強の予算があれば自分で作り上げることができるそうですよ。


Magic Fluteの筐体と中身の基板。基本的に3つの指の動きで音階が演奏できるようになっている

一方、これの接続先であるRaspberry Pi2もなかなか強力な音源です。ここではSTK(=The Synthesis ToolKit)というオープンソースのプログラムが入っており、それでリアルタイムに音が鳴るようになっているんですね。つまりは、ハードというよりもソフトシンセと呼ぶのが正しいのだと思いますが、これが物理モデリングのプログラムになっているとのこと。


Raspberry Pi2にSTKというプログラムを動かし、物理モデリングシンセサイザとして使っていた 

具体的にいうと、フルート、クラリネット、サックス、ホイッスルが音源として用意されているほか、ここにFM音源も別途搭載した形になっているので、MagicFluteに限らず、MIDIキーボードを接続して鳴らすこともできるというわけです。個人的には、こうした音源ソフトが即使える形で配布されていたら、すごく面白いと思うのですが、現実にはソースコードで配布されているため、自分でコンパイルしてインストールする必要があり、それなりのエンジニアリング知識が求めらるようですね。


テルミン風な手の操作でeVocaloidを鳴らすVocaLeaper 

3つ目はテルミンのように空中で手を動かすことで歌わせることができるVocaleaper。子音と母音の文字が書かれたところの上に手をかざすと、それを組み合わせた文字を指定することができ、手の高さによって音程が変わる仕掛けになっています。

また母音側を指している手を開くことで発音され、開き具合によって音量が決まります。また子音側を指している手の開き具合でビブラートを操作できるようになっている、なかなか不思議な楽器です。


比較的QWERTキーボードのイメージで子音・母音が配置されている 

歌う声を聴いてみればすぐにわかるとおり、ポケット・ミクの歌声ですね。Leap Motionを使って空中の手の動きを検知しているそうですが、箱の中身を空けてもらうと、そこにはポケット・ミクの基板が収納されているともに、全体を制御するためのArduinoが入っていました。


箱の中にはポケット・ミクの基板(左)とArduinoの基板(右)が配置されていた

これで自在な歌詞、メロディーでリアルタイム演奏させる……というのは、なかなか難しそうですが、新しいアイディア楽器ではありますよね。


MIDIで制御できるオルゴール、CANADEON 

そしてもう一つ紹介するのは、CANADEON(カナデオン)という次世代オルゴールです。何が次世代なのかというと、普通オルゴールは機械仕掛けで自動演奏するのに対し、こちらはMIDIで演奏できるようになっているという点です。そのため、シリンダーやディスクを交換することなく、シーケンサのデータを差し替えれば、いくらでも自由にさまざまな曲を演奏できるだけでなく、MIDIキーボードなどを接続してしまえば、オルゴールのリアルタイム演奏もできるわけです。ちなみに、ここでは、以前に紹介したBluetoothでMIDIを飛ばすmi.1が利用されていたため、ワイヤレスでオルゴールの演奏がされていました。

オルゴールの音が好きという方は多いと思いますが、それを自分で好きに演奏できてしまうというのは、なかなか魅力ですよね。もっとも、これまで趣味で、おのCANADEONをかいはつするには、すでに数千万円をつぎ込んできており、ここに展示されているきざいだけでも300万円程度の経費がかかっているのだとか……。さすがに数百万円の楽器となると誰も手がだせませんが、1桁落ちてくれれば欲しいという人も出てきそうですよね。


CANADEONには、これまで莫大な開発費が投入されているのだとか…… 

Maker Faire Tokyoには、ほかにもさまざまな楽器が展示されており、YAMAHA、Roland、KORGなどのメーカーの社員のみなさんやそのOBなど知っている顔がチラホラ。半分プロ、もしくは完全プロと思われる方も多かったような気もしますが、ビジネスという枠を外して作り出した自由な発想の楽器は楽しいですね。
【関連情報】
Maker Faire Tokyo 2015
R-MONO Lab
MagicFluteを作ってみよう
The Synthesis ToolKit
CANADEON