SC-88ProやSC-55などのサウンドを再現するiPad/iPhoneアプリとしてRoland自らがリリースしたSound Canvas for iOS。前回の記事では、基本編ということでiPad単体、iPhone単体での使い方について見てきましたが、今回はこれをWindowsやMacと接続してコントロールするという方法について紹介していきます。
その昔、カモンミュージックのレコンポーザで打ち込みをしていた、っという人も少なくないと思いますが、まさにそんな数値入力をSound Canvas for iOSとフリーウェアを組み合わせて行うこともできるんです。20年くらいタイムスリップしたような感覚でもありますが、外部音源としてSound Canvas for iOSを使う手順について紹介してみたいと思います。
今回は応用編として、Sound Canvas for iOSを昔のSC-88Proそのもののように外部MIDI音源として使う方法を紹介します
「SC-55mkIIとかSC-88Proがあったミュージ郎の時代はDTMをやっていたけど、その後のDAWの時代になってからは難しくてやめてしまった……」そんな人も結構多いのではないでしょうか? 確かに同じDTMといっても、外部音源モジュールを鳴らすのと、プラグインの音源、エフェクトを駆使して音を作り上げていくのでは、だいぶ違う感覚のものですからね。でも、このSound Canvas for iOSを使うことによって、昔ながらのDTMを今の機材で楽しむことができるんですよ。
iPadやiPhoneをたくさん持っていたら、その数だけMIDI音源モジュールを持っているのと同等ということだ!
しかも、昔ながらSC-88Proを1台が定価89,800円だったものが、Sound Canvas for iOSなら、たった2,000円というだけでなく、1つ買えば、自分の持っているiPhoneでもiPadで同時に使うことができちゃうんですからね!「Apple製品は嫌いで、iPadなどは所有してない!」と言い張る人でも、Sound Canvas for iOSのために1台買っても損はないんじゃないかと思っているのですが、いかがでしょうか!?
では、まずは基本となるMIDIケーブルを使った接続方法からです。Sound Canvas for iOSをSC-88ProやSC-55mkIIなどと同じように1つのMIDI音源モジュールと見立てるためには、Sound Canvas for iOS側にMIDIの入出力端子が必要となります。残念ながらiPadやiPhone自体にMIDI入出力端子は装備していないため、ここにMIDIインターフェイスを取り付ける必要があります。
IK MultimediaのiRig MIDI2を接続するとこんな感じに…
そのMIDIインターフェイスは、いろいろなものがありますが、現状一番手っ取り早いのはiPad/iPhoneのLightning端子に直接接続ができるiRig MIDI2を接続する方法だと思います。これなら、電源もいらず、ただ接続するだけでOKです。
DUO-CAPTURE EXのようなUSB-MIDIオーディオインターフェイスにLightning-USBカメラアダプタ経由で接続するのも手
また前回の記事で紹介したように、Lightning-USBカメラアダプタ経由を介してA-300PROなどのUSB-MIDIキーボードに接続したり、DUO-CAPTURE EXのようなMIDI入出力を備えたオーディオを接続しても使えます。Line 6のMIDI MobilizerIIとか、YAMAHAのi-MX1など、ちょっと古い30pinDOCK用のMIDIインターフェイスなら、間にLightning-30pinアダプタを使って取り付けても大丈夫ですね。
PC側にもMIDIインターフェイスを取り付け、そのMIDI OUTとiPad/iPhone側をMIDIケーブルで接続する
取り付けられたら、もうそれでOK。ここに装備されたMIDI INに対し、WindowsやMacのMIDI OUTからMIDIケーブルで接続すれば、もう外部MIDI音源モジュールとして鳴ってくれます。簡単ですね。
Wi-FiでのMIDI接続のためには、まずAudio MIDI設定を起動
「iPhoneはあるけど、これを使うのに、iPhone用のMIDIインターフェイスもPC用のMIDIインターフェイスも買わなくちゃ使えないのか!」と思って、ガッカリしてしまう人もいるかもしれません。でも心配しなくても大丈夫です。近年のテクノロジーの進歩により、MIDIインターフェイスもMIDIケーブルもいらずに、接続する方法もあるので、その方法を紹介しましょう。
それがWi-Fiを利用したMIDIネットワークです。これを使えば、周辺機器を一切追加することなく、標準のWi-Fi接続だけで、PCとiPad/iPhoneをMIDI接続できてしまいます。その手順を簡単に紹介しましょう。
MIDIスタジオに表示されている「ネットワーク」をダブルクリック
この技術はAppleが作ったものなので、Macを使う方法から見ていきます。Mac OSXのユーティリティの中にあるAudio MIDI設定を開き、MIDIスタジオを表示させると、「ネットワーク」というアイコンが出てくるので、これをダブルクリックします。するとMIDIネットワーク設定の画面が表示されます。最初、何をどうしていいか戸惑うかもしれませんが、以下の手順で進めればOKです。
- 画面左上のセッションの項目にある「+」をクリックするとMacの名称が表示される
- 右上の「有効」にチェックを入れる
- 必要に応じてローカル名を変更する
- Sound Canvas for iOSを起動し、Wi-FiをONにしておく
- ディレクトリのところに、起動したiPad/iPhoneの名称が表示される
- 接続したiPad/iPhoneを選び、下の「+」をクリックする
MIDIの出力先としてネットワークを選択する。画面はLogic Pro X
これで準備は完了。あとはDAWやMIDIシーケンサ側からMIDIの出力先として「ネットワーク」を選べば、Sound Canvas for iOSへMIDI信号を送ることができます。ただし、このWi-Fiを使った接続の場合、有線のMIDIで接続するよりも、やや時間的な遅れ(レイテンシー)が生じてしまう点は、仕方ないと思ってください。
またMacとiPad、MacとiPhoneの関係においてはアドホックモードでの接続も可能になっています。そう、インターネット環境がないところでも、Wi-Fi接続することが可能であり、ここでもMIDIネットワークが使えるので、スタジオ内などでも使えてしまいますね!
海外のフリーウェアであるrtpMIDIを使うことで、MacのMIDIネットワーク設定とまったく同じことが可能になる
では、これと同じことがWindowsでできないのでしょうか?実はrtpMIDIというフリーウェアを利用することで、まったく同じようできてしまいます。予めrtpMIDIをダウンロードし、インストールして起動すると、Macと同じような画面が出てきます。海外ソフトなので表記は英語になりますが、レイアウトはまったく同じだからわかるでしょう。あとはMacと同じような手順を踏めば、MIDIインターフェイスもMIDIケーブルも使うことなく、WindowsのPCとiPad/iPhoneをMIDI接続できてしまうのです。
※追記(2015.03.06)
この記事の下の掲示板にもさまざまなやり取りがありましたが、「rtpMIDIを使った際に、データの取りこぼしがかなりある」という報告が数多くありました。とくに重たいデータ(システムエクスクルーシブを使用しているものなど)だと、それが顕著になり、このことはMacとの接続においても発生するようです。これはLANでデータを転送する際に、「順番通りにデータを流す」という概念がしっかりないため、データの到着がバラバラになるケースがあり、結果としてデータの取りこぼしが生じてしまうのです。これについては現状不可避なのですが、PCとiOS間のネットワークをより直接的にすることで、ある程度解決することができます。上記のようなアドホックモードによるPtoP接続が非常にいいほか、テザリング可能なiPhoneであれば、これでPCをテザリングすることで直接接続となるので、データの取りこぼし問題はほぼ解決できるようです。
Cubase Pro 8のMIDI出力先としてrtpMIDIを設定すると、ちゃんとSound Canvas for iOSが鳴ってくれる
ここから先はCubaseを使っても、SONARを使っても、Ability、StudioOne、Logic、ProTools、BITWIG……何を使ってもOK。自由にMIDIデータを打ち込んでSound Canvas for iOSを鳴らすことができます。
SONARでももちろんrtpMIDIを指定してマルチティンバーでの出力が可能
とはいえ、いきなり自分で曲を作れと言われても戸惑ってしまう人も多いでしょう。いつかは自分で作るとしても、まずは人のデータを再生してみたいですよね。そのMIDIデータは、もしみなさんの手元に古いデータが残っていれば、それを使ってもいいですし、ネット上を探せばいろいろなものが見つかると思います。また、先日「SoundCanvas for iOS登場に合わせてFMIDIが復活!?」という記事で紹介したFacebook上のMIDIRBN(復活MIDIフォーラム)というグループに入ると、ここにはGS音源用の古いMIDIデータなどが数多く配布されているので、それをダウンロードして使ってみるというのも手ですよ。
では、プレイヤーソフトのほうは、どうすればいいのでしょうか?まずWindowsから見ていくと、もちろんWindows Media Playerを使うことも不可能ではないのですが、Windows Vista以降、MIDI Mapperが操作できなくなってしまったため、なかなか使えないというのが実情です。そこで、フリーウェアのプレイヤーソフトを入手するというのが手です。
MIMPIの歌詞出力機能もサポートするTMIDI Player。懐かし曲データの再生ができる
ネットで検索して気に入ったものを使えばいいのですが、定評のあるものとしてはTMIDI Playerなんかがいいですね。Windows 8.1の64bit環境でも問題なく起動することができ、MIDIファイルだけでなく、カモンミュージックのレコンポーザのデータであるRCPファイルなんかも再生できましたよ。さらに、その昔のMIMPI用の歌詞付のデータ(MIDファイルとWRDファイルのセット)を再生することもできたのも楽しいところです。
シンプルな機能ながらも、App Storeから無料ダウンロードできて安定しているMac用のMIDI Wind Player
一方、Macの場合はどうしたらいいのでしょうか?以前はQuickTimeで簡単に再生できたのですが、最近は標準では対応しなくなってしまったんですよね。そこで無料で入手できて、安全に扱えるものとして、App Storeで扱っているMIDIWind Playerがお勧めです。TMIDI PlayerのようにRCPファイルが扱えたり、WRDファイルが扱えるわけではありませんが、国産フリーウェアで日本語での操作が可能なので、安心して使えると思います。
さて、ここまでSound Canvas for iOSを昔と同じようなMIDI音源モジュールとして扱い、MIDIファイルを再生する、という観点から見てきましたが、やっぱり自分で打ち込んで鳴らしたと思いますよね。
そのためには、前述のとおり、Cubase、SONAR、Ability……といったDAWを用意して入力していくのが、現代の正しい方法です。とはいえ、「そんなソフトは持ってないし、使い方も難しそう」、「もっと、昔ながらの方法でできないだろうか……」なんていう人もいるかもしれませんよね。実はそんなことが可能なフリーウェアが存在するんですよ!
カモンミュージックのレンポーザ・クローン・ソフト、STed2をWindows 8.1で動かしてみた
STed2というソフトが、それ。これはカモンミュージックのレコンポーザ・クローンのソフトで、昔ながらの数値入力が可能なソフトなのです。もともとシャープのX68000用にTURBOさんという方が開発したソフトで、フリーウェアというだけでなく、オープンソースの形でソースコードまで公開していたというソフト。ただ、開発者のTURBOさんは1997年に29歳の若さで他界されたとのこと。TURBOさんの遺志を継ぐ形で、有志の方々がほかの機種に移植したり、改良を加えたりしているんですよね。
かなりレトロな操作体系ながら、レコンポーザのRCPファイルの読み書きにも対応している
これまでWindows、Macにも移植はされているのですが、いずれも10年以上前の移植で止まっているようです。MacもMac OSXになってからの移植ではあるものの、PowerPCベースでのものだったため、Rosettaが動かない現行バージョンでは残念ながら起動してくれませんでした。
【追記】2015年3月29日
下記の掲示板に書き込みをいただいた通り、12年前にSTed2のMac版のビルドを作られたToshi Nagataさんが、現行のMacOS Xへの移植をされ、公開されました。実際に試してみたところ、最新版のMac OSX 10.10 Yosemiteでの動作を確認できました!しっかり五線譜上での音符表示も可能であり、Windows版よりも、はるかにしっかり動作してくれるようです。ダウンロード先は以下の通りです。
STed2 for Mac
Mac OSX 10.10 Yosemiteで動かしたSTed2 for Mac。五線譜上での音符表示も完璧
一方Windows版のほうをWindows 8.1の64bit版上で起動させてみたところ、見事に動いてくれました!本当に昔のソフトをそのまま移植しているため、基本的にマウス操作は行えず、すべてキーボードでの操作。ファイル入出力におけるドライブ指定も、「C:」などと入力する必要があるので、MS-DOS時代を知らない人にはハードルが高そうですが、それでもキチンと動いてくれます。
MIDIポート設定だけはマウス操作で行う。残念ながらrtpMIDIはうまく動かなかったが…
ただし残念ながら、先ほどのWi-Fi経由でMIDI接続するrtpMIDIをドライバとして指定しても、うまくつなぐことができなかったので、Windows用のMIDIインターフェイスおよびiPad/iPhone用のMIDIインターフェイスを別途用意し、MIDIケーブルで接続して使う必要はありますが、まさにレコンポーザという感覚で使うことができます。久しぶりに、テンキーで入力してみると、ちゃんと指が覚えているんですよね(笑)。現代のPC用のテンキーとNEC PC-9801のテンキーでは「*」など記号類の位置が異なるのが、ちょっと気に入らないところではありましたが、それにしてもです。
手が慣れ親しんでいる、テンキーを使った元祖打ち込みが実現でき、Sound Canvas for iOSが鳴ってくれる
リアルタイムレコーディングもできるし、そこに対するエディットも可能です。ただし、β版ということもあり、打ち込んだデータを右側に譜面表示させる機能は使うことができず、SC-55エディタも機能してくれませんでした。
また、大きいデータになってくると、動作に不安定さがでるのは仕方がないところですが、このSTed2もMIDIファイルに加え、レコンポーザのRCPファイル、R36ファイルを読み込むことが可能になっているので、MIDIファイルプレイヤーとして使ってみる価値もありますよ。こんなソフトが現代のWindowsにおいても使えるということに感謝ですね。
STed2のSound Canvas for iOSとの相性は抜群でした
できれば、改めてSTed2を64bit版のWindowsおよび最新のMac OSXに最適化した形で移植しなおしてくれる人が出てきてくれると嬉しいんですけど、どなたか有志で取り組んでくれる方はいらっしゃらないでしょうか……。もし、そんなことが実現したら、DTMステーションで大々的に取り上げてみたいと思っています。
以上、だいぶマニアックな内容になってしまいましたが、Sound Canvas for iOSをスタンドアロンの外部音源として使い、PCから鳴らす方法について、多方面から考えてみました。願わくは、これによって昔DTMをしていた人たちが、久しぶりにDTMの世界に戻ってきてくれるとともに、最新のDTMにも興味を持って、DAWを使った音楽制作を楽しんでくれればと思っているところです。
【アプリダウンロード】
Sound Canvas for iOS
【関連フリーウェア】
TMIDI Player (Windows)
STed2 (Windows)
STed2 – SourceForge
MIDI Wind Player (Mac)
STed2 for Mac