ゲーム音楽家の光田康典さん、日本のハープ奏者の第一人者である朝川朋之さん、そしてDTM界ではお馴染み、ゲーム音楽の作曲家であり、KORG M01DやiMS-20やI am Synthを開発するDETUNEの社長、佐野電磁さんの3人がタッグを組んだという、超マニアックなiPadおよびiPhone用アプリ、HandyHarpが10月5日に発売されました。このHandyHarpの企画開発を光田さん(プログラミングは、DETUNEの各アプリの開発も手掛けているプロキオン・スタジオの鈴木秀典さん)が行い、その監修・アドバイザーとして朝川さんが全面協力。そして佐野さんのDETUNEが販売およびプロモーションを行う形での役割分担しているとのことです。
そして、その3人のメンバーが集結して140分に渡るAMラジオ&USTREAMのハイブリッド番組、「電磁マシマシ」が昨夜(10月12日)に放送されたのですが、ご覧(お聴き)になりましたか?私も光田さん、佐野さんに呼ばれて放送中のスタジオに遊びに行ってきたのですが、あまりにも濃く、面白い内容で感激でした。
HandyHarpの開発~販売に携わる3人(左から佐野さん、光田さん、朝川さん) 電磁マシマシ放送現場より
スタジオには「HandyHarpがスゴイらしい…」という噂を聞きつけ、DTMマガジンのスタッフやライターの四本淑三さん、作曲家の坂本英城さんほか、さまざまな人たちが集結。またUSTREAMのタイムラインには「神回だった!」という声が多数上がるほどの内容。特に朝川さんのハープ奏者になっていったバックグランドの話や、音楽にまつわる話は、私個人的にも非常に勉強になった内容でした。きっと、この辺の話は、四本さんがASCII.jpで詳しく書いてくれるのではないかと期待しているところです。
ハープをiPad/iPhone上で再現するHandyHarpには、さまざまな仕掛けが施されている
では、その超マニアックなアプリ、HandyHarpとは、いったいどんなものなのでしょうか?
番組内で開発秘話がいろいろと展開された
「僕はゲーム音楽だけでなく、アニメの劇伴を作るケースも多いのですが、オーケストラを使う楽曲の場合、実は一番手間がかかるのがハープなんです。ハープって構造が複雑なだけに、入力にかなりな時間を割かざるを得ず、手早く入力できるツールはないかとずっと探していたけど、世の中にまったくないんですよね」と語る、光田さん。先日の記事「ゲーム音楽家の光田康典さんにDTMな話を色々聞いてみた!」でも少し触れましたが、そうした思いから、何年も前からハープアプリを作るという構想はあったものの、どうすればいいか、方法が浮かばなかったそうです。
そうした中、いつも演奏をお願いしている朝川さんがFacebookに面白い写真をUPしていたのを見つけて閃いたというのが、HandyHarpの基本概念。その写真に載っていたのが、以下の厚紙でできた装置(?)です。そう、これはハープのペダルのポジションと音階を示すものとなっています。
朝川さん自作の厚紙で作られたハープのペダルの動きと音階を表す装置がHandyHarpの元ネタ
といっても、普通ハープの構造なんて誰も知らないですよね。私も、まったく知らなかったのですが、実物をスタジオに持ち込んでくれた朝川さんに見せてもらったところ、弦が全部で47本あるとともに、足元に7つのペダルがあり、このペダルで音程を変えることができる構造になっています。
グランドハープをスタジオに持ち込んで、その構造についていろいろ解説する朝川さん
弦は1オクターブで7本。ちょうどピアノの白鍵に相当する形で、47本ということは6オクターブ半。そして、それぞれの弦が下のペダルと連動しています。ペダルの真ん中がナチュラル、上にするとb、下にすると#という3段階になっており、たとえば一番左のDのペダルを上にあげれば、各オクターブごとのDの弦がDbに、下にさげればD#になるのです。この状態で、弦を指で弾くとその音で鳴るわけですね。
確かにHandyHaprのアプリにあるようなペダルがハープの足元部分にある
ハープの場合、グリッサンドでポロロロンと鳴らすことが多いわけですが、そのとき、ペダルがどう設定されているかで音が変わってくるので、足さばきが重要になるわけです。また作曲する側からすれば、このペダルの動作を理解しないことには、ハープで演奏する曲を書くことができないというのも難しいところです。
「本当はハープ奏者がコードを理解して、それで弾くべきなんですよ」と朝川さんはおっしゃるのですが、現実にはそうしたハープ奏者はほぼ皆無だそうで、ペダルポジションも示す形のしっかりした譜面を書いて渡さないと演奏してもらえないんだとか…。そこで、作ったこのHandyHarpは、コードを指定するだけで、ペダルのポジションがそこに動き、画面上の弦を指でスライドさせると、ハープが演奏できるようになっているのです。
コードを指定すると自動的にペダル位置が設定される仕掛けになっている
「自分が一番欲しいものをアプリにしたわけですが、これを触ればハープを勉強できるので、学習用としてもいいと思うんです」と光田さん。ただ、ハープの構造上、すべてのコードが正しい音で演奏できるわけではないんですよね。たとえばCメジャーのコードは、本来ドミソ=CEGの和音になるけれど、ハープの場合、ペダルの位置をどう設定してもAとDがどうしても残ってしまうのです。ギターと違って、ミュートさせるわけにもいかないので、「これで良し」とするのだそうです。その辺も、HandyHarpでは再現できているんですね。
さらに光田さんのアイディアで入れ込んだのがスケールという概念。スケールとは日本音階とかエジプト音階など、それぞれの曲で使う音程の組み合わせを示すもの。たとえば「JAPANESE」に設定して弾くと、まるで琴でも弾いているような感じになるんですよね。
スケールの設定もでき、これを使えばカオシレーターのような感じでハープの演奏ができる
「これは、ある意味元祖カオシレーターですよ!!」と佐野さんも言っていましたが、確かにスケールやコードを設定すれば、カオシレーターのような感覚でハープが弾けてしまうというのは、なかなか楽しいですよ。
もちろん、ここで単に弾くだけでは、光田さんの作曲の仕事効率を向上させることはできません。そこで、ここには弾くだけでなく、いろいろな仕掛けが施されているんですよ。まずはWiFi MIDI。そう、このようにコードやスケールを設定した上で弾くと、それがリアルタイムでMIDIで飛んで、DAWで受け取ることができるんです。
rtpMIDIを使うとWindowsでもバッチリHandyHarpとWi-Fi MIDIで連携させることができた
Wi-Fi MIDIについては、以前も何度か記事にしたことがありましたが、これは基本的にはAppleの規格であり、MacOS Xに実装されているもの。ただし「SONAR X1とiELECTRIBEを同期させてみた」の記事でも取り上げたrtpMIDIというフリーウェアを利用することで、Windowsでもバッチリ使うことができました。試しにCubase 7上でソフトシンセを起動して、HandyHarpを鳴らしたところ、レイテンシーが非常に小さい形で演奏させ、レコーディングすることもバッチリできましたよ。
ちょっと面白かったのは、アナログシンセのサウンドを鳴らしても、その音階や発音タイミングからハープっぽいニュアンスが出せるということ。これだけでも、使う価値があるように思いますよ。
なお、まだ試していませんが、譜面ソフトであるFinaleやSibeliusにハープの譜面情報を送ることもできるそうです。そのためにはDETUNEが無料配布しているHandyharp ServerというMac用アプリ(近いうちにWindows版も登場の予定)を介してやりとりする必要があるとのことですが、まさにプロの作曲家が使うためのソフトに仕上がっているわけですよね。
製品の紹介ページには日本語のほか、英語、さらにはフランス語もあるなど、まさに世界に向けての販売。プロ仕様ながら、アマチュアもハープを簡単に楽しめる本格的なハープアプリ、HandyHarpが世界中でどう受け入れられていくのか楽しみなところですね。
なお、10月21日配信予定のUSTREAM番組「DTMステーションPlus!」に、光田さん、朝川さんにゲストで登場していただき、HandyHarpの楽しみ方を語ってもらおうと思っていますので、お時間があれば、ぜひご覧ください。