歌声合成ソフトといえば、もちろんVOCALOIDがその代表的な存在ですが、それがすべてではありません。フリーウェアのUTAUがあったり、以前にも紹介した名古屋工業大学が開発したSinsyがあったり……と複数存在しているわけですが、AquesToneというVSTインストゥルメント型のフリーソフトがあるのをご存知ですか?
株式会社アクエストという、横浜の小さな会社が作っているフリーウェアで、2008年に開発者である社長の山崎信英さんに取材をしてAV Watchの記事に書いたこともありました。そのAquesToneが今年に入り、AquesTone2へと4年半ぶりに大きくバージョンアップ。機能・性能強化するとともにWindowsだけでなく、Macにも対応する形で登場していたので、ちょっと使ってみました。
4年半ぶりに大幅バージョンアップして登場したフリーの歌声合成ソフト、AquesTone2
VOCALOIDはVOCALOID Editorを使って入力していくし、UTAUも専用のピアノロール型のエディタで音符と歌詞を入力して歌わせます。いずれも人間の歌声をサンプリングしたデータを元にして歌わせるツールであるため、ソフトウェアのファイルサイズもそれなりに大きなものになっています。
VSTインストゥルメントのプラグイン形式なのでDAWに組み込んで使う
それに対し、今回紹介するAquesTone2はちょっと異なるアプローチのソフトであり、基本的にはシンセサイザのひとつといってもいいソフトです。実際、VSTインストゥルメントの形になっており、ほかのソフトシンセと同様、CubaseやSONARなど、各種DAWに組み込んで、シンセサイザとして使うのです。
では、音符や歌詞はどうやって入力すればいいのでしょうか?音符のほうは簡単。普通にシンセサイザなわけですから、MIDIトラックから音符データを送ってもいいし、キーボードを接続して演奏してもOKというわけです。
歌詞は予めテキストエディタなどでローマ字で記述し、AquesTone2に読み込ませる
一方、歌詞はというと、これは予めテキストで書いておき、それをVSTiに読み込ませるのです。テキストファイルをドラッグ&ドロップでAquesTone2に持っていってもいいし、AquesTone2にある「Open」ボタンをクリックして、読み込んでもOKです。あとは、鍵盤を弾いたり、シーケンスデータを流していくと、1音ごとに歌詞を発音し、歌っていくというわけです。詳細は以下のビデオを見るのが分かりやすそうですよ。
以前、開発者の山崎さんにお話を伺った際、「AquesToneも声のベースはサンプリングによるものですが、さまざまな処理をしているため、元のサンプリングデータとはかなり異なる声質になっています。また、実はこのサンプリングデータは複数の人の声が使われているんです。ですから、少なくても特定個人のデータというわけではありません」(2008年のAV Watchの記事【第341回:アクエスト、フリーの歌うソフト「Aques Tone」】より)と話されていました。
ただし、それは初期バージョンの話であり、AquesToneはちょっぴり変わっているようではあります。そう、サンプルデータ=Voiceを切り替えることが可能になっているのです。もっとも現在公開されているバージョンでは「Lina」というVoiceのみで、今後追加が予定されているようです。
そのLinaが入った状態でのAquesTone2のプログラム、ファイルサイズをチェックしてみると、驚くほど小さいんです。Windows版のプログラムサイズは、なんと600KB。今ではほとんど見かけなくなったフロッピーディスクにも余裕で収まるサイズですよね。また、WindowsとMac版の双方をまとめて圧縮したダウンロードファイルで見てもたったの493KB。このサイズでありながら、プログラムもサンプリングしたデータも入っているのですから、とにかくコンパクトなソフトであることが分かると思います。ちなみに、VOCALOID3の歌声ライブラリの場合、DVD-ROMに収録されていることを考えれば、サイズ的にはVOCALOIDの1/1000以下ということになりそうですね。
パラメータをいじることで男性ボイスや女性ボイス、また違った歌声などに変化させられる
AquesTone2の一番面白い点は、これ1つでさまざまな歌声に変化させることができる点でしょう。Genderパラメータをいじれば男性ボイスにも女性ボイスにもなるし、Resonanceを動かせば声質が大きく変わってきます。さらにHardというところにある3つのパラメータをいじることで声の硬さをさまざまに調整できる、といった具合。VOCALOIDのように、歌声ライブラリを読み込んで声を切り替えるというわけではないんですね。この辺も、まさにシンセサイザの音作りといったところでしょう。
また今回のAquesToneではMonoモードとPoliモードというものが設けられたのも大きなポイントです。通常はモノフォニックの音源なのですが、Poliモードに切り替えると和音を歌えるようになります。これはほかの歌声合成ソフトにはない特徴といえそうですよね。
「Syli List」ボタンを押すと、使える音節が表示される
一方、歌詞のほうは基本的にローマ字で入力する形になっており、そこで利用可能な音節は「Syli List」ボタンを押すことで表示することが可能です。まあ、普通にローマ字で入力すれば使えましたよ。1行分に書かれた歌詞がループする形となっていて、次の行に行くには「Next」ボタン、前の行に戻るには「Before」ボタンを押します。これについてはMIDIのコントロールチェンジにボタンが割り振られているので、シーケンサで制御していくことも可能なわけですね。
仕様の詳細はAquesTone2のマニュアルに書かれているので、そちらをご覧ください。VOCALOIDとはまたちょっと違った歌声が楽しめると思いますよ。
【関連サイト】
AquesTone2 – 歌唱合成VSTi
株式会社アクエスト
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初音ミク風な歌うフリーウェア,AquesTone(AllAbout 2009年)