ソフトシンセやDAWを動かすプラットフォームはWindowsとMacの2者選択式だ、と多くの人が思っていると思います。でも、今後それとはまったく異なる第三極?が生まれてくる可能性があるというのをご存知でしょうか。別にUbuntuのようなLinux系が登場してくる、という話ではありません。まったくの新世代プラットフォームともいえるかもしれないのが、誰にとっても身近な存在、ブラウザです。
以前DTMステーションでも、ブラウザ上で動くDAW、Audio SaunaやSoundationといったものを紹介したことがありました。これらはFLASHベースで動作するシステムであり、それはそれで面白いものでしたが、さらに一歩も二歩も進んだ考え方のシステムが登場してきたのです。しかも、誰でも簡単にすぐに楽しめるものなので、ちょっと紹介してみたいと思います。
インストール不要。ブラウザ上ですぐに使えるソフトシンセの数々……
今回紹介するのは、「WebMidiLink」という新たな規格に則ったシステム。g200kgさんという日本の方が考案したシステムなのですが、まあ堅苦しいことはとりあえず置いておいて、以下のURLにアクセスしてみてください。
http://www.g200kg.com/en/docs/webmidilink/
ただし、利用できるブラウザは現在のところ、ChromeおよびSafari。古いバージョンのブラウザだとうまく動作しない可能性もあるので、できるだけ最新版に更新をしてください。開発が終了してしまったWindows版のSafariは対象外ですが、それ以外はMacでもWindowsでも、おそらくLinuxでもOKです。
※Firefoxも後で触れるWeb Audio APIには対応しているのですが、現在のところChromeやSafariとやや仕様が異なり動きません。g200kgさんのソフトのみはFirefoxにも対応するように特別に作られているようです。
g200kgさんのWebサイト、WebMidiLinkのページ
アクセスすると上記のような画面が登場してきますよね。ちょっと難しそうな雰囲気もしますが、心配ありません。画面をスクロールしていくと
Instrument-1
Instrument-2
Instrument-3
という項目が現れてきます。そして、それぞれのURLの下に選択肢が、右のほうには「Load」というボタンがあります。初期状態では選択肢は「g200kg:WebModular」という項目が設定されているので、とりあえずはそのまま「Load」ボタンをクリックしてみてください。
起動したアナログモジュラーシンセ、WebModular
どうですか?アナログのモジュラーシンセが表示されたと思います。ためしに鍵盤をマウスで弾いてみると、ほら、いかにもアナログシンセな音が鳴るのが確認できるはず。そして、このパッチやノブなどは飾りではなく、ちゃんと動作するものです。たとえば、左から3つめのモジュール、VCFの真ん中にはFreqとResoというノブがあるので、これを少し動かしてみると音色がドラスティックに変化するのが分かりますよね。
そう、このWebModularというシンセは、ブラウザ上で動いているのです。いまは、Loadボタンを押して起動させましたが、それは複数存在する、WebMidiLink対応シンセを簡単に起動させるとともに、シーケンサでコントロールできるようにするため。ただ、単に今のWebModularを起動させるだけであれば、先ほどの選択肢の上に表示されていたURLである
http://www.g200kg.com/en/docs/webmodular/webmodular.html
にアクセスするのでもOKですよ。
プルダウンメニューからソフトシンセを選択し、右側の「Load」ボタンをクリック
では、ほかにどんなシンセがあるのでしょうか?選択肢の2つ目にあるaikeさん開発のWebAudioSynthを起動させてみましょう。今度はMinimoogっぽい画面が登場してきます。弾いてみると、結構太っとい音が出てくるのが確認できますよね。もちろん、これもパラメータは動かせるので、試してみてください。こちらも直接以下のURLにアクセスすることで使うことができますよ。
aikeさん開発のMinimoog風アナログシンセ、WebSynth
このaikeさんのWebAudioSynthはWebMidiLinkという規格が登場するよりも前に誕生していました。そう、WebModularやWebSynthに共通するのは、ChromeやSafariが採用したWeb Audio APIという技術的仕様に則って開発したものなのです。WindowsにおけるASIO、Mac OSにおけるCoreAudioのブラウザ版といえばいいでしょうか…。
そこにMIDI信号を通せるようにしたのがWebMidiLinkという規格であり、これによってブラウザ間でMIDI信号のやりとりができるのです。WebAudioSynthは、登場後にWebMidiLink対応したわけですね。
ここで最初にアクセスしたページに戻り、「MML Play」というボタンを押してみてください。どうですか?「G、D、C、D」という音がループで鳴り出したと思います。さらに、ここでInstrument-2にmohayonaoさんの「Timbre.js」を選択して「Load」押して、もうひとつのシンセを起動してみましょう。難しそうなプログラムっぽいものが表示されますが、こいつがアルペジオを奏で出し、すでに起動して演奏されているWebSynthと同期していることが確認できるはずです。
mohayonaoさんのTimbre.js。Viewerタブをクリックすると波形やFFT表示がされる
すでにお気づきだと思いますが、MMLという項目に文字で記述されているのが演奏データであり、これがシーケンサとして機能しているんですね。MMLの文法については今回は割愛しますが、画面したの「MML format」のところに簡単な解説があります。また昔の8bit、16bit時代のパソコンを使っていた方なら、きっとよくご存知ですよね。
aikeさん開発のファミコン音源風なBITMAKER
ほかにも、g200kgさん、aikeさんの各種シンセが公開されているので、ぜひいろいろと試してみてください。
g200kgさん開発のマルチティンバーGM音源、GMPLayer
また、海外からも、GameSmithさんという方が、WEBITAURというソフトシンセを公開しています。こちらはベース専用のアナログシンセですが、これもなかなかカッコイイ音が出ますよ。
海外からも対応音源が登場。ベース音源のWEBITAUR。これはJavaのインストールが必要
このWEBITAURを含め、いくつかはJavaをインストールすることを求められますが、指示通りに操作していけば簡単に使えるようになるはずです。そのほかにも、ファミコン風の音源、GM対応のマルチティンバー音源など、結構いろいろなものが揃ってきているので、ぜひ試してみてください。
やはりブラウザ上で動作するピアノロール型シーケンサ、WebSequencer
さらにg200kgさんは、WebMidiLinkに対応したピアノロール型のシーケンサーWebSequencerというものも開発中。これは以下のURLでアクセスすることができます。
http://www.g200kg.com/websequencer/index.html
触ってみると分かるとおり、4ch同時演奏が可能で、すでにMIDIファイルの入出力も可能など、結構しっかりしたものになっていますよ。
そのほかにも、外部のMIDIデバイスを駆動することができたり、ソフトのインストールは必要ですが、外部のUSB-MIDIキーボードからこれらの音源を鳴らす手段も確立しており、着実に使えるシステムへと進化してきています。すぐに、DTMの主役になることはないでしょうが、かなり将来有望なのでは…と期待して見ているところです。
ちなみに、g200kgさんは元ビクターの研究者、aikeさんはあのクリプトン・フューチャー・メディアの現役社員の方なんですよね。以前お二人に詳しいことをインタビューしているので、興味のある方はAV Watchの記事、「第514回:DTMに新たな進化。複数Webブラウザで演奏/同期~Chromeで弾いて低遅延で連携するWebMidiLinkとは? ~」をご覧ください。