ただのステレオ音源を空間オーディオ変換する、新技術8Way Audio。新時代の音楽体験の幕開けか!?

8way Audioという新たな立体音響技術が日本で誕生し、それがいよいよ一般製品としてスマホに搭載されました。8Way Audioは国内外で特許も取得している日本独自の技術であり、ステレオ音源を普通のヘッドホンでも立体的に音を聴くことができる画期的技術。開発は、日本の著名なレコーディングエンジニアであり、DTMステーションにも何度も登場いただいている、飛澤正人さんが代表を務めるnext Sound株式会社ネオス株式会社。そして今回、シャープ株式会社が製造し株式会社NTTドコモより発売されている「AQUOS R9 pro SH -54E」に搭載されたのです。

サウンドを聴いてみると、ただのステレオ音源が、想像以上に立体的に感じることができ、音楽はもちろんのこと、映画、ドラマ、スポーツ中継などの映像コンテンツも、より楽しめるようになっています。記事では、現在公開されている8Way Audioのデモ動画を載せているので、ぜひ体感してみてください。そんな、新技術が搭載されたAQUOS R9 pro SH-54Eを試すとともに、飛澤さんにもお話を伺ったので紹介していきましょう。

ステレオ音源を空間オーディオに変換する新技術8Way Audio

25,000,000円を調達したnext Sound株式会社の立体音響技術8Way Reflection

今回8Way Audioという、新しい立体音響技術が生まれ、それがスマホに搭載されたわけですが、この技術は以前「レコーディングエンジニアの飛澤正人さんが、立体音響技術”8Way Reflection”を開発。事業化にあたりエンジェル投資家を募集中」という記事で紹介した、8Way Reflectionをベースにスマートフォン用に開発されたもの。

AQUOS R9 pro SH-54Eに搭載された8Way Audio

そんな8Way Reflectionを開発した飛澤さんは、Dragon AshやHY、GACKTなどを手掛けてきたレコーディングエンジニア。8Way Reflection自体は、2021年4月3日に特許登録されているので、約3年半の研究の末、8Way Audioが誕生したわけです。さてステレオ音源に実際にどういった変化が起こるのか、分かりやすい動画が上がっているので、まずはこちらをヘッドホンを使って音を聴きながらご覧になってみてください。前半は、設定などの紹介となっており、後半から8Way Audioのデモ音源を聴くことができます。以下の動画は、デモ音源から再生されるようになっています。

8Way Reflectionをベースに開発された8Way Audioが、AQUOS R9 pro SH-54Eに搭載されている

いかがでしょうか?ステレオ音源が、元の音源の雰囲気を残したまま、立体的になっているのが感じられると思います。技術部分に関しては後ほど、飛澤のインタビュー内で紹介していこうと思いますので、実際この8Way Audioが、AQUOS R9 pro SH-54E上でどのように動作するのか紹介していきましょう。ちなみにAQUOS R9 pro SH -54Eは、2024年12月5日発売の最新機種で販売価格は211,970円のハイエンドスマホとなっています。

2024年12月5日発売のAQUOS R9 pro SH -54E

AQUOS R9 pro SH-54Eには、イヤホン端子は搭載されていないので、実際に使用する際はBluetooth製品を使うか、Type-Cイヤホンジャック変換を使用します。8Way Audioを使用するには、まず設定画面を開き、音とバイブレーションをタップします。

音とバイブレーションをタップ

次にサウンドエフェクトを開き、

サウンドエフェクトを選択

この中にある8Way Audioをタップ。

8Way Audioをタップ

スイッチをオンにすると、AQUOS R9 pro SH -54E上で再生されるほぼすべてのコンテンツを立体音響に変えることができるのです。

8Way Audioをほぼすべてのコンテンツに適応することができる

フローティングメニューを出すこともできるので、たとえばYouTubeを見ながら、手軽に8Way Audioを切り替えて、変化を楽しむことも可能となっています。

フローティングメニューから切り替えも簡単に行える

Basic、Wide、Largeの3つのモードから好きな空間を選ぶことができる

また8Way Audioの設定では、3つのモードを選択できるようになっており、様々なジャンルに対応できる立体効果を演出するBasic、広い空間をイメージした豊かな立体感のWide、大きな広がり感で360度全方位からの音に包まれるLargeが用意されています。また、スライダーで効果の量を調整することも可能。

3つのモードから、好きな空間を選ぶことができる

実際に聴いてみた感想としては、Basicは最もナチュラルにステレオ音源を立体的にするモードとなっており、サウンドが2Dから3Dになり、音源がリッチになったように感じました。違和感なく平面だった音が、自然に立体的になり、没入感のあるサウンドが楽しめました。またWideは、文字通り音源が左右に広がり広い空間を感じることができ、そしてLargeはかなり不思議なのですが、うしろからも音源が聴こえてきて、まさにその場にいるような体験をすることができました。

自分で撮影した映像も8Way Audioで聴くことができる

個人的に音楽を聴くのであればBasic、映画はWideかLarge、音楽ライブはLargeで聴くのがよかったです。8Way Audioをオンにすると、オフのときのサウンドが、なにか物足りなく感じるので基本はBasic、コンテンツによってはWideやLargeにしていきたいですね。また、AQUOS R9 pro SH -54Eの面白いところは、8Way AudioのほかDolby Soundも切り替えられる点。どちらかのモードしか使えないのですが、これを聴き比べることができるのは、この製品ならではですよ。

開発者の飛澤正人さんにインタビュー

--ヘッドホンでの空間を再現する試みは昔からあると思いますが、なぜこれまで8Way Audioのようなものは生まれてこなかったのでしょうか?
飛澤:従来の空間オーディオは少し反射感をつけて空間を表現したり、バイノーラル録音を行っていますよね。ただ、この方法だと、たしかに空間は広がりますが、後ろ側の表現ができていないものが多い印象でした。それこそ一番最初のころ、2017年に立体音響を始めようと思い、いろいろな機材を買い揃えたときに、後ろがこんなにも表現できないものなのかと、衝撃を受けました。バイノーラルプロセッシングに関しても、この後ろ側が弱点であり、HRTFの問題を含め、商品化の難しかった部分なんだろうなと。ちなみにバイノーラルの考え方自体は、80年代にはできていて、90年代には確立されているんですよ。そこから、なぜか世界中に研究者がたくさんいるのにも関わらず、20年30年商品化されてこなかったんです。ですが、実際自分で立体音響を始めたときに、その難しさは痛感しましたね。昔、バイノーラルマイクを使ったデモ音源は聴いて感銘を受けましたが、当時は際物扱いでしたし、アナログからデジタルに移行する大変革期。世の中はハイファイに向かっていったこともあり、立体音響の進化は遅れてしまったのでしょうね。

8Way Reflectionを開発した飛澤正人さん

--そんな何十年も進化が遅れてしまっていた、立体音響の道に進もうと思ったのでしょうか?
飛澤:まずは音楽に携わる中で、このままじゃいかんだろ、という気持ちですね。後は音楽制作の中で、立体感を表現したいという好奇心です。8Way Reflection技術が生まれる前は、既存のプラグインやこれまで培った技術や知識を投じて、空間をどうにか表現できないか、試行錯誤していました。それこそ2018年に藤本さんと作った楽曲は、Dolby Atmosでミックスしたのですが、納得がいくほどの立体感を演出できていなかったと思います。世の中にあるほとんどのものを使って、立体感を作る研究をしていたのですが、いくら試行錯誤してもできない。それであれば、自分で作らなくてはいけない、という思いから、原型となる位相コントロール技術を開発することに発展していきました。

従来のサラウンドの畳み込みと8Wayでのサラウンドの畳み込みの違い

--レコーディングエンジニアの方が、開発を行うというの前例が少ないですよね。
飛澤:どうしても立体感を表現したかったのですが、その手段がないのであれば、作るしかない、そういう選択肢しかなかったんですよね。そして当初は、かなり手探りで、その難しさを感じていたのですが、研究していくうちに後ろ側の表現のヒントが、位相にあるのではと思いついたんですよ。あくまで仮説の段階でしたが、最初の発想は、ファーストリフレクションをコントロール下に置いてあげれば、なんとかできるのではというものでした。そこから発展していき、名前にもなっていますが、自分を中心に前後左右、それを上下に分けた計8つのエリアに16台のディレイを配置して、それぞれに意味をもたせた位相コントロールしようというところに最終的には行き着きました。ここに到達したのが、2019年ぐらいですね。ただこの発想にたどり着いても、それぞれのディレイの値を完璧に設定しないと機能しません。本当にたくさんの試行錯誤を繰り返して、数字をいろいろ変えてみて、夏のある日、スタジオで、「これだ!」というものができ、結果的に国内外で特許を取る技術へと進展していきました。

8つのエリアに16台のディレイを配置して、位相をコントロールしている

--実験していく中で、どうやら初期反射が関係しそうとなり、そこから試行錯誤を繰り返して、後ろからの音を出すことができたということなんですね。
飛澤:それこそ、後ろから音を鳴らすというのは、割と早めにできたんです。ただ、最初は後ろから音が出ても、左右シンメトリーに表現することができなかったんですよ。それぞの箇所のディレイタイムが影響し合っているので、これの正しい位置を見つけ出すのに苦労しました。ですが、最初から絶対に黄金比はあるはずと感じていたんです。数学ができる人だったら計算で導きだすこともできたかもしれませんが、私はとにかく試行錯誤を繰り返し、4:3という比率にたどり着きました。この発見で、大きく8Way Reflectionの完成に近づきましたね。つい先日、アメリカの特許も取れたのですが、類似の文献は世界中にないとのことでした。

チューニングには熟練の技術が必要なため、調整されたプリセットを選んで立体音響を楽しめるようになっている

--ある意味、8つのエリアに分けたところに16台のディレイを配置して、その4:3という比率を元に作れば、誰でも同じようなものが作れるのでしょうか?
飛澤:この4:3という比率はあくまで基本の理論なので、がんばれば近いものは作れるかもしれませんが、ほかに組み合わせの技術や倍音の概念なども必要になるので、そう簡単ではないと思います。その辺をちゃんと理解している人がチューニングしいないと、立体感の表現は難しいでしょうね。なので実際には、8Way Audioは、広さを変えて作ったプリセットを選択する形で、ユーザーは立体音響を楽しめるような仕組みになっています。

--数々の音楽作品に携わってきた飛澤さんだからこそ、生み出すことのできた技術ですね。
飛澤:きっとこれまで、立体音響制作ツールの製品化に挑戦してきた人はたくさんいたのだと思いますが、そのほとんどが研究者の方だったと思うんです。『位相コントロール技術』は、そういった開発エンジニアの目線ではなく、音楽をミックスし続けてきたサウンドエンジニアだからこそ行き着いた発想だと思っています。これが立体音響の時代を進めるものになれば嬉しいですね。

--ありがとうございました。

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