VOCALOIDが20周年。DTMの世界を大きく変えたVOCALOIDの20年を振り返ってみる

2024年も間もなく終わりとなりますが、今年度でヤマハVOCALOIDが20周年を迎えました。すでにVOCALOID 20周年記念特設Webサイトがオープンしたり、VOCALOID 20周年記念・全品20%OFFセールが開催されているほか、#VOCALOID20thをつけて思い出の曲を多くの方が投稿するプレゼントキャンペーンが開催されているなど、お祭りモードとなっています。私もVOCALOID 20周年記念特設Webサイトに、コメントを寄稿させていただきましたが、今も進化を続けているVOCALOIDですが、誕生から20年も経ったのかと思うと、感慨深いものがあります。

VOCALOIDがなかったら、たぶんDTMステーションは存在していなかったと思うし、VOCALOIDがなければ今の日本のDTM文化はなかったといっても過言ではないほど、大きな存在だったと思います。きっと読者のみなさんも、それぞれVOCALOIDに対して、さまざまな思い出があったり、特別な思いを持っているのではないでしょうか?ここでは、DTMステーションとして、というか、DTMステーションの編集人である私、藤本健として、VOCALOIDの20年を個人的に振り返ってみたいと思います。

VOCALOIDが今年度で20周年を迎えた

20年前のVOCALOID誕生時には、その可能性を全然理解できなかった

VOCALOIDの20周年記念特設WebサイトのHistoryのところにもある通り、VOCALOIDはその前身である開発がDAISYプロジェクトとして2000年にスタートしています。これはあくまでもヤマハ社内での開発であり、部外者である私自身は当然まったく知りませんでした。その後、VOCALOIDとして開発が始まり、一般に対して初お披露目となったのが2003年3月5日~9日にドイツ・フランクフルトで開催されたMusikmesse。ただ実はその前の2月26日にヤマハからプレスリリースが出され、ここで最初に発表されているんですね。

2003年2月26日に国内で出されたVOCALOID開発に関するプレスリリース

手元にそのときの資料が残っていますが、実はこの時のプレスリリースでは「ヴォーカロイド」とカナが振られていたんですよね。もちろん、みなさんご存じのとおり、その後「ボーカロイド」となって広まっていったわけですが…。

国内で報道向けに、発表会があったのは4月ごろだったように思います。東京・泉岳寺にあったヤマハの会議室で、シンセサイザなどヤマハの新製品と一緒にともに、発表会が行われ、そこに参加したのを覚えています。実はこの2003年当時は、まだサラリーマンをしていて、勤務場所が泉岳寺から1kmほどの品川だったため、会社をサボって、この発表会に参加していたんですよね。そのVOCALOIDの歌声合成のデモを見て、「こんなことができるようになったのか」と思った一方で、これが大ヒットになるなどとはまったく想像もできませんでした。

その後、VOCALOIDは2004年アメリカ・アナハイムでのNAMM SHOWで展示されると同時に、VOCALOID初の製品がZERO-Gの英語ライブラリ「LEON」、「LOLA」として発売されています。ここから数えて今年で20年というわけですね。

初音ミクの発売日、ビックカメラでパッケージを購入

個人的にいうと、その2004年3月末で務めていたリクルートを退社し、4月に自分の個人会社であり、DTMステーションの運営元である有限会社フラクタル・デザインを設立しています。そのため、ウチの会社も、VOCALOIDと同じく今年が20周年なんですよね。当時は、まだDTMステーションはスタートしておらず、その前身であるオールアバウトのDTM・デジタルレコーディングというサイトをガイドとして運営しており、その中で、VOCALOIDについてもいろいろと取り上げてきたのでした。

2004年10月に東京・恵比寿で行われたSonarSound Tokyo 2004のクリプトンのブースにMEIKOのデモが行われていた

ちなみに先ほどの2003年に行われたヤマハの発表会の写真は見つけることができなかった一方、手元に残っていたVOCALOIDに関する一番古い写真は、2004年10月9日、10日に東京・恵比寿ガーデンプレイスで行われたイベント、SonarSound Tokyo 2004での写真。このSonarSound Tokyoにクリプトン・フューチャー・メディア(以下、クリプトン)が出展していて、ここで11月5日に発売される予定のMEIKOのデモが行われていたのです。これについても当時オールアバウトAV Watchで記事にしていますが、その後の大ヒットについては、まったく予感すらできていませんでした。

当時、発売前のMEIKOのスクリーンショットをクリプトンからもらったもの

結局、これは来るぞ、と気づいたのは、多くのみなさんと同じタイミング。そうVOCALOID 2が登場し、その日本語のボイスライブラリである初音ミクが発表されたときでした。クリプトンからのメールで見たのか、どこかのニュースサイトで見たのかは覚えていませんが、パッケージに描かれた初音ミクのビジュアルを見るとともに「ポップでキュートなバーチャル・アイドル歌手」というサブタイトルを見て、こんな世界が来たのか、と驚いたのでした。

発売日に購入した初音ミクのパッケージ。今も手元にある

発売日であった8月31日に、東京・渋谷のビックカメラで購入したのが、今も手元にある製品ですね。その後は、ニコニコ動画などを通じて、瞬く間に大ヒットとなっていったのはみなさんご存じのとおりです。

VOCALOID初の書籍、「できる初音ミク&鏡音リン・レン」を出版

そんな初音ミクの大ヒットが始まった10月に、ずっとお付き合いのある出版社であるインプレスから「初音ミクの書籍を出そうと思うのですが、どうですかね?」という連絡をもらったのです。「できるWindows」や「できるExcel」など、できるシリーズを展開している編集部の担当者からの連絡で、「できる初音ミク」という本を出すので、執筆を手伝ってほしい、という話だったのです。

それは面白そうと、すぐに取り掛かりました。作業を進める中、編集部側はクリプトンとの交渉で、札幌に出張するなど、いろいろやりとりをしていたようですが、効率よく作業は進み、年内か年明けには出版できるかも…というところまで進んでいったのです。普通、書籍の出版って企画から発売まで早くて半年といったスパンなので、かなりのスピードだったのですが、最終段階に入ったタイミングで、大きく企画変更の指示が出たんです。そう、年末にクリプトンから、キャラクター・ボーカル・シリーズの第2弾として、鏡音リン・レンが出るので、それでも使えるように、全面修正だ、と。

初のVOCALOID書籍となった「できる初音ミク&鏡音リン・レン」を出版した

それは面白そうと思う反面、「いまから全部直すの?」と、文句言いながら修正していたような覚えがありますが、発売前の鏡音リン・レンを入手して、初音ミクと比較しながら試していたのは懐かしい思い出でもあります。その結果、翌2008年2月に「できる初音ミク&鏡音リン・レン」が発売。VOCALOIDの書籍としては、たぶんこれが初だったはずです。

初音ミクの中の人、藤田咲さんと一緒にイベント!?

そんな書籍を執筆している中、インプレスの営業企画の担当から、またスゴイ話が舞い込んだんです。「インテルが45nmクアッドコアプロセッサの紹介イベント、『Intel in Akiba 2007 Winter』というのに出演してもらえないだろうか?」という話。何で私が?と思ったら、Core 2 Quadの実力を示すために、各社がさまざまなアプリケーションを紹介する中、音モノとして話題のVOCALOID初音ミクを取り上げたい、とのこと。せっかくのイベントなので、初音ミクの中の人である、藤田咲さんをゲストに呼ぶので、その対談相手ということで出てほしい、というのです。

秋葉原で行われたインテルのイベントに出演された藤田咲さん

いまでこそ、小岩井ことりさんや、田村響華さんなど、さまざまな声優さんと一緒にお仕事をすることが増えましたが、当時は声優さんと会うなんて初めてで、何をどう話をすればいいのか、まったく想像もできなかったけれど、面白そうだったので、二つ返事で参加させていただくことにしました。

インテルのイベントでは藤田咲さんと私で初音ミク制作秘話を進行した

当日は、藤田さんファンが押し掛けるのに圧倒されつつも、どうやってVOCALOIDの収録を行ったのか、初音ミクの声を聴いてどう感じるものなのかなど、やりとりさせてもらったのを覚えています。残念ながら、その後は藤田さんと直接お会いする機会はありませんでしたが、個人的にはとってもいい思い出になりました。

2010年、DTMステーション創刊とともに、VOCALOID関連記事が増えていった

その後、2010年3月にヤマハが開催した技術発表会的なイベント「Y2 SPRING 2010」に参加して、AV Watchなどで記事を書いたことがキッカケとなり、ヤマハのVOCALOIDのチームとも懇意にさせていただくようになりました。このイベントではVOCALOID-flexなるものが紹介され、VOCALOIDの技術を使いながら、歌だけでなく、喋りも可能になるデモが行われたり、VOCALOIDとは直接関係ないですが、現在のSYNCROOMの前身であるNETDUETTO βの初お披露目がされたりしたのです。

ヤマハの開発チームにVY1に関するインタビューなども行った

それ以降、VY1やVY2といったヤマハ発のボイスバンクを試させてもらったり、その技術的背景について取材させていただいたり、VOCALOID STORE(現VOCALOID SHOPの前身)について話を聞くなど、取材しては頻繁にDTMステーションで記事にしていったのです。

VOCALOID SHOPの前身であったVOCALOID STOREの店長について取り上げたことも……

そう、このDTMステーションを創刊したのは2010年4月のこと。前述のオールアバウトから引っ越すような形で、立ち上げたのですが、世の中はまさにVOCALOID一色の時代。当然のようにVOCALOID関連の記事が非常に多く掲載されていったのです。

ちなみに、DTMステーションのカテゴリーとして「VOCALOID・歌声合成・音声合成」というものがありますが、現時点でこれまで全部で271本の記事が掲載されています。その中にはVOCALOID以外のソフトもカウントされてはいますが、いかに多くの記事をUPしてきたかが分かると思います。

VOCALOIDの生みの親、剣持秀紀さんと出版した「ボーカロイド技術論」

さらにはVOCALOID 3、VOCALOID 4と進化が進む中、クリプトン以外にも、インターネット、AHS、1st PLACE、ガイノイド……などVOCALOIDの製品を開発するサードパーティーが増えていきました。具体的にはMegpoidやがくっぽいど、結月ゆかり、IA、東北ずん子……とピックアップしていくとキリがないほど。興味のある方は、ぜひDTMステーションの過去記事を検索してみてください。

そうした中、それまでたびたび取材させていただいた、VOCALOIDの生みの親である剣持秀紀さんから、「ちょっと相談があるので、会えませんか?」と連絡をいただいたのです。相談って何だろう……と思ってお会いしたら、VOCALOIDに関する書籍を作りたいので、手伝ってほしい、ということだったのです。しかも、VOCALOIDの使い方の本ではなく、VOCALOIDの技術がどうなっているのかを解説する本だ、というのです。

今も手元に残っているボーカロイド技術論の執筆時の論文などの資料

それは、まさにこちらとしても願ったり、叶ったりということで、さっそく一緒に作業に取り掛かったのです。役割としては、剣持さんにこれまでの歴史や、開発の過程、そこで用いられた技術などを語ってもらい、それを私がまとめていくという形。剣持さんは静岡在住で、私は横浜。なので、剣持さんが東京出張のタイミングに合わせ、月に数回のペースで数か月間、取材を繰り返すとともに、そのたびに剣持さんから、さまざまな資料をいただき、原稿にしていったのです。

その剣持さんとの取材の中で、非常に印象に残っているのは、VOCALOIDの開発を富士山の登山に置き換えた話です。人間の歌声を目標にした開発は、登山でいうと、まだ3合目辺り。今後も頂上を目指して開発を進めていくけれど、3合目あたりの成果物である現状のVOCALOIDが、このままの形で定着していく可能性もありそうだ、という話。これは100年前にピアノの音を目指して電子楽器を作っていく中で生まれたエレクトリックピアノが、今もエレピとして定着したのと近いのかもしれない、と。まさに新しいことにずっとチャレンジしているからこそ、感じることなんだろうな、と思ったのでした。

剣持秀紀さんと私の共著という形で出版した「ボーカロイド技術論」

そうしたやり取りの結果できあがったのが、2014年10月にヤマハミュージックメディアから出版となった「ボーカロイド技術論」。この本の中でも、最初に歌声合成で歌わせたのが「朝」というフレーズだったことが紹介していますが。これはまだボーカロイドという名前が決まるかなり前。Daisyプロジェクトといわれていた2000年7月だったそうですが、そのときに歌声がこちらです。この辺の経緯についてはVOCALOID20周年記念特設Webサイト内の「VOCALOID 20周年記念スペシャルインタビュー -開発者編-」の記事の中でも紹介されているので参照してみてください。

いま改めて、この本で取り上げた技術を見ていくと、しゃべる技術から歌声合成への転換、音声素片の組み合わせ、合成エンジンの開発経緯、フォルマントシンギング音源を使った音声合成、ボーカロイドの入力禁止区域、素片接続の調整法、スペクトル包絡を活用した音色づくり、X-SAMPAの採用、リアルタイム発音機能、ピッチ間モーフィング機能の実装、DiphoneとTriphoneの搭載、無声化のための隠しコマンド、ノートエクスプレッションを活用したデータのやりとり、歌声トリートメント処理、VSTインストゥルメントの実装、GUIの開発とデータのスリム化……など、貴重な情報がいっぱい。個人的にも非常に勉強になった本づくりでした。

発売のタイミングで剣持さんとともに、出版記念イベントを行ったのも楽しい思い出です。ちなみに、その出版社であるヤマハミュージックメディアでは、「ボーカロイド技術論」の前に「オフィシャルガイドブック VOCALOID3公式完全マスター」、「オフィシャルガイドブック ボーカロイドforCubase公式完全マスター」というヤマハ公式のガイドブックを書かせていただいたりもしたのでした。

20年経っても、まだまだ進化するVOCALOID

そこから、今年でちょうど10年。この期間については、きっと読者のみなさんのほうが、よくご存じかもしれません。

競合もいろいろ登場し、歌声合成における競争が激しくなる一方で、AI歌声合成の技術も台頭し、現在のVOCALOID6では、従来からの延長線上にあるVOCALOIDエンジンとVOCALOID:AIエンジンがハイブリッドで使えるようになるなど、技術的にも性能的にも楽器として大きく進化してきています。

さらに先日の「VX-β ver. 3.0が登場。VOCALOID 6 Editorユーザーは無料で利用可能。VTuber花奏かのんさんのボイスバンク・花奏も同時発売」という記事でも紹介した通り、製品としてのVOCALOIDとは別に、未来のVOCALOIDの世界を模索するVOCALOID β-STUDIOというプロジェクトを行ったり、VOCALOIDは誕生から20年経っても、ますます面白くなってきています。

先月11月15日にオープンした『Yamaha Sound Crossing Shibuya』で剣持秀紀さんと

この先、VOCALOIDがどんな進化をし、DTMの世界でどう変化していくのか。これからもDTMステーションとして追いかけていこうと思っています。

改めて、VOCALOID 20周年、おめでとうございます。

【関連情報】
VOCALOID20周年記念セール情報
VOCALOID20周年記念特設サイト
VOCALOID6.5アップデータ
VOCALOID公式サイト

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