年末恒例の行事!?今年もCubase 14誕生。目玉はドラムトラック搭載。11以前のユーザーにとってはバージョンアップ最後のチャンス

Cubase 11以降、年に1度のペースでメジャーバージョンアップをしているCubaseですが、今年も11月にCubaseの新バージョン、Cubase 14が発表・発売されました。今回の目玉はついにドラムトラックが搭載されるとともにドラムマシン機能が装備された点。これで効率よくドラムパートを作っていくことができそうです。またモジュレータータブというものも追加され、Bitwig Studioなどでウケているモジュレーション機能に近いものも搭載されるなど、ほかのDAWにあって、Cubaseになかった機能がいろいろ追加されるとともに、プラグイン類も大幅に強化されています。

ご存じのとおり、Cubase 12以降、USBドングル=Steinberg Keyが廃止され、ユーザーにとってはより便利にCubaseが使えるようになったのですが、Cubase 11以前に使われたドングルを管理するeLicenserのサーバーが間もなく廃止されることも発表されました。サーバー廃止後もドングルがあれば使い続けることは可能ですが、ライセンス情報を引き継ぐことができなくなるので、新しいCubaseへのバージョンアップができる最後のチャンスとなるようです。それ以降は新規購入という扱いになってしまうので、しばらくバージョンアップしていなかった方、このタイミングでのバージョンアップをしておくのが吉といえそうです。そのCubase 14、どんな点が強化されたのがチェックしていきましょう。

SteinbergからCubase 14がリリースされた

例年通り、Cubase 14シリーズがリリースされた

11月7日、Cubase 14が発表されるとともにオンラインでの発売が開始されました。製品ラインナップは従来と同様で

Cubase Pro 14
Cubase Artist 14
Cubase Elements 14

の3種類で、Steinberg Online Shopからのダウンロード購入および、各楽器店やネットショップでのコード購入の2通りがあります。また、ハードウェア製品などにバンドルされる

Cubase AI 14
Cubase LE 14

も登場している点も同様であり、価格にも変更はないようです。

ラインナップ的には従来と同様となっている

楽器店やネットショップなどで購入できるのは新規購入者向けのフルバージョンと、他社DAWからの乗り換え版であるクロスグレード版の2種類。一方Steinberg Online Shopでは旧バージョンからのアップデートやアップグレードができるようになっています。では、さっそくどんな新機能が追加されたのかなど、見ていきましょう。

ついにCubaseにも待望のドラムトラックが搭載に

これまでCubaseを使っていて、何で搭載されないんだろう……とずっと思っていたのがドラムトラックです。もちろんMIDIトラックとしてドラムを打ち込んでいくことはできましたが、ほかのDAWにあるような、より手軽に簡単に打ち込めるドラム専用のトラックがなかったのが、残念に思っていたのですが、ついにCubaseにも搭載されました。

新たにドラムトラックというものが追加された

このドラムトラックは音源であるドラムマシン(Drum Machine)とステップシーケンサ的に打ち込んでいけるパターンエディタから構成されるもので、これまでのCubaseと比較して、各段に効率よくドラムを打ち込むことが可能になる、というものです。

そう昔ながらの808や909のように16ステップでキック、スネア、ハイハット、タム……と打ち込んでドラムパターンを作り、そのパターンをトラック上に並べていけば完成するというもの。もちろん、ステップ数は16に限らず、自由に設定することができるし、いくらでも多くのパターンを作り、それを自由に組み合わせて並べていくことが可能です。

ドラムトラック専用のドラム音源、ドラムマシン

まずは音源部であるドラムマシンから見ていきましょう。このドラムマシンは、VSTインストゥルメントではなく、ドラムトラック専用に用意された新たな音源で、Drum Machineタブからアクセスできるようになっています。

Drum Machineというタブが追加され、ドラム音源が使えるようになった

プリセットとして数多くのドラムキットが用意されているので、アコースティックドラム的なものでも、エレドラ的なものでも、パーカッション的なものでも、選べばすぐに本格活用可能です。また実はプリセットにはドラムだけでなくシンセベースが入っているのもユニークなところです。

ドラムキットとして数多くのプリセットも用意されている

画面左には4×4のパッドが用意されていて、ここをクリックすれば鳴らすことができるし、ここにMIDIのノートが割り当てられているから鍵盤を弾いても鳴らすことができます。また4×4パッドの上で音階の切り替えができるようになっているので、8グループ分、トータル128パッド分の利用が可能です。

各パッドに1つずつ音源を割り当てていくことができる

そして、もちろんこれらのパッドにどんな音を割り当てるのかユーザーが1つ1つ設定していくことも可能です。その際、キック、スネア、ハイハッド…といろいろ用意されているものを割り当てることが可能ですが、それぞれに数多くのパラメータが用意されているので、これらを使って調整していくことで、自分だけの音に仕立てていくことが可能です。

音源の種類によってパラメータも変わってくる

しかもそのパラメータ、選ぶ音によって項目がいろいろと変わってくるのも面白いところ。そう、それぞれによって、シンセサイザ方式が異なるから、パラメータが異なるのですが、見てみたところ普通のPCM音源がメインとなっている一方、アナログシンセモデリングタイプのもの、ノイズジェネレータータイプのもの、さらにはFM音源タイプのものなどあるので、かなりバリエーションがあるのが面白いところ。もちろん手元にワンショットのサンプル音などがあれば、それをドラッグ&ドロップで持ってきて使うことも可能です。

FM音源もあり、最大4つの音源をレイヤーできる

また、1つのパッドに最大4つまでの音をレイヤーしていくことができるので、組み合わせることでかなり独自な音を作っていくこともできます。

エフェクト設定やドラムキットのバランス調整も可能

このドラムマシン、シンセサイザ的に音色を作りこんでいくだけでなく、エフェクトも充実しており、各パッドごとに細かく設定していくことも可能です。それぞれにビットクラッシャー、ディストーション、フィルター、EQが用意されてて、細かくパラメータ調整しながら設定していくことができます。その後段にはリミッターとソフトクリップもあるので、ここで音と整えることができます。

各パッドごとに設定できるエフェクトも装備されている

一方、ドラムキットとした場合、各パッドごとのバランスも重要になってきますが、Group機能によって各パッドごとのレベル調整、PAN調整があるほかディレイ、リバーブへのセンドもできるようになっています。

ドラムキットとしてのバランス調整も可能

そのディレイ、リバーブは全体で使うシステムエフェクトという位置づけで、ディレイで13種類、リバーブで18種類が選択できるとともに、パラメータ調整も可能なので、ニーズに応じた音作りも可能となっています。

柔軟性の高いドラム専用のパターンエディタ

ドラムトラックの打ち込みは、新たに搭載されたパターンエディタを使うか、従来通りのMIDIエディタを使うかの選択が可能となっています。やはり注目はパターンエディタなわけですが、使い方はいたって簡単。ほかのDAWでは一般的となっている、ステップエディタ的な入力が可能なので、直感的にリズムパターンを作っていくことが可能です。

ドラムのステップ入力ができるパターンエディター

この際、サイコロのアイコンがいろいろ用意されているのも面白いところ。たとえばスネアだけをランダムにパターン生成することもできるし、すべての音に対してランダムに生成すること、さらには、ベロシティだけをランダム設定すること……なども可能です。このすべての音をランダムに作る際、本当に完全にランダムにするのか、4つ打ちを元にした音楽ランダム化なんていうものもあるので、うまく使い分けていくのもよさそうです。

サイコロのアイコンを使うことでランダムのリズムパターンを簡単に作成できる

ほかにもいろいろなパラメータがありますが、かなり便利に使えるのが1つのノートに対して、出現確率を設定できる、という点。たとえば3拍目のスネアの出現確率を50%に設定すると、この3拍目のスネアが1/2の確率で鳴ったり鳴らなかったりするので、面白い演出ができるわけです。

特定の音の出現確率を設定することができる

このようにして作ったパターンをトラック上で1パターン、2パターン、3パターンと、選んで並べていくことができるようになっています。

複数のパターンを作成した上で、トラックに並べていくことができる

これによって、非常に効率いい打ち込みができるわけなのです。

ドラムトラック上に好きなパターンを並べていく

Groove Agentをドラムトラックで鳴らす!?

前述のとおり、ドラムトラックはドラムマシンとパターンエディタで構成されているので、どうしても従来のCubaseとは違った曲作りになってしまいます。中には、このパターンエディタを使って、Groove Agent SEなど、従来のドラム音源を使いたい、と思う人もいると思います。

パターンをMIDIイベントに変換

しかし、ドラムトラックの音源はドラムマシンに固定されていて、インストゥルメントトラックのように、音源を切り替えることはできません。ただ、ワザはもちろん用意されています。

MIDIイベントに変換してしまえば、Groove Agent SEなど既存の音源で鳴らすこともできる

実はパターンエディタで作ったイベントをトラックに並べたものを、通常のMIDIイベントに変換することができるんです(逆は不可)。そして、その変換されたMIDIイベントをインストルメントトラックやMIDIトラックへドラッグ&ドロップで移動させたりコピーさせれば、VSTインストゥルメントの音源で鳴らすことができるんです。ちょっと手間はかかりますが、こうした方法によって、効率よくドラム、リズムの打ち込みも可能になるのです。

モジュレーターでさまざまなパラメータを自在に動かす

Bitwig Studioは独立したLFOやエンベロープフォロワーで、シンセやエフェクトなどのさざまななパラメータをウニョウニョと動かすことができるのが大きな特徴となっており、その機能を求めてBitwig Studioを使っている人も少なくないと思います。

それとほぼ同等の機能が今回Cubase 14にも搭載されたのです。具体的には下ゾーンに、先ほどのDrum Machineとは別にモジュレーターというものが追加されています。具体的には

LFO
Enveolope Follower
Shaper
Macro Knob
Step Modulator
ModScripter

という6つのモジュレーターが入っているんです。

6種類のモジュレーターが用意されている

そしてたとえばLFOのモジュレーション先として、Cubaseのさまざまなパラメータが選べるようになっているのです。UI的にもBitwig Studoのものとだいぶ似た感じですが、「+」アイコンを選んで、出力先を選べばOKで、必要に応じて一つのモジュレーターから複数のパラメータにモジュレーションをかけていくことも可能です。

モジュレーションのかける接続先を指定する

逆に動かしたいパラメータがあれば、ミックスコンソールでも、VSTインストゥルメントでもVSTエフェクトでも、そのパラメータ上で右クリックして出てくるポップアップメニューから「モジュレーターに割り当て」を選べば、設定することも可能になっています。

プラグインなどモジュレーターを効かせたいパラメータ側から指定することも可能

これによって、単調なパターンであっても、自在に動きを与えることが可能になるので、曲作りの幅も大きく広がっていきそうです。

Shimmerリバーブ、Studio Delayを新規搭載

Cubase 14ではプラグインもいろいろ追加されています。いくつかピックアップしていくと、非常に強力なのがShimmerリバーブの搭載です。Shimmerリバーブについては、先日「Shimmer Reverbを世に広めたStrymon BigSkyの新モデル、BigSky MXの威力とMIDIでのコントロール」という記事で、Strymonのエフェクトについて紹介しましたが、非常に独特な効果を持つエフェクトで、たとえばギターに利用することで、幻想的なサウンドを作り上げることができるもの。

Shimmerリバーブも搭載された

仕組みとしてはリバーブの残響音を加える際に、オクターブシフト処理を行うことで、バックに非常に重厚なパイプオルガンのようなサウンドを響かせる、というものなのですが、パラメータの設定によって、そのサウンドは大きく変わってきます。もちろんギターに限らずさまざまな楽器で利用できる、プラグインです。

8種類のタップを選択できるStudio Delay

Studio Delayは8種類のタップのパターンとさまざまなエフェクトを組み合わせたユニークなディレイです。まずは8種類のタップを選ぶと、どのようにディレイ音が戻ってくるのか、その基本を大きく変更できます。

またAGE、MODULATION、DISTORTION、REVERB、PITCH、MIXという6つのパラメータを変更することで、ディレイサウンドが大きく変化していきます。たとえばMODULATIONではコーラス、フランジャー、フェイザーのいずれかをかけることができるし、DISTORTIONではオーバードライブ、ビットクラッシャー、サンプルディバイドのいずれかの設定が可能になります。

またFILTER BANKで周波数帯を設定することで戻ってくるリバーブの周波数のハイとローをカットするといったことも可能になっています。

Auto FilterやUnderWaterなどの新フィルターも

またAuto Filterというフィルタープラグインも追加されています。これは信号が入力されると、それに伴ってフィルターの周波数レンジがリアルタイムに動くというユニークなフィルター。ローパス、ハイパス、バンドパスを選ぶことができ、レゾナンスのかかり具合やアタック、リリースを調整することが可能です。

入力に応じて周波数レンジが変化していくAuto Filter

たとえばシンセベースにこれをかけることによって、303のようなミョンミョンしたサウンドを簡単に作り出すことができます。またここにサイドチェインをかけることも可能です。リズムトラックなどをサイドチェイン入力させることによって、リズムに対してサウンドがエフェクティブに動かせる演出が可能になります。

高域を削って、水中の音のような効果を出せるUnderWater

もう一つフィルタープラグインとしてUnderWaterというものも追加されています。これは名前のとおり、水中のサウンド的なものを演出できるもので、周波数を設定するとそれ以上がモコモコして消えていく形になります。

そのため、たとえば隣の部屋から聴こえてくるような音に設定することも可能で、低いドンドンした音は聴こえるけれど、高い音はほぼ聴こえないというサウンドに仕立てることができます。

MixConsoleとは独立してボリューム調整ができるプラグイン、Volume

そのほかにもプラグインとしてボリュームをコントロールするその名もVolumeが追加されました。これはMixConsoleのボリュームフェーダーとは独立してボリュームだけをコントロールするというもの。これによって、すでにボリュームオートメーションの書かれたトラックを全体的に操作したり、トレモロ効果などモジュレーターのボリューム接続先に便利に使うことができそうです。

Bitwig StudioやStudio Oneとデータ互換性が取れるDAWprojectフォーマットに対応

さらにCubase 14では新しいオープンファイル交換フォーマットであるDAWproject(.dawproject)に対応しました。DAWprojectはBitwigが提唱したフォーマットで、これまでBitwig Studio、Studio Oneが対応していましたが、ここに同じドイツ陣営であるSteinbergのCubaseが対応した形です。

DAWprojectの書き出し、読み込みに対応した

これまでDAW間でやり取りするフォーマットとしては、OMFやAAFがあり、Cubaseもこれらに対応していましたが、これらのフォーマットはもともとビデオポストプロダクション用のフォーマットであったため、キレイにデータ移行できないケースが多く、実際のデータ移行は簡単にはいかなかったのが実際のところです。もちろんMIDIとオーディオデータを手動でエクスポートして、別のソフトウェアでインポートするという方法もありますが、さらに面倒で、キレイに再現することは容易ではありませんでした。

それに対し、DAWprojectは、トラック、チャンネルに関連するすべての情報、すべてのオーディオ、ノート、オートメーション データ、さらにはプロジェクトで使用されているプラ​​グインの状態さえも含まれています。もっともCubase 14の初期バージョンにおいてはオートメーションやクロスフェードへの対応は限定的となっていますが、今後のメンテナンスアップデートでより対応を強化していく、とSteinbergは名言しているので、今後の対応に期待したいところです。
※2024.11.7 11:15追記
記事執筆時、DAWprojectへの対応について気づいていませんでしたが、記事掲載後に気づいたため、この項目を追記しました。

そのほかにもさまざまな機能強化が図られているCubase 14

Cubase 14というメジャーバージョンアップだけに、ほかにもさまざまな機能追加、機能強化が図られています。

たとえば、従来はプロジェクトウィンドウでのみ可能だったトラックの並び順の変更がMixConsole上でもできるようになっています。もちろん、変更した並び順はプロジェクトウィンにも反映される形になります。

MixConsole上でトラックの順番を替えることも可能になった

また鉛筆ツールによるオーディオイベントのボリュームがよりエディットしやすくなったのもCubase 14の進化ポイントの一つです。レンジセレクションを使って描くことができるようになったり、フェードやイベント全体のボリュームとも共存できるようになるなど直感的で便利に使いやすくなっています。

鉛筆ツールによるオーディオイベントのボリュームがよりエディットしやすくなった

さらにイベント間のレンジの選択がレンジツールでのダブルクリックで可能になったり、編集後も選択範囲が保持されるようになっています。

また環境設定に「サイクル範囲を範囲選択に追従」というものが追加されています。さらにスコアエディタがDoricoのテクノロジーによって刷新され、Doricoライクな操作感でより直感的に使いやすくなっているのもポイントです。

eLicenserサーバーが間もなくダウン。Cubase 11以前のユーザーはバージョンアップの最後のチャンス

そして冒頭でも触れたとおり、今回のCubase 14はCubase 11以前のユーザーにとって、非常に重要なバージョンになります。

Cubase 12の登場で、従来のUSBドングルが廃止されて、Steinberg Activation Managerでライセンス管理するようになったため、ユーザーにとってはとても使いやすくなったし、同時に3台までインストールして使うことができるという面でもとっても便利です。この点はCuase 13そしてCubase 14へも引き継がれているわけですが、問題となるのがCubase 11以前のバージョンからのアップデートやアップグレードについてです。

ドングルさえあれば、今後もCubase 11やCubase 10などを使い続けることはできるのですが、このドングルを管理するeLicenserのサーバーが間もなく稼働を終了してしまうため、Steinberg側が、誰がどのライセンスを持っているかの管理できなくなってしまうのです。

そのためサーバーが稼働している現在はCubase 11やCubase 10からCubase 14へのアップデート、アップグレードという形で安いバージョンアップ価格が適用されるのですが、それ以降は新規ユーザー扱いとなってしまうので、安く購入するメリットを得られなくなってしまうのです。

まだサーバーのダウンが何月何日とまで発表されていないようですが、少なくとも1年以内には終了するようで、下手すると2025年早々に終了ということもありそうです。したがって、Cubase 11以前で止まっている人にとっては新Cubaseへ移行するための最後のチャンス。Cubaseとの縁を切りたくない、という方は、ぜひこのタイミングでアップデート、アップグレードしておくことをお勧めします。

【関連情報】
Cubase 14製品情報

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