世界中で大ヒットしたSSLのオーディオインターフェイスの次世代機SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡを旧モデルと比較してみた

2020年に発売されて以降、世界中で大ヒットしたSolid State LogicのオーディオインターフェイスSSL2とSSL2+が進化を果たし、SSL2 MKⅡSSL2+ MKⅡとして登場しています。特徴でもあるSSL4000をイメージしたサウンドにするための4Kボタンはそのままに、新たに次世代32bit192KHzコンバータを搭載し、インプットとアウトプット周りをブラッシュアップ、ヘッドホンとINST入力がフロントに配置され、また各種ボタンの耐久性が上がるなど、長い期間愛用できるオーディオインターフェイスに仕上がっています。

価格は、SSL2 MKⅡが32,780円(税込)、SSL2+ MKⅡが45,980円(税込)となっており、世界中でも日本が圧倒的に安い価格になっているとのこと。海外では、旧モデルから30%ほど値上がりしているので、今後は日本でも値上げが見込まれるので、ゲットするなら今がチャンスといえそうです。個人的には従来モデルのSSL2+を発売当初に購入して使っていたので、今回のSSL2 MKⅡとSSL2+ MKⅡと比べてみました。どんなアップデートが行われたのか、紹介していきましょう。

Solid State Logicの最新オーディオインターフェイス2in/4outのSSL2+ MKⅡ

1969年設立の伝説的老舗メーカーSolid State Logic

SSL=Solid State Logic(ソリッド・ステート・ロジック)社はイギリス中西部にあるオックスフォードに本社がある、1969年設立の老舗メーカー。同社の案内を見ると「音楽をはじめブロードキャスト、ポストプロダクションおよび映画用プロフェッショナルアナログ/デジタルオーディオコンソールメーカーとして世界最大かつ最も成功しているメーカーです」とあり、現在SSLのコンソールは世界中の3,000以上のスタジオで稼働しています。

旧モデルであるSSL2(左上)とSSL2+(右上)、最新モデルのSSL2 MKⅡ(左下)とSSL2+ MKⅡ(右下)

もちろん、日本国内でも多くのレコーディングスタジオにSSLのコンソールが導入されているし、多くの放送局でも導入されており、コンソールのデファクトスタンダードといっていい機材を長年作り続けてきたメーカーなのです。そのSSLのミキシングコンソールの歴史を振り返ると、スタートは1976年に発表されたSL4000Aシリーズと1978年に発表されたSL4000Bシリーズ。SL4000Bの初号機は発表前の1976年にロンドンのアビーロードスタジオに入り、その後、爆発的に広まっていったのです。さらに1981年にSL4000Eシリーズ、SL4000Gシリーズ、そして1993年には日本のスタジオのカスタム・コンソールをモデリングしたSL 4000 G+……などなど4000シリーズはSSLのもっとも広く普及したコンソールとなったのです。

SSLでは、そうしたフルアナログコンソールを現在も開発・販売を続けており、最新版として位置づけられるのが2019年に発表されたORIGIN。いまも世界中でアナログコンソールの需要は高いようです。一方で、DAWの発展に合わせ、DAWコントローラーとしての機能を搭載したコンソールも登場し、レコーディングスタジオなどでは幅広く使わるようになってきています。2004年に発表されたAWS900シリーズは、その後DAWと連携するコンソールの代表的機材として成長していき、16chのAWS916、24chのAWS924、48chのAWS948……などバリエーションも増えています。

2in/2outのSSL2 MKⅡ

32bitINTEGERと32bitFLOATの違いとは?

そんな完全に業務用のコンソールを開発・販売するSSLがDTM用のオーディオインターフェイスをリリースし、初代であるSSL2とSSL2+は、かなり話題となりました。その詳細については「UF8に続きUC1もリリース。DTM市場に本気で殴り込みをかけてきたSSLがベース機材と位置付けるSSL 2/SSL 2+」という記事でも書いているので、そちらも参照いただければと思います。そして、その後継機SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡが今年の秋発売されたのです。旧モデルが24bit192KHz対応だったのに対し、SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡは32bit192KHzに対応。

この32bit、いろいろ混乱しやすいのですが、ZOOM製品などでよく話題になっている32bitFLOATと、今回のSSL MKII、SSL2+ MKIIの32bitINTGERは別モノ。INTEGERとは整数、FLOATとは浮動小数を意味しており、整数の場合は文字通りで「0~4,294,967,295」までの数字を表現することができるようになっています(プラスマイナスの符号付で表現すると-2,147,483,648~+2,147,438,647)。ちなみに、16bitであれば「0~65,535」(-32,768~+32,767)、24bitであれば「0~16,777,215」(-8,388,608~+8,388,607)となり、32bitは24bitよりも256倍、16bitよりも65536倍音を細かく表現できるというわけです。ダイナミックレンジでいうと、16bitなら96dB、24bitなら144dB、32bitなら192dBとなります。

32bitFLOATか32bitINTEGERかで意味が大きく変わってくる。FLOATの場合は指数部がなく仮数部が31bitとなる

それに対しFLOATのほうは整数部と指数部に分かれており、ほぼ無限に小さい音から無限に大きい音まで表現できるけれど、音の細かさという意味では23bitに相当するもの(符号で1bit、指数に8bitを使うので)。SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡは、32bitINTEGERであり、ZOOM製品などの32bitFLOATとは違うものだということだけは理解しておいてください。簡単にいうと、24bitと比較すると256倍細かく精度で表現できるということだけ知っておけば十分だと思います。

この辺の細かな話は10年以上前ですが、AV Watchの記事「ハイレゾで注目の32bit-floatで、オーディオの常識が変わる?」で書いているので、興味のある方は参考にしてみてください。

SSL4000シリーズの音を再現する4Kボタン

さて、SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡ自体についても詳しく見ていきましょう。旧モデルから天面の見た目が若干変更され、黒基調のデザインとなりました。大きなツマミは青色から黒に変更されていますが、SSL特有のツマミはそのまま、落ち着きのある高級感が感じられるモダンな見た目へと進化しています。

SSL2(左)とSSL2 MKⅡ(右)

SSL2+(左)とSSL2+ MKⅡ(右)

SSLは「SL4000シリーズコンソールのサウンドにインスパイアされたアナログの色付け」という表現をしていますが、SSL自身が4000風な音にするためのスイッチとして用意しているわけですから、まさにホンモノ。最近の他社のオーディオインターフェイスでもDSPを搭載してエフェクトをオーディオインターフェイス上で実現するものはいろいろありますが、SSLのアプローチはそれらとは違い、この4Kボタンの裏側にあるのはSSLが設計したディスクリートのアナログ回路。まさにSSLのアナログコンソールのノウハウをここに流用していた、というわけなのです。つまりDSPによるエミュレーションなどではなく、ホンモノであり、ほかのオーディオインターフェイスとは根本的に考え方が異なるということですね。

4Kボタンを押すと、SL4000シリーズコンソールのサウンドにインスパイアされたアナログの色付けがされる

この4Kボタンの回路自体は、旧モデルと同じですが、マイクプリやモニター系の回路がアップデートされているので、相乗効果として4Kボタンを押したときのサウンドがよりレンジが広がったように聴こえます。SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡは、録り音、出音ともに進化し、ダイナミックレンジが広がるとともに、よりサウンドがクリアになっています。旧モデルがロックな感じだったのに対し、SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡはよりモダンなサウンドですね。インプット類だけでなく、モニターヘッドホンやスピーカーを繋いだときのサウンドもアップデートされているのはポイントです。

インプット、アウトプットともにアップデートされ、ダイナミックレンジが広がっている

それこそ、SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡはPCと接続せずとも、USBケーブルをACアダプタに接続すればスタンドアロンとして単独で動かすことが可能なので、高品質なヘッドホンアンプとしても使うことができます。SSLが設計した製品だからこそ、ハイインピーダンスでもローインピーダンスでも余裕で鳴らし、SSLのアナログ回路を通した音にできる高出力のヘッドホンアンプにもなるのです。

各チャンネルにハイパスフィルタ、フロントに楽器用ハイインピーダンス入力、ヘッドホン端子を搭載

新たに各チャンネルにカットオフ周波数75Hz、18dB/Octのハイパスフィルタが搭載されました。またボタンは、On/OffがわかかりやすいLED付スイッチへと変更されるとともに、ボタンの耐久性も向上しています。

各チャンネルにハイパスフィルタが搭載され、ボタンの耐久性も向上した。

そして、旧モデルが発売されてから、ユーザーの要望が多かった項目。フロントに楽器用ハイインピーダンス入力、ヘッドホン端子が搭載になりました。旧モデルは、リア側にすべての端子が集約されていたのですが、やはりギター入力とヘッドホン出力は、フロントについている方が使いやすいですよね。

SSL2(下)とSSL2 MKⅡ(上)のフロント側

また、リアに搭載していた出力端子はすべて、バランスTRSに仕様変更されています。なお、SSL2 MKⅡとSSL2+ MKⅡの違いは出力にあります。SSL2 MKⅡは、旧モデルがヘッドホン出力が1つだったのに対し、2つに増設。なので、SSL2 MKⅡとSSL2+ MKⅡでヘッドホンを接続できる数は同じですが、SSL2 MKⅡはヘッドホンレベルのツマミは共通である一方、SSL2+ MKⅡはそれぞれ独立してヘッドホンの出力を調整することが可能。

SSL2(下)とSSL2 MKⅡ(上)のリア側

またリアのアウトプットはSSL2 MKⅡはステレオ1系統ですが、SSL2+ MKⅡはステレオ2系統となっています。SSL2は、1/2がTRSとRCA、3/4がRCA出力だったのに対し、SSL2+ MKⅡはすべてTRSになっているということですね。ちなみに、ここからはCV出力を行うことも可能となっています。

SSL2+(下)とSSL2+ MKⅡ(上)のフロント側

なにか大きな新機能が搭載されたというわけでなく、土台部分がかなり強力にアップデートされたSSL2 MKⅡとSSL2+ MKⅡ。旧モデルでもバンドルされていたSSL Production Packも引き続き付属しており、ここにはSSLのボーカル用エフェクトVocal Strip 2やドラム用エフェクトのDrumstrip の恒久ライセンス、AmpliTube 5 SE、Native Instrument: Hybrid Keys & Komplete Start、Ableton Live 11 Lite、AAS Session Bundle、Melodyne Essential from Celemony、Samples from Loopcloudが入っているのもポイントとなっています。

SSL2+(下)とSSL2+ MKⅡ(上)のリア側

32bitで録音するための設定方法。ループバック機能も搭載

32bitで録音する際は、SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡ側で特になにか設定する必要はありませんが、DAW側の録音設定を32bitに変更する必要があります。たとえばCubaseであれば、上のメニューバーからプロジェクトを選択し、その中にあるプロジェクト設定を開き、左下にある録音ファイル形式から、ビット解像度を32bitに変更する必要があります。

プロジェクト>プロジェクト設定>録音ファイル形式から32bitを選択する

また、SSL2とSSL2+と同様、SSL2 MKⅡとSSL2+ MKⅡにはループバックのチャンネルが用意されています。これで音楽制作のみならず、配信でも使うことができますね。

ループバックが追加されたので、配信でも便利に使うことができる

以上、SSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡについて紹介しました。ぜひ進化したSSLのオーディオインターフェイス、SSL2 MKⅡとSSL2 MKⅡ、SSL2+ MKⅡを試してみてはいかがでしょうか?

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SSL2 MKⅡ/SSL2+ MKⅡ製品情報

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